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ロリババア神様の力で異世界転移  作者:
第5章 戦争
161/199

145話 鎧破壊作戦 1





数多の王国軍兵士が城壁の上を、駐屯地内の広場を慌ただしく駆け巡る。今、第1連隊駐屯地はグロウさんの掛け声の下、俺発案の作戦。

(リュストゥング・)破壊(シェアシュテールング)作戦】が始動した事で大変な騒ぎとなっていた。


この【鎧破壊作戦】は計4つの段階から成り、ラルキア王国軍第1連隊と俺達ヒメユリは別れて行動する事になっている。


本作戦の概要を簡単に説明すると......


まず本作戦の第1段階は、【特殊な細工を施したある兵科】と、僅かな守備兵を除いた第1連隊全部隊が駐屯地の西門から出撃。その暫く後、俺達ヒメユリが東門から出撃する。

第2段階は、ヒメユリが隙を突いてエルド帝国領内の陣地へ潜入。

第3段階は、帝国軍陣内に確認された鎧群の破壊。

そして第4段階...... 最終段階は、鎧群の破壊後、帝国軍陣内から撤収という手筈になっている。

この作戦はラルキア王国軍のドクトリンに反する作戦なのだが、此方が何もせず、標的の鎧達が此処へ攻め込んで来れば第1連隊は甚大な被害を被る可能性があった。


故に、危険を承知で、俺達はこの鎧達が動き出す前に破壊する事を選択した。


この作戦が成功するか否かは、俺達が出撃するタイミングでほぼ決まると言っていい。


ヒメユリの出撃するタイミングが速過ぎると、帝国軍が俺達の存在に気付くかも知れない。逆に遅過ぎると、王国軍が迎撃を受ける危険性がある。


本作戦の主目標である鎧群を破壊するには、RPG7や銃火器でも充分かも知れない。が、仮にこれらの武器が通用しないとしたら......


考えただけでも寒気がする。


幸いな事に、この鎧群が動き出す気配は今の所見受けられない。ならばこの鎧群が動き出す前に、より確実に破壊しなければ...... 俺はそう判断し、その為にこの作戦を提案した。


