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ロリババア神様の力で異世界転移  作者:
第5章 戦争
164/199

148話 鎧破壊作戦 4




ダダダダダッ!!


「っと!危ねぇ!」

「な!?そ、そんな......!」


大柄な男と小柄な少女が肉薄し、猛スピードですれ違う。2人がすれ違う瞬間、爆音が響いた。

轟いた爆音からほぼ間を置かず、2人は向き直り、再び対峙した。

ベレッタ・ブレードが硝煙を立ちのぼらせ、火薬の匂いが周囲を包み込む。


マリアのシナリオでは、今頃この大柄な男は地面に伏している筈だった。

だが、シナリオとは全く違う展開に、彼女の口から驚愕の声が漏れる。


マリアは間違いなく、躊躇なく、そして確実に、ベレッタ・ブレードの射撃機能を使い、すれ違いざまにサブナックへ向け発砲した。1mを切る至近距離からの射撃。

マリアは2丁のベレッタ・ブレードから其々3発づつ。計6発の9mmパラベラム弾を発射した。


これまで何度も射撃訓練をしてきたマリアからしたら、外す筈のない距離。

如何に鎧を纏っていようとも、至近距離から放たれた弾丸が身体に命中すれば、バットで思いっきり殴られた様な鈍い痛みを感じ、仮に弾丸が鎧を貫通し人体にまで達すれば、激痛で立つ事すら困難になる。


それ程の威力を持った弾丸が、一直線にサブナックに飛翔した。飛翔した筈だった。


だが6発もの鉛玉を撃ち込まれたサブナックは何事も無かったかの様に、平然と巨木を思わせる太い足で大地を踏みしめる。


「へへ、今の爆音...... やっぱりその変なナイフも魔法具だったか。警戒してて正解だったぜ」

「くっ!」


不敵にニヤッと口元を歪めたサブナックは、左手に持つ巨大な盾をマリアに向けた。

獅子の顔が描かれたその巨大な盾には、6つの弾痕がハッキリと刻まれていた。


サブナックは、6発の9mmパラベラム弾が放たれるとほぼ同時に、左手に持つ巨大な盾を身体の前で構え、強襲する弾丸を防いたのだ。


( やられた......!この男は考え無しに突っ込んで来たと思ったけど、口振りから判断するに、それは演技だったみたい......

ワザと隙を作って攻撃させて、不意打ちでパラベラム弾を撃ち込んだつもりだったけど、逆に私が此奴に攻撃させられた(・・・・・)

それに音速で飛ぶ弾丸を全弾防ぐなんて、私が盾を持っていても真似出来ない...... 反射神経は確実に私以上...... なんて奴...... この男、規格外すぎる...... ! )


マリアは奥歯を噛み締めた。


マリアに煽られ、猪の様に突っ込んで来たこの闘将は、微かに漂う火薬の匂いだけでフロイラの持つP90が、帝国軍の正規軍や邪龍達を倒した武器だと見抜いた。

そんな観察眼に優れた闘将が、如何にも怪しいげな雰囲気を放つベレッタ・ブレードを警戒していない筈がなかった。


先程のサブナックの咆哮には、確かに挑発された事に対する怒りが込められていたが、その怒りとは裏腹に、この闘将はマリアの動作を観察、警戒するだけの落ち着きも持ち合わせていた。


闘将は、このタイミングでマリアが構えを解いたのは、邪龍達を倒した攻撃を仕掛ける為の予備動作で、同時に此方が攻撃を仕掛ける様に誘導し、その隙を突く為の【誘い】であると見抜いていた。


ベレッタ・ブレードを特殊な魔法具...... 邪龍達を倒した武器の一種だと悟った闘将は、その性能を見極める為に、ワザと無防備な風を装い、隙だらけのマリアに突っ込んだのだ。


一歩間違えれば死ぬ可能性すらあった無謀とも言える捨て身の突進。これを躊躇なく行えるのが、闘将サブナック・ドールギスであり、彼が闘将と呼ばれる所以でもあった。


サブナックの並外れた度胸と反射神経が、マリアを窮地に立たせた。

サブナックの術中にハマり、必殺の射撃を防がれたマリアの背に冷たい汗が伝る。


「今の攻撃でハッキリ分かったぜ。てめぇ等が持ってる変な物が、龍騎兵達を倒した魔法具で間違いねぇ。ビルドルブのオッさんに良い報告が出来そうだ。

ガキ、恨むなら俺様に会っちまったてめぇの不運を恨むんだな!」


闘将は初めて向けたれた筈の発砲炎や、発砲音に怯む様子すら見せない。

響いた轟音を聞き、マリアの持つ武器がアスタロト大将軍達の龍騎兵や、先遣軍を撃破した武器の一種だと改めて確信した豪胆な闘将は、次なる轟音の襲来に警戒し、巨大な盾を前方に向ける。


身体の殆どを盾で覆い隠した闘将は、再びマリアに走り寄った。


「本当に...... ムカつく...... !」


ダダダダダッ!!


