60話 「三プラス一」
遅れてすみませんでした。
にこにこと笑みを交わす俺とエレンに青年がぱちぱち目を瞬かせる。エレンに視線を向け、ぎゅうとエレンを抱き締めたままのコンラッドをついと指で指し示した。
「……こいつがあんたの幼馴染?」
「そう、コンラッドって言うの」
「てっきり女かと思ってたが……そーいやラドって言ってたな」
頷いて、こちらを振り返る。桜色の瞳に射抜かれたように動けなくなる俺をまじまじと見つめ、なおもエレンに声を投げた。
「……こっちは?」
「今は一ヶ所に腰を落ち着かせてるって言ったでしょ。仲間のフースケだよ」
「フースケ……」
ちらと小脇に抱えた術式短縮器具を見て、それからもう一度俺を見る。「ふぅん」と呟いた青年は物言いたげな俺の視線に気付くと大袈裟に肩を竦めてみせ、口を開いた。
「名乗んのが遅れたな。オレはシャノン。エレンとは……さしずめ戦友ってとこか?」
「一緒に捕まってたの」
「へぇ、そうだったんだ」
補足してくれたエレンに頷いて、シャノンに右手を差し出す。
「よろしくシャノ、」
「何者だ」
刺々しい声にふと視線を寄越すと、さっきから黙りこくっていたコンラッドがエレン越しにギリギリとシャノンを睨みつけていた。その拍子に腕に力が籠められたようでエレンがまたじたばたと暴れる。苦しそうだ。コンラッドがどれだけ取り乱してたかは分かってるけど……離してあげなよ……。
シャノンがからからと笑った。
「オレが何モンだって?」
「剣捌きが素人ではなかった。誰か、例えば、騎士あたりに教わったのだろう」
「いーや? オレは生まれも育ちも下町だぜ?」
にやりとシャノンが口端を吊り上げるのに、とうとうエレンが「もー!」と爆発した。コンラッドの腕から無理矢理抜け出し、ぐるりと俺たちを見渡して腰に手をあてる。
「そういうのはここ出てから! でしょ!? さっきシャノンも散々言ってたじゃん!」
「そうだったそうだった」
「ほんっと適当なんだから!」
「え? オレより真面目なヤツなんていんのか?」
「少なくともここに居る全員はシャノンより真面目だよ!」
「そいつは失敬」
ポンポンポンと言葉を交わすエレンとシャノンに思わず目を見張った。小言っぽいものをひらひらと片手を振って躱すシャノンにふんすと鼻息荒くそっぽを向いたエレンは、次に俺の正面でむすりと膨れているコンラッドをぐりんと振り向いた。
「ラドも! いちいち威嚇しないの!」
「……」
「あたしが出られたのはシャノンのおかげなんだから!」
「……」
「聞いてる!?」
「聞いてる」
相変わらず噛み合ってるんだか噛み合ってないんだか分からない幼馴染コンビに苦笑していると、シャノンが俺の横に忍び寄りひそひそと話しかけてきた。
「あんた他の“商品”がどこにいるかとか聞いたか?」
「あ、えっと、エレンたちがいた部屋の丁度反対側だって。この奥。あとついでに取引き場所も聞き出したから、もう一人に押さえに行ってもらってる」
「ふーん、思ったより簡単に吐いたんだな。オレらもそうすんだった」
「いやぁ……こっちには幼馴染のためなら何でもする怖い人がいたから……」
シャノンが目を細めて眉間に皺を寄せた。どこか麗音に似てる仕草をするのが少しおかしい。
「コンラッド、とか言ったか。クソ強ぇのにあんなエレン大好きっ子じゃ足し引きゼロだな」
「むしろ過保護が全てです」
「げぇ」
顔を顰めて舌を出すシャノンに空笑いを溢して、未だにああだこうだと言い合っている幼馴染に目を戻す。気のせいかコンラッドの周りに花が飛んでる幻覚が見えるけど、和んでる場合じゃない。
「コンラッド、エレンと無事合流できたことだし、早く他の人助けに行かないと」
「……あぁ」
チッと舌打ちが聞こえた気がする。じとりとした視線を送る俺を歯牙にもかけず放り出したままだった短剣を拾い上げると鞘に納めた。
コツコツと用水路の中に四人分の足音が反響する。男たちはさっき俺とコンラッドで大量に片付けたので一人たりとも出てこなかった。もういないのか、身を隠しているのか。
何はともあれ特に何事もなく端の大きな扉の前に辿り着いた。
黙って扉を見上げているエレンに囁きかける。
「……二人がいたところもこんな感じだった?」
「……いや、もっと小さくて簡単な造りだったよ」
「そん代わり一人につき一つ特別豪華な部屋が設けられてたけどな」
「特別室?」
「牢屋」
コンラッドの怒気が膨れあがったのをエレンが小突く。俺はそれを横目で見つつ扉に耳をくっつけてみた。何も聞こえない。どうやらこの扉は分厚いようだ。
「だめだ、分かんないや」
「よし、開けっか。準備いいかー?」
扉に手を掛けたシャノンをエレンが止めた。
「待ってシャノン、やみくもに突撃してもし人質とか取られたら……」
「んーや、多分こっちのヤツらも檻ん中入れられてっと思う。閉じ込めんのは簡単だけど連れ出すのには時間かかるだろ」
「それなら、いいけど」
「ま、やってみた方が早ぇって」
ぎゅっとエレンがメイスを握りしめる。コンラッドが太腿に短剣を戻し、背負っていた短弓を手に取った。俺も手に滲んだ汗を拭い、バズーカを持ち直す。
「んじゃ、行くぜ」
ガン、とシャノンが扉を足で押し開けた。




