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死人憑を祓い終えて店に戻ってみると、店内はカオスなことになっていた・・・。
無事店に辿り着いていた神崎さんは、彼女に興味津々な様子の太陰やハクに質問攻めにされたり、絡まれたりで、少し困った様子で佇んでいた。鬼ごっこでもして遊んでいるのだろうか、貴人と玄武はからかう様に店中を走って逃げ回り、六合が2人に鋭い眼光を向けながら必死の形相で追いかけている。騰蛇と勾陳はまた喧嘩をしているみたいだ。天后はこの状況をどうしようかと手をパタパタさせながらオロオロしていた。青龍と太裳は我関せずという感じでまったりとお茶を飲んでいる。朱雀や天空は見当たらない。まだ見回りから戻っていないみたいだ。それにしても・・・この事態をどう治めようか。静かに見守っていた方が良いのかなぁ・・・としばし考えていると、
「あっ、晴支さまぁ~。」
天后が気付いて、今にも泣き出しそうな声で呼びながら走り寄って来た。
「もう、皆さん自由奔放過ぎて困ってたんですぅ~。私ではこの状況をどうにもできなくて・・・すみません、晴支さまぁ~、うぅ・・・。」
「遅くなってごめん。僕が何とかするから。ありがとう、天后。」
「ぷぷ・・・私達が居ない間に・・・くくっ・・・店は随分楽しそうなことになってますネェ・・・。というか・・・六合・・・必死過ぎて・・・顔が・・・クハッ!もうダメッ、我慢の限界っ・・・クハハハハハハハハ!!」
「白虎・・・お前笑い過ぎ。」
「土御門君。赤星君。白虎さん。良かった、皆さん御無事だったんですね。」
話し声で気が付いたのか、神崎さんや他の皆も集まって来た。
「皆さん、本当に大丈夫ですか?お怪我などはありませんか?」
「大丈夫。3人共無傷だよ。死人憑も無事祓えたから、もう心配いらない。安心して。」
「ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいか・・・。でも皆さんが御無事で・・・本当に良かった・・・。」
彼女の目に涙が浮かび上がった。かなり心配をかけてしまっていたみたいだ。
「おやおや。晴支、女の子を泣かせるなんて、いけないねぇ。」
「!?えっ、あっ、え~と・・・その・・・心配かけてごめんね、神崎さん。」
「あっ、こちらこそ、すみません。安心して少し気が緩んでしまっただけなので・・・気にしないで下さい。」
少し戸惑ってあたふたしながら謝ると、彼女は微笑みながら涙を拭いた。
「しかし、彼女の体質を考慮すると・・・また妙な妖に目をつけられるかもしれませんね・・・。何か手を打っておいた方が良いでしょう。」
「確かにこのまま何もせずに放っておく訳にはいかないだろうが・・・とりあえず今日の所はこの式神を傍に置いておけば問題無いだろう。具体的な対策は日を改めてからでも遅くない。」
貴人が肩の上に乗っていた紙人形の式神に手を添えると、式神は彼の言葉に答える様にくるりと一度回って滑る様に神崎さんの肩の上へと移動した。
「大丈夫だよ、神崎さん。何かあったら僕達が何とかするから。」
「そうそう。いざとなったら、六合が面白い顔でしつこく追い掛け回して妖を追い払ってくれますかラ!」
「誰が面白い顔だ、馬鹿!」
六合は白虎に一発平手打ちを食らわそうとするが、白虎は「お~、怖イ怖イ」と言ってクスクス笑いながらヒョイッと躱してしまう。そんな2人の掛け合いを見て、神崎さんも、葛の葉庵の皆も思わず笑ってしまう。
今夜も変わらず、葛の葉庵は賑やかだ。