第1連隊はエルド帝国軍の先遣軍3万に大打撃を与えたが、その先遣軍は突如として国境を越えてきた7万余の本隊と思しき部隊に吸収され、共に帝国領内に撤退し陣を構えた。

本作戦の標的、帝国軍の秘密兵器と思しき巨大な鎧群はこの陣内に居る。


つまり俺達ヒメユリは数万の敵の懐に潜入し、鎧を破壊なくてはらならい。

その為には、出来るだけ俺達の存在を帝国軍に悟られない事が重要だ。


なので俺はより確実に、安全に帝国軍陣内に潜入する為に、王国軍には先立って出陣して貰い、俺達の注意を引く囮役になって貰ったのだ。

王国軍とヒメユリの出撃のタイミングをズラし、場所まで変えたのもこの為で、極力俺達の存在を敵に悟られない様に工夫した訳だ。


この国境を越えて帝国軍陣内への潜入までが、本作戦の第2段階。

そして俺達ヒメユリが帝国軍陣内に潜入した後、作戦は第3段階に移行する。


第3段階は、国境を越えた後、第1連隊が帝国軍の注意を引いてくれている隙に、偵察科を先行させ鎧群の場所を確認。確認出来た鎧群を【ある物】を使い破壊する。

鎧群を破壊するのはセシル達歩兵科の役目で、レーヴェ達攻撃科とドラル達支援科、そしてマリア達偵察科には周囲の警戒に付いてもらう手筈になっている。


丁度この頃、囮役になっている王国軍を追撃しようと帝国軍の迎撃部隊が動き出す筈だ。その時の対抗策も事前に伝えてある。

この時、【特殊な細工を施したある兵科】が役に立つだろう。


そして鎧群の破壊が完了したら、作戦は最終段階、つまり帝国軍陣内からの撤収に移行する。


これが俺の立てた鎧破壊作戦の全貌だ。

この作戦は、潜入から撤収まで全てをタイミング良く行わなければならない。だが、昨日会ったばかりの第1連隊の人達と完璧な連携は取れる筈がない。

そこで俺は授かった加護を使い、【ある道具】を召喚し、それを意思疎通用の道具として使おうと考えている。


無論グロウさんにも、言葉を濁しつつだが、この事も伝えていた。


「ミカド」

「あ、ヴァルツァー」


こんな具合で頭の中で今回の作戦の流れを改めて確認していると、不意に名前を呼ばれた。


今俺は身分と名前を隠し戦っている。

俺の名を知っている人は限られていた。

後ろを振り向くと、そこには先程までグロウさん達と一緒に居た男が立って居た。

頬に刺青を挿れ、白い獣耳をピクピクと動かす白髪の犬獣人...... 俺達と同じく身分を隠して義勇兵としてこの地に来たヴァルツァーだ。


「さっきは大活躍だったな。またあの魔法具を使ったのか?」

「あぁ、今回の敵はあのエルド帝国だからな...... ハールマンの時とは違って、出し惜しみしてちゃ勝てねぇだろ?

所でヴァルツァー。なんでグロウさん達と一緒に居たんだ?」


歩み寄った俺に対し、ヴァルツァーは親しげに微笑みを浮かべる。

俺は以前、この男が隊長を務める暗殺者集団に命を狙われた。だが後に彼等の生い立ちや境遇を聞いた事で、今ではその蟠りも解消し打ち解けるに至った。


この男は以前、妹のイーリス達を奴隷商人ハールマンから救出した際、俺がベレッタを使う場面を見ていた。あの時はベレッタの事を特殊な魔法具だと説明していたが、ヴァルツァーは帝国軍がRPG7等で吹き飛ばされ、轟音と共に邪龍達が散る様子を見て俺達が銃火器を使ったのだと気付いた様だ。


今、俺がベレッタと似た雰囲気を醸し出すHK146Dを持っているのも要因だろうけど。


「いや、少し気になる事があってな。その事をグロウ閣下に伝えていたんだ」

「気になる事?」

「そうだ。お前、あの同族達を見て違和感を感じなかったか?」


歩み寄った俺を、ヴァルツァーは真剣な眼差しで見つめる。ヴァルツァーの言う同族達とは、此処に攻撃を仕掛けて来た奴隷達の事だろう。だが違和感を感じなかったかとはどう言う意味だ?


「違和感を?別にそんな事は...... いや、待てよ...... 」


俺は頭の中で、攻めて来た奴隷達の事を思い返してみた。そして冷静になって思い返してみれば、直ぐにヴァルツァーの言っている違和感に気が付いた。彼等(どれい)は、何処と無く似ている。


そう。ハールマンに囚われ、感情を押さえ付けられていたイーリス達に......


「気付いたか?」

「あ、あぁ!あの人達、味方が矢で射られても、攻撃魔法で攻撃されても悲鳴の1つも上げてなかったぞ!」

「そうだ。まるで感情を押さえ付けられていたイーリス達と似てないか?」

「確かに。普通あそこまで完璧な奇襲攻撃を受ければ、驚いて逃げ出す奴が居ても不思議じゃない...... なのに彼等は誰1人逃げ出さなかった。

これは逃げ出すって自我を押さえ付けられてるからかも...... 」


そうだ。あの人達はまるで操られているかの様に、ただ黙々とこの駐屯地を攻撃して来た。

それこそ、命を落とすその瞬間まで声を上げずに粛々と...... 此処だけを見れば、催眠魔法具で操られていたイーリス達とそっくりだった。

それにヴァルツァーは元より、セシル達にも伝えていないが、俺は殺意を持った人物が目の前に立つとその人物の職業が文字となって見える。

だが、先程襲って来た人達の頭上にはそれが見えなかった。


襲ってくるのに殺気がある事を示す文字が浮かんでいない所を見ると、さっきの人達は殺気を放つという感情すら押さえ込まれていると考えられる。


「でも待てよ。イーリスはアッフェに攻撃されそうになったら、死への恐怖で催眠が解けたってセシルが言ってたぞ?

それじゃ、あの人達の行動と理屈が合わない」


だがそれだと疑問が残る。


あの獣人達がイーリス達の様に催眠魔法具で操られていたとしよう。


だがイーリスは俺が言った様に、アッフェに攻撃されそうになった恐怖心から催眠が解けたと聞いている。

ならば矢面に立たされた彼等獣人達も、王国軍の鬼気迫る攻撃から恐怖を感じ、催眠が解けるのが道理の筈。


この催眠魔法具には、【対象者が極度の恐怖を感じると、かけられていた催眠が解けてしまう】と言う欠陥があったからだ。


それに......


