142話 開戦 3
「隊長!RPG7とパンツァーファウストの斉射命中!敵の被害は甚大な模様!」
「目算で200から300人は死傷しました!」
「よし!!」
6発のロケット弾がやや左右にブレながらも敵に向かい、14発のロケット弾は山なりの放物線を描いて飛翔する。
これら発射されたロケット弾は、自ら敵へ向かっていく誘導装置や推進力が無い為横風に弱く、如何に弾道を安定させる【安定翼】と呼ばれる翼が開くとは言っても真っ直ぐ飛んでくれない。
( この安定翼とは、ロケット弾の後方に折りたたまれており、発射と同時に開く仕組みになっている )
それでもエルド帝国軍は密集陣形を形成していた為、本来射程距離が150mしか無いパンツァーファウスト150型でも、飛距離を伸ばす為、放物線を描く様に発射された弾頭はその殆どが密集陣形に着弾した。しかもこのロケット弾は、俺の加護の力を最大限利用し、炸薬と発射薬の量を強化した特別製にしていた。
この効果も相まって、1度の発射で有効打を与える事が出来た訳だ。
爆音と火薬の匂いが立ち込める空間に、フロイラとファルネの声が響く。
2人の報告を聞き、俺は声を張り上げた。
合計20発のロケット弾の一斉発射は、目論見通り、エルド帝国人で構成されていると思しき正規部隊に、無視出来ない打撃を与える事に成功した様だ。
だが戦況は常に流動的に変わっていく。後方に位置していた帝国軍正規部隊に打撃を与えても、前方にいる奴隷達の軍...... 奴隷軍は第1連隊駐屯地の城壁の真下にまで迫っていた。
「まずい!セシル!セシルはアウリ・ルール組、イザベラ・ナターリス組、ツィート・ベティ組を率いて左翼に移動!左翼に迫ってる帝国軍を蹴散らせ!」
「りょ、了解!」
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
「マリア!マリアはフロイラとティナ・リート組、ファルネ・アミティア組を率いて右翼の援護に向え!」
「了解...... 」
「任せてちょうだい!」
「「「サー!イエス・サー!」」」
「レーヴェ!ドラル!それとフクス・ハーゼ組、シルシュ・アイヒ組は俺と此処で敵の侵攻を防ぐぞ!」
「任せろ!」
「了解しました!」
「「「サー!イエス・サー!」」」
「ロルフ!作戦を一部変更する!帝国軍は今の一撃で戦列が乱れた!ロルフは後方の敵軍に突貫、更に戦列を乱せ!
並びに、敵の侵攻を防ぐ為に必要があれば奴隷達の軍への攻撃を許可する!」
『うむ、承知した!』
真下にまで迫る奴隷軍を見て、俺は頭をフル回転させ、ヒメユリ達に指示を飛ばし、ヒメユリの戦闘力が均等になる様に3つの隊に分け、ロルフには事前に伝えていた作戦に移るよう、声を出しつつ頭の中で強く念じた。
ヒメユリを3隊に分けたのは、圧倒的な兵力に押され始めた王国軍のサポートをする為の処置だ。
目下、懸命に攻撃を敢行している王国軍は僅か2000名と少ししか居らず、奴隷軍は王国軍の奇襲作戦により2000名以上の死傷者を出した様だが、その数はまだ2万人以上居る。つまり、奇襲は成功したが彼我の兵力差は少なく見積もっても、まだ10倍もあった。
これでは流石に勇猛果敢な王国軍とは言え、流石に手に余って来た様子だったので、俺はセシルを隊長とした部隊を左側に...... マリアを隊長とした部隊を右側に送って王国軍の援護に付かせる事にした。
付け加えるなら、部隊を分けたのにはもう1つ理由がある。
RPG7やパンツァーファウストは、発射時に膨大なガスを噴出するので遠目からでも目立つ。つまり、自分達は此処に居るぞと教えているに等しい。
帝国軍から何らかの反撃を喰らえば、ヒメユリと言えど無傷とはいかないだろう。俺が部隊を3つに分けた理由は、帝国軍から反撃を受けた際、1度に全滅する危険性を無くす意味もあったのだ。
ロルフには王国軍の作戦が成功し、俺達が攻撃を始めた後、タイミングを見計らって帝国軍の撹乱を予め命じていた。
だが、俺は奴隷軍の後方で傍観している正規部隊を見つけ、攻撃した。そこでロルフには、伝えていた作戦の内容を僅かに変更し、主目標としてこの正規部隊への攻撃、副目標として奴隷軍の撃退を命じる。
ロルフの古風な声は、とても頼もしく感じた。
それにしても...... まさかここまで上手くいくとは思っていなかった。
セシル達には1週間の集中的な訓練期間中、このRPG7とパンツァーファウストの運用訓練を施していた。
が、俺が召喚出来るロケット弾の弾数の関係で実弾射撃まで行えず、もっぱら模型を使用して、構え等の訓練しか出来なかった。それでも初めての射撃でほぼ全弾命中は大したものだ。
これはさっきも言ったが、後方にいたエルド帝国軍が密集陣形を形成しており狙いやすかったのも、此方としては僥倖だった。
最も、発射したロケット弾の2発は正規部隊の手前に落ち、誰も居ない大地を抉っただけだが、俺はこの成果に満足した。
「ミカド!攻撃目標は!」
「俺達の攻撃目標は後方の部隊だ!装備と状況から判断するに、前方の多数種族の軍は奴隷達で構成されていて、後方の重装備部隊は純粋なエルド帝国人で構成された正規部隊の可能性がある!
