126話 新しい拠点
「それじゃ、今日はこれで解散だ。
後日また皆には此処へ集まって貰う事になるけど、それまでは各々ゆっくり体を休めてくれ。これから忙しくなりそうだからな」
「「「「「はい隊長!」」」」」
「皆、またね〜!」
「はぁい〜!セシル副隊長〜!お達者でぇぇ!!」
「あはは...... 最後までフロイラちゃんは元気だったね...... 」
「おや、面接は終わったのか?」
「お疲れ様でした皆様」
「あ、ミラさん!アンナさん!ギルド本部への出張、お疲れ様でした」
時刻13:30分。
新たにヴィルヘルムへの入隊が決まったハイテンション・ガールのフロイラを始めとした14人の面接が終わり、雑談もそこそこに皆をギルド支部の入り口まで見送ると、丁度フロイラ達とすれ違う形でノースラント村ギルド支部の支部長に就任したミラと、ギルド支部の顔、アンナが帰って来た。
ミラはノースラント村ギルド支部の支部長に就任するに当たり、本日ギルド本部で行われる【就任式】なる行事に参加する為、ギルド本部へ出向く事になっていたらしい。
「ん、ただいま。今の彼女達がミカドの言っていたヴィルヘルムへの入隊希望者達か?」
「あぁ、そうだ。皆真面目そうで良い子達だったよ。ついさっきヴィルヘルムへの入隊許可も出したし」
「ほう!それは目出度いな!」
「えぇ!人員が増えれば、より多くの依頼を受けられますしね。
ヴィルヘルムのさらなる活躍を期待してますよ!」
ヴィルヘルムへ新たな仲間が加わると聞いたミラとアンナは嬉しそうに顔を綻ばせ、期待を込めた目線を俺達へ向けた。
「は、はい!頑張ります!あ、ちなみにあの子達は後日、正式にヴィルヘルムに入隊する許可を貰う為に、また此処に来る事になってます」
「了解しました、セシルさん。すみません、面接とミラ支部長の就任式が重なってしまって...... 」
「アンナ達も仕事だから...... 気にしないで」
「そうそう、仕方ねぇって」
「そう言ってもらえると助かります」
ちなみにフロイラ達に入隊の許可は出したが、厳密に言えばまだ正式なヴィルヘルムの隊員になった訳ではない。
理由としては、正式にギルド部隊に入隊するには、ギルド職員が本人に入隊の意思が有るかを確認し、書類にサインをしなければならないからだ。
が...... 今日はその許可を出す権限を持つミラや書類を書いてくれるアンナが不在だった為、正式な入隊をするまで出来なかった。
なのでフロイラ達には申し訳ないが、後日また此処へ来て貰い、ミラかアンナ立会いの下、正式に入隊する為の許可を貰う事になっていた。
「ん、入隊の件は了解した。就任式も終わったから、これからは通常通り此処で仕事に戻れるぞ。
彼女達の入隊許可も近い内に行おう。
それと、ついでにこの前のグラースアイデの異常な行動の件だが、ティナに伝えたら原因がわかったらしいな」
「あぁ、そう言えばそんな事も頼んでたな。
応。この前のティナからの依頼の時に気付いてさ」
「なら良かった。聞けば、その原因を見つけたのはミカドだそうだな?流石だぞ」
「ま、どうって事ねぇよ」
「ふふ...... あ!それとミカド様、ヴィルヘルムの隊旗も完成が近い様ですよ!
後2、3日したら、完成すると職人さんも仰ってました」
『おぉ!それは誠か?楽しみだ』
「隊旗も完成間近か...... 良いね!着々と準備が整って来た訳だ!
