119話 救出作戦終了
時刻 00:11分。
場所 ハールマン邸 前。
「悪い。遅くなった」
ハールマンの顔面に拳を叩き込んだヴァルツァーがバツの悪い笑みを浮かべ、捕らわれていた男性達が乗った馬車を操り俺達の元へ来た。
俺は一旦馬車を止め、苦笑いを向けるヴァルツァーに同じような苦笑いを浮かべつつ手を振った。
「兄さん!兄さん!!」
「イーリス!怪我はないか!?変な事されなかったか!?」
俺が操る馬車から飛び降りたイーリスと、同じく馬車から飛び降りたヴァルツァーが喜びを爆発させ、お互いの存在を確かめる様に...... 2人は強く抱き合う。
こうして見ると、兄妹と言うより恋人同士に見えた。
「うん...... 大丈夫。だから安心して 」
「良かった...... 本当に良かった...... 」
そして2人は顔をくしゃくしゃにして微笑み合う。
「あ〜...... 申し訳ないけど、感動の再会はもう少し待ってくれ。
合流地点にいるドラルやロルフが心配してるだろうから、まずは2人と合流しよう」
「っと、そうだったな。イーリス馬車に戻るんだ」
「うん!」
「よし、それじゃ改めて合流地点に向かうぞ!」
「あぁ!」
イーリスとヴァルツァーが其々馬車に戻ったのを確認した俺は、上着の内ポケットに入れていた小振りな拳銃を取り出し、銃口を空へ向けた。
この拳銃は【モリンス NO.1信号拳銃】と言い、見た目は俺やセシル達が持つベレッタに似ているが用途は全く違う。
このモリンス NO.1信号拳銃はベレッタの様に鉛弾を撃つ武器としてでは無く、遭難者が自分の居場所を救助隊に知らせる目印として、明るい光を放つ照明弾等を空へ打ち上げる専用に開発された物だ。
軍隊だと夜間に照明弾を打ち上げ、敵の居場所を突き止める用途等でも使われたりする。
今回はその例を参照に、離れた場所にいるドラルとロルフに救出作戦が成功したと知らせる合図としてこの銃を使う。
ちなみに明るい光を放つ仕組みだが、これは専用の弾に含まれる照明剤と呼ばれる物が燃える事で明るい光を放つ。
照明剤の主な成分はマグネシウム粉、アルカリ金属等だ。
これらが化学反応を起こす事で明るい光を発する。
もっとも、俺が召喚した照明弾は他の人に見られる可能性を考慮し、光を放つ時間は5秒ほどになる様に照明剤の量を調整しているし、滞空時間を伸ばす為に本来付いているパラシュートを外したタイプになっている。
俺は馬足を早める馬達を操りながら、漆黒の空へ向けモリンス NO.1信号拳銃のトリガーを引いた。
ヴァルツァーの目の前で、俺はベレッタを2回もぶっ放しているから、今更モンリスNO.1を撃つ事に抵抗は感じていない。
ヴァルツァーならこの事は誰にも言わないだろう。そう思ったから。
ボシュッ!と、サプレッサーを付けたベレッタの発砲音とはまだ違う、少々間の抜けた音が響き、パッと太陽を思わせる明るい花が凍て付く夜空に咲いた。
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時刻 00:12分。
場所 ハールマン邸 牧場中間地点。集合場所。
「ロルフさん!」
『おぉ、ドラル殿!敵は皆倒した様だな』
「はい。ロルフさんも囮役お疲れ様でした」
『なに、あれしきの事訳ない。それより、つい加減を間違えてしまったのが反省点だが...... 』
「と、言うと......?」
与えられた任務をやり遂げた私はミカドさんの作戦に従い、先に囮役を終え馬達を守っていたロルフさんと合流した。
ロルフさんが居た事に安堵しながら、お互いの任務成果を確認する。
やはり、私の元に来た奴隷商人の数が少なかったのはロルフさんが倒していたからだった。何でも攻撃魔法を放つ奴隷商人に当てられ、力加減を間違えたからだそうな。
あはは...... と、私が苦笑いを浮かべたその時、ハールマンの屋敷の方角がまるで昼間の様に明るくなったのを感じた。
顔を屋敷の方に向けると、そこには小さな太陽が昇っていた。
その太陽はほんの数秒でフッ...... と静かに燃え尽きる。
『っ! ドラル殿!』
「はい! ミカドさん達が来ます!」
私とロルフさんは闇夜に上がった太陽の意味を察した。今のがミカドさんの言っていた合図だ!
