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ロリババア神様の力で異世界転移  作者:
第1章 異世界
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10話 ヴァイスヴォルフ




「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥」


徐々に水音が大きくなっている。


水音を感じた場所から約10分程ひたすら草を掻き分けながら歩くと、目の前が開けた野原のような場所に出た。


視線を上に向けた俺は水音の正体を見つける。目の前に豊富な水を絶え間なく流す滝があり、その下には大きな池が出来ていた。


聞こえた水音は、この滝の水が池に流れ落ちている音だった。


「飲んでも大丈夫そうだな‥‥‥」


池の水を軽く観察してみたが澄み切っていて、とても綺麗な水だった。

元居た世界にあった『日本の名水100選』みたいランキングがこの世界にも存在していれば、堂々のランクインを果たせそうだ。


「っはぁ! 生き返ったぁ!!」


喉の渇きがそろそろ限界を迎えていたので、早速滝の下に出来ている池に頭まで浸かり、ゴクゴクと水を胃に流し込む。


冷たい水が体中に染み渡る‥‥‥


うん、喉が渇いている時に飲む水は本当に最高だ。 ここで何か食べ物でも食べれたらいう事無しなんだが‥‥‥


人間1つの欲求が満たされると、次の欲求が出てくるとはよく言ったモノで、俺は今それを実感していた。


腹減ったな‥‥‥


そんな暢気な事を考えていた俺は、ふとある事に気が付いた。

【元居た世界】では感じた事の無い、ドンヨリと重く‥‥‥ ネットリと体を包み込む異様な気配を放つ何かが、俺の方に向かってきているのだ。

殺気らしきものは今の所感じないが体を包む得体の知れない気配に警戒し、俺は手に持っていた短弓を気配のする方に向けて、矢筒から矢を1本取り、番えた。


俺は更に念の為、矢を直ぐ番える事が出来るようにと2,3本矢を右手側の地面に刺し立てた。これで矢を放つまでの時間を多少短縮できるだろう。


「なんだ‥‥‥?」


先程より異様な気配が近づいているのが分かる。 それと同時に微かに漂ってくる獣特有の臭い‥‥‥ そしてそれに混じった血の臭いも確実に俺へ近付いていた。


ガサガサッ!!


目の前の茂みが大きく揺れ、異様な気配を纏っている物が現れた。


「なっ‥‥‥!?」


現れたソレは全身を白い毛に覆われ、降り注ぐ太陽の光を反射しキラキラと輝いている。


体の至る所には、此奴がこれまで数々の修羅場を潜り抜け出来たのだろう傷跡が、大小合わせ20箇所は確認できた。


とりわけ印象深かったのが、その左目だった。


此奴の右目は鋭利な刃物で切られたかの様な傷跡があり、その傷の所為で左目は完全に塞がり隻眼になっている。


その隻眼が俺を捕らえた‥‥‥ 煉獄の炎を連想させる赤々と怪しく光る目で俺を一瞥した此奴は、何事も無かった様に池に向け歩き出した。


白銀の毛で覆われた此奴の見た目は狼に近かったが、俺が小さい頃にテレビや図鑑で見た狼とは違い色々と規格外だった‥‥‥


体毛に覆われているが、ハッキリと分かる位極限まで発達した筋肉‥‥‥ 体長は優に4mを超え、足から頭までの高さは少なく見積もっても2・5m近くあった。

そして短剣を思わせる40センチ程の白い牙が、此奴が生まれながらにしての狩人である事を物語っている。


此奴の白く美しい牙は、赤黒い血で汚れていた。


牙だけ見れば、狼と言うよりサーベルタイガーだな‥‥‥


ふと、その狼らしき獣の頭の上を見ると


ヴァイスヴォルフ【レベル:20】と、浮かんでいた。


ヴァイスヴォルフ‥‥‥ これがこの獣の名前で、隣にあるレベルが今のコイツのレベルって訳か。 ヴァイスヴォルフって、確かドイツ語で「白」って意味と「狼」って意味だったはずだ。


直訳すると【白い狼】か。見たまんまの名前だな。


ぱっと見、サーベルタイガーの一種かと思ったが、コイツはこの世界では狼となっているらしい。


ん?


待てよ。レベル20?

は? 今の俺の20倍?


マジで?


このままコイツと戦闘になったら‥‥‥ ヤバい! 本気でマズイ事になりそうだ!