冷や汗を感じたマリアは小さく呟き、サブナックを睨み付ける。

サブナックに向けた鋭い眼光。その瞳の奥には、今の自分ではこの男に勝てないと、微かな悲壮感が滲んでいた。


しかし、マリアは足掻きもせず殺されるつもりは毛頭無かった。

迫るサブナックに対し、バックステップの要領で後ろに後退しながら、マリアはベレッタ・ブレードをフルオートで発砲する。


リズム良く爆音と火花が散り、音速の弾丸が飛翔する。完璧なタイミングでの不意打ちを防いだサブナックに、こんな見え見えの射撃が当たるとは当の本人も思っていない。


この攻撃は、彼女の意地の抵抗だった。


キンキンキン!


「くっ!」


だが無念な事に、その意地の抵抗は悪足掻きにすらならなかった。飛翔する小さな弾丸は大きく堅牢な盾に弾かれ、甲高い金属音を虚しく奏でる。

人体に対しては一定の威力を発揮する9mmパラベラム弾と言えど、この銃弾には分厚い鉄の盾を貫く程の威力は無かった。


状況は正に絶体絶命、最悪そのものだった。


「あっ!?」

「隙あり...... 終わりだ!」

「っ!」


しかし最悪な出来事はこれだけで終わらない。分厚く巨大な盾で飛来する弾丸を防ぎ、目前にまで迫るサブナックから逃れようと後退していたマリアは、石に躓いて転倒してしまった。


闘将がこの隙を逃す筈は無い。


(()られる!)


瞬時に自分に訪れるだろうその結末を悟ったマリアは、無意識に発砲を止め、尻餅をついたまま両手を頭上に掲げて守りの体勢をとる。


闘将は2つ名の代名詞となっている戦棍を空高く振り上げた。


( ミカド......!)


初めて突き付けられる死への恐怖からマリアは目を固く瞑り、心の中で最も信頼している男の名を叫んだ。


だが......


「マリア...... お前すげぇよ...... 聞いたぜ?フロイラを逃がす為に、1人でこの戦棍と盾の申し子(シュレーゲルシルト)に立ち向かったんだってな。

仲間の為に命を賭ける...... へへっ!そんな話聞いたら、僕の血が騒いじまうじゃねぇか!」


ガギィィィン!!


「なに!?」


マリアに死は訪れなかった。


「あ...... 」


戦棍の生み出す痛みの代わりに、マリアは金属同士が激しくぶつかる音と、闘将の動揺した声...... そして少し乱暴だが、暖かくて頼もしい声を聞いた。


マリアはゆっくりと瞼を開ける。


「やぁ!」

「のぁ!?ちっ!なんだ、てめぇ等!」

「僕達か?僕達は...... 」


その後ろ姿はとても頼もしく。


「恨みと欲望でこの国を滅ぼそうとする貴方達を!」


新たに聞こえた言葉には、鋭い覇気が篭っている。


「煉獄の底へ突き落とす!」


その光景は、マリアを安堵させるには充分過ぎた。


「ラルキア王国の戦士!」


彼女達の声と瞳に迷いは無い。


「「私達は!」」


声に宿るは、燃える様な真っ赤な闘志。


「僕達は!」


そして瞳に宿るは、仲間を絶対に護るという硬い決意だった。


「「「力無き人達を護る者!我等はヒメユリ!」」」


瞼を開けたマリアの目に飛び込んで来た物。


それは大きな斧を頭上に掲げ、サブナック渾身の斬撃を防ぐ獅子の獣人。そして獅子の獣人が作った隙を突き、スティレットを装着したHK416Dでサブナックに攻撃を仕掛ける、金色の髪を靡かせる人間。