間違いない!ミカドさん達は無事、イーリスさん達の救出に成功したのだ!
『よし、我輩は今一度周囲に敵が居ないか見てこよう。ドラル殿は何時でも逃げれる様、準備を!』
「はい!索敵はお願いします!」
『うむ!では、行ってくる!』
手早くお互いに出来る事を確かめ、ロルフさんは一陣の風となり周囲に広がる雑木林の中に姿を消した。
「さすがミカドさんです...... !」
私は手に持った相棒...... PSG1をギュッと強く抱き締め、ミカドさん達が居るだろう方向を見つめた。
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時刻 00:15分。
場所 ハールマン邸 牧場中間地点。集合場所。
「皆さんお帰りなさい!」
『無事な様で何よりだ!』
「おう!今戻ったぜ!」
「ドラル!ロルフ!任務ご苦労!お陰で迅速にイーリス達を救出出来たよ!」
「ありがとうドラルちゃん!ロルフ!」
「ドラル...... ロルフお疲れ様...... 」
集合場所と決めた雑木林の中に辿り着いた俺達をドラルとロルフが出迎えてくれた。
1人と1匹はキラキラと目を輝かせ、心底安心した様な優しい笑みを浮かべている。
これでイーリス達の救出作戦は無事に終了した。
現時刻は00:15分。潜入を開始してから僅か30分の作戦だった。
安全圏まで逃げ切り、安心した皆は一斉に馬車から飛び降りてお互いの無事を確かめ合っている。
だが、そんな光景を見る俺の心にはあるモヤモヤが浮かんでいた。
「「あ、あの!助けて下さりありがとうございました!」」
「俺達は何もしてないよ。礼ならヴァルツァーに言ってやってくれ」
そんな中、先程ヴァルツァーがダントス、ギードと呼んだ兎の獣人と赤龍人の少年達が駆け寄って来て、勢い良く頭を下げた。
ここまで真っ直ぐな好意を向けられる事に思う所が有る俺は一瞬だけ顔を顰め、頭を掻きつつヴァルツァーに目線を向ける。
「「それでもありがとうございました!」」
「あぁ、どういたしまして...... 」
それでも純粋に喜びの感情を向けてくれる彼等に、内心で感じているモヤモヤを出さない様、俺は意識して作り笑いを浮かべた。
俺が感じているモヤモヤとは......
「なぁセシル、イーリスとは何処で合流した?」
俺は馬車を降り、皆を見て優しい微笑みを浮かべているセシルに耳打ちした。
俺が感じているモヤモヤの元凶をセシルが知っていると思ったからだ。
「イーリスさん?えっと...... 私とレーヴェちゃんが催眠魔法具が有りそうな部屋に入った時だよ?それがどうかしたの?」
「いや...... もしかしたら、イーリスはその時には催眠魔法具が解けてたんじゃないかなって思ってさ...... 」
「っ!ミカドは分かってたの?」
「って事はやっぱり、セシル達とイーリスが合流した時点でイーリスの催眠魔法は解けてたって事か...... 」
「うん。私達がアッフェを討伐した時、イーリスさんが襲われそうになったでしょ?
その時の恐怖で、催眠が解けたって言ってたよ」
俺はセシルのこの言葉で全てを理解した。
あの時イーリスが言いかけたあの言葉の真意を......
アッフェのボスを倒した直後、イーリスの瞳には生気が戻っていた様に感じたが、それは間違いではなかった。
イーリスに掛けられていた催眠はあの時にはもう解けていたのだ。
そして俺達に頼みがあると言う言葉が意味していた事......
あれは捕らわれ、自我を押さえ込まれている皆を助けてと言いたかったに違いない。
だが、その事を言い終わる前にハールマンが来てしまった......
もし仮に、ヴァルツァーがこの救出依頼を俺達に頼まなければ、俺はイーリスの願いに気付く事は無かっただろう。
だから俺は彼等に感謝されてはいけない。
本当に感謝されるべきなのは、俺達にこの救出を依頼し、見事皆を助け出したヴァルツァーなのだから......
これが俺の感じたモヤモヤの正体だった。
そんな罪悪感というか、申し訳なさというか、言い様のない気持ちを感じている俺から少し離れた所では......