準備と言えば...... なぁ、ミラ。頼んでいた【あの件】はどうだった?」
「心配するな。無論ちゃんと探したさ。
そして喜べ!丁度ミカドの条件に合いそうな物が見つかったぞ!」
「わぁ!さすがミラさんです!ミカドが言った時は結構難しい条件かなと思ったんですけど...... 」
「私の知り合いに顔の広い奴が居てな。そいつに頼んだら、直ぐに見つけてくれたよ」
「なぁ、ドラル。ミカド達が言ってる【あの件】って、この前ミカドがミラに頼んだあの事だよな?」
「ミラさん達の反応を見る限りそうだと思うわ。正直な所、まさか見つかるとは思ってなかったけど...... 」
「でも見つかったなら良かった...... これでヴィルヘルムも本格的に部隊として活動出来る...... 」
『うむ。喜ばしい事だ』
「でもよく見つかったよな。我ながら無理難題をふっかけて申し訳なく思ってたんだけど」
「まぁ、私はほぼ何もしてないがな。礼ならコレを見つけてくれた奴に言ってやれ」
「でも本当に有難いですミラさん!ありがとうございました!」
「まぁ...... な。私にかかればこの程度の事造作もない!」
「よっ!さすがノースラント村ギルド支部長!頼りになるぜ!」
「えぇ。ミラ支部長に頼んで良かったです」
「よせよせ、照れるじゃないか」
俺達を暖かく朗らかな空気が包み、皆が笑顔を浮かべる。
俺がミラに頼んでいた事......
それはヴィルヘルムの新たな拠点となる物件探しだ。
今までなら、ヴィルヘルムの隊員は俺やセシル達だけだったからダンさんの家で事足りていたが、まだ予定とは言え今後ヴィルヘルムには14人の女の子が入隊する。
ダンさんの家は、彼の仲間の狩人が宿泊出来るようにそれなりの大きさを待たせた作りになっているが、流石に計19人の人間+ロルフが一緒に暮らすのには広さ的に無理が有る。
だからと言って、依頼の度にフロイラ達に今住んでいる所からワザワザ依頼場所に出向いて貰うのも申し訳ない。
なので俺は思い切って、大人数でも一緒に住める様な物件を見つけて、そこで今度入隊する子達と一緒に暮らさないか?とセシル達に提案した。
皆で一緒に暮らせば依頼の際に纏まって行動する事が出来るし、共同生活をすれば結束が強まって部隊としての結束が強まり、連帯感が生まれる。
更に依頼の際の作戦を皆と相談しながら組立てる事も出来る...... そう思ったからだ。
( 最も、家族と一緒に暮らしている子達の意思も尊重し、この共同生活は志望者のみを対象にするつもりだけど...... )
住み慣れた...... ダンさんとの思い出が詰まっている家を出る事にセシルは少しだけ寂しそうな表情を見せたが......
「別に2度と帰って来られない訳じゃないし、それにフロイラちゃん達と一緒に暮らせた方が楽しいよね」
と、優しい微笑みを浮かべ賛同してくれた。
この様な経緯があり、俺は4日程前に友好関係が広いミラの人脈を頼って、20人近くの人が一緒に住む事が出来、かつ訓練も出来るような広い庭が有る屋敷を売ってる人を知らないか?と頼んでいた。
そしてミラはそういう事に詳しそうな人に心当たりが有る、その人に掛け合ってみると快く快諾してくれたのだ。
「ちなみに、相談した人と言うのは誰なんですか?」
「あぁ、それは...... 」
「私ですよ、ドラル様」
「あ、ハルさん。お久しぶりです」
「はい、皆様お久しぶりでございます。
論功行賞式以来ですかね?」
不意に聞こえた声の方に顔を向けると、其処にはいつの間にか軍の制服を着崩したラルキア王国軍のハル・オコーネルと、同じく軍の制服を纏う男性が立っていた。
ん?ハルの隣に居るこの男...... 何処かで......
「お久しぶりですハルさん!
ミラさんが相談した人物はハルさんの事だったんですね」
「その通りです。ミラ様からこの話を聞いた時は、少々面食らいましたが、彼のお陰で無事にご要望に合いそうな物件を見つける事が出来ました」
ハルが隣に立つ男に目を向けると、彼は静かに頭を下げた。
「その人...... 誰?」
「彼は私の友人で、カルトと言います。
無愛想ですが、正義感の強い良い男ですよ」
「カルト・エルツと申します...... 」
「この声...... お前!」
ハルの隣に立つカルトと言う男性は、淡々と言葉を発しながら再度頭を下げる。
その声を聞いた瞬間、俺やセシル達の顔が強張った。
この声...... 忘れもしない!
この男はベルガスの反乱の際に俺達をペンドラゴまで送ってくれたギルド職員、ノーマス・ブラウンを殺した騎馬武者の声だ!
