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風の稀人‐マレビト‐  作者: 菅藤一羽
2.二律背反
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59話 「再会」

闇照石に照らされた薄暗い通路を進む。暫く歩くと、また大きな空間に出た。どうやら用水路のようで、闇照石の光が濁った水面にゆらゆらと反射している。

ずらりと木の扉が並んでいるのに、俺は目を滑らせた。


「確かエレンがいるのは右端だったよな」


「マテ」


ぐい、と肩に乗った麗音に軽く髪を引っ張られ、俺は足を止めた。コンラッドも心ここにあらずといった状態だったが、かろうじて俺の隣に留まっている。


「どうしたの?」


「赤毛娘を救出するマエに取引場所を聞き出セ」


「……騎士に連絡を入れるのか」


「ソノつもりダ」


こっくりと頷いた麗音にコンラッドが少し俯いて口元に手をやる。


「連絡ならあいつに入れた方が早いだろう」


「あいつって、ルカ?」


「……ソウだナ。喪服(アレ)も私兵団のヒトツやフタツ持ってルダロ」


「そこから騎士に連絡を入れる」


「……ソノ方が早いナ」


悔しそうな顔で顔で頷く麗音と無表情のコンラッドを交互に見た。何やら難しい話をしている……。とりあえずルカに助けを求めるってのは分かったけど。ちら、と二人に視線を向けられておずおずと首を傾げれば、二人は浅く頷き合った。なんなんだ。


「えーっと、とりあえず、またおっさんたちから話を聞き出せばいいんだろ?」


「トリアエズナ」


「じゃあどこ行く? いっぱい部屋あるけど」


術式短縮器具バズーカを持ち直し、きょろりと辺りを見渡す。通路の両脇から左右にずらりと木の扉が並んでいる。向かい側にも扉はあるが、こっちは腐りかけなので多分使われていないのだろう。

するとコンラッドが迷いもせずに右隣の扉を開けた。ちょっと待て――――!!


「コンラッド! お前ちょっとは隠密行動とかさあ!」


「もう遅い」


「ちくしょー!!!」


中は大部屋のようだった。傭兵風の男たちがざっと二十人ほど腰を落ち着けている。

コンラッドは一応音漏れに気を遣ったのか後ろ手に扉を閉めると、早速何事か叫びながら斬りかかってきた男の脇腹に短剣を叩きこんだ。ブシッと派手に血が飛んで、よろめいた男の患部を堅いブーツで蹴りつける。男はあっという間に昏倒した。


「こいつ……!」


コンラッドの強さに恐れをなしたのか、男たちが俺の方へとターゲットを変更したらしい。ぐわりと一気に二人に襲い掛かられて身が竦む。


「だから一対複数は無理だって!」


コンラッドを慌てて窺うも、反対側で無双している。もうこれは俺がやるしかない。

ブン、とバズーカを振り回して牽制。一人の男の攻撃を躱し腕をねじり上げ、もう一人の男にぶつけた。二人はもみくちゃになってすっ転ぶ。

しかし息をついている暇もなく、また何にも男が目前に迫ってきた。勘弁してくれ!


