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風の稀人‐マレビト‐  作者: 菅藤一羽
2.二律背反
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54話 「出発侵攻」

「……で、言われた通り教会に来てみたわけなんだけど」


「オイ、フースケ、ウラに回るぞ」


「裏……ステンドグラスの方か?」


自分勝手に裏手の方へと漂っていく麗音を追いかけながら、ちらと後ろから付いて来るコンラッドを見やる。

パッと見いつもとそんな変わらないように見えるけど、少し顔が強張っているような気がしないでもない。……エレンが居ればきっと完璧に見破ってくれるんだろうけど。

とりあえず気が進まないなら……とコンラッドに向かって恐る恐る切り出した。


「あの……コンラッド、大丈夫? 無理めなら言ってくれれば俺と麗音で……い゛ってぇ!」


ガスッと弁慶を蹴られて蹲る。コンラッドお前今自分がその堅そうな長ブーツ履いてんの分かってる!?

涙目になってパクパクと口を動かす俺を一瞥したコンラッドは、フン、と鼻を鳴らすと一人立ち止まることなく麗音に付いて行った。

……あんにゃろめ……もう気なんて遣ってやらんぞ……!

あまりの痛みに滲んだ涙を乱暴に袖で拭って立ち上がると、ズキズキと病む脛を庇いながら俺は二人の後を追った。



教会の裏手へ回り、角から様子を窺い見てみれば、燦々と降り注ぐ朝日の中できらきらとステンドグラスの破片が煌めいていた。中はどうだか知らないが、こっちはまだ片付けられていないらしい。

改めて明るい日の下で見ると、大きさも形もバラバラな色付いたガラスが四方八方に散らばっている光景はあまりにも異質すぎる光景で、生々しい。

背筋を伝う冷や汗に気付かないふりをして一歩踏み出すと、ピシ、と細かい破片が靴の下で割れる音がした。

それにピクリと反応した麗音がチッと舌打ちをし、右手を俺たちに向かって突き出す。


「オマエら、ソコを動くナ。チョット見て来てヤル」


「はぁい」


もし中に誰かいたらガラスを踏む音で気付かれるか。こういう時、他の人に見えない麗音は便利だ。

言いつけ通り足を止めてふよふよとホバー移動をする麗音を目で追うと、正面からステンドグラスを見た麗音が「ア゛ァ?」と奇妙な声を出した。角度的に様子が分からない俺たちは揃って首を傾げる。


「……オマエら、コッチ来てイイゾ」


チッともう一度舌を打った麗音に頷いて、精一杯音を立てないようにして駆け寄った。これ広範囲に細かく散らばってるから避けるの難しいな。四苦八苦しながらやっと麗音の隣に立つと、先に麗音の元に着いていたコンラッドが眉根を寄せている。


「なに、どうしたの?」


「塞がれてンダヨ」


塞がれてる?

顔を顰める二人に、ステンドグラスを仰いだ俺はあんぐりと口を開けた。

なんと、壁代わりになっていたステンドグラスが全て中から木の板で覆われている。こんなのを一晩でやってしまうなんて、相手はどんだけいるんだよ。

ゴクリと唾を飲み込むと麗音が俺を振り返った。


「オマエら、術式短縮器具(ばずーか)と弓抱えてココ潜れるカ?」


「あぁ」


「えっと……背負ってはキツイかもしれないけど、別々に通ればいけると思う」


「ヨシ」


頷いた麗音が前触れなく目を開く。ぶわ、と漏れ出した白い光にちょうど穴の部分を覆っていた板がカタカタと震え始めた。……まさか、この板を外すつもりなのか。

ハラハラと落ち着かなく見守っていると、ぴかりと光の強さが増す。


「アッ、クソ、コレてっぺんまでイチ枚の板なのカヨ」


「だ、大丈夫?」


返事の代わりに、板の向こうに釘が落ちる音がした。続いて塞いでいた大きな板が軋んだ音を立ててドアのように向こう側に開いていく。すっげー……。


「ハヤク通レ!」


「は、はい」


唖然とする俺とコンラッドに麗音が吠えた。

俺が慌てて背負っていたゴルフバッグを下ろしているうちに、まずはコンラッドが弓と矢筒を背負ったまま危なげなく穴を抜ける。それから俺が何とか通り、一度外に置いたバッグを回収。底に付いた破片をワイシャツの袖で払う。


「退ケ」


最後にこっち側に来た麗音が元通りに板を戻し釘を打ちつけると、白い瞳を瞼の奥に隠した。どっと緩んだ緊張感に三人いっぺんに大きな溜息をつく。ふらふらと下降してきた麗音を肩に乗せてやるとギュウとしがみ付かれた。

