「邂逅」
水希「ここから始めると言いましたよね」
いつになく険しい表情で、地鳴りの様な音が響き渡る錯覚を覚える。例え水希が怒っていなくとも、それだけで大半の人は萎縮するだろう。
『本当にすみません』
「それで済むと本当に思っているんですか。それだけで済むんだったら夜警すらいりませんし、第一済まないから法律っていうものがあるんですよ」
有言実行ということで水希は家に帰った後すぐににパソコンを起動した。普段は事務処理でもない限り眠っているが、しばらくは外に出して置く必要があるだろう。
幸い不吉な音を立てることなく起動してくれた。
(それで、次はこのサイトにアクセスして、その次に……)
今朝もらったプリントのマニュアルに従って進めていく。パソコン初心者でも簡単に伝わる説明を心掛けているらしく妙に丁寧で重複している所も多数見られたが、作ってくれているだけで十分ありがたかった。
いくらかの手順を踏んで、最後に【ルーム1 現在1名総計3名】という所をクリックした。どうやらこの企画はチャットを介して行われるものらしい。
(ニックネームは……名前でいいですよね、多分)
「こんにちは。しばらくの間ですがよろしくお願いします」
未だに誰も投稿しておらず、基準がよく分かっていなかった。
「私は直葉だよ。水希、先輩かな? よろしくね」
最初からいた方は直葉と名乗っていた。ネット上で会話する都合上、どうしても相手の姿が見えないことに不安になってしまいがちである。それなのに最初からため口で話す彼女?は、歩加に似ていても少し違うような印象を受けた。
「私は二年生ですが、ため口で構いませんよ」
「私は一年生だけど、お言葉に甘えてこんな感じで続けるね。水希はどうしてこの企画に参加することになったの?」
相手からはどう見えるのだろうか、短い単語のつながりなのに手が震える。
「理事会の方の推薦です」
「その人って彼奴らの仲間だったりする?」
直葉の言っている彼奴らが分からないが、不思議とそれに悍ましい影を感じた。
「分かりません。というか彼奴らって誰ですか?」
「○○○のことに決まってるじゃん」
「大変いいにくいですが、文字化けしてますよ」
「……本当にしてるね。やっぱりこれ位は対策済みか」
直葉の言っていることが全くつかめない。出来ればこれ以上の面倒事を背負いたくないので話を切り替えようと決意する。
「それで、二人しかいませんが今日の議題はどうしますか?」
「そういえば雪菜んとかさっきまでいたのに消えてたね。二人だけだと議論になりにくいから解散で」
次に現れたログは『直葉さんがログアウトしました』というシステムメッセージであった。
直葉さんの印象に「人の話を聞かない」が追加された瞬間であった。
水希:パソコンに関しては普段は押入れの中にしまってある。事務処理の時位は使っているがインターネットすら接続していない。
直葉:この日は高校のパソコンからログインしていた。切った理由は実は5時間目が始まりそうだったからである。普段は音楽鑑賞用として使っている。