「おっと。ミカド様、少々落ち着いて下さい」
「止めるなハル!俺は此奴に言わなきゃならなねぇ事がある!」
ほぼ反射的にカルトに掴みかかろうとした俺を、間に入ったハルが制する。
「ミカド様が声を荒げるのも当然の事...... 失礼ながら、ミカド様とカルトの間で起こった事をお聞きしました。
ですがカルトを責めないで下さい。
カルトはただ国の命を受け、鉄の意志を持って職務を全うしただけなのですから」
「でも!」
「ミカド様。先程も申した様に、カルトは無愛想で人から誤解を受けやすい奴です。
ですが、カルトにも心がある。
例え自国民でも、怪しき者は殺せ...... そう命じられたカルトの心情を察してやって下さい。
真に憎むべきは、カルトにこの様な非人道的な命を下した元上司、ベルガスなのです」
「っ.....」
「ミカド。私もアンナもお前とカルトの間で起こった事を聞いた。
カルトはベルガスの命を受けた時、軍人としての矜持を持って、己の感情を殺し、皆を守る為...... 国の為に戦う真の軍人である事を選んだんだ。
あの時、自国民を殺せと言う命令を受けたカルトの部下は皆動揺していた...... カルトはそんな部下達の罪悪感を一身に担う為に、自ら汚れ役を買って出たんだよ...... 」
「それにミカド様。カルトさんは先程ノーマスさんの家に行き、遺族の方達に謝罪しました。
しかも、遺族の方が今後何不自由なく生きていける程の弔慰金を自ら払っていくと、申し出たのです。
ハルさんも言いましたが、カルトさんの心情を汲んであげてください」
「ハル...... ミラ...... アンナ...... 」
「誤解とベルガスからの命があったとは言え、カルトはあの時の行いを心から悔やんでいます。
なので改めてお願いです。ミカド様、どうかカルトを許してやって下さい...... 」
俺はハルとミラ、そしてアンナの言葉を聞き何も言えなくなってしまった。
そうか...... 此奴もあの男と同じだ。
村の皆の為、そして愛する妹の為に心を殺して戦っていたヴァルツァーと......
カルトはベルガスに命令され、本当はしたくない事を強要されたのだ......
だが彼は軍人として、己に与えられた使命の為に戦う事を選んだんだ。
この言葉を聞けば、許さない訳にはいかねぇじゃねぇか......
「わかった...... カルト。
貴方の心情を考えず、勝手な事ばかり言って申し訳なかった。心から謝罪する...... 」
「いえ、気にしないで下さい。私はそれ程の事をしたのですから......
ですがそう言って貰えて、やっと救われた気がします」
腰を90度に折り、謝罪した俺に対しカルトは少しだけ悲しそうな微笑みを浮かべた。
俺はカルトの事を誤解していた。
彼もまた、理不尽な世界で足掻き、戦っていたのだ。
俺はこの不器用そうな男の悲しそうな微笑を見て、彼の行いを許そう...... そう心に刻んだ。
「で、でも!カルトさんは何故ここに?」
静まり返ってしまったこの場の空気を変えようとしてか、セシルがワザとらしく大きな声を出す。
この気遣いが本当に有難い。
セシル...... ありがとな。
「と、そうだったな。実はミカドが言っていた条件に合いそうな物件に、カルトが心当たりがあると言ってな」
セシルの気遣いを感じ取ったのか、ミラもワザとらしく声を張った。
なるほど...... ミラはハルが俺達に論功行賞式の招待状を届けてくれた時、ハルと親しそうに話していた。
おそらく、その時にハルと親交を結んだのだろうミラは、俺の物件探しをハルに相談し、そのハルはカルトに相談したと......
俺達の事を様付けで呼ぶハルがカルトにだけ呼び捨てな所を見ると、彼等が友人である事は疑いようもない。
人と人の繋がり...... 人の輪の有り難みが身に染みる。 でも、何故カルトに物件の心当たりがあるとはどう言う事だ?
「此処からは私が説明します。まず、私が此処に居る理由から......