更には倒れた自分を庇う様に立つ、漆黒の羽根と尾を持った龍人の後ろ姿だった。


サブナックは鋭いスティレットの強襲にバランスを崩され、後方に飛ぶ。


そのサブナックにHK416Dの銃口を向ける金色の髪の人間...... セシル・イェーガーが。

漆の様な光沢を放つ羽根を名一杯に広げた龍人、ドラル・グリュックが。

銃斧(ガン・アックス)を肩に担ぎ、仁王立ちする獅子の獣人、レーヴェ・グリュックが声を投げつける。


3人の凛子とした声が、戦場に響き渡った。


「皆!」

「偵察科隊長、良く耐えた!その心意気、しっかり見させてもらったぞ!」

「ミカド!」

「間に合って本当に良かった...... 頑張ったなマリア」

「っ!うん...... !」


これまで苦楽を共にして来た頼れる仲間達の登場に、マリアは歓喜の声を上げる。不意に大きな人影がマリアの前に立った。


その人影はHK416Dを構えつつ、顔を少しだけ後ろへ向けて、優しい笑みを浮かべていた。

マリアの耳に、誰よりも聴きたかった人の声が届く。


その声の持ち主は、囚われていた自分達を救い出してくれた神様であり、数多のヒメユリ達を束ねる義勇兵部隊の...... ギルド部隊守護者(ヴィルヘルム)の総隊長......


西園寺 帝の姿だった。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



今から1分程前、前方からベレッタ・ブレードの発砲音が聞こえた。俺を始め、この発砲音を聞いたセシル達ヒメユリは、一同厳しい表情を浮かべ、エルド帝国領内を脇目も振らずに驀進した。


このベレッタ・ブレードの発砲に晒されたのがただの雑兵なら、俺達はここまで焦らなかっただろう。


発砲音から遡る事2分前。マリアと一緒に偵察任務に付いていた筈のフロイラが、慌てた様子で俺達の元へ引き返して来た。その様子を見て何かあったと感じた俺は、フロイラに何があったのかを聞いた。


フロイラの口から出た言葉は、俺達に強い不安感を与えた。


マリアは自分を安全に逃がす為に、1人で帝国軍の闘将、戦棍と盾の申し子(シュレーゲルシルト)の異名を持つサブナックに戦いを挑んだという言葉だったからだ。


この報告を聞いた直後、俺達の脳裏には不吉な予感が浮かんでしまった。それを跳ね除けようと、皆はただただ我武者羅に走った。


そしてその不吉な予感はほぼ的中しようとしていた。だが、俺達は寸前の所で間に合ったのだ。


マリアにトドメを刺そうとした男の頭上には、【戦棍と盾の申し子(シュレーゲルシルト)】の文字が浮かぶ。


( 此奴が次期覇龍7将軍候補の闘将サブナックか...... なるほど、確かに雰囲気や殺気は並以上だ。

マリアはフロイラを逃がす為に、こんな奴に立ち向かったのか...... 間に合って本当に良かった...... だが感傷に浸っている暇はない!)


「ミカド!」

「あぁ!其奴は任せた!」

「了解!任された!」

「俺達は任務を続行する!行くぞ!」

「「「「サー!イエス・サー!」」」」

「クソが!なんだってんだ!?」


ガン・アックスを持ち直したレーヴェが、横目で俺を見ながら声を張り上げる。俺はレーヴェの言わんとする事を察し、言葉を返す。


気心の知れたレーヴェに余計な言葉は不要だった。


その一方で、俺の命令を『目の前の敵を打ち倒せ。』そう解釈したのか、ヒメユリの中でも1、2を争う闘争心の塊...... 攻撃科の斬り込み隊長は、まるで飛燕の如く、戦棍を持つ戦棍と盾の申し子(シュレーゲルシルト)サブナックに肉薄する。


「余所見してる暇はねぇぞ!喰らえ!」


再度走り出した俺達の後方から、レーヴェの力強い雄叫びと、ブォン!と重々しい唸りを上げ、巨大な斧が振り下ろされる音が聞こえた。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



( 此奴等、数はそこまで多くねぇ...... さっきのガキを合わせても全員で20人くらいだ。だが統制はしっかり取れているし、士気も高ぇ。

あのガキを助けた所を見ると、此奴等はガキの仲間の様だ。【ヒメユリ】ってのは部隊の部隊の名前か?

この部隊には、黒い羽根を持つ龍人や、後方には鷹の獣人も居やがった...... 此奴等、何者なんだ!? )


ローブを纏う人物が、同じくローブを纏った18人を率い、真っ直ぐに魔導兵が待機している陣地に向かって突き進む。


その人物達を見て、サブナックは混乱の極みに達しようとしていた。


この闘将、サブナックに与えられた使命は、帝国軍の秘密兵器【魔導兵】の警護。つまり、王国軍や敵と思しき勢力を魔導兵に近づけず、倒す事なのだが、頭脳より腕力に自信を持つサブナックでは、この状況を乗り切る完璧な答えが直ぐに出せなかった。


( あぁ!訳分かんねぇ!頭を使うのはベリトの担当だ!

