146話 鎧破壊作戦 2
「ミカド、今の所敵に気取られた気配は無いみたいだね」
「あぁ、グロウさん達が敵を引き付けてるんだ。今頃敵は混乱してるぞ」
「先ずは目論見通りって訳だね?」
「そうだ。俺達も使命を果たすぞ」
「うん!」
「ロルフ、ヒヨッコ共も用意は良いか?」
『任されよ!先程は何もせずに退いてしてしまったからな。此度こそ我も思う存分戦おう!』
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
満を辞して始動した【鎧破壊作戦】は、第2段階の終盤に差し掛かっていた。
現時点で、国境の北側に居る俺達が帝国軍に気付かれた様子は無い。
代わりに、真反対の南側ではけたたましく銅鑼が鳴り、ラッパがこれでもかと吠えている。その大層な歓迎の音色の下、遠目からだが、グロウさん達第1連隊が侵入禁止区域の真っ只中....... 国境の塀から僅か500m手前を舐める様に、ひたすら南へと駆け足で進んでいる姿が確認出来た。
「ミカド...... 」
「早く潜入しようぜ!」
「あぁ!よし、各員!国境を越えるぞ!」
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
俺の袖をクイクイとマリアが小さく引っ張り、血気盛んなレーヴェがグルングルンと腕を回す。
今、マリアとレーヴェは主武装、のNFP90とM2重機関銃を持っていない。
何故これから戦いに行くのに、武器を持っていないのか。
それは、この2人には本作戦の為に召喚した【専用特殊武器】を主兵装の代わりに与えていたからだ。
マリアは、流れる様な素早い連続攻撃で敵を翻弄する戦士だ。本作戦では俺達に先行し、偵察任務に就いて貰う事になっているマリアは、複数の帝国軍から同時に、かつ四方八方から攻撃される可能性が高い。
マリアの持つ戦闘能力は俺やレーヴェに引けを取らないが、主兵装がP90では、前後左右から同時攻撃されると銃という特性上、僅かだが隙が出来てしまう。
弾丸が出る銃口が1つしか無いからだ。
加えて、背後の敵に発砲した際に射撃を外してしまうと、後方に居る俺達に流れ弾が飛んでくる可能性があった。
そこで俺はこれらの危険性を排除する為に、以前マリアが使っていたククリナイフとベレッタを参考にして、新たな武器を召喚した。
この武器は俺の持つ加護を最大限使った物で、銃身を5cm伸ばしたベレッタの下部...... ダストカバーと呼ばれる部分に、取り外し可能な刃渡り40cm超のククリナイフの刃を付けたベレッタを2丁召喚し、マリアへ与えた。
これは銃と刃物が一体になった所謂ガンブレードで、俺はこの武器を【ベレッタ・ブーレド】と名付けた。
銃と刃物が一体になったお陰で、前方から襲ってくる敵には鉛玉を撃ち込み、後方から襲ってくる敵には鋭い刃で攻撃出来る様になった。
これでマリアが背後から襲って来た敵を攻撃する際、流れ弾の心配をしなくてよくなった。
刃を振るという性質上、持ち手のグリップも通常のベレッタよりも斜めになる様召喚し、違和感なく振り回せる様に工夫している。
勿論、存分に射撃が出来る工夫もしていた。俺達の使用するベレッタには、弾丸が15発入るマガジンを装填するのだが、このベレッタ・ブレードで使用するマガジンはマガジンの長さを倍に伸ばし、弾丸が30発も入る特別仕様になっている。
更に、本来ベレッタには無いフルオートマチック機能も搭載していた。
このフルオートマチックとは、引き金を引き続ける限り弾が出続けるという機能で、これが2丁も有れば、1度に計60発の鉛玉を敵にお見舞い出来る事になる。