「これもう撃っていい!?」


「オンミツ行動はドウシタ」


「無理に決まってんだろ!!」


肩の麗音に半泣きで言い返し、短剣を振るっているコンラッドに呼びかける。


「コンラッド一旦下がって!」


横目で俺を見たコンラッドが小さく頷いて部屋の隅へ避難するのを見届けて、部屋の中心に銃口を向けた。

まず一発は起き上がろうとしているさっき俺が転ばせた二人。

次の一発はコンラッドににじり寄っていた数人の男たち。

最後にまだ部屋の奥にふんぞり返っていた男たちに撃つと、もれなく全員吹っ飛んで壁にぶつかり動かなくなった。

俺たち以外に立っている人間がいなくなると、部屋に沈黙が落ちる。


「……ごめん、でかい音立てて」


「コリャ混戦カクゴだナ」


「…………ごめん」


「時間短縮と体力温存はできた」


しれっと言ったコンラッドは頭に真っ赤なバンダナを巻いた強そうな男を蹴り起こした。のろのろと目を開けた男に短剣を突きつけて問う。


「“商品”の取引き場所はどこだ」


「な、何の話だ」


眦を吊り上げた男の眉間に刃先を食い込ませた。


「おまえの代わりは幾らでもいる。ここで殺してしまっても大した問題は無いのだが」


ぼんやりとしたランプの明かりに金目がぎらりと光る。ヒッと男が息を呑んでコンラッドを見上げた。


「答えろ」


「ッ美術館だ!」


「美術館?」


思わず聞き返した俺に哀れになるぐらい首を縦に振った男が言い募る。


「個展が開かれるんだ! 画家の名前が知らせになっていて、」


「もういい」


「麗音、分かった?」


「アァ」


麗音がフムと頷いたのを見るとコンラッドは散々脅した男をあっさりと気絶させた。短剣に僅かに付着した血液を拭って、鞘に納める。


「行けるか」


「ホンットオマエらヒト使いが荒いナ!」


「麗音大丈夫?」


「フースケの心配ナンか必要ナイ!」


「……ごめん」


「帰ったら腹イッパイしゅうくりぃむ食わせロヨ!!」


「りょ、了解しました。財布がすっからかんになる覚悟はしとくよ」


負け惜しみのように気が済むまで喚いた麗音はフン!と鼻息荒く消え失せた。転移の術とやらを使ったのだろう。

後には静まり返った部屋に俺とコンラッドが残る。


「行くぞ」


「……うん」


鞘の付いた短剣を振ってランプを破壊するとコンラッドはさっさと部屋を出ていく。それを小走りで追いかけ部屋を出ると、当然と言っちゃ当然だが前から後ろから続々と何人もの男たちが用水路に出てきていた。


「うげえ」


「おまえは後ろ」


「……おっけー、コンラッドは前だな」


スリングショットを連射して三人の男を沈めたコンラッドに背を向ける。長刀を抜いて走り寄ってくる男に向けてバズーカを撃ち込んだ。びりびりと用水路全体に衝撃が伝わる。やっぱこれ目立つなあ。

間一髪で避けて襲ってきた男の手首を強打し剣を落とすとねじ伏せる。コンラッドみたいに躊躇なく気絶させるのは難しい。掴んだ腕に力を籠めるとゴキン、と嫌な音がして男の肩が外れた。利き手だしこれで剣は振るえないだろう。


それからまた数発撃って、あらかた男がいなくなると俺はコンラッドを振り向いた。コンラッドもちょうど最後の一人を倒したところだったらしく、片手に握っていたスリングショットをポーチに仕舞った。短剣はまだ手に持ったままだ。


「こっちは一応終わったよ。……まだ出てくるかもしれないけど」


「そうか」


そのとき、バタン、と目の前の扉が開く。中から出てきたのはそれはそれは綺麗な青年だった。さっきまでおっさんばかり相手にしていたからか、元々すごい美形なのに五割増しで輝いて見える。

淡い金色の髪がさらりと流れ、桜色の切れ長の瞳は涼やか。コンラッドほどではないにしても背が高く、片手には錆びかけた剣を握っていた。


「げっ、まだいたのかよ」


剣を構えた青年にコンラッドが無言で斬りかかった。一閃。何とかそれを躱し続けて襲い掛かるコンラッドの一撃を寸でのところで受け流す。綺麗な太刀筋だった。

距離を取った青年を静観したコンラッドはゆっくりと青年に切っ先を向ける。次で仕留める。そう言っているような殺気に青年が舌打ちすると、扉の向こうへ声を張り上げた。


「エレン! ちょっと来い! コイツはムリ!」


……エレン?

コンラッドの構えがブレる。その動揺は背中しか見えていない俺にも伝わった。


「『自分の分は自分でなんとかしろ』って言ったのはシャノンでしょー!?」


「んなこと言ってらんねーんだよ! コイツやべえ!」


「えー、そんな強い人いたかなあ」


開きっ放しの扉の向こうでドサリと何者かが倒れる音がする。それからひょこりと顔を出した赤毛にコンラッドは短剣を取り落とした。


「ネル!」


「……ラド?」


金髪の青年が目を丸くする。その横をすり抜けて、コンラッドはエレンに駆け寄った。細く白い肩をぎゅう、と強く抱きしめる。


「ネル、ネル」


「うわっラド、苦しいってば!」


じたばたと暴れるエレンを離す気配はない。一つ息をついて諦めたエレンはコンラッドの肩越しに俺に笑いかけた。いつも二つに結ばれていた髪の毛は下ろされ、薄汚れた白のノースリーブのタートルと乗馬ズボンだけの姿だったが大きな怪我は無さそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。


「久しぶり」


「ほんと、長い間追っかけてた気がするよ」


苦笑した俺と未だエレンに顔を埋めたままのコンラッドを順に見て、既に懐かしく感じるエメラルドの瞳を瞬かせたエレンは「ありがとう」と花が咲いたような笑みを浮かべた。

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