俺は出来るだけこの奴隷達の軍に攻撃をしたくない!だから可能な範囲で後方の正規部隊を攻撃しろ!どうしても城壁を突破されそうになったら、その時だけ奴隷軍にも攻撃をしかけろ!良いな!」
「了解!」
「「「サー!イエス・サー!」」」
スリングが付けられたRPG7を肩に掛けたセシルが、HK416Dを持ちこちらを見つめる。
そんなセシルの言葉に、俺は現状分かっている事を元に指示を出した。
戦争なのに敵の事を気遣うなど傲慢な気がした。だが、それでも...... 俺は彼等を積極的に攻撃する指示が出せなかった。甘い考えなのは重々承知だ。
奴隷達も敵だと割り切れないのは俺の甘さ故か......
糞が。これが咲耶姫の言っていた嫌な予感...... 生半可な覚悟じゃ生き残れないって事か!
「ミカド...... 後方の正規部隊にRPG7での攻撃は?しないの?」
「あ、あぁ!さっきの斉射で、後方の正規部隊は密集陣形が崩れつつある。今撃ってもさっきみたいな有効打は与えられない!
ロケット弾での攻撃は、突っ込ませたロルフに対抗して、敵が部隊を再編成・陣形を整えてからだ!俺が指示を出すまでロケット弾での攻撃は待て!」
「ならM2達の出番って訳だな!」
「そうだ!各員、手持ちの火器を使って帝国軍を蹴散らせ!何か異変があれば、各隊の隊長は魔通器で知らせろ!」
「「「「了解!」」」」
俺は僅かに集中を乱してしまった。部隊の隊長が集中を乱すなど言語道断。俺は改めて敵を倒す事に集中し、セシル達に具体的な指示をする。
その指示を受けたセシルとマリア達の部隊は、其々が命令された場所に向け走り出した。
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ラルキア王国軍第1連隊駐屯地前方、550m地点。俺達がロケット弾での斉射を終え、眼下に迫った奴隷軍への対応の為に行動を開始していた丁度その頃......
「な、なんだ貴様等!」
「ラルキア王国の者か!?」
「よくも将軍達を!」
「ねぇリズベル。この人達は何で怒ってるの?」
「馬鹿ねリリベル。あの程度でも一応この人達の将軍なのよ?その将軍を殺されたんだから、この人達が怒るのは当然でしょう?」
2つの亡骸の横に立つ少女達は、無数の槍先を向けられていた。それでも少女達は臆さないどころか、軽口を叩く余裕を見せる。
2人の内、コロコロと表情を変える少女は、彼等が何故怒っているのか理解出来ない様で、頭の右側に生えている角をポリポリと掻く。その少女に対し、落ち着いた雰囲気の少女は、頭の左側に生えた角を優しく撫で、呆れた様に答えた。この不敬な行動が、先遣軍の正規兵部隊...... エルド帝国臣民の彼等を激怒させた。
「「「「ふ、巫山戯るなぁぁ!」」」」
「おぉ!?よっと」
「ふっ!」
「「「「「......ガハッ!?」」」」」
目に余る態度の2人に対し、10名の正規兵が槍を、剣を、そして戦棍を振り上げ四方から少女達を襲う。
世界が一瞬止まり、周囲はしんと静まり返った。その静寂はあっという間に終わりを告げる。眼を見開き、口から血を吐き出す帝国軍人達の命の終焉と共に......