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「なぁイーリス...... お前、何であの時ハールマンへの攻撃を辞めさせた?」
無事に妹のイーリスを始め、村の皆を助ける事が出来た俺は、目に涙を浮かべて皆に話しかけているイーリスに話しかけた。
正直、俺はあのハールマンを許す事が出来ない。だから俺はイーリスに何故ハールマンへの攻撃を辞める様に叫んだのか聞きたかった。
「兄さん...... だって、兄さんにはもう悪人だったとしても、人を殺して欲しく無かったから...... 」
「イーリス...... お前まさか...... 」
目に涙を浮かべたままのイーリスから、俺の心を締め付ける言葉が放たれた。
イーリスには俺が外道共を...... 死んで当然の屑達を殺していた事は伝えていない。
仲間の皆には、イーリスに心配をかけさせたくないから絶対に内緒にしてくれと念を押していたのに......
それでもイーリスは気付いていたのだ。
俺が悪人共を殺していた事を......
「兄さん、お願い...... もう人を殺さないで...... それが例え悪人でも...... 私はそんな事望まない。
私は兄さんや、皆が元気に...... 一緒に暮らせればそれでも良いの...... 」
「気付いてたのか...... 」
「兄さんや皆は私に隠していた様だけど、私知ってるよ。
兄さんが私達を助けてくれたアドラーさんの意思を継いで、同じ様に捕らわれてた皆を助けていた事......
それに、奴隷商人達を殺していた事も......
何度か兄さん達にはもうそんな事辞めよう。何も殺すまでしなくて良いのって言おうとした...... でも、兄さんが私達の為に行動していたのも私は知ってる。だから言い出せなかったの...... 」
静かに語りながらイーリスは先程までとは違う感情が込められた涙を流す。
それが悲しみから来る涙だと言う事は、心が澱み、荒れきった俺でもハッキリと分かった。
俺はダメな兄だ......
命よりも大切なイーリスをこんな目に遭わせ、そして泣かせてしまった......
結局の所、俺のやってきた事はイーリスにとって、ただ心を締め付けるだけだったのだ。
「だからこれからは皆で仲良く暮らそう?
お金なんて無くて良いの...... 」
「だが...... 俺達の様に奴隷商人達に捕まって、家畜同然に暮らしている人達はどうなる!
俺達が助けないで、誰がその人達を助ける!」
それでも俺は言ってしまった。
俺は悪人が憎い一心で行動していたが、本質は変わっていない。俺達は、俺達と同じ様な境遇の人達の為に戦って来たのだ。
だから声を荒げてしまった。
「なら...... 私達がその人達の為に動こう?人を殺さなくても皆を救う方法かきっと有るはずだから。
これ以上悲しい思いをする人が出ない様に......
このラルキア王国は私達の様な元奴隷にも優しい国なんだよね......?」
イーリスはそう言いながら、目線を横に向けた。
其処には見慣れない服に身を包んだ背の高い黒髪の青年に小柄な金髪の少女。
そして同じ服を着たエルフや獣人、龍人が笑い合っていた。
今の俺には、この5人は目が眩む程輝いて見えた。
「私の言う事は夢物語かも知れないけど...... 私達もマリアさんやレーヴェさんそれにドラルさん達みたいに頑張ってこの国の皆に認められれば、皆の力に...... 希望の光になれると思うの。
自分達は家畜じゃない。自分達だってやれば出来る。自分達だって生きてるんだからって......
そうすれば奴隷って呼ばれてる皆もきっと...... 」
「イーリス...... 」
イーリスは...... 俺の愛する妹は、こんな糞みたいな境遇にも負けず、大きな夢を胸に秘めていた。
イーリスの言う夢物語とはつまり、俺達の存在をこの国の人達に認めさせる事が出来れば、奴隷と呼ばれている人達の心の支えになれる。
そうなれば今は奴隷と呼ばれる皆が立ち上がるキッカケになるかも知れない...... そうなれば奴隷と呼ばれる存在が無くなるかも知れない......
イーリスの言葉には、この国から奴隷を無くしたいと言う、強く...... そして切なる思いが込められていた。
憎しみに心を蝕まれ、澱んだ俺とは真反対の真っ直ぐで明るい光を灯す瞳が俺を見つめる。
決めた。
俺はイーリスの願いを叶えよう。イーリスの夢の為に戦おう。
悪人と言えど、俺が数多の人を殺して来た事実は変わらない。だからこそ!せめてもの罪滅ぼしに俺はイーリスの夢の為に残りの人生を捧げよう。
これが俺に出来る償いだ。
でも、どうやって俺達の存在を皆に認めさせれば良い......
