62話 「道のり」
「……ここの本拠地ってどこにあると思う?」
とりあえず一旦部屋を出て、扉の前で作戦会議。
軽く円形になって見やすくなった三人の顔をぐるりと見回せば、シャノンがついと目を眇めるのが闇照石の明かりに浮かび上がった。少し頭を抑えるだけで瞼を開いたところを見るに、明るい所から暗い所に移るのはあまりダメージを受けないらしい。
「そもそもオレらはココがどこにあんのか分かんねーんだけど」
シャノンが言うのにエレンが頷く。そりゃそうだよな、眠らせてここまで連れて来られたんだ。俺もここまでの道を説明するのはあまり自信が無いけど、それでも二人よりマシか。
口を開かないコンラッド――いつものことだ――を確認してから、俺は何とか思い出しながら話す。
「この部屋とエレン達がいた部屋の丁度真ん中あたりに、闇照石で照らされた通路があるんだけど、それが、えっと……」
説明しようとしてハッとした。これを話すにはそもそもアーリックさんが黒幕という前提を話さなければいけない。もごもごと口籠るのに、静かな声が返される。
「教会?」
その声に思わずエレンを見るとエメラルドの瞳に陰がかかっていた。俺の視線に気づくと無理矢理笑おうと口角を上げる。
「ごめん、もう分かってる。だから気にしないで言って」
「……うん」
少し目を伏せたコンラッドと小さく合点がいったように頷いたシャノンを視界の端に捉えつつ、俺はまた口を開く。
「俺たちがここに来たのは、教会からなんだ」
「庭か?」
シャノンの言葉に首を振る。
「教会の祭壇の下にここに繋がる通路があった。エレンのメイスが引っ掛かった跡があったから、エレンもそこから連れて来られたんだと思う」
流石にこれは予想外だったのかエレンが目を見開く。シャノンは首を傾げた。
「教会の向きは?」
「む、向き?」
「あんたらがここに来た道順だよ」
「えーっと……さっき言った通路をまっすぐ行って、つきあたりの小部屋から左に曲がって、そこから階段が伸びてて……だから教会の向きは、こう、かな。……合ってる?」
濡れた地面に足で長方形を書いて、祭壇辺りをトントンと爪先で示す。
ちらりとコンラッドを窺えば肯定が返って来た。よかった。
ほっとしたのも束の間、矢継ぎ早にシャノンからは質問が飛んでくる。
「あんたらが聞いたって言う取引場所は?」
「んーと……ごめん、そっちの位置は知らないんだ。ただ、美術館って言ってた」
「美術館って?」
「ルカが取引場所になっていそうな所をいくつか挙げててくれたんだ」
「ルカが?」
「……協力者がいたのか」
目を丸くするエレンと、なぜか苦々しく顔を顰めたシャノンに大きく頷く。いっぱい協力してくれたよ、と言うと「迷惑かけちゃったなぁ」とエレンは眉を下げた。俺も帰ったらたくさんお礼言わないと。
ね、とエレンと目を合わせるのにシャノンが少し苛立ちをこめた声色で続きを促した。……なんで急に機嫌が悪くなったんだろう。
「あ、ええっとね、その住所と照らし合わせたら美術館があったらしい。だから細かいところは分かんないんだけど、今個展が開かれてるらしくて……」
そこでシャノンが「あー」と呻いてしゃがみこんだ。伸び放題の金髪をガリガリと掻き回す。
「分かった、分かったんだが、こっからじゃ一度外に出ねぇと行けないんじゃねーの」
「でも人を外で連れて歩いたら目立たない? 拘束とかされてるわけだし」
「そこなんだよなー」
シャノンはぐりぐりとこめかみを刺激する。
唸りつつ何かを考えているシャノンに、エレンはごそごそとポシェットから別のリボンを取り出して髪を二つに縛る。ようやく見慣れた姿に戻ったエレンに安堵した。
それからエレンはシャノンを一瞥して、短剣の具合を確認していたコンラッドを振り向く。
「ラドはここの部屋全部見た?」
「一部屋だけ」
「あたしたちは結構見たよ。向こうの端から四、五部屋ぐらい」
コンラッドが控えめに首を傾けるのに、エレンは少しメイスを揺らしてみせた。
「奪われた荷物を探してたの。とりあえずメイスと、手甲と、ポシェットだけ持ってきたんだけどね。シャノンが近くにあるって言うのに全然無いから結局何部屋も巡る羽目になっちゃってさぁ」
「うるせー」
やれやれ、といった声音のエレンにシャノンが言い返す。そうか、荷物まで奪われてたのか。
目を剣呑に細めるコンラッドに被さるようにシャノンは立ち上がった。
「埒が明かねー。こうなりゃ隠し通路を疑う方向でいくか」
それから俺とコンラッドを振り返る。
「あんたらそんな部屋見てねーんだろ?」
「う、うん」
「オレらは荷物探してたから結構部屋ん中荒らしたんだよ。そんでも見つかんなかったってことは、まだ見てねー部屋の中に通路があるってこったろ」
「無ければ」
「そんときゃそんときだ。大人しく外出てそっち向かおーぜ」
はい決定。さっさと隣の部屋へシャノンに、チン、と微かな音を立てコンラッドが短剣を鞘に仕舞う。俺もバズーカを抱え直した。
最近遅くなることが多くてすみません。