「何より、さっきまで優勢だったあの人達はなんで撤退したんだ? 確かに、敵の正規軍は攻撃を受けてたとは言え、あのまま彼等...... 奴隷軍が攻め続けたらこっちの苦戦は確実だった。

催眠魔法具で操られていたなら、尚更彼等が撤退する必要は無い」

「その疑問は俺も感じた。だからこそ、同族達が催眠魔法具で操られていた可能性が高いと判断出来る」

「は?どう言う事だ?」

「考えてもみろ。ハールマンの一件からもう1ヶ月以上経ってる。俺の聞いた情報が正しければ、あの催眠魔法具はベルガス協力の元、エルド帝国が作った魔法具だ。

開発元のエルド帝国が、その欠陥に気付いていない筈が無い。この1ヶ月の間に催眠魔法具の欠陥を直したと考えるのが普通じゃねぇか?」

「あっ...... 」

「それに、今俺達が戦ってるのはハールマン...... 民間人じゃなく軍隊だ。

同族達が自我を押さえ込まれているだけじゃなく、帝国軍(てき)の指揮官の命令に従う様に催眠をかけられていたら...... そしてその指揮官は、あんな危ない最前線じゃなく、お前達が攻撃した後方の重武装兵の中に居た筈だ」


俺はヴァルツァーの言葉を受け、息を飲んだ。


催眠魔法具の開発元のエルド帝国は、ハールマンの様な民間人相手になら、先ほど言った欠陥は問題無いと判断して催眠魔法具を手渡していたとしよう。


だが、命の危険が付きまとう軍ではこの欠陥がある催眠魔法具は使えない。

ましてや今は戦争中だ。戦争は相手が居ないと成り立たない。しかもその敵は殺意を孕み、全力で殺しに掛かってくる。


欠陥が残ったままの催眠魔法具では、初めは奴隷達の意思を押さえ付けられたとしても、戦いが始まれば死への恐怖から催眠は解けるだろう。


どんな危機に陥っても規律を守り、攻撃・撤退をした奴隷達の行動を見る限り、エルド帝国はこの欠陥を直した催眠魔法具で奴隷達を操って、入念な準備の下ラルキア王国に侵攻してきたと言われれば筋は通る。

イーリスの時との違いも説明がつく。


それに後方に居た重武装の帝国軍正規兵部隊は、【何者か】に攻撃を受けたらしく、いつの間にか全滅していた。

だが、その内数名はこの【何者か】の攻撃から何とか逃げ切り、後方の主力軍と合流出来ていたとしても不思議じゃない。


この世界の主力武器の槍や弓では、1度に千人以上を殺す事は出来ない。大軍に攻撃されたなら別だが、そもそもそんな形跡は見当たらなかった。

なんとか撤退するタイミングはあっただろう。


もしこの帝国軍正規兵部隊の中に、奴隷達を操っている人が居たとすれば......


俺はヴァルツァーが言わんとする事を察した。


「つまり、俺達が攻撃した正規軍の中に改良された催眠魔法具を持った人が居て、あの人達を操っていたのかも知れない。

其奴は俺達や、第3者と思しき【何者か】の攻撃で浮き足立ち、慌てて奴隷の人達を撤退させちまったかも知れない...... そう言いたいんだな?」

「そうだ」


俺の脳内に電流が走った。

このヴァルツァーの仮説が正しければ...... 彼我の圧倒的な兵力差を何とか出来るかも知れない。


物は試しだ。やれる事は全てやろう。


俺は頭を働かせ、思い描いた案をヴァルツァーに耳打ちした。



▼▼▼▼▼▼▼



「行くぞ第1連隊の勇者達よ!出撃!」

「「「「「おぉぉお!」」」」」


時刻は午後13:35。

第1連隊駐屯地が俄かに殺気立った。身体の奥底から響くグロウさんの掛け声を受け、第1連隊の軍人達は天に轟け、天をも砕けと咆哮する。


重厚な城門がゆっくりと開き、軽装歩兵、重装歩兵、弓兵、魔術師兵、連隊長直轄部隊の順に強者(つわもの)達が雄々しく、そして猛々しく出撃した。


第1連隊駐屯地を出撃した彼等は、手筈通りに南西の方角へ向け走りだす。

僅かな守備兵を残し、第1連隊の主要部隊の出撃し終わると、俺はヒメユリ達に向け声をかけた。


「よし!ヒメユリ各員!俺達も行くぞ!作戦は伝えた通りた!