NFP90の優れた速射性能を犠牲にしてしまう事になったが、これで背後の敵を攻撃する際の流れ弾の危険性を排除でき、かつ充分な射撃性能を維持。更に混戦になった場合に、マリアの性格を活かした攻撃が可能になった。
ちなみに、マリアと同じ偵察科所属のフロイラの主兵装はP90のままだ。彼にはマリアの様な戦闘能力がまだ無い為、マリアの後方で援護射撃に徹して貰おうと考えている。
だが乱戦になった場合を想定し、彼女には以前マリアが使っていたククリナイフを1本持たせていた。
話を戻して。
レーヴェの方もマリアと似た考えから、お気に入りのM2重機関銃を一旦置いて貰い、代わりにベレッタ・ブレードと同じく、射撃機能の付いた戦斧を与えた。
このバトルアックスも、以前レーヴェが使っていた物を参考に召喚した。
これを持たせる理由としては、潜入任務にM2は目立ち過ぎるからだ。M2は本体も大きければ発砲音も大きい。
ここに付け加えるとすれば、今回は弾切れになった場合も考慮している。
M2の圧倒的な攻撃力は確かに魅力だが、レーヴェの背負う弾薬バックで携帯出来る弾丸は僅か220発。
先程までの様な籠城戦だと、近くの城壁に予め予備の弾薬バックを用意し、味方が援護してくれれば迅速な弾丸の補給が可能だが、今回は敵地への潜入作戦だ。
敵地のど真ん中での弾丸の補給は危険が伴う。そもそも、今の俺達に敵地まで予備の弾薬バックを運べる余力は無い。
皆は背中に、鎧を破壊する道具が入ったバックを背負っているからだ。
これでは万が一M2が弾切れになった場合、レーヴェは即座に対応が出来ない。ヴィルヘルムの切り込み隊長のレーヴェには、先頭に立って皆を引っ張って貰いたいが、弾が切れたM2はただの鉄の塊だ。
上にも書いた様に、銃火器とは鉄で出来た武器。鉄の塊だ。
だから撃つ弾が無くなってしまえば鈍器として使えはする。が、俺が召喚出来る武器は有限だ。そんな用途に沿わない乱暴な使い方をすれば銃は必ず壊れる。
必ず壊れると分かっていて、M2を鈍器代わりに使わせる余裕も今の俺には無かった。
なので俺は、弾切れの心配が無く、攻撃力の高い【銃斧】を与えた訳だ。
ちなみに、このバトルアックスには先程言った様に、申し訳程度にだが射撃機能が備わっている。
この【銃斧】の先端や刃が付いている部分は以前と同じ見た目なのだが、後方にはトリガーを設け、トリガー付近の持ち手は少し厚みを帯びた作りに変わっている。
この工夫は、射撃体制時の安定性を高める為だ。
このトリガーの斜め前方は、持ち手の1部が横に開く作りになっていて、此処から弾を込め、トリガーを引く事で発砲出来る作りになっている。
召喚した銃斧の柄の底には石突と言う金具が付いているのだが、この石突周辺部の内部が弾丸を発射する薬室になっており、柄の中央から先端にかけては内部が空洞になっている。
この空洞部分が銃身の役割を果たす。
銃は銃身が長ければ長い程命中率が上がる。このバトルアックスは銃身の長さだけで約1.1m程ある。M2の銃身は1.1mを超えるのでM2には僅かに及ばないかも知れないが、それなりの命中率を期待出来る筈だ。
( なお、銃斧は単発式で、1発撃つ毎に薬莢を取り出し、再度弾を装填する必要がある )
加えて、この銃斧専用の弾も召喚した。
銃斧は、M2で使う12.7×99mmNATO弾よりもサイズが大きい【20mm口径弾】と言う弾を使用する。
この弾は大東亜戦争を通し、日本軍の代表的な戦闘機【零戦】でも使われ、零戦無敵神話に一役買っている。
サイズが大きいという事は、破壊力もあるという事だ。最も、初速の低さ等の欠点も有った訳だが.......
