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ロリババア神様の力で異世界転移  作者:
第3章 日常
127/199

116話 其々の任務 2


時刻 23:57分。

場所 ハールマン邸地下室前。


「この中にイーリス達が‥‥‥」


イーリス達を探し、ハールマンの屋敷内部を散策していた俺とマリア、そしてイーリスの兄ヴァルツァーは地下へと通じる階段を降りた。降りた先には大きく重厚な鉄の扉が有り、頑丈そうな錠前で施錠されている。


まるでこの中に大事な物が有りますよと言っているかの如く、鉄の扉は静かに佇んでいた。


「あぁ、マリアの感じた気が此処から出ているなら間違い無いだろう」

「ん、此処で間違い無い‥‥‥ この扉の向こうから弱くてか細い気を沢山感じる」

「でも錠前が付いてるぞ。鍵を見つけなきゃ、向こう側に行けねぇ」

「鍵か‥‥‥ いや、この程度の錠前なら任せろ」

「何か手が有るのか?」

「まぁ見てな」


扉の前で苦虫を噛み潰した様なヴァルツァーの横で、俺はベレッタの銃口を錠前に向けた。


「そいつは、あの時俺を攻撃した武器‥‥‥なのか?」

「そうだ。これは特殊な構造と特殊な粉を使って金属の球を放つ魔法具だ」

「そんな魔法具が‥‥‥」


半ばパターン化してしまった銃の説明をしつつ、俺は先端に丸い筒が付けられたベレッタの上部をスライドさせ、薬室に9mmパラベラム弾を装填した。


「っと、ちなみにヴァルツァー。さっきこの筒や布が何もない空間からいきなり現れただろ?」

「あ、そう言えば‥‥‥」

「あれは俺の持つ魔法‥‥‥言うなれば、ベルガスの催眠魔法と同じ特殊属性魔法なんだ。何もない空間から物を召喚するっていうな。 だから、さっき見た光景は秘密にしてくれると助かる」

「そ、そんな魔法が有るのか?いや、ベルガスの催眠魔法なんてもんが有る位だから、不思議じゃねぇか」

「それよりミカド‥‥‥そのベレッタに付いてる丸い筒は何? 」

「あぁ、そう言えば説明がまだだったな。これは今回みたいな隠密行動する時にうってつけの装備品なんだ」

「そうなの‥‥‥?」


ヴァルツァーに俺の持つ加護の事を言葉を濁しつつ伝えると、マリアがベレッタの銃口に付けられた丸い筒に目をやり、不思議そうに首を傾げた。


このベレッタに付いている丸い筒‥‥‥


これは【サプレッサー】または【サイレンサー】と呼ばれ、銃火器の先端( 銃口 ) に装着するアタッチメントの1つだ。


今ベレッタの銃口に付けられているコレの正式名称は【サウンド・サプレッサー】と言い、筒の中のバッフルと呼ばれる空気室が発砲時に発生する高圧のガスを受け止め、ガスの圧力を下げてくれる。

この構造が銃の大きな発砲音を軽減してくれると言う訳だ。


この発砲音をより抑える為には、普通【亜音速弾】と呼ばれる弾を使用する事が多いのだが、今回は外で囮役のロルフが叫び声を上げている。だから、9mmパラベラム弾を使用してるベレッタでもハールマン達に気付かれる事はほぼ無いだろう。


