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「全く・・・何であいつらは朝っぱらからああ元気なんだ・・・。」
「お疲れ、壮吾。」
「いや、まぁこれが俺の仕事っていうか、役目だからな。」
壮吾とは幼い頃からずっと一緒に育ってきた仲で、兄弟みたいな存在だ。どんなことでも打ち明けることができるし、いつも何かと助けてもらってばかりだ。
「おーいっ。晴支、壮吾、おはようーっス!」
「おはようさん、主従コンビ。」
「仁、直人、おはよう。」
「おはよう。それより主従コンビって何だよ。」
「お前らにぴったりの表現だろ?」
「・・・。」
笑顔で挨拶をしてくれる友人達と、苦笑しながらツッコミを入れる壮吾。いつもと変わらない朝の光景だ。そんな光景に微笑みながら、彼らについて歩き始めようとした時だった。
ぞくり・・・
氷が背筋を滑る様な、冷たく鋭い気配に、僕は思わず足を止めた。気配のする方に素早く目を向けると、そこにはクラスメイトの神崎紫苑の姿があった。信号が青に変わるのを待っている様だ。さっきの気配は気のせいだったのかな・・・?彼女の周囲を注意深く観察していると・・・彼女に忍び寄る1つの人影に目が留まった。彼女が後ろを振り返ろうとしたその時、人影の手が彼女を赤信号の道路へと突き飛ばした。
キキィッ
走行中の車が彼女に迫る。
グイッ
僕は彼女の腕を素早く掴み、力一杯引っ張った。
「大丈夫?」
よろめく彼女の体を支え、問いかける。辺りを見渡してみるが、あの人影はもういなくなっていた。あの人影は、一体何者だったんだろう・・・?
「あっ、あの・・・ありがとうございます。」
「怪我は無いみたいだね。無事で良かった。」
見たところ目立つ外傷も無いようで、とりあえず一安心だ。
「おいっ!大丈夫か、2人共!!」
「うん、僕も神崎さんも無事だよ。」
「そうか、良かった・・・。でも本当、一瞬ヒヤッとしたぜ。」
少し間をあけて、神崎さんの表情にも落ち着きが戻ってきた。僕には、どうしても1つ気になることがあった。
「あの、神崎さん・・・」
「はっ、はい?」
「さっき背後から神崎さんを突き飛ばそうとした人の顔・・・見た?」
「!?」
思わぬ質問に神崎さんは一瞬驚きの表情を見せるが、一呼吸置いて静かに答えた。
「いいえ。後ろを振り返ろうとしたら突き飛ばされたので・・・顔は確認できなかったんです。」
「そうか・・・。」
なぜ彼女が狙われたんだろう?あの人影・・・神崎さんと一体何の関わりがあるっていうんだ?それに・・・あの冷たい、凍り付くような気配・・・。嫌な予感がする。
「とりあえず移動しねぇか?いつまでもここにいちゃまずいだろ?」
「そうだね。」
もう一度、人影が居た場所に目を向けてみる。あの人影から感じた気配・・・。あの感じは・・・まさか・・・。
「おい、置いてくぞ~、晴支。」
「今行く。」
僕は胸の内に残る不安を掻き消す様に頬をパシッと叩き、その場を後にした。