決まってる。
「なぁミカド!」
俺は自分の使命を見出し、黒髪の青年に声をかけた。
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「どうしたヴァルツァー?」
イーリスと話し、思う所があったのだろうヴァルツァーの熱い炎を思わせる紅い瞳が俺を捉える。
「まず、今回の依頼を引き受けてくれてありがとう。お陰でイーリス達を助け出す事が出来た。
これは少ないけど、報酬だ」
「あ、あぁ...... 」
ヴァルツァーが差し出した麻袋からジャラッ...... と鈍い音が聞こえる。
そしてヴァルツァーが袋の口を開けると、中には黄金色に輝く硬貨が幾つも入っていた。
「ミカド達には犯罪の片棒を担がせた様なモンだ。
これで足りないって言うなら、後日また追加で持ってくるが...... と、それと依頼完了のサインもしないと...... 」
俺はこの袋を見て眉間に皺を寄せる。
そんな難しい表情の俺を見て、ヴァルツァーは報酬金が少ないのかと勘違いして言葉を付け足したが、俺が難しい表情を浮かべた理由は違う。
前にも言ったが、俺は助けを求めるイーリスのサインを見逃してしまった。
だから、この金を受け取る事に抵抗があるのだ。
それに.......
兎に角、色々と思う所が有る俺は硬貨が詰まった袋をヴァルツァーに押し返した。
「バカ野郎。俺に払う金が有るなら、この金で皆に飯でも食べさせてやれ」
「だ、だが...... それだと依頼の報酬が...... 」
「依頼?なぁセシル、俺達って何か依頼を受けたか?」
「え、あっ...... !ううん。受けてないと思うな〜 」
「マリア達はどうだ?依頼を受けた覚えは有るか?」
「なるほど...... 僕も依頼を受けた記憶はねぇな〜 」
「ふふ、私もありません」
「ん...... 私も無い。ヴァルツァー達とは今、偶然会っただけ...... 」
「お前達...... 」
どこまでも実直な...... 悪い言い方をすれば頑固なヴァルツァーを納得させる為に、俺は一芝居打った。
こうでもしないと、彼は納得しないと思ったからだ。
俺達が金を貰うより、その金を皆の為に使ってくれた方が俺としては嬉しい。
さっき俺が言った言葉は間違い無く俺の本心だ。
それにこうする事で、俺が感じるこの罪悪感を少しでも和らげてくれる...... そう思ったのだ。
更に別の理由として、金を受け取ったら依頼を完了したと言う事になってしまう。
依頼を終えたらこの事をギルド職員のミラやアンナに報告しなければならないが、この依頼はとても大っぴらに出来る様なモノでは無い。
ミラ達なら奴隷と言う存在に否定的だから、事情を説明すれば分かってくれるとは思うが、ギルドの正式な記録にこの一件が載るのは確実にヤバい。
だから、俺はこの依頼その物の存在を消す。そう決めた。
セシル達も俺の考えを察し、どこか悪戯っ子の様に微笑みながらヴァルツァーを見つめた。
こう言った理由があり、俺はヴァルツァーに硬貨が入った袋を無理矢理押し返したのだ。
念の為、ヴァルツァーから届いた依頼の手紙は後で処分するとしよう......
それと、この依頼を受ける前に貧民街に待機してもらっていた第7駐屯地の隊員達には依頼を受けると言ってしまったが、軍とギルドは別組織だし詳しい依頼の内容も教えていないから、変に追求されない限り不信には思われないだろう。
「って訳だ。俺達はヴァルツァーが言う様な依頼は受けてないし、ヴァルツァー達とは今会ったばかりだ。
だからこの金も受け取る理由が無い」
「ミカド...... 本当にありがとう...... 」
「ありがとうございます...... 」
「ん」
麻袋を握り締めるヴァルツァーと隣に居るイーリス、そしてボロボロの服を着た皆が頭を下げた。
「それとミカド...... お前に相談...... いや、頼みがある」
「頼み?頼みって」
「頼むミカド!俺がギルドに入れる様、お前の親しいギルドの人間に俺を推薦してくれないか!」
ヴァルツァーから出た単語を聞きいた俺は、心の何処かでこうなる事を予想していたのか...... 妙に落ち着いていた。
ヴァルツァーがこう言ったのは、元奴隷の自分は俺に口添えしてもらえないとギルドに登録出来ないと思ったのだろう。
これくらいならミラに頼んでも大丈夫か。
「ん。了解した。そう言う事なら、帰ったら近くのギルド支部の副支部長に頼んでみるよ」
「本当か!ありがとうミカド!なら、話が纏まったらこの場所に手紙を届けてくれないか?」
ヴァルツァーは手早く取り出した紙切れに簡単な地図を書き記し、俺に手渡した。
俺はそれをしっかり受け取り、胸ポケットに入れる。
「あぁ、わかった。良い返事を聴かせられるように努力する。
なんならヴィルヘルムに入るか?