この召喚した20mm口径弾には、欠点でもある初速の低さを改善し、弾丸の発射速度を上げる為に発射薬を。そして威力を高める為に炸薬をたっぷりと入れてある。さしずめ【改20mm口径炸裂弾】だ。
炸裂弾とは、物体にぶつかれば衝撃で爆発する銃弾の事で、これは小型の爆弾を高速で撃ち出すに等しい。
もしレーヴェが斧だけで対処できない様な敵に遭遇した場合、この20mm口径弾が役に立つ筈だ。
俺は更に、マリアとフロイラ、レーヴェ以外のヒメユリ隊員には、其々が持つ銃火器の先端に刃渡り35cmの【スティレット】と呼ばれる短剣を召喚し、銃の先端に装着させた。
これは接近戦となり、誤射の危険性が有る混戦となった場合、ヒメユリ達に残された最後の抵抗手段である。
この【スティレット】という短剣は、鎖帷子やプレートアーマーで守られた敵に留めを刺す為に作られたナイフの一種だ。
今回召喚したスティレットはナイフの一種と言っても刀身にあたる部分の両側に刃が無く、円錐形になっていて、先端に行く程鋭利に尖っていた。
本来銃火器の先端に付けるのは刃の付いた銃剣等だが、帝国軍の正規軍は、鉄で出来たプレートアーマーを着込んでいた。
これでは的確に装甲の隙間...... 関節部等を攻撃しなければ、撃破するのは難しい。
的確に相手の弱点を素早く攻撃出来るマリアや、腕力に物を言わせて相手を粉砕するレーヴェは別として、セシルやティナ達を始めとするヒメユリの新人隊員に同じ事をやれと言っても厳しいだろう。
故に、俺は狙いが甘くても刺突すればある程度の手傷を負わせられる筈だと、このスティレットの銃剣タイプを召喚し、各種銃火器の先端に付けさせた。
これなら遠目からなら槍に見えなくも無い。
1週間超強化訓練の中でも、銃剣術の訓練を数回だが実施したから、皆ある程度の要領は得ている筈だ。
「さぁ行くぞヒヨッコ共!仕事の時間だ!」
「うん!」
「ん...... 」
「おぉ!」
「はい!」
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
セシルが、マリアが、レーヴェが、ドラルが、そして皆が拳を突き上げる。
俺達は国境の最も北に掛けられていた幅広の板を登り、エルド帝国領内へ侵入した。
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「閣下。敵は誘いに乗るでしょうか」
馬を駆り、1500名の後方を走る第1連隊連隊長グロウ・アレティスに、1人の部隊長が声を掛けた。
彼等は義勇兵部隊ヒメユリ隊長の帝が発案した作戦通り、国境の手前を駆けている。
敵の陣地が近いと言うこともあり、不安そうな表情を滲ませる部隊長の問いに、グロウ・アレティスは不敵な笑みを浮かべた。
「案ずるな。敵は必ず誘いに乗る。
耳を澄ませてみよ。聞こえるぞ、馬蹄が大地を踏みしめる音が」
「え...... ?」
この部隊長には聞こえていなかった様だが、グロウ・アレティスには聞こえていた。
国境の塀の向こう側から微かにだが、多数の馬の蹄が地面を蹴る音を。
1500の兵士を束ねる総隊長は頭を働かせる。
この重厚な足音から判断するに、迫っているのは騎兵...... 数は4000から5000と言った所か......
この音は方角は此方から見て東側から聞こえ、今も大きくなっている。
となれば、この騎兵達は我等を目指し進んでいると言う事になる。
ならば、矢を放ち牽制をしよう。さすれば敵騎兵達は我等をより脅威のある存在とみなし、脇目も振らず此方を追ってくる筈だ。
「皆の者、景気付けだ!走りながらで良い!敵に矢玉をお見舞いしてやれ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「弓兵隊!撃てい!!」
豪胆な言葉とは裏腹に、緻密な計算の下、グロウ・アレティスは懸命に走る部下に乱暴な声色で命令した。
命令から1秒後、数百本の弓が塀を越え、空を貫く。
その直後......
