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風の稀人‐マレビト‐  作者: 菅藤一羽
2.二律背反
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75話 「枯れ尾花」

「余計なことを話しすぎたな。例の事件の顛末を教えてやろうと思って呼んだのに」


「いやいや聞いたのはこっちだから。知れてよかったよ」


すっきりとした気持ちで笑ってそう言うと、ルカは居心地悪げに眉を寄せる。それから気を取り直すようにゴホンと咳払いをして背筋を伸ばした。


「えー、それじゃあ本題な」

 

「お願いします」


「まず“商品”として捕まっていた奴らだが……騎士の手によって元の場所へ戻されるそうだ。あの後、乗合馬車で街を出て行ったと報告があった」


「そっか、よかった」


ほっ、と安堵の息を吐く。

あまり考えたくはないが、もう既に売られてしまった人もいるのだろう。けれど、あれだけの人を助けられたと思えば少しは気持ちが楽になるような気がした。

同じく柔らかい溜息をついたルカにふと視線を移す。


「あのさ」


「あ?」


「いきなり麗音を向かわせちゃってごめんな。人手とか大丈夫だった?」


「あぁ、それか」


「一昨日人が少ないみたいなこと言ってたからさあ」


「足りなかったさ。だから例の友人とこの私兵団引っ張り出した」


こともなげにそう言うルカに俺はぎょっと目を向いた。


「うわあ無茶ぶりしちゃったみたいで、ほんとごめん。友人さんにも」


「いや、レーネが来た時点で友人を隠れ蓑にするつもりだったからな。元々オレが首突っ込む羽目になった事の発端はあいつだし。ゴシップネタのいいとこどりできるぞ、って言えば喜んで食いついた」


「それは……」


すごい友人さんだ。それとも貴族ってみんなこんな感じなのか?

……いや、初めて会ったときにルカが『友人(そいつ)はそういうゴシップが大の好物で』って言ってたし、やっぱりこの友人さんが何というか、すごい、個性的な人なんだな。

思わず苦笑を浮かべるとルカは「あいつのことはいいんだ」と軽く首を振った。


「そんで、アーリックの処遇だけど」


「……うん」


「まあ当然極刑だと思うぞ。牧師って肩書きがどんぐらい効くか……いや、だからこそ重くなる可能性もあんのか」


「極刑って、その、」


「死刑、もしくは終身禁固刑」


ごくり、と唾を飲みこむ。何だか現実味が湧かない。一昨日は普通に会話を交わしていた人間が、凶悪犯で、刑が執行されるだなんて。

ただ一つ分かるのは、二度とエレンとコンラッドがアーリックさんと会うことはないし、分かり合えることもないということ。犯罪者と分かり合うも何もないのは分かってるんだけど、俺はどうしてもあの優し気な笑みを払拭できないし、あの二人の昔の先生だという事実も変わらない。例えそれが犯罪のためだったとしてもだ。


「……俺、どうしてもアーリックさんが黒幕だとは思えないんだ」


「はぁ?」


何言ってんだお前、と強い語気で問い詰められる。俺は反射的に両手を挙げ、降参を示して続けた。


「ちゃんとアーリックさんからの自白も聞き出したし、俺もあれが嘘だとは思わない。そうじゃなくて」


「じゃなかったら何だよ」


「……実はこれ、ヴェントの宰相からの依頼でさ」


「っはぁ!?」


「あっ内緒だからな! ここだけの話! そんなすごいところからの依頼にしては、あっさりしすぎじゃないかな、ってちょっと思って。国のてっぺんが動くってことはそれなりに大きな事件だってことでしょ。確かに大事ではあったけど、捕まってたのはこの街の近くに住む人だったみたいだし、そもそも顧客が貴族なんだったら普通は揉み消されるような事件だったんじゃないかなって」


「あ、あぁ。そうだな。そう言われれば、人身売買自体はかなり前からあったようだし、このタイミングで露呈したのも不可解だ」


ルカは眉をひそめ、俺はうんと頷く。


「アーリックさんも、エレンとコンラッドの村にいたのは村人を商品にするための誘導? みたいなこと言ってた気がする。あんまりよく覚えてないんだけど。……あ、あの二人は俺の先代が開拓した村出身なんだ」