「ま、それは一先ず置いておいて‥‥‥ 見てろよっ!」


百聞は一見にしかず、錠前に向け構えたサプレッサー付きのベレッタの引き金を俺は静かに絞った。

腕時計の針が00:00を刺した時、パシュン!と少々間抜けな音が小さく響いた。



▼▼▼▼▼▼▼▼



時刻 23:57分。

場所 ハールマン邸 執務室前。


「出番って、何か考えがあるの?」


執務室と書かれた扉の前に来た私とレーヴェちゃんは、この部屋にイーリスさん達の自我を抑え込んでいると思しき催眠魔法具があると睨んだ。


催眠魔法具とは今回の依頼主、犬獣人のヴァルツァーさんか教えてくれた酷い魔法具の事で、この魔法具がイーリスさん達の自我を押さえ込んでいるかも知れないと言うのだ。


何でもラルキア王国の西側にあるエルド帝国が奴隷をより扱い易くする為に、ラルキア王国で反乱を起こしたベルガス協力の元製作した物らしい。


ハールマンさんはこの魔法具を使い、イーリスさん達を操っている‥‥‥とミカドとヴァルツァーさんは睨んだみたいだ。


確かにミカド達の話と、実際見たイーリスさん達の表情は催眠魔法具で操られているとしか思えない位説明がつく。


イーリスさんはベルガスの催眠で操られていた男の子‥‥‥レーヴェちゃん達と一緒の孤児院で育ったアルトン君と症状がソックリだった。


私とレーヴェちゃんの任務は、イーリスさん達を操ってると思われる催眠魔法具をこの屋敷から探し出し、そして壊す事。


私達がやっている事は法律違反だと言う事は分かっている。でも、人を無理矢理操るなんて間違ってる!


だから私はギルド部隊ヴィルヘルムの信念を胸に、この依頼に臨んだ。


「要はこの錠前をぶっ壊せは良いんだろ? なら、僕の出番だなって 」


でも、怪しと睨んだ部屋の扉は大きな錠前でしっかり閉じられていた。そんな状況にも関わらず、レーヴェちゃんは自信満々に腕まくりをして頼もしい笑みを見せてくれた。


「えっ、だ、大丈夫?見た感じたと結構頑丈そうだよ?」

「まぁまぁ、僕に任せろって。おりゃっ!」


私の心配をよそに、拳を握り締めたレーヴェちゃんが錠前に向かい拳を振り下ろした。


ガギィン!