兎に角、この斧野郎を倒してさっきの奴等を追わねぇと! )


それでも自分なりに、今取れる最善の答えを出したサブナックは小さく舌打ちをする。


「余所見してる暇はねぇぞ!喰らえ!」

「くっ!?」


直後、サブナックに重厚で分厚い戦斧が、右肩から左脇腹目掛けて振り下ろされた。


如何に豪胆なサブナックでも、不意をついた様に姿を見せた新手の集団に戸惑を隠せなかった。

その隙を突いた攻撃に対し、声を漏らすサブナックは盾を構え、斬撃を受け止め様とする。


ギィィィイン!!


「がっ!?」


しかし全身全霊を込めたレーヴェの重い一撃は、如何に戦棍と盾の申し子(シュレーゲルシルト)と呼ばれる闘将サブナックと言えど、完全に防ぎ切れる物では無かった。


構えた盾が火花を散らす。


レーヴェの斬撃に力負けしたサブナックの身体は、数m後方へ弾き飛ばされた。


( な、なんなんだ此奴の一撃は!?

さっきのガキもそれなりにやり手だったが、此奴の力はさっきのガキの比じゃねぇ!)


先程のマリアの様に尻餅をついたサブナックは、無様に地べたに倒れ込み、戸惑いの色が篭った目線をレーヴェに向ける。

不意に、大振りで斧を薙ぎ払った少女が纏うローブが揺れる。そのローブの下から、毛並みの良い尻尾が覗いた。


「お前...... よくも僕の姉妹を()ろうとしてくれたな!絶対に許さねぇぞ!」

「てめぇ...... 獣人か!」


怒りを露わにするレーヴェは、尻尾を逆立ててサブナックを睨み付ける。

その眼には、物心がつく頃から一緒に生きてきた姉妹を殺されかけた怒り、そして絶対にこの男を打ち負かすという強い意志が篭っていた。


対するサブナックは飛ばされた時に口内を切ったのか、口の端から血を流し、ギラギラと光る眼をレーヴェに向ける。


「あぁ!僕は獣人だ!今からお前を倒す誇り高い獅子(レーヴェ)だ!」

「はっ!上等だ!さっきのガキを倒す前に、忌々しいてめぇをぶっ潰す!」


この豪胆かつ観察眼に優れた闘将は、相対する人物が腕力に秀でるタイプの獣人だと分かった上で勝負を受けた。


この闘将は、恩師のビルドルブや戦友のベリト等と数え切れない程の模擬戦を経験している。それでも一方的に吹き飛ばされ、尻餅を着いた事はない。


見ず知らずの人物に尻餅を着かされた。

その事実が、闘将で名を馳せる彼のプライドを傷付け、刺激した。


( やられっぱなしは我慢出来ねぇ!俺はこの獣人に正面から打ち勝つ! )


普段飄々とした態度で人と接し、自分の武勇を鼻にかける事が無いサブナックでも、内心では己の腕力と武術に絶対の自信を持っていた。


闘将は初めて感じた屈辱に奥歯を噛み締める。


今、サブナックの最優先事項は、魔導兵を護る事から、目の前の獣人を倒す事に変わってしてしまった。

その瞳に、先程マリアを陥れた落ち着きは欠片も無い。

爛々と見開かれた瞳には、受けた屈辱を晴らそうとする純粋な怒りだけが浮かんでいた。


ガギィィィン!!


不気味な程澄み切った空に、一際大きな金属音が響き渡る。

決着は近い。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「そうか、鎧はこのまま真っ直ぐ行った所に居るんだな!」

「ん。報告の通り...... 」

「了解した!マリア、もう少し頑張ってくれ!」

「ん...... 」

「よし!ドラル!」

「はい!」

「ドラル達支援科は今すぐ上空へ行け!俺達に接近する敵を撃ち抜くんだ!」

「わかりました!支援科総員、行きますよ!」

「「サー!イエス・サー!」」

「攻撃科、ツィート・ベティ(ペア)!2人は俺達の前面に出て、立ち塞がる敵を粉砕しろ!」

「「イエス・サー!」」

「セシル、マリア他歩兵科と偵察科はこのまま周囲を警戒!陣形を組め!鎧達に向かうぞ!」

「うん!」

「了解...... 」

「「「「サー!イエス・サー!」」」」


マリアをサブナックから救い出した俺達は、小高い丘の上に作られた簡素な陣の門を走り抜け、陣内へ潜入を果たした。


マリアの話では、標的の鎧群はこのまま直進した場所で鎮座しているらしい。


俺は各兵科に事前に伝えておいた陣形を組んだ。


前衛には圧倒的攻撃力を持つ攻撃科のツィート・ベティ(ペア)を置き、上空には援護射撃能力に特化したドラル達支援科を旋回させ、その支援科の下ではセシル達歩兵科の各(ペア)が俺を中心とした【輪形陣】を作る。

そしてマリアとフロイラから成る偵察科は、歩兵科の形成した輪形陣の左右に其々立ち、周囲に目を光らせた。


走りながらも手早く陣形を組んだ俺達は、一心不乱に邁進する。



ピュゥゥゥゥゥウ!!



