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風の稀人‐マレビト‐  作者: 菅藤一羽
2.二律背反
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63話 「通路は続くよ」

無い。無い。無い。扉を開けて、残っている男を倒して、部屋の中を荒らしてみても通路は出てくる気配が無い。三部屋目を見て回ったところで痺れを切らしたシャノンがストップをかけた。部屋の真ん中で出口の方に顎をしゃくってみせる。


「……あのさ、オレから言い出しといて悪ィけど、多分こっちにねーわ。ちょっと小部屋の方行ってみよーぜ」


「小部屋……って通路の?」


「そ。あんたらが言ってた小部屋」


シャノンの言葉にふむと頷いた。確かにあそこは殆ど見て回らなかったな。バズーカを撃って、倒れた男たちを縛って、あのおっさんを脅してさっさと出てきてしまったから。

……でも待てよ、あそこに行くとなると。

さぁっと青ざめた俺にエレンとシャノンが首を傾げた。


「どうしたの?」


「あの、えっと、あそこには……」


「だ、誰かの死体でもあった?」


「いやぁ死体まではいってないんだけどね……」


「……あぁ、分かった。覚悟しとくわ」


ちら、とそっぽを向いているコンラッドを窺った俺の視線に、シャノンが溜息をついた。あそこにはコンラッドが脅したあとの男が縛られている。見た目はさほどグロくないと思うんだけど……。

空笑いを浮かべた俺に、エレンはというとコンラッドをつんつんと小突いていた。


「助けに来てくれたのは嬉しいけどやり過ぎちゃダメだよ」


「……脅した方が早かった」


心なしか拗ねたようなコンラッドの返事にエレンが「もう」と頬を膨らませる。もう、で済むようなエグさじゃなかったですけどね。耳の奥にあのしゃがれた悲鳴が蘇って腕に立った鳥肌をさする。

シャノンがエレンに呆れた声を投げた。


「エレン、あんたもいいだけ男ブッ倒してきてんだろ」


「あたしはちゃんと加減しましたー」


「やだみんな怖い」


呟いてじりじりと後ろに下がった俺を見逃さず、コンラッドが指差してくる。え、なにちょっと。


「半分以上はこいつだ」


「うわー」


「誤解だって! バズーカが!」


「フースケの術式短縮器具それ、怖いからね」


けらけらと笑っていたエレンが、不意にきゅっと顔を引き締めた。目を固く瞑って、開く。各々がそれぞれ武器を握り直すのに、俺はゆっくりと大きく深呼吸をした。

少し錆びかけた剣を確認しただけのシャノンが、くるりと振り向いてきて俺とコンラッドを交互に見る。


「そんじゃ、そろそろその小部屋ってのに案内してもらおーかな」


「一本道だから案内はいらないかもしれないけどな。コンラッドは?」


殿しんがりを行く」


「了解」


頷いて、ぼんやりと室内を照らすひび割れたランプを手に取った。確かコンラッドが部屋のランプを壊していたはずだから、あの部屋の中は暗いはずだ。揺れる炎にひやりとする。これ少し乱暴に扱ったら火が消えるやつだ。

右腕にバズーカ、左手にランプを持って動けなくなっていたら、シャノンにランプを奪われる。


「光が近くにあった方が慣れやすいから、それはオレが持っとく」


「そうなの? ありがとう」


そーなの。飄々とした口調で繰り返したシャノンがエレンを一瞥するのにつられ、俺もそちらを見る。エレンは胸の前でぎゅうとメイスを握りしめていた。微かに震えているようにも見える。俺とシャノンの気遣わしげな視線に気がついたエレンがへらりと笑った。


「ごめん、大丈夫。覚悟はしてるから、平気」


こぶしを握るエレンの瞳をコンラッドが覗き込んだ。


「今度こそ守る」


「ありがとう。……でも守られるばかりじゃ嫌だから頑張るね」


間髪入れず言葉を返したコンラッドに何度か瞬きして、エレンは苦笑した。コンラッドも少しほっとしたように目元をやわらげてエレンを見つめる。相変わらずな幼馴染だ。

それをちょっと離れたところからにこやかに眺めていると、シャノンがぽつりと呟いた。


「幼馴染のチカラってすげーな」


「シャノンもそう思う?」


「思う思う。アイツ、オレと二人のとき何度か泣きそーになってたんだぜ。それがあんたらと合流した途端コレだ。二人っきりの世界作りやがって」


べ、と舌を出しながらも悪戯気に笑んだシャノンは少し声を張りあげて二人を呼び掛けた。

なんだかんだ言いつつ彼もエレンを心配していたのだろう。


「おーい、そこのお二人さん。さっさと行こーぜ」





俺のすぐ後ろを歩くシャノンが持っているランプの光が、通路の中を弱々しく照らす。光が届かない位置に埋め込まれている橙色の闇照石が仄かに存在を主張していた。

それを頼りに足元に気を配りゆっくりと歩いていると、急に道の横幅が広くなったのが分かる。


「あ、ここだよ」


おー、とテーブルの破壊したランプの隣に持ってきたランプを置いたシャノンは顔を引き攣らせた。

ランプに照らされた室内にエレンとシャノンの呆れた声が反響する。


「……こりゃまた」


「ラド……」


テーブルの脚に括り付けられた三人の男。特に真ん中の舌を出して気絶している大きな男の頬には打撲痕がつき、口端に血が滲んでいる。薄茶のシャツにはブーツの靴跡がいくつかと、更に右足首は変な方向に曲がっている。

はあ、とシャノンが深い溜息をついた。


「……あんたらだったのか」


「? 何が?」


「さっきね、男の人の悲鳴とドン!って音が聞こえて」


あぁ、それは。エレンに頷く。


「俺たちだな。俺がバズーカで吹っ飛ばしたのと、コンラッドが聞き出し、」


「聞き出しィ?」


「……吐かせたときの」


呆れを抑えた声に本棚を調べていたコンラッドが振り返った。いつもの無表情でこてんと首を傾ける。

エレンと再会してからやっぱりあのトゲトゲとした雰囲気は消えた。のだが、やっぱりあの光景が目から離れない。


「何か問題があるのか」


「ありまくるけど……とりあえず今は通路探しが先だな」


「それならあった」


「ぅえっ!?」


わらわらとコンラッドに駆け寄った俺たち三人に、コンラッドが本棚をグイと押す。重い音を立てて、本棚が横にずれた。

その奥にはさらに暗い通路が続いていて。


「一体どこまで続いてんだ?」


「本拠地に繋がってたらいいけど……」


シャノンがテーブルからランプを取り上げる。「とりあえず進むぞ」と促されるのに頷いて、俺は新しい通路へと足を踏み入れた。

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