第13話 ギルドの依頼
居候を始めてから早10日目。
レザーアーマーと脇差の防御のお陰で、幸いにも白狼ルディから受けた傷は浅かった。
その傷もだいぶ良くなり、日常生活に支障がなくなった頃、俺は咲耶姫から授かった加護【想像した物を形にする能力】を再度使う事にした。
白狼ルディとの戦闘で着ていたレザーアーマーはビリビリに破け、防御で使った中脇差は中程でポッキリ折れていたし、短弓やサバイバルナイフは失くしてしまった。
破けたレザーアーマー等はもう役に立たないと判断したダンさんに処分されている。
そこで俺は再度武具の補充をしようと試みたのだ。
俺はまだレベル1なので前回同様、短弓を本体1本と矢数を召喚上限一杯の30本、【中脇差】を一口それにレザーアーマーを1着召喚した。
ポゥ‥‥‥ と、目の前が光り前回と同じ様に、短弓の本体と矢がたっぷり詰まった矢筒、中脇差とレザーアーマーが現れた。
これで脇差は召喚上限の2口を召喚してしまった為、脇差はレベルが上がらないと召喚出来なくなってしまった。
ちなみにレザーアーマーにも当然召喚上限があり、上限は3着だった。
つまりレザーアーマーは後1着しか召喚出来ない‥‥‥ うん。大切に使おう。
余談だが、ダンさん達にはこの加護の事を自分が育った地域特有の魔法と言う風に説明した。
少し苦しい言い訳かな? と思ったが、魔法が存在する世界なのが幸いし、珍しがられたが特に不審に思われなかった。
そんな事があった次の日、俺はダンさんと一緒に狩りの準備をしていた。
聞けば【ギルド】なる組織から、俺達がいる始原の森で大量発生している【茶狼】の討伐を依頼され、ダンさんは仲間の猟師達と共にこのブラウンヴォルフを討伐しに行くとの事。
俺はこれまでの恩を返す為に、その手伝いを願い出た。 一蹴されるかと思ったが、白狼に挑んだ度胸を買われ、俺はすんなり同行を許された。
ちなみにセシルは今、近くの村に野菜などの食料や消耗品を買いに行っている為始原の森には居ない。
前みたいに白狼に遭遇しない可能性が高いだけで安心する。
まぁ人の心配をする前に、自分の心配をしなけりゃダメなんだけどね!
閑話休題
俺は黙々と矢を一定数まとめて紐で縛ったり、短剣をダンさん指導の下砥ぐ。
「そう言えばこの地方にはギルドがあるんですね」
単純な作業を続けるのが少々飽きてきたので、ダンさんにギルドの事について話を振る。
「おう。アンちゃんが住んでいた地方には無かったのか?」
「はい。ギルドに依頼するほどの事が無かったので、ギルド自体存在していないんです。 良ければギルドについて詳しく教えてもらえませんか?」
「あぁ良いぞ。まず、ギルドの正式名称は【独立職業連合】って言ってな。軍人や狩人、魔術士達が立ち上げた組織が母体になってるんだ。
今では人間大陸のほぼ全ての国や地域に支部があって、本部はこのラルキア王国にある」
「本部がこの国に‥‥‥ ちなみにギルドが出来た経緯は?」
「ギルドが出来たのは今から50年くらい前だな。一時期【平和条約】の煽りを受けて、ラルキア国を含めた全ての国の軍隊が縮小していた時期があったんだが、丁度この時、人間大陸の各地に魔獣が大量発生したんだ。
各国は軍を動かしたくても国境警備の事やら、治安維持の事やら、資金の事やら、人手不足やらが重なって軍を動かせなかったんだ。
そこで先々代ラルキア国王陛下が軍や猟師、魔法士の中から腕の立つ奴等に、この魔物の討伐を依頼したのがギルドの始まりだ」
ギュッと、ダンさんは弓の束を紐で結んだ。
「そして依頼を受けた奴らが軍や猟師を辞めて他の国で困ってる人も助けられる様にって、ラルキア国王陛下から許可を取り、どこの国も介入出来ない完全独立機関のギルドを作ったんだと」
俺は狩りの準備を一旦中断し、重要そうな事をメモ帳に書き込む。
「最も、他にも理由は有ったろうがな。軍に所属すれば一定の給料は入るがそれまで。ギルドを作って依頼をこなせば、その分報酬で金が貰える。
魔術士も似たような理由だろうよ。猟師は獲物が取れなければ金は貰えない。が、ギルドを作る事により依頼には事欠かなくなって報酬が貰える確率が上がるって考えたんじゃねぇか?」
ダンさんはレザーアーマーを身に纏いながら話し続ける。
俺も同じ様にレザーアーマーを羽織る。
「王国側も莫大な金を使って軍を動かすより、ギルドに依頼を達成して貰った方が余計な費用がかからねぇし、その浮いた費用の一部で報酬で払えば良い。結果として軍の被害は無くなる。両者の利害が一致したわけだ。
それがこのラルキア王国から始まり、今では各国に広がって支部を持ち、各国の政府からも依頼を受ける一大組織になったんだ」
なるほど。ダンさんの話を聞く限りでは、ギルドってのは、俺が居た世界で言う所の国際連合的な組織なのかな?
