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邪気の群れに覆われた瞬間、憎悪や殺気、妬み、恐れなどの様々な負の感情が自分の中に流れ込んで来た。暗く渦巻く邪気を祓おうと構えたその時、幽かな声が響いてきた。
・・・って・・・。あの娘を護って・・・。
「この声・・・。」
細く消えてしまいそうな、しかし強い意志の込もった声。この声は、きっと・・・。
「ふ・・・もう力尽きたか?」
「晴支!!」
死人憑の蔑む様な声と、仲間を気遣う壮吾達の声が夜の通りに木霊する。
すると、突然晴支を覆っていた邪気の群れを青い焔が焼き尽くす。
「なっ!?」
驚きを隠せず一瞬静止してしまう死人憑。その一瞬の隙に、彼女の足下に陣が現れる。
「浄き光よ、闇を滅し給え。急急如律令!」
陣から光が溢れ、輝く柱となる。陣の破魔の光を浴びた死人憑が浄められ、女性から切り離される。
「お・・・おの・・・れ・・・。」
最期の悪足掻きをしようと死人憑は僕の方に手を伸ばしてくる。しかしその手は陣の光によって弾かれる。そして、死人憑は陣の光に力を奪われ、滅びていった。死人憑を祓ったことで、僕達に襲い掛かって来た邪気の攻撃も消滅していった。取り憑かれていた女性は死人憑の呪縛から解放され、力が抜けた様に倒れてしまう。急いで駆け寄ると、女性は消え入る様な声で話しかけてきた。
「紫苑を・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・。あの娘に・・・伝えて・・・欲しい・・・ことが・・・。」
「何と伝えれば良いですか?」
「最期に・・・もう一度会えて・・・嬉しかった・・・。お父さんと・・・楓・・・弟のことを・・・お願い・・・と・・・。」
「わかりました。必ず、神崎さんに伝えます。」
「ありがとう・・・。」
女性は優しく微笑むと、静かに目を閉じ、眠りにつく。そして灰となり、風に乗って天へと舞い上がって行った。
「無事祓えたんだな。」
「でもあんな無茶ばかりしてると、六合にクドクド説教されちゃいますヨ?」
「う゛・・・僕は頑丈にできてるから多少の無茶は平気なんだけど・・・。六合は怒ると怖いから・・・説教されるのは嫌だなぁ・・・。」
夜の静寂が通りに佇む3人を包み込む。そっと目を閉じると、夜風が頬を撫でるのを感じる。
「どうか・・・安らかに眠って下さい・・・。」