この部屋の中から、00:00を告げる時計の音が微かに聞こえたと思った瞬間、甲高い音を響かせて、ひしゃげた錠前がゴトッと落ちた。


「す、凄い‥‥‥」

「よっしゃ!行こうぜセシル!」

「う、うん!」


私は錠前が落ちた執務室前の扉に手を掛けた。



▼▼▼▼▼▼▼▼



時刻 23:59分。

場所 牧場。


「ぐはぁ!?」

「ちっ!大丈夫か!」

「あ、あぁ此奴強いぞ!」

「さすがヴァイスヴォルフだ」


一面に広がる草原に、我輩が吹き飛ばした男が倒れこむ。


この男達は余り本格的な戦闘に慣れていない様に感じる。

大方、これまでは無抵抗な人間ばかり相手にして来たのか‥‥‥ 手加減している我輩に擦り傷すら負わせられぬとは、些か拍子抜けだ。


相手がこの程度の実力なら、少々気を緩めても問題ないだろう。


『ふん、口程にもない 』


我輩は心の中で呟きながら、チラリと遠目に見える巨大な屋敷に目を移す。

主人殿達は上手くいっているのだろうか。


しかし手加減と言う物は中々に難しい。

我輩の想像以上に、此奴等は戦いに慣れていなかった。このザマでは本当にちょっとした弾みで此奴らを殺してしまいそうだ。


「おい!お前確か魔法使えたよな!? お前は魔法でヴァイスヴォルフを牽制しろ! その隙に俺達がぶっ殺す!」

「お、おぉ!火龍の御霊よ。我の魔力に答えその力の鱗片を授けよ‥‥‥ 喰らえファイヤーボール!」

「今だ!突っ込めぇえ!!」

「「「「「おぉお!!」」」」」

『ほう、火の攻撃魔法か!小賢しい!』

「な、なにぃ!?」

「「「「「ぐぎゃぁあ!」」」」」


我輩は迫り来る火球を飛び越え、無謀にも突撃して来た男達に自慢の爪をお見舞いしてやった。


「こ、此奴!まさか今まで手加減してたのか!?」

「クソ!逃げるぞ!俺達じゃ手に負えねぇ!」

「クソッタレ!」

『ぬっ!?』


我輩の斬撃を受け、5人の男が一瞬にして物言わぬ骸となる。

その瞬間を目の当たりにした男達は顔を青くし、我先にと元来た道を走り去っていった。


だが、この男達は逃げ出す直前に懐から取り出した球を地面に叩きつけた。 すると微かに刺激臭のする白い煙が我輩の視界を遮る。


煙で視界が遮られ、漂う刺激臭で男達の居場所が掴めない‥‥‥

煙が消えると、男達は仲間の亡骸を残しこの場を立ち去っていた。


『煙幕か、小賢しい真似を。 しかし、しまった。つい本気を出してしまったな』


まさか攻撃魔法を扱える者が居るとは夢にも思わなんだ。その所為で少々気分が高揚し、控えていた攻撃をしてしまった。


『兎も角、囮役はこれで充分だろう。後はドラル殿に任せるとするか 』


我輩もまだまだ我慢が足らぬ。

反省せねば。


『おっと、主人殿達に男達が逃げた事を告げねば』


我輩は自分の役割が終わった事を悟り、男達の亡骸を一瞥しつつ有らん限りの力を込めて咆哮を上げた。



▼▼▼▼▼▼▼



時刻00:00分。

場所 地下室前。


バキィン!


「うぉっ!?」

「 ‥‥‥! 」


俺の放った9mmパラベラム弾は拍子抜けする音を纏いつつ錠前に命中した。

しかし間抜けな音とは裏腹に、その威力は凶悪だった。

9mmパラベラム弾の直撃を受けた錠前は、甲高い音を出し砕け散った。


「ミカド、発砲音が凄く小さかったけど‥‥‥それってベレッタに付いてる筒のお陰?」

「あぁ、コレは見た通り発砲音を小さくしてくれる物なんだ。マリアのP90に付いている物も同じ物になる」

「おぉ〜‥‥‥」

「なるほど、俺がやられた時に聞いた音と違うのはその筒のお陰なのか」

「そう言うこと‥‥‥」


ワォォォォオオン!!