「そのギルドに来る依頼は今回の様に大量発生した魔物の討伐とかなんですか?」
「大体はそうだな。依頼は普通の市民からは勿論、ギルド本部から直接依頼が来たり豪族や商人、王族、政府‥‥‥幅広く来るぞ。
代表的な例を挙げれば、壊れた家屋の修理とか、魔龍石の採掘とかだな。他にも専門知識を必要とする依頼とか色々あって面白いぞ?まぁ何でも屋みたいな感じだな」
ガハハと笑いながら荷物の最終チェックをするダンさん。
「このギルドで依頼を受けて依頼を達成した証拠品とかを再度ギルドに持って行くと、依頼者からの報酬がギルド経由で貰えるって寸法だ。
今回の依頼で言うと、依頼主はラルキア王国、標的は茶狼で、其奴の牙が討伐した証拠品になる。
ちなみにギルドには【級】があって、この級クラスで受けられる依頼が変わるんだ」
「【級】?」
「あぁ。まずギルドで依頼を受ける為には、ギルドで組員登録をしなきゃならないんだ。 今回は俺らギルドに所属する猟師に来た依頼だ。
だからまだギルド組員登録をしていないアンちゃんは依頼に手を出しちゃいけねぇ。
現地での荷物運びや、狩った魔物の処理程度しか出来ねぇぞ」
俺は頷く。
「話を戻すが、この登録が終わると自動的に最下級の級【ポーン級】になる。
んでギルドが指定した依頼を達成していくと級が上がって、より難易度の依頼を受けられるようになる。
ちなみに級が上がっていくと‥‥‥ 【ポーン級】【ビショップ級】【ルーク級】【ナイト級】【クイーン級】【キング級】【軍団級】って感じに呼び名も変わってくる。
だいたい【ルーク級】辺りになれば、依頼には事欠かなくなるって言われてるな。
あと級を上げると自分が隊長の部隊を持つ事も出来るぞ」
「自分の部隊を‥‥‥」
「あぁ、級が上がると依頼の危険度は当然高くなる。そうなると1人、2人での依頼達成は困難になるんだ。
だから危険度が高い依頼には、それ相応の人数で当たらなきゃならねぇ。そこで自分の級が高ければ、自分を隊長とした部隊を組織して、効率的に依頼をこなせる様に出来るって訳だ。
部隊を作るには色々規定があるらしいけどな。 まぁ、この部隊制度は推奨されているだけで強制じゃない。実際たった1人で30人の部隊が全く歯がたたなかった魔獣に勝った化け物とかいるらしいしな。
それに今回みたいに他のギルド組員と合同で依頼をこなしたりとかするし‥‥‥」
ダンさんは立ち上がる。
「この部隊制度はギルド側が無用な犠牲を出さない為に定めた処置なんだと。ま、ギルドに関する話はこんな所だな!」
立ち上がったダンさんは矢束を肩に抱えた。反対の手には狩りで使う弓が握られている。
俺はこれまで聞いたギルドの事を素早くメモ帳に書き込んで、召喚した中脇差を腰に差し、矢筒を肩にかけ短弓を右手に持った。そしてダンさんと同じように矢束を担ぐ。
今回の依頼に手を出してはいけない事になっているが、持っている武器は護身用だ。
そんな言い訳を考えながら空を見上げる。
俺はこのギルドの話しを聞いてギルドに興味を持っていた。
俺がこの世界にいる理由は咲耶姫が俺が居た世界に通じる道を完成させるまで待つ為‥‥‥ だから無理して命の危険がありそうなギルドに登録する必要は無い。
だが俺の中に流れる軍人家系の血が疼いている。どうせなら元居た世界では体験できない事をしてみたい。
そんな感情が俺の中で芽生え始めた。
この依頼が終わったらギルドに話を聞きに行くのも良いかも知れない。下手したら数年は帰れないのだ。
どうせなら思いっきりやってやる!
そんな事を思いながら俺は手に持つ短弓を強く握り締め、先に歩き出したダンさんの後を追った。
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