「ひ......!?」
「ば、化け物!」
「む...... 化け物なんて失礼しちゃう!私達は貴方達よりちょっと体が丈夫なだけなのに」
「全くね。レディーに向かって化け物だなんて...... そんな失礼な人達は...... 」
「「我等が鎌の錆となれ」」
「い、嫌だ...... 死にたくない!死にたくな...... ぎゃぁぁ!?」
「て、撤退!てった...... ごほっ!!」
「「「あ、あぁぁ!?」」」
正に瞬きをした瞬間、ほんの一瞬で10人もの猛者が血肉の塊に変わる。そして10の肉塊を作った2人の少女は不気味に微笑み、鮮血が滴る鎌を天へと掲げた。
少女達を取り囲んで居た軍人達は恐怖に顔を染め、1歩2歩と後退る。対する2人の少女は、逆に1歩2歩と歩みを進める。少女達とエルド帝国正規軍達との力の差は歴然だった。
逃げ腰になった帝国軍人達を冷めた様に見据え、対になった角を生やす少女達は大鎌を振るう。太陽光を浴び、反射する刃が竜巻となり数多の人を切り裂いていく。
その竜巻は、戦意を無くし座り込む者にも、無謀にも立ち向かおうと剣を振りかざす者にも、恐怖に駆られ背を向け走り出す者にも区別なく襲い掛かった。
とても軍人とは思えない程小柄で、か弱く見える少女達は顔色1つ変えずに屍を量産する。その光景は最早戦とは呼べなかった。
大量虐殺が始まったのだ。
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ラルキア王国軍第1連隊駐屯地。西側城壁。
はるか前方で、エルド帝国軍でもなく、ラルキア王国軍でもない第3の勢力とも言える少女達の手により、エルド帝国軍正規兵部隊が大混乱に陥っていたその時、ラルキア王国軍にも緊張が走った。
「「「な、何だありゃ!?」」」
不意に隣で矢を射っていたシュターク達が声を荒げる。何人かが声を出しつつ一同空を指差す。俺もそれにつられる様に、胸からぶら下げた小型望遠鏡を持ち、目線をその方向へ向けた。
そして俺は、小型望遠鏡に写った光景を見て絶句してしまった。
「な...... なに!?」
「あれは...... な、なんてこった!ありゃ龍だ!」
「「「「「りゅ、龍!?」」」」」
「んだって!?って事は、あれ全部龍なのか!?」
「黒い龍...... 黒い龍って事は【邪龍】か!魔獣とは言え龍に跨るなんて!エルド帝国め、不敬にも程があるぞ!」
小型望遠鏡には、黒曜石の様な光沢を放つ羽根を広げ、重厚な鉄を思わせる鱗が見て取れた。ある種神々しくも思える姿を翻し、空中で堂々と編隊を組む全長20m程の【龍】が、何匹も凄まじいスピードで此方に迫っていたのだ。
今度は此方が混乱に陥る番だった。
「くっ!アル、ありゃなんだ!?」
「あれは邪龍って言われてる魔獣だ!確か南大陸に生息してるって聞いた事がある!」
「南大陸の魔獣だって!?その邪龍が此処に居るって事は!」
「あぁ!エルド帝国め!ラルキア王国を攻める為に、ワザワザ邪龍達を南大陸から連れて来やがったんだ!」
俺は近くに居たアルに姿を現した龍の正体を聞いた。アルの話を聞く限りでは、この龍達は南大陸に生息している魔獣らしい。それを示す様に、この龍達の頭上には【邪龍】と浮かび上がる。レベルはなんと1番低くて35...... 1番高い奴のレベルは46もあった。
その禍々しい見た目に違わぬ強さに、俺は唇を噛み締めた。
『ミカド!前方から前方から龍の編隊が!攻撃はするの!?』
『ミカド...... 今の王国軍の装備じゃ、あの龍...... 邪龍に傷を与えるのは難しい』
「マリアの言う通りですミカドさん!あの邪龍の鱗は鉄以上の硬度を持つと言われています!邪龍は対硬質魔獣用兵器が無いと太刀打ちできません!」
肩にぶら下げた魔通機から、左翼と右翼に展開し終えたセシルとマリアの声が聞こえる。
訓練で問題なく使用出来た魔通機は、実戦でもその性能を遺憾無く発揮してくれた。
俺から離れた場所に居る2人も、此方に飛来する龍の編隊を捉えたのだろう。
そのマリアの言葉を補足する様に、隣に居たドラルが邪龍の強さを伝えてくる。ドラルの言う事が確かなら、小さな弓しか持って居ないラルキア王国軍では対処が出来ないだろう......