俺はこの白狼ヴァイスヴォルフから10m程離れた所に立っている。


この距離は近過ぎて危険だと判断し、勿体無いが地面に刺した矢を放置したまま、極力 白狼(ヴァイスヴォルフ)を刺激しない様に慎重に‥‥‥ 少しづつ後ずさり距離を取って森を背にした。


これはいつ襲われても直ぐに森の中へ逃げ込めるようにする為だ。 森の中へ逃げ込めれば巨大な木々を壁にして逃げ切れるかもしれない。


だから俺はこの白狼の動きを【集中】して観察した。


異様な気配は相変わらずだが、今の所殺気は感じない。

ここでもし俺が少しでも殺気を出したら、此奴は自分に渾名す者として直ぐに俺を殺しに来るだろう。


俺が立っていた場所から更に10m程離れた時、白狼(ヴァイスヴォルフ)は池の所まで来て、優雅な動きで口を水に浸した。

どうやらこの白狼は【食事】を終え、ただ喉を潤しに来ただけの様だ‥‥‥


実際、すぐ離れた所で短弓を持ち、矢を番えている俺を一瞥しただけで、その後は特に気にする様子も感じられない。


まるで俺なんか取るに足らない存在だ。 そう言っているかの様に、白狼はただただ静かに水を飲んでいた。


暫くしてスッ‥‥‥ と口を池から離した白狼は俺の方に赤い目を向ける。

正確には、俺の後ろに広がる森を見ているようだ。


白狼の動きにつられる様に、俺も森の方を見てみた。


次の瞬間俺の後ろに広がる森の中から、ガサガサと葉が擦れ合う音がしたそれからわずか数秒後‥‥‥


「えっ‥‥‥ き、きゃぁぁぁあああ!!!!」


絹を切り裂く様な、大きな悲鳴が鳴り響いた。 悲鳴を上げたのは自分と同い年くらいの女の子だった。


その女の子は俺が立っている場所から左側3mぐらい離れた茂みの中から出てきた。


肩上で切りそろえられた金髪が特徴的な、とても可愛い女の子だ。 その女の子は悲鳴を上げると同時に手に持っていた桶を落とす。


ガルゥァァァアアアアア!!!!!


女の子が落とした桶が地面にぶつかると同時に、白狼はまるで地獄の底から響いてくるかのような雄叫びを上げた。


あまりの大きな雄叫びに俺は顔を顰めるた。辺りの木々に止まっていた鳥達が一斉に飛び立ち、木々は萎縮したかの様にカサカサと揺れる。

雄叫びを上げた白狼は女の子の叫びを聞いて興奮状態になったのか、猛スピードで俺達の方に向かって突っ込んで来た。


まるで乗用車が全速力で突っ込んで来た様な感覚だ。 突っ込んでくる白狼の目線の先には、恐怖で顔を強張らせ、力無く座り込む女の子がいた。


ヤバイ!


咄嗟に俺は短弓を白狼に向け、番えていた矢を放った。


ドスッ!


ガルルルル‥‥‥


鋭く空気を切る音が聞こえた刹那、白狼の右胸の辺りに矢が刺さった‥‥‥ だが白狼が怯む気配は全く無い。

しかも白狼は今の矢撃を受けて、座り込んでいる女の子より、俺の方を脅威と判断したのか視線を俺の方に向けた。


赤々とした隻眼と目が合う。


その目には怒りの色が浮かんでいるような気がした。一瞬動きを止めた白狼が、今度は俺を目掛けて突っ込んでくる。

突っ込んでくる白狼のスピードは、先程より速くなった気がした‥‥‥


「くそっ!」


俺は毒づきながら、新たに矢を番えようと矢筒に手を伸ばす。


ちっ!あの白狼の気配を感じた時みたいに、地面に予備の矢突き刺して用意しておけば良かった!


ほんの僅かなタイムラグ‥‥‥ 俺が新たな矢を掴んで番えようとした時には、白狼は目の前‥‥‥ 凡そ2mの所にまでに迫っていた。


「くっ!」


この距離では矢を番えて放つより腰に差した中脇差を居合いの要領で切るほうが速い!


そう瞬時に判断した俺は番えようとしていた弓矢を放り投げると腰を捻り、腰に下げていた中脇差の柄を掴んだ。


そして、腰を放って居合い切りの要領で引き抜いた。


ザシュッ!!


抜いた中脇差の刃が白狼の体に吸い込まれる様に打ち込まれた。


ガルッ!!?


だが、浅い!


剣術ほぼ素人の俺でも、今の攻撃で致命傷を負わせる事は出来ていないと分かる位、威力が足りなかった。

これがもし太刀やクレイモアだったら、今の攻撃で無視できない程の傷を負わせられかも知れないのだが‥‥‥


白狼の傷口から血が飛び散り、顔にかかる。それと同時に、この白狼の巨大さを改めて実感した。


グルァァァァアアアア!!!!


白狼は怒りに満ちた叫び声を出し、右前足を振り上げた!


()られる‥‥‥!


頭でそう考える前に、俺に流れる血が‥‥‥ 400年間受け継がれてきた軍人家系の遺伝子が反応した。


気が付くと、俺は右手に持っていた中脇差を咄嗟に胸の前で構え、防御の姿勢をとっていた。


「ぐわっ!!?」


次の瞬間、俺は白狼に吹き飛ばされ意識を手放した。





ここまでご覧くださりありがとうございます!

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