第1連隊が帝国軍の注意を引いている間に、帝国領内の敵陣地に潜入。秘密兵器と思われる鎧群を破壊するぞ!」

「了解!皆、用意は良い?行くよ!」

「「「「サー!イエス・サー!」」」

「てめぇ等!俺達もミカド達に遅れるんじゃねぇぞ!」

「「「「「応!」」」」」


グロウさん達第1連隊の出撃を見送った俺とセシルが、凛々しい表情のヒメユリ達に檄を飛ばす。

そんな俺達の横では、紅の瞳を光らせるヴァルツァーが仲間達に喝を入れていた。


ヴァルツァー達の義勇兵部隊は、俺が先程思い付いた本作戦の【副目標】を達成する為、途中まで同行する運びとなった。

これは無論グロウさんに許可を得ている。


この副目標とは何か。

それは【帝国軍の多種族から成る奴隷軍は、催眠魔法具で操られているか否か】を確認してもらう事だ。


その為、以前ハールマンの催眠魔法具で操られていた兎獣人のダントスや、赤龍人族のギードと言った元奴隷で組織されたヴァルツァー部隊が適任だと判断し、グロウさんと協議の下、俺は彼等にこの偵察を頼んだ。

彼等は国境を越え、俺達と共に帝国軍陣内に潜入した後、其々別れて行動する事になっていた。


「義勇兵部隊ヒメユリ!出撃!」


俺は鎧群破壊の為に召喚した【ある物】が入ったリュックを背負い、HK146Dを掲げた。

この鎧破壊作戦は、成功すれば帝国軍の動揺を誘え、秘密兵器と思しき鎧群を破壊できる。逆に失敗すれば俺達ヒメユリを含め王国軍の全滅は必至。

諸刃の剣とも言える作戦なのだが、悲壮感を漂わせる者は1人も居なかった。


「「「「「おぉぉおお!」」」」」


絶叫が空を突き抜ける。

第1連隊から遅れる事15分後、俺達は第1連隊駐屯地を出撃した。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「で、伝令!伝令!ビルドルブ総大将!敵が!王国軍が出撃しました!」

「なに!それは真か!?」

「はっ!間違いありません!約1500程の王国軍が西門より出撃した模様です!」


13:40分。

帝国領内の陣にて、先遣軍の再編成完了の報告を待つビルドルブの下に、息を荒げる正規軍兵士が転がる様に走ってきた。

肩で息をするこの正規軍兵士の伝令を聞き、再侵攻のタイミングを見計らっていたビルドルブは声を荒げた。


ビルドルブはこれまでの王国軍の行動を見て、王国軍は攻勢を仕掛けるだけの兵力有れど、基本的には籠城を主として抵抗しているのだろうと判断していた。


だが、王国軍が1500もの兵を用い出撃した。

この少々予想外の行動に、ビルドルブは声を荒げてしまったのだ。


「閣下!今すぐ迎撃部隊の出撃を!敵が西門から出撃したという事は、目的は我等への攻撃だと判断出来ます!」

「クソが!さっきの奇襲作戦が成功して調子に乗りやがったな!!」

「閣下。グラシャ殿はまだ先遣軍の再編成を終えておりません。我々は不意を突かれた形になります!」


小さく叫んだビルドルブの後ろでは、今後の侵攻予定等を修正したベリトと、先遣軍の正規兵部隊を攻撃した少女達の情報収集を終わらせたサブナックが跪いていた。

特務兵站軍を率いる覇龍7将軍の1人、グラシャは、ベリトと魔導兵の投入のタイミングを手早く決めた後、先遣軍の再編成に追われていた為此処には居なかった。


「ビルドルブのおっさん!俺達に出撃許可を!

ラルキア王国の野郎共にデケェ顔させられねぇっす!」

「 ...... 」


血気盛んなサブナックの言葉を聞き、ビルドルブは思考を巡らせた。


数刻前、アスタロト大将軍率いる先遣軍は、策を用いた王国軍の前に敗走した。

策を用い先遣軍を撃破した王国軍が、策も無くむやみに出撃してくる筈が無い。出撃した兵は1500程との事だから、砦に残っている兵は多くても500程だろう......