「あ!ミカド!7時の方向から鏑矢の合図だよ!」

「ちっ!会敵が予想より早い!俺達も急ぐぞ!さぁ、仕事の時間だ!」

「「「「イエス・サー!」」」」


不意に空を切り裂く甲高い音が聞こえた。


その音はセシルにも聞こえ、彼女は国境の方を指差す。

指差す方へ顔を向けると、国境を隔てたラルキア王国領内にエルド帝国軍の騎兵がなだれ込んでいるのが確認できる。


これは、俺が事前にグロウさんへ渡していた鏑矢の合図だった。


俺は囮の王国軍を追撃しようとする帝国軍が国境を越えた時、この鏑矢が装填された手の平サイズの弩を撃つ様に頼んでいた。

こうする事で、俺は離れた場所で戦う王国軍の状況を知る事が出来きる訳だ。


そんな事より、俺は歯を噛み締める。


想定よりも帝国軍の動きが速い。


今から10分程前にロルフの遠吠えが聞こえたが、これはロルフが王国軍へ迫る追撃部隊対し、攻撃を開始した合図だった。


なのにものの10分程で、帝国軍接近を知らせる鏑矢が上がったと言う事は、ロルフの攻撃が不発に終わったか、敵は追撃部隊を2つに別け、ロルフの足止めと追撃を同時進行しているかのどちらかになる。


少なくとも、敵の動きが予想より速いのなら、此方もより急いで標的を破壊し、撤収しなければならない。


俺は手を前方に向け、改めて作戦の開始を告げた。


「な、何者だ!?」

「お前達止まれ!」


フードとアフガンストールで顔を隠し、飛燕の如き速さで陣地を駆け抜ける俺達を見つけた帝国軍兵士が叫ぶ。


「攻撃科!薙ぎ払え!」

「「イエス・サー!!」」


ドドドドドドドド!!


「「「ぎゃぁぁぁあ!?」」」


動揺し、狼狽える敵に向かって俺は手を振り下ろした。ほぼ間を置かず、頭上に【帝国軍兵士】と浮かんだ敵目掛け、攻撃科のツィートとベティ両隊員が持つM249軽機関銃が火線を開き、赤黒い血飛沫が舞う。


轟音と断末魔が木霊し、赤い火線が怒涛の勢いで空を駆ける。

十数体の兵士が、血飛沫を上げながら大地に身を沈めていく。俺達はこの亡骸達を踏み越え、走り続けた。


「何事だ!」

「て、敵襲!?」


この騒ぎに気付いた他の敵が、ゾロゾロと俺達の周囲に集結して来くる。

中には俺達の背後に姿を見せた敵も居た。


「支援科、援護射撃開始!」

「「イエス・サー!」」


ダン!ダン!ダン!


「がぁあ!?」

「ごはっ!」

「ぐぎゃ!?」


だが、後方に姿を見せた敵は、上空から目を光らせるドラル達支援科の精密射撃により、頭や身体を撃ち抜かれ沈黙する。


ダン!ダン!ダン!ダン!

ドドドドドドドド!


支援科と攻撃科の奏でる死の音色は、無数の屍の山を築き上げる。

幸か不幸か、俺達の銃声は西側でけたたましく吠えるラッパや銅鑼の音でかき消され、敵の主力が此方に気付いた様子は見受けられない。ヒメユリ達は、集中して攻撃を続けられた。


この世界から見たら遥か未来の兵器、銃火器で武装した俺達を遮る物は何も無かった。


「......見えた!」


山の様な屍を築き、ひた走る事僅か数分。俺はなだらかな丘の頂上に、本作戦の標的...... 巨大な鎧が片膝立ちで鎮座しているのを確認した。


幸いな事に、此奴等が動き出す様子はまだ無い。

標的を見つけた俺は、一刻も早く鎧を破壊し撤退する為に、より一層脚に力を込め、大地を蹴った。






ここまでご覧いただきありがとうございます。

次回投稿は、再来週の23日、日曜日の21:00頃になります。


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