お疲れ様、そしてありがとな。

バッグの中に入れっぱなしになっていた氷砂糖を小さく砕き渡してやれば、一欠片頬張ってぱたぱたと幸せそうに尻尾を揺らす。

と、一番早く復活していたコンラッドがぐるりと教会内を見渡し、ぽつりと呟いた。


「誰もいない」


それに俺も周囲を一瞥する。傾げていた像は元通りになっているし、祭壇も傷は治っていないものの元通りの位置に鎮座している。ふむ。

これだけ見れば普通に修繕作業をしたように見えるな。この大袈裟な板だって防犯のために穴を塞ぎましたって言えば、まぁ、納得するだろう。

うーん、と一つ唸って俺は立ちあがる。


「それでさ、ルカがこの祭壇の傷はエレンが付けたものなんじゃないかって言ってたから、」


言い終わる前に祭壇が凄い音を立てて蹴倒された。


一瞬心臓が止まったんじゃないかと錯覚するほどに驚いたが、蹴倒した張本人は平然として振り上げた脚を戻す。

俺はバクバクと動機が止まない心臓をベストの上から握りしめながら、震え声でコンラッドに声をかけた。


「えっちょっとコンラッドさん……?」


「誰もいない」


「そりゃそうだけど!」


だめだツッコミがいない。もごもごと残りの氷砂糖を頬張っている麗音を肩に、俺はぐったりと息を吐いた。

そんな麗音と俺をいつもの無表情で見下ろしてきたコンラッドが「それより」と祭壇の下にあった床に視線を落とす。

つられて俺も下を見れば、そこだけ微妙に床の色が違うように見えた。……といっても、言われなきゃ分からないほどの違いで、日焼けと言われれば信じてしまいそうなぐらいである。

だがまじまじと見た俺は気が付いた。床の一部分が大きな正方形に切り分けられている。おそるおそる蹴ってみると、コン、と軽い音がした。ルカの部屋で聞いたような音。

ということは。


「この下、空洞になってるのか」


麗音が「ホウ」と感心したような相槌を打った。

口元に手をやり何かを考えていたコンラッドは、ふと正方形の角から辺の部分を次々に踏んでいく。


「……何やってるの?」


「マァ見てロ」


コンラッドが奥の角をぐいと踏んだ時、ガコン!と音がして手前側の角が浮き上がった。


「!」


「持ち上げろ」


「わ、分かった」


力を入れて持ち上げた床は、思ったよりも重くない。引き摺るように外して横に置く。

現れた床にはご丁寧に木の引き戸のようなものが付いていた。そろそろと少しだけ戸開けると、その取っ手側にまた少しの傷を見つけてハッとする。


「コンラッド! また祭壇と同じような傷がある! エレンは多分ここから攫われたんだよ!」


「……あぁ」


やっとこれで一歩近付いた。エレンへの手掛かりに思わずホッと胸を撫で下ろす。

……よし、じゃあ乗り込む前に持ち物の確認をしなくちゃ。そう思ったのはコンラッドも同じなようで。スラリと鞘から短剣を引き抜いたコンラッドを俺は恐る恐る呼び止めた。


「あのー、コンラッドさん、いつか貸してもらったデカい巾着袋、持ってる? それ、また貸してほしいんだけど……」


「何に」


「……このバッグ邪魔だから、二人に買って貰ったものとか術書とか入れたいなー、なんて。ごめん、帰ったら新しく鞄買うから!」


手を合わせるとポイと畳まれた巾着が放られる。瞬きをして、グイと巾着を確かめてみれば、やっぱり思ったように丈夫で大きい。


「うわぁ、ありがとう!!!!」


半ば平伏しながら礼を言えば、ツーンとそっぽを向かれた。


「さっさと買え」


「拠点に戻り次第すぐに買ってきます!」


粛々と救急セット、裁縫道具、折り畳まれた地図にブリキの缶、フォークとスプーン、それから術書を巾着に入れる。そしてその巾着袋を万が一にでも落とさないよう、腰のベルトに巻き付けた。ナイフは前と同じくベストの内ポケットに仕舞う。

最後にゴルフバッグに残されたバズーカを取り出すと、俺は腰を上げた。準備完了。

不要になったバッグは畳んで倒れたままの祭壇の横に置いておく。戻ったときに残ってるかは分かんないけど、もし無くなっていれば買いなおせばいい。じいちゃんせっかく残してくれたのにこんな扱いでごめん。


コンラッドは終わったかな、と振り返れば、びぃん、と短弓を空撃ちしたコンラッドと目が合う。ふわぁと欠伸をした麗音の頬を抓って。

それから俺はいつかエレンがやっていたようにコンラッドの腕を軽く握った拳で叩くと、半分ほど閉まっていた木の引き戸を蹴り開けた。


「それじゃ、行こっか」

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