その程度の兵ならば、出撃した1500の部隊を無視しても簡単に砦は占領出来る。

だがそれは王国軍も承知の筈...... となれば、間違いなく王国軍は何らかの策を立て、この策が成功するに足ると判断した上で出撃したと考えるのが普通だ。


仮にこのまま何もせず、陣内に留まるのも手だが、それでは兵の士気に関わる事になる。ただでさえ、帝国軍10万の軍勢が、たかだが数千の兵に足止めされているこの現状に、正規軍の中では早くも動揺が広がっている。

これ以上の士気の低下は避けたい。


何より、王国軍の目的は分からないが何かを仕掛けてくるのは明確だ。

ならば、目下の部隊...... 1500の王国軍が、我が軍に最も脅威足りうる部隊となる。


現時点での最優先事項は、この1500の王国軍部隊の撃破だ。この部隊を撃破しなければ安心は出来ない。

この部隊を撃破した後、体勢を整えてから砦を落としても問題は無いだろう。


「ベリト!サブナック!お主らに命を下す!」

「「はっ!」」

「ベリトは第26軍団の内騎兵隊5000を率い、西門を出撃した王国軍部隊を撃破せよ!

サブナックは第50軍団を率い、魔導兵の警護に迎え!」

「はっ!我が命に代えても!」

「魔導兵の警護っすか!?何で俺は魔導兵のお守りでベリトは攻撃なんすか!」


ビルドルブは素早く頭を回転させ、今取れる行動の中で最善の物を選んだ。が、サブナックはその考えに不満を漏らし、噛み付かんばかりの勢いで抗議をしてきた。


「落ち着けサブナック。今のお前が出撃すれば、王国軍が全滅するまで追いかけるだろう」

「んなの当然だろうが!それが悪いのか!?あぁ!?」

「悪いに決まっておる。その心意気は立派だが、王国軍が策を仕掛けてきたのは誰の目から見ても明らかだ。

考えてもみよ。確かに王国軍は先遣軍を撃退した。調子に乗るのも分からんではないが、だが、わざわざ砦の半数以上の兵を出撃させる必要はない。

これまでの行動から判断するに、砦の王国軍は極力出撃を避けている様に見える。

その王国軍が、いきなり砦を無防備な状態にして出撃するのは明らかに怪しい」

「あ...... 」


今にも掴みかからんとするサブナックを、ベリトが冷静にいなす。そこへビルドルブが具体的な考えを説明すると、サブナックも王国軍の不審な行動に気が付いた様だ。


「あの1500の部隊は何らかの意志の下行動していると見てまず間違いない。

少なくとも、何らかの策が有る筈だ。

そんな部隊にサブナックが不用心に攻撃を仕掛けてみよ。お主は深追いし、策にハマるのは目に見えておる。

故にワシはベリトを迎撃に向かわせ、お主には魔導兵の警護を命じたのだ」

「魔導兵は我等の切り札。万が一にでも、この魔導兵が破壊される様では今後控えるペンドラゴ攻略作戦にも支障を来す。

だからサブナックには、念の為魔導兵の警護をして貰うんだ。今我らの軍で最も頼りになるのが、精強で名を馳せるサブナックの第50軍団だから...... ですね?閣下」

「ベリトの言う通りだ。敵に何らかの策が有ろうとも、このまま見過ごす事は出来ぬ。

冷静なベリトならば、必要以上に深追いはせぬし、猛者なサブナックに魔導兵の警護を任せれば安心だ」


それがベリトを迎撃に向かわせ、サブナックを魔導兵の警護に当てたビルドルブの考えだった。


この状態では、武術だけでなく戦略にも秀でるベリトにラルキア王国軍を迎撃させ、出撃準備の完了を待つ魔導兵の警護には、武術ではベリトをも凌駕するサブナックを。

そして自分は不測の事態に備え、いつでも動ける様にした方が良いとビルドルブは判断した。


「なる程...... そう言う事なら...... 」

「任せたぞサブナック。今後の作戦の行方はお主が握っていると言っても過言では無い!」

「う、うっす!任せて下さいな!ベリト!王国軍に出し抜かれたりでもしたら承知しねぇぞ!」

「言われるまでも無い。任務は果たす。

では、閣下!私もこれにて!」

「うむ!行けいエルド帝国の若き精鋭達よ!勇敢に戦え!そして王国軍を蹴散らすのだ!」

「「ははっ!」」


新たな命を受けた2人の青年将軍は其々一礼し、其々の部下の元へ走って行く。


開戦から早くも8時間が過ぎようとしていた。何処までも澄み渡る空の下、ラルキア王国軍とエルド帝国軍が再度、相見えようとしていた。






此処までご覧いただきありがとうございます。


お陰様で私生活のゴタゴタが落ち着きましたので、今後はこれまで通りに更新出来るかと思います。


次回投稿は、6/28。21:00頃になります。


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