そう言う事だ。

俺がそう言いかけた時、遠くから魔獣の咆哮が聞こえた。

この咆哮が意味する事は‥‥‥


「そんな事より急ぐぞ!今の声はロルフの声だ!引き付けてた奴隷商人達が逃げ帰ってくるぞ!」

「っ! 急ごう!」

「ウカウカしてられない‥‥‥」

「周囲を警戒しつつ突入する!ドラル、頼むぞ 」


ヴァルツァーは腰に下げた長剣を抜き放ち、俺とマリアは手にしたベレッタとP90を構え重厚な鉄の扉を開け放った。




▼▼▼▼▼▼▼



時刻00:02分。

場所 ハールマン邸、牧場中間地点。


私は相棒を片手に、西の方角を見つめる。

数分前、この方角からロルフさんの遠吠えが聞こえた。

あの遠吠えは、ロルフさんが引き付けていた奴隷商人達が屋敷に戻ったという事を知らせる合図。


だから私はその遠吠えのした方角を見つめる。もう直ぐ私のターゲットが此処に来る筈だ。


「あぁ!クソ!やっぱり10人そこらの人数でヴァイスヴォルフに挑む事が間違ってたんだ!」

「てめぇ!金に釣られて一目散に走ってった奴がそれを言うか!?」

「っせぇ!まさかあんなに強いとは思ってなかったんだよ!」

「そんな事よりお頭に報告だ!俺達にゃ手に負えねぇ!」


耳を澄ましロルフさんの声が聞こえた方角を見ていると、遠くから小汚い格好の男達が互いを罵り合いながら走ってくる。


彼等はロルフさんが引き付けていた奴隷商人達だ。今その数は10人に減っている。


あの奴隷商人達がロルフさんの元へ向かった時は確か15人居た筈。


状況と男達の言葉から判断するに、ロルフさんはこの15人の内5人を倒し、仲間を倒された奴隷商人達は我先に逃げ帰って来たと言う事になる。


先程のロルフさんの遠吠えと、罵り合いながら逃げてくる男達の姿を見て、私は出番が来た事を改めて悟った。


私はより優位に立って与えられた任務を遂行する為に、龍人族の誇り‥‥‥命と呼んでも差し支えない漆黒の羽根を広げ、月光が優しく煌く暗黒の空に飛び立った。


「そうだな、お頭なら何とかしてくれる筈だ!」

「急ぐぞ!」


男達との距離は凡そ300m‥‥‥

充分【この子】の有効射程圏内‥‥‥


この男達は人を物の様に扱う奴隷商人達。


今日もこの男達は悪びれる様子もなく、ハールマンの元に人を売りに来たらしい。この男達を見ていると、これまで犠牲になった人達の顔が浮かんでくる様な気がする。


それと同時に、以前奴隷商人に捕まっていた時の記憶が蘇り、怒りと憎しみが湧いてくる。


あの時の私には力が無く、ただただ運命の過酷さを‥‥‥無慈悲さを恨んでいた。


でも今は違う。私にはミカドさんが与えてくれたこの子が‥‥‥相棒のPSG1がある!


彼等に抗う意思がある!


正義を貫く信念がある!


これまで彼等の私利私欲の為に犠牲になった人達に変わって、私がその人達の無念を晴らす!


私は静かに息を吸いスコープを覗き込んだ。そして憎しみを込めて小汚い男の顔を見つめ‥‥‥


優しくトリガーを引いた。


ダァァァン!


「がっ‥‥‥」

「私はヴィルヘルムの狙撃手‥‥‥ 私の任務は罪なき人に仇なす者に慈悲を与えず、粛々と弾を撃ち続ける事」


私はこれまで数多の人達を苦しめて来たのだろう奴隷商人の額に、犠牲になった人達の怒りと悲しみを込めた弾丸を放った。


その弾丸は爆音と共に男の額に吸い込まれ、男の生涯に終止符を打った。



▼▼▼▼▼▼▼



時刻 00:02分

場所 ハールマン邸 執務室内


「っ!セシル今のは!」

「うん!」


私達が執務室に入った時に、微かにロルフの遠吠えと銃の発砲音が聞こえた。


あの遠吠えと発砲音が意味する事は、ロルフが引き付けていた奴隷商人達が此処に戻って来ると言う事。

そして、途中でドラルちゃんが足止めをしてくれていると言う事。


何にせよ時間に余裕は無さそうだ。


「急ごう!レーヴェちゃん!」

「おう!さて、見た感じどれも怪しく見えるな」

「この中にイーリスさん達を操ってる催眠魔法具が有りそうだね」


執務室の中には大きな棚が備え付けられていて、その棚には禍々しい見た目の魔法具が綺麗に収納されていた。


私達は催眠魔法具の存在を知ったけど、その催眠魔法具の見た目までは知らない。しかも目の前には沢山の魔法具がある。


これはミカドが言った様に、怪しい魔法具を片っ端から壊さないとダメかも知れない。


ギィ‥‥‥


「っ!? 誰だ!」


一先ず適当に置かれている魔法具に手を伸ばそうとした時、ちゃんと閉めたはずの執務室の扉が開く音がした。


レーヴェちゃんが並外れた反射神経でベレッタを抜いて扉の方に向ける。

そこに居たのは‥‥‥


「い、イーリスさん!?」

「貴女達は‥‥‥!」


今回助ける事になっているイーリスさんが眼を見開き、驚いた表情を浮かべて立っていた。



此処までご覧頂きありがとうございます。

次回投稿予定は、12/6 火曜日 21時頃です。

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