『ワォォォオン!!』
「む?」
「「「「ま、魔獣の遠吠え!?」」」」
獣の咆哮が血の香りが立ち込める大地に響き渡った。グロウ・アレティス以下、部隊長が、矢を放ち終えた兵卒が、ほぼ全ての王国軍がその遠吠えが聞こえた方を向いた。
「あれは...... ヴァイスヴォルフか!」
彼等の目線の先には、小高い丘の頂上で風に鬣を揺らす気高き白亜の狼が佇んで居た。
『グルルル......』
「む......」
雄々しく。だが、優雅な姿を晒す白亜の狼が王国軍へ静かに目線を向ける。グロウ・アレティスは、この白狼と目が合った様な気がした。
僅かな視線の交錯。
時間にして僅か数秒。白亜の狼は交わっていた視線を塀の向こう側へ向けると、疾風の如く丘を降り始めた。
「か、閣下!ヴァイスヴォルフが降りてきます!」
「その様だな」
「閣下!急ぎヴァイスヴォルフ撃退の命を!あの獣が我等に襲い掛かってきたら大事です!」
ヴァイスヴォルフを見て、狼狽した兵や部隊長がグロウ・アレティスに意見具申する。その具申に、グロウ・アレティスは微かな笑みを浮かべた。
「その心配は無いだろう。あのヴァイスヴォルフは捨て置いてかまわん!」
「し、しかし閣下!あ!ヴァイスヴォルフが!皆の者、閣下をお守りしろ!」
「「「「「は、はっ!」」」」」
グロウ・アレティスが部隊長と言葉を交わしている間に、白狼は猛スピードで接近してきた。
敬愛する連隊長を護ろうと、複数の軍人が白狼に対峙する様に立ち塞がる。
しかし......
「「「「「なっ!?」」」」」
この狼は、立ち塞がる軍人達を軽々と飛び越え、国境に向かい走り続けた。部隊長達はこの理解不能な白狼の行動に驚いた声を発しているが、グロウ・アレティスは驚かなかった。
先程この白狼と視線が交わった時、頭の中に『ご武運を』と、老練な戦士を思わせる声が響いたからだ。
グロウ・アレティスは、この不思議な声を白狼の声だと感じた。
故に彼は落ち着いていたのだ。
「皆の者!今のヴァイスヴォルフを見たか!
たった1匹の魔獣でさえも、強大なエルド帝国軍に立ち向かおうとしておるのだ! 我等もあの勇敢なヴァイスヴォルフに負けてはおれぬ!
より声を出せ!我等が本気で攻めて来たと敵に思わせるのだ!」
「「「「「お、おぉぉお!」」」」」
グロウ・アレティスは、乗っている馬の手綱を強く握り締め声を発する。
彼等は勇敢に作戦を遂行していた。
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「がはっ!?」
「ぎゃっ!」
「ちっ!何人殺られた!」
「30騎程が殺られましたベリト将軍!」
「そうか...... ラルキア王国軍め!舐めた真似を!各隊戦列を崩すな!このまま塀を越えるぞ!」
「「「「「ウーラー!」」」」」
ラルキア王国征服軍総大将ビルドルブに、国境沿いを進む王国軍を追撃せよと命を受けたベリトは、刀身が畝ったフランベルジュを空へ掲げた。
ベリト率いる騎馬隊総勢5000騎は、牽制と思しき矢撃を喰らい、30騎程が落伍した。だが未だに彼等の士気は旺盛だった。
「...... !ベリト将軍!前方に異変!何か来ます!」
「何だと?」
今まさに国境の塀を越えようと、塀に掛けられた横長の板を駆け上ろうとした部下が、なにか異様な気配を感じ取りベリトへ声を投げる。
その異様な気配の正体は直ぐに姿を見せた。
『グルァァァア!!』
「「「ぎゃぁあ!?」」」
「「「「ヴァイスヴォルフ!?」」」」
国境の塀を、まるで水溜りを避けるかの様に軽々と飛び越え、エルド帝国領内に侵入したのは......