実は私には年の離れた弟がいるのですが、この弟が最近、ある屋敷の管理を任されたのです」
「屋敷の...... 管理?」
「はい。弟は家主が居ない屋敷や、建物等を管理する仕事をしているのですが、この弟が数日前、とても大きな屋敷の管理を任されたと言っていました。
丁度その時、私はハルから今回の話を聞き、一緒に居た弟が是非ミカドさんにこの屋敷を勧めしたいと言っていたので、多忙な弟に変わり、私が馳せ参じた次第です」
「なるほど、そうだったんですね。ワザワザありがとうございます」
「ちなみに、その物件の場所ってのは此処から遠いのか?」
「それ程離れていませんよ。此処から馬で行けば、大凡40分程の所です」
「以外と近い...... そんな所に大きな屋敷があるなんて知らなかった...... 」
ふむ、どうやらカルトの弟は俺が居た世界で言う所の不動産の仕事をしているのか。
しかも、聞けばカルトの弟がオススメする屋敷は此処からそう離れていないときた。
今日は時間に余裕もあるし、下見位なら出来るな。住むかどうかはその屋敷を見てから決めれば良いだろう。
「カルトが此処に居る理由はわかった。
そこで、相談なんだけど今からその屋敷を見に行く事は出来るか?」
「えぇ。勿論です。私はその為に来た様な物ですから」
「おぉ!そう言う事なら早速行こうぜミカド!」
「うん!私もその屋敷見て見たい!」
「私も賛成です」
「私も...... 下見は大事」
『ん、我輩も皆に賛成する。屋敷の下見か...... 心が躍るな』
「よし、なら早速行くとしようか!
そう言う訳だから、俺達はカルト達と屋敷の下見に行くぜ?」
セシル達も屋敷の下見に賛同してくれた事だしら俺は一応隣に居るミラやアンナにその胸を伝える。
「あぁ、行ってこい。もし引っ越す事が決まれば、ギルドに依頼を出せば他のギルド組員達が引っ越しを手伝ってくれるだろう」
「行ってらっしゃいませ!もし引っ越しが決まったらご挨拶に行きますね!」
「あぁ!それじゃカルト。案内を頼む」
「任せてください」
「では、私は別件の仕事が有りますので此処で失礼します」
「はい。ハルさんありがとうございました!」
「いえいえ、私はミラ様とカルトの仲介役しかしていません。礼ならカルトに言ってやってください。では、失礼をば」
ハルは爽やかな笑みを浮かべると、一礼し颯爽と歩いて行った。
「なぁミカド!早く行こうぜ〜!」
「わかったわかった。だからそんなに腕を引っ張るな!」
「あはは、レーヴェちゃん楽しみで仕方ないみたいだね」
「そうですね...... 全くお子様なんですから...... 」
「でもレーヴェの気持ちも分かる。私もワクワクしてるから...... 」
『ふふ、我輩もどの様な屋敷なのかワクワクしてるぞ』
「お〜い!セシル達も早くしろよ〜!」
「は〜い!それじゃ行って来ます!」
「あぁ。しっかり下見して来るんだぞ」
「行ってらっしゃいませ〜!」
こうして俺達ヴィルヘルムは、カルトの案内で新しい拠点になるかも知れない屋敷に向け出発した。
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「なぁ、カルト。今更なんだけど、屋敷の下見をするなら弟も一緒に居た方が良かったんじゃないか?」
ノースラント村を出た俺達は漆黒の制服を着たまま馬に跨り、街道を走る。
そこで今更ながら感じた疑問を、同じく馬に乗り隣を駆けるカルトに聞いてみた。
「先程も申しましたが、弟は仕事が立て込んでいるらしく、来たくても来れなかったのです。
ですが弟に屋敷の見学の許可は取ってありますし、私も弟の仕事を手伝う事があります。
要領は分かっているのでご安心下さい」
「なるほど、そっちの事情は理解した。
ちなみに、参考までに聞きたいんだが、今から行く屋敷を買うとしたら幾ら位なんだ?
広い屋敷を要望しておいて何だけど、余り金額が高いと手が出せないからな」
「その点は目的地に着いてから詳しく説明します。少し大きな声では言えない事もあるので......あ、見えて来ましたよ」
「お、おぉ?」
カルトの意味深な言葉を聞き首を傾げていると、馬上にてカルトが前方を指差す。
その動きに誘われ、目線を前に向けると見覚えのある景色が俺達の眼下に広がり、その景色を見たセシルやレーヴェが声を上げた。
「あ、あれ!?此処って!」
「ハールマンの屋敷の前じゃねぇか!」
そう。
俺達の目の前には、拓けた牧場や畑が地平線まで広がるハールマンの屋敷の庭が広がっていた。
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