「おいおいドラル忘れたのか?僕達には此奴があるじゃねぇか!」
「あっ!」
隣で悲壮感漂うドラルの言葉を聞いたレーヴェは、ニカッと頼もしい笑みを浮かべていつの間にやら手にしていたM2重機関銃を掲げた。
そうだ。いかに鉄以上の鱗に守られてる龍とはいえ、相手は魔獣。銃火器の前では......
思い出せ。かつて俺とセシルは専用の武器がないと倒す事は難しいと言われていた岩熊に簡単に勝てたじゃないか。
なら今回だって!
レベルはあのルディより格段に高い。だが、それでも!今の俺達なら負けない!
「レーヴェの言う通りだ!良いか良く聞けヒメユリ達!攻撃目標を変更する!
ヒメユリは銃火器を用いて、接近中の龍の編隊を攻撃するぞ!
今の王国軍があの龍達に襲われたら一巻の終わりだ!射撃用意!弾幕を張れ!1匹も此処に近づけるな!」
『了解!絶対に此処には近づけないよ!』
『了解...... 』
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
俺は魔通機のツマミを回し、セシル達にも届く様に全魔通機への同時通話を選択し、声をぶつける。
魔通機越しからセシルとマリア達の声が...... そして俺の背後からは、レーヴェやドラル達の頼もしい声が聞こえた。
「ミカドさん!最初の攻撃は私に任せてください!」
「ドラルに?」
「はい、今スコープ越しにあの龍達を見た所、全ての龍の背に人が乗って居るのが確認出来ました!しかも先頭を行く龍の背に乗って居る人の鎧には、龍の顔が描かれていました。
エルド帝国軍で、龍の顔が描かれている鎧を着る人物は1人しか居ません!」
「龍に人が乗ってるだって!?そ、それより、その人ってのは.....?」
「覇龍7将軍序列3位、龍将軍ことアスタロト大将軍です!
付け加えるなら、後方の龍に乗った人達は龍の翼と剣が描かれた軍旗と、龍と数字の3が描かれた旗を持って居ました!
つまり、目下迫っているあの龍の部隊は、アスタロト大将軍が率いる部隊で間違い無いという事です!編隊を崩した後では、アスタロト大将軍の識別が難しくなります!アスタロト大将軍をピンポイントで攻撃出来るのは今しかありません!」
「そういう事か...... わかった!攻撃開始の合図はドラルが発砲した後とする!それまで各兵科は攻撃を控えろ!
ドラルの発砲後、攻撃科は牽制射撃をして敵編隊を崩せ!狙撃科は攻撃科が編隊を崩した後、精密射撃で龍に乗っている敵兵を撃破しろ!歩兵科、偵察科は攻撃科、支援科の攻撃を掻い潜って接近する龍への攻撃に専念するんだ!良いな!」
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
「よし、ドラル任せたぞ!」
「はい!」
「頼むぜドラル!1発で決めてくれよ!」
「言われなくてもわかってるわ!」
俺は魔通機を通し、更に具体的な指示を飛ばす。
そして俺の隣に来たドラルは左足の外側面を地面に着け、右膝を立てた。これは世界大戦時から現在の射撃競技などでも使われている構え方だ。
この構えは俺が教えた構えの内の1つだった。この構えは特に呼び名は無いが、安定感のある構えで、精密射撃をする際には良い構えだった。
そのドラルは立てた膝に左手の肘を乗せ、左手を右手の肘に添える。
PSG1が静かに前方を向いた。
この構えは視界が狭くなる欠点があるが、狙う標的はドラルから見てほぼ真正面。近くには俺達が居るから、射界を気にする必要はなかった。
「すぅ...... はぁ...... 」
小さくドラルが深呼吸をする。
「私は守護者の狙撃手......
私の任務は卑劣な悪漢や、罪なき人に仇なす者に慈悲を与えず、その生涯を終わらせる事...... 食らいなさい!」
ダァァァアン!!
ピリッとした空気がドラルを包み込む。その直後、爆音と共にPSG1から1発の7.62×51mm NATO弾が、大気を切り裂き、レベル45の邪龍に跨る人物...... エルド帝国軍覇龍7将軍が1人、アスタロトに吸い込まれる様にラルキア王国の上空を駆けた。
此処までご覧いただきありがとうございます。
いつの間にか総合評価が900を超えていました。自分の妄想が此処まで評価していただき、とても嬉しいです。
今後ともロリババア神様の力で異世界転移をよろしくお願いいたします。
次回投稿は、5月31日21:00頃を予定しています。