鋭いナイフの様な牙を剥き出しにした白き狼だった。
この白狼はすれ違いざまに、馬を駆る帝国軍人に巨大な爪で斬撃を浴びせかける。
僅か一瞬で大柄な3人の軍人が絶叫と共に落馬し、命を散らした。白狼はその様子を一瞥すらせず、走るスピードを上げ、エルド帝国の大地を我が物顔で駆け抜ける。
次は何をしてくる!?
ベリトは注意深く、次に白狼が取る行動を観察する。すると、白狼は此方の背後を狙うかの様に大回りをしつつ、5000の騎兵隊の最後尾に喰らい付いた。
「がぁああ!?」
「ひぃいい!?」
遥か後方から悲痛な叫びと悲鳴が聞こえる。
最後尾を駆ける味方が、白亜の狼の攻撃に殺られているのは明白だった。
「ちっ!ボドル1000人将!」
「はっ!」
「貴公は配下1000人を率い、あのヴァイスヴォルフを狩れ!貴公がヴァイスヴォルフを引きつけている内に、我等は王国軍を追撃する!」
「かしこまりました!」
「くっ......! 先遣軍を撃退した爆発に謎の少女達、それに龍騎兵隊を全滅させた攻撃...... そして今度はヴァイスヴォルフの襲撃だと?
想定外の事が起こり過ぎだ!
まさかラルキア王国には、7龍様の加護があるとでも言うのか!」
まさかこのタイミングで、しかも魔獣に攻撃されようとは夢にも思っていなかったベリトは困惑しながらも頭を働かせ、配下の将に後方の部隊の援護、並びにヴァイスヴォルフの足止めを命じた。
目下彼等5000の帝国軍騎兵部隊は、砦を出撃した王国軍に追撃を浴びせるべく、1列1000名から成る縦型陣形を計5つ形成し、大地を駆けていた。
この5つの隊列の後方が、ヴァイスヴォルフの攻撃で早くも崩れてきている。隊列が乱れれば統制は取れなくなり、やがて部隊は瓦解する。
これを防ぐには、後方に救援を送りヴァイスヴォルフを退ける他ない。
ベリトは追撃部隊を2つに分けざる負えなくなった。
ベリトに白狼の撃退を命じられた1人の将は、5つある列の内、最も右側を駆けていた列を率い、大きく右へ迂回し後方の目がけて駆け出した。
部下の将にヴァイスヴォルフの攻撃を命じたベリトは、ギリっと歯を噛み締め、一瞬だけ振り返り後方を睨み付ける。
ベリトは冷静に成る様に勤め、頭を働かせ続けた。
あれはヴァイスヴォルフだ。間違いない。我が帝国でも目撃された事のある魔獣だ。
ヴァイスヴォルフは長い月日を重ね、ブラウンヴォルフの茶色い毛が白く生え変わった個体を指すと、幼き頃に読んだ本に書かれていた。
だが、以下に長く生きようと、魔獣は所詮魔獣。ただ本能に従い生きている筈だ。
なのに今我等を襲っているヴァイスヴォルフはどうだ?
あの白狼は、此方が1番攻撃されたくない場所...... 言い換えると、此方が最も反撃し難い場所へ攻撃を加えてきている。
まるで此方の陣形を見極め、その上で攻撃を仕掛けてきている印象すら受ける。
そこに本能は感じない。
ただの魔獣にそんな戦い方が出来る訳がない......
