プロローグ
次々回から本編です。1話完結型でやっていきますので飛ばしてもらっても構いません。
救いだったものが、いつの間にか私達を傷つけている。この世界にはそんなものが満ち溢れていた。
風もその内の一つだと外を見て思う。真夏には団扇を扇いでまで起こしていた奇跡なのに、今ではウインドブレーカーに身を包み自転車に乗っている生徒が見られる。
現実逃避を止め、深呼吸し重厚な扉をゆっくりと開ける。
学校の一角にあるのだが、存在感がほとんどない校長室。特に問題行動もしていない……筈だが私はそこに用件があった。
「失礼します」
中にいたのは室名のように校長……ではなくその上の理事会の一人が座っていた。にこやかな雰囲気の中に重厚で冷酷などす黒い成分が入り混じっているように感じられる。
「川嶋さん、よく来たね。今日は何の用かね」
担任に言伝を頼んでまで呼んだのはそちらでしょう。立場を弁えて口には出さない。
「用件はそちらの紙ですか?」
「それの担当、川嶋さんだったのね」
軽い表情の変化なら素人の私でも簡単に読み取れるが、深淵が覗けない。油断ならない人物だと噂されてはいたが想像以上に危険な相手である。初めて知ったような雰囲気だが、私のみに言伝を送っているあたりは特にそう思う。多分断ったら、次は脅しをかけてくるような気がしてならない。
紙を受け取り、見通す。……この企画なら彼女がどうして私を選んだのかが理解できない。
「それで、これはどういうことですか」
「そのままの意味だよ」
理事会の一人が直々に出向いている。それだけで信憑性は高いのだがどうも腑に落ちない。
「『事象の面白さを理解していない学生に向けて、他校と協力して記事を作ってもらう』って書いてありますけど、新聞部や広報委員会とか適任は他にあると思います」
この学校、広報系に関しては他の学校よりも優れていると思う。人数自体は多くないが、新聞部、広報部、広報委員会、第二文芸部、生徒会等多種多様なグループから発行物が毎週のように配布されている。媒体も紙だけではなくブログを用いている所もあれば、地域の新聞社と契約している所もある。
何が面白かったのかクスっと声を漏らしていた。表向きの表情を見るに『愉悦』といったところなのだろうか。
「適任と言うならそうなんだろうね。でも、それじゃありきたりで面白くない。『木っ端の専門家より中枢の素人に任せた方が面白いんじゃないの』と提案したお偉いさんにあたしは乗っかってみたかっただけだからね」
夜警国家型政治とでもいうのだろうか、投げやりに言っている割に楽しそうである。どうせ手配は済んでいるのであろう、こちらにとってはいい迷惑である。
「それじゃ、後は頼んだよ」
こちらに関わる余裕がそこまでないらしく、それだけ言うと仕事道具を取り出し作業を始めている。
憂鬱、面倒くさい、そういった負の感情を見せない為に一礼し、直に立ち去った。
校長室から出て、誰にも見られていないことを確認した後溜息を吐く。秋にようやく面倒事が終わったと思えばまたこんなのである。来年からは受験なのだが、休憩時間はないのだろうか。
悩んだ末、さっさと片付けようと私は心に誓ったのだった。
登場人物
・川嶋水希:拙作(処女作)の主人公。結構重たい過去があるのだが今秋払拭したようである。しかし、そんなに現実は甘くなかったのである……。因みに身長は高校二年生にしては低く約150cm、主人公勢の中で2番目(というか登場人物全員の中でも2番目)に小柄な人物である。
「不幸とは思わなくても、つい溜息が出ることってあると思います」