「なるほど、以前はヴェント各地から集めていたってことか。だが近頃はこの街にやってきた近隣住民に狙いを絞っていた、と」


目を伏せ冷え切ったミルクティーを啜るルカにずいと身を乗り出した。


「ね、アーリックさんが本当の黒幕じゃなさそうでしょ」


「……それ、あいつらには」


「すぐ寝ちゃったから誰にも。麗音が起きてたら話してみるつもりだったんだけど、疲れ切ってて起きそうにないし」


「あー……」


ルカは顎に手を当て視線を逸らす。俺は昨日から燻っていたことを表に出せた清々しさに、ほっ、と息をついた。


「オレはほぼ早馬を出しただけだから分かんねぇけど、そこらへんはヴェント(そっち)の騎士が調べ尽くすと思うぜ。だが、十中八九蜥蜴の尻尾切りだよな」


「トカゲの尻尾切り、って、誰かがアーリックさんに罪を擦り付けたってことか」


「その証拠が残ってりゃいいんだが」


気味が悪ぃな。そう呟いたルカに賛同しながら、思い切り顔を顰める。

これから何もなきゃいいけど、なんて柄にも無く不安を覚えた。

黙り込んだ俺に気がついたのかルカが何でもなさそうにひらひらと片手を振る。


「んな顔すんな。お前にはレーネもエレンもコンラッドもいんだろ」


「うーん」


「とりあえずあそこにアーリック以上の輩がいなかったのは事実なんだし、お前は『仕事』を完遂したさ。そっからは依頼主の領分だ」


「……そうだね」


沈痛な面持ちでとりあえず首肯した俺に「そういえば」とルカは椅子に背を預けた。これ以上重要なことを話すつもりはない、とでも言うようなポーズに俺も肩の力を抜く。


「お前あそこに色々置いてっただろ」


「あっ」


「エレンの細々としたものと、お前のあの筒が届いてるぞ」


「ほんと、ごめん……」


「別にいいけど、大事なもん忘れんなよ。結構重かったし気持ちは分からんでもないが」


「はい……」


こりゃ本当に改造を視野に入れないとダメだな。せっかく作ってもらって整備までしてもらったものだけど、あれを毎回小脇に抱えて行動するのは些かキツイものがある。

改造するとしたら設計図とか、そういうものが必要になるのかな。それなら、俺はじいちゃんみたいに一人じゃできないと思うから、今度マーカスさんのところに行って相談してみよう。陣とかは麗音に聞いてみれば何とかなるかな。

新武器の算段を頭で組み立てていると、ルカがううんと伸びをした。


「そろそろ朝飯かぁ? まだひと眠りする時間あっかな……」


欠伸を噛み殺すその顔を見て、俺はアッと声を上げた。


「もしかしてルカが昨日化粧してたのって、寝不足だったから?」


「はっ!?」


「だってまだちょっと隈残ってるよ。昨日はもっと酷かったんじゃない?」


「あ、いや、別に、その……まぁ」


渋々といった様子で認めたルカに首を傾げる。


「何で? 俺たちに心配かけたくなかったから?」


「んなわけねぇだろ自意識過剰すぎんだよバーカ! ただ、あれだ、貴族ってのは身嗜みにも気を付けなきゃいけねえんだよ! 年中寝癖頭のお前と一緒にすんな!」


「ねっ、ねんじゅっ……違うから! 毎日手櫛で整えてるから!」


「どうだか」


このやろう。ムッと顔をしかめるが、確かに髪の毛がボサボサなのは認めざるを得ない。

フン、と鼻から息を吐き出して、ほつれた髪の毛を耳にかけるルカからはその何気ない仕草からも気品が感じられて何だか悔しい。そりゃ貴族と一般人では違うのも分かるけど。


「別にいいだろ、マレビトなんだから」


「マレビトだから何だってんだ」


呆れ顔にツンとそっぽを向くが、思い直してすぐに視線を戻す。


術式短縮器具(バズーカ)受け取りたいんだけど、どこに置いてる?」


「じゅつし……あの筒のことだよな。それなら応接間に置いてあるぜ。一昨日お前ら通したとこ。案内してやる」


「あ、ごめん」


「別に。いちいち謝んな」


ふう、と溜息をついてルカがソファーから立ち上がる。スタスタと俺の前を横切り部屋の扉を開くと、外には執事さんが待機していて。


「あれ、片付けといてくれ」


「承知しました」


最初から知っていたのか、知られているのに気づいていたのか、何でもないように会話する二人に驚きつつ、俺はルカの後を追った。

これから先、更新日程が飛び飛びになると思います。ご了承ください。


補足したものを更新しました。

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