ヴァルツァーにその気が有るなら、俺は喜んで迎えるぞ?」
「っ...... ありがとうミカド。その言葉は本当に有難い。
でも、悪い...... 俺にはやりたい事が出来た。
これは俺がやり遂げないとダメなんだ。
だから俺はヴィルヘルムには入れない」
「そうか...... やりたい事が出来たなら、仕方ねぇ。残念だけど諦めるよ」
俺の誘いはキッパリ断られてしまった。
でも、ヴァルツァーの考えている事を察している俺は野暮な事は言わない。
今後の生き方を決めるのはヴァルツァー本人だからだ。
ヴァルツァーにも俺と同様にやりたい事が出来たのだ...... だから俺はヴァルツァーの意思を尊重する。
正直な所、ヴァルツァーには本気でヴィルヘルムに入って貰いたかったんだけどな......
「所で、助けた人達の中にはヴァルツァーの村以外から連れ去られた人達も居ただろう?
彼等はどうするつもりなんだ?」
「此奴等も俺達の村に住んで貰おうと思ってる。
何にもない村だけど、暮らしてる奴らは皆同じ様な境遇だから直ぐに打ち解けられるだろうさ」
「それを聞いて安心した。彼等の事は任せるよ。さ、それよりそろそろ帰ろう。
もう真夜中だ。早く帰って皆を休ませてやれ」
「そうだな...... 本当に何から何まですまない...... ミカドは俺の恩人だ。困った事があれば言ってくれ。ミカド達の為なら何でもしよう」
「そりゃ頼もしい。何かあったら頼りにさせて貰うぜ!」
「あぁ!」
「ミカドさん!皆さん!助けて下さり本本当にありがとうございました!」
「いや...... それより悪かったなイーリス...... あの時の言葉の意味を察せなくて...... 」
「いえ、それでもミカドさん達はこうして助けてくれたじゃないですか。だから気に病まないで下さい。
ミカドさん達が来てくれて、私本当に嬉しかったです!私も何かあれば力になります!
だから、ミカドさん達も自分の道を歩んでください!」
「あぁ...... !勿論だ!」
「はい!」
「よし、皆馬車に乗ってくれ!またなギルド部隊ヴィルヘルム!お前達への恩、絶対に忘れない!」
「さようなら皆さん!」
「「「「「さようなら!」」」」」
皆を馬車に乗せたヴァルツァーは、1人で器用に2台の馬車を操り去っていった。
イーリスやダントス、ギード...... そして皆の別れの言葉が何時迄も肌寒い夜空に木霊していた。
このイーリス救出作戦から数ヶ月後、ノースラント村ギルド支部副支部長ミラ・アレティス許可の下、無事ギルド組員になったヴァルツァーは瞬く間にルーク級に昇格。
同じ様にギルドに登録し、ビショップ級になった兎獣人のダントスや赤龍人のギード他、村の人達とギルド部隊【白狗の光】を結成。
他大陸出身者達で結成されたこの部隊は多くの人々を助け、その名声はラルキア王国は元より人間大陸全土に広がり、奴隷と呼ばれる人達の希望の光となる。
彼等は後に訪れる【人間大陸の奴隷解放案件】と呼ばれる事案に関わり、人間大陸で奴隷と呼ばれ、虐げられている人達を開放する事となる。
このギルド部隊【白狗の光】の隊長...... 白髪の犬獣人の青年は自らをこう名乗った。
ヴァルツァー。
ヴァルツァー・リヒト...... と。
強い心・挫けない光。
固い決意と揺るぎない信念が込められたこの名を名乗った彼が、妹の願いである奴隷解放を成し遂げるのはもう少し後の話である。
ここまでご覧頂きありがとうございます。
年末で多忙な為、次回の投稿予定は12/21日の21時ごろになります。
ご意見ご感想頂けましたら嬉しいです。