ベリトは、これまで味方が被った通常では考えられない被害も思い出していた。
今回の戦争は何処かおかしい。
我等は得体の知れない者に戦いを挑んでいるのか...... そんなある種の恐怖とも言える感覚を、この青年将軍は感じ始めていた。
「っ!いや、例えそうだったとしても、私は与えられた責務を果たす!」
これが初めての戦争...... 初陣となるベリトは微かに弱気になっていたと自覚してか、自らの頬を軽く叩き、自分に言い聞かせる様に言葉を吐く。
自ら喝を入れたその目は、強い輝きを取り戻していた。
ベリトが率いる約4000の騎兵は、塀に架けられた横幅のある板を駆け上り、国境を越えた。
目の前には、瑞々しい草木が生い茂るラルキア王国の豊かな大地が広がっていた。
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「こちら偵察科マリア...... ミカド、私達から見て12時の方向に標的が居る陣地を確認...... 鎧は...... 此処から約500m先で視認した...... 」
「本当か!周りに敵兵は居るか?」
時刻は14:00。
何事もなく国境を越え、エルド帝国領内に潜入を果たした俺の魔通機に、先立って帝国軍陣地の偵察に向かったマリアから通信が入った。
マリアとフロイラの偵察科は、今は俺達の前方1キロ弱の地点に居る。
俺は魔通機を耳元へ当て、詳しい状況を聞く事にした。
「陣内に複数の敵が見える...... 数は...... 約500」
「そうか...... 了解した!マリア達はそのまま周囲を警戒!俺達が...... 」
「おいてめぇ等!何者だ!」
無事に偵察任務を終えたマリア達に、その場で警戒しつつ待機を命じようとしたが、俺の耳にマリアとは違う声が聞こえた。
声色からして男の様だ。
この状況で男の声が聞こえたと言う事は、つまり......
「っ.....!ミカド、敵に見つかった」
「ちっ!わかった!直ぐに行くから持ち堪えてくれ!」
「了解...... 」
やはりマリアは帝国軍の兵士に見つかった様だ。
俺は焦りつつも、直ぐに援護に向かうとマリアに告げ、スティレットが付けられたHK416Dを強く握った。
「ミカド...... 大丈夫か?」
「大丈夫。マリアなら大丈夫だ。だからヴァルツァーは俺達の事は気にせず、副目標の為に動いてくれ」
そんな俺に、不安げな様子のヴァルツァーが話し掛ける。
この義理堅い男は、俺が何も言わなければ一緒に戦うと言おうとした筈だ。
だが、それだと彼に与えた副目標の達成はおぼつかない。
ヴァルツァーに達成して貰いたい副目標は、もしかしたらこの苦境を乗り越えるヒントになるかも知れないのだ。
だから、俺は心配ないと笑みを浮かべた。
「そうか...... 死ぬなよ?」
「言われなくたって分かってるよ。お互い任務を果たそう。この国で暮らす皆の為に」
「...... あぁ!よし、行くぞ!」
「「「「「おぉ!」」」」」
「「ミカドさんご武運を!」」
「おう!ダントスもギードも死ぬんじゃねぇぞ!」
ヴァルツァーの号令を受け、20人の多種族人から成る義勇兵部隊が駆け出した。
『ワォォォオン!!』
丁度その時、ロルフが帝国軍に攻撃を仕掛ける合図が聞こえた。
ロルフは今頃、駐屯地を出撃した王国軍を追撃しようとした帝国軍に奇襲を仕掛けている筈だ。
それはつまり、帝国軍の目は完全にグロウさん達の部隊に引きつけられているという事になる。
作戦は順調に進んでいたが、敵が俺達に気付くのは時間の問題だ。
「ヒメユリ!俺達も行くぞ!作戦は第3段階に移行する!
まずはマリア達の援護に向かうぞ!」
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
少女達の声が広大な大地に響き渡る。
俺達は身体能力強化を使い、疾風の如く大地を蹴った。
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次回投稿は7/5。21:00頃になります。