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葛の葉奇譚  作者: 椿
第1章:縁
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 「しっかし晴支さぁ、お前今朝本当凄かったよなぁ。普段ボーッとしてるくせに、どこにあんな俊敏性隠してたんだよ。」

 「ふえっ?僕は別に何も隠してないけど。そもそも俊敏性って・・・どこかにしまって隠せるものなの?」

 「いや・・・そんな真剣に考え込まなくてもいいから。・・・晴支って頭良いのに・・・なんていうか・・・たまにすごい天然曝け出す時あるよな。」

 「晴支の天然は生まれつきだからな・・・。」

 昼休みの屋上―僕達はお昼ご飯を食べながら、今朝の事件について語り合っていた。僕が感じた怪しい気配は何だったのか、なぜ神崎さんが襲われたのか・・・。引っ掛かる点はいくつかあるが・・・腹が減っては戦はできない。持参した弁当を怒涛の勢いで頬張っていく。

 「あっ、土御門君達、ここに居たんですか。良かった、探していたんですよ!」

 「?ふぁんあひはん・・・はひああっはの?」

 「あ・・・えっと・・・」

 お弁当を頬張りながら話しかけた為か、彼女にうまく伝わらなかったらしい。一瞬キョトンとした表情を見せた後、神崎さんは少し戸惑った様に微笑んだ。それを察した壮吾がすかさず助け舟を出す。

 「あ~・・・つまり要約すると、“神崎さん、何かあったの?”」

 「すげ~、壮吾。お前あの何語かもわからない言語をよく要約できるな…。」

 「あの、今朝は本当にありがとうございました。家庭科でクッキーを焼いたので、今朝助けていただいたお礼にと思って持って来たんですけど・・・」

 神崎さんは遠慮がちにそう告げると、僕の前に広がっている特大タッパー達に視線を移した。1つ目の特大タッパーにはおにぎりが、2つ目の特大タッパーには唐揚げや卵焼き等のおかずが詰められていた(すでに3分の2くらい食べ終わっている)。3つ目の特大タッパーには店の残り物のスイーツが入っている。


挿絵(By みてみん)


 「良かったら、休み時間や放課後にでも、皆さんで食べてください。」

 神崎さんから手渡された包みには、猫やパンダ等動物の形に可愛く象られたクッキーが沢山入っていた。甘い、美味しそうな香りがふわっと漂ってくる。

 「美味しそう。これ、本当に貰って良いのかな?」

 「はいっ。お口に合うと良いんですけど・・・。」

 「ありがとう、じゃあ昼ご飯の後に早速頂くよ。」

 「こんだけ食べた後にまだ食うのかよ!?」

 「お前の胃袋ブラックホールか!!」

 「こんなに大食いのくせに細身なのが不思議なんだよなぁ~…。」

 美味しそうなクッキーに喜んでいると、3人からすかさずツッコミを入れられた。

 「デザートは、別腹。」

 「いや、別腹のレベル超えてるから!」

 「キメ顔で言う台詞でもないしな。」

 「・・・ていうか、今日1番目がキラキラ輝いてる。」

 僕達がワイワイ騒いでいると、神崎さんがクスッと笑った。

 「フフッ。皆は本当に仲が良いんですね。話している様子がいきいきしてて、楽しそう。それに、土御門君って静かでクールなイメージがあったんですけど、意外とお茶目なんですね。」

 「お茶目?そうかな?」

 不思議そうに首を傾げる僕を見て、神崎さんは微笑んだ。今朝の一件で怖い思いをしているので大丈夫だろうか、と心配していたが、問題無い様だ。明るく笑いながら皆とおしゃべりをする彼女の様子を見て、少しほっとする。

 「じゃあ、私そろそろ行かないと。」

 「神崎さん。」

 「はい?」

 「もしまた何かあったら・・・僕で良ければ力になるよ。」

 「ありがとうございます、土御門君。」

 そっと吹き抜けていく風が、優しく笑う彼女の髪を揺らす。暖かく、穏やかな一時。この他愛無い、平穏な時間がずっと続くと良いと、静かに僕は祈っていた。


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