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葛の葉奇譚  作者: 椿
第2章:火車と夜汰の災難
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 「じゃあ、改めて・・・俺は茨木童子。閻魔大王様の補佐の酒呑童子様の右腕っス!よろしく!!何か色々迷惑かけたみたいですまなかったっスね。協力してくれて、本当に有難う。」

 「いや、こちらこそ、助太刀に来てくれて・・・有難う御座いました。」

 亡者達を連れて店に戻った僕達は、他のチームと合流し、亡者達の騒動について話し合うことになった。貴人と火車が今回の事件や亡者達にかけられていた呪術に関する情報について、茨木童子に詳しく説明した。

 「2人を襲った謎の少年に、呪術の実験か・・・。きな臭い話っスねぇ。厄介なことになりそうだ・・・。」

 眉間に皺を寄せ、憂鬱そうに考え込む茨木童子。先程の亡者達の豹変ぶりを思い返し、僕達葛の葉庵のメンバーも、火車達も、苦り切った表情を浮かべる。

 「今回は何とか事態を治めることができたけど・・・各地の亡者達や妖達が一斉に凶悪化したりしたら・・・」

 「かなりの犠牲者が出るだろうな。」

 「考えただけで、ゾッとしますね。」

 店内に沈黙が流れる。少年の正体も、目的も判明していない今の状況では、対抗の仕様がない。

 そういえば・・・公園の迷路で感じたあの気配は、一体誰だったんだろう?最初は茨木童子かなとも思ったけど・・・あれは彼の放つ気配とは全く違う・・・冷たくて、邪悪な気配だった・・・。

 「あの、茨木童子・・・」

 「ん?何スか?」

 「僕達と会うまでに・・・誰か怪しい人物や妖を見かけたりしなかった?」

 僕が問いかけると、茨木童子は腕を組んで「ふむむ。」と呟きながら記憶を辿ってみる。

 「ん~、特に誰も見かけなかったっスねぇ・・・。何か気になることがあるんスか?」

 「あっ、ううん。何でもない、気にしないで。」

 僕が首を横に振りながらそう答えると、茨木童子は一瞬キョトンとした顔でこちらを見つめるが、それ以上追及することはしなかった。

 「まずは情報収集か・・・。まぁ、百目鬼ならきっと何か情報を掴めるだろうから・・・そうしたら具体的な対策も出来るはずっス。」

 「こちらでも、調べてみよう。何か分かったら知らせる。」

 「有難う、助かるっス!」

 冥府と現世の両サイドでそれぞれ調査していれば、いつか例の少年と相対することになるかもしれない。気を引き締めていかないと・・・。

 「まぁ、延々と悩んでいたって何も始まらないっス!兎に角色々動き回っていたら、何とかなるっスよ!」

 腰に手を当て、堂々とした面持ちで語る茨木童子。彼の明るく溌剌とした雰囲気に、ピリピリしていた空気も少しずつ和らいでいく。

 「適当なこと言ってると、また酒呑童子様に怒られちゃいますよ?」

 「い゛っ、ちょっ、何言ってるんスか、火車!怖いこと言わないで欲しいっス!!」

 火車がからかう様な調子で話しかけると、茨木童子は口許をヒクヒクと引き攣らせた。その怯えた様子・・・酒呑童子は、余程おっかない人の様だ。

 「もしかして・・・会議サボって酒呑童子って人にボコボコにされた人って・・・」

 まさかと思いつつ、夜汰に恐る恐る問いかけてみる。

 「茨木童子様です。」

 即答だった。

 「ちょっ!?何変な事吹き込んでるんスか、夜汰~!!」

 茨木童子は夜汰の両肩をガッと掴むと力一杯ブンブンと前後に揺らす。夜汰は「あ゛~」と悲鳴を上げながら、暫く揺らされ続けた。


 挿絵(By みてみん)


 「まぁ、彼だろうとは思ってた。」

 「酒呑童子の旦那も、大変だねぇ。」

 太裳と玄武が冷めた調子で語る。他の皆の反応も、「やはりな・・・。」という感じだった。

 「あの時も、何処かの屋敷を派手に壊しちゃってお仕置きされてましたよネ、彼。アハハッ。」

 白虎は楽しそうにクスクス笑った。式神達の会話や反応を見ていて、僕は少し気になることがあった。

 「ねぇ、白虎達は以前にも茨木童子と会ったことがあるの?」

 僕が問いかけると、茨木童子は夜汰をブンブン揺らしていた手を止め、こちらに振り返った。

 「あれ、晴支は知らないスか?今から1000年以上前に地獄で封印していた妖が京の都に逃げ込む事件があって・・・その時封印に協力してくれたのが、安倍晴明とその式神達だったんスよ。」

 「晴明達が、冥府の人達の手伝いを?」

 晴明や式神の皆に冥府の妖と繋がりがあったなんて、知らなかった。今回の事件みたいに、偶然関わり合うことになったのだろうか? 

 「どういうきっかけ手を組むことになったんですか?」

 火車と夜汰が興味津々の様子で尋ねる。

 「2人は現場に居なかったんだっけ?きっかけっていうか・・・まぁ、簡単に言えば妖を追っていた俺達と、異変に気付いて動いていた晴明達が鉢合わせして、一緒に戦ったってとこっス。」

 「“何かやって来る”って言って急に飛び出してねぇ。私達も訳が分からないまま妖退治したんだよ。」

 都を駆け抜け、茨木童子と共に闘う晴明の姿が思い浮かぶ。人々を護る為に、晴明も力を揮ったのだろうか。


 挿絵(By みてみん)

 

 「子孫だからっスかねぇ・・・。容姿も、マイペースな感じも、晴明とよく似てる。」

 茨木童子が、僕のことをじっと見つめ、呟いた。

 「そうかな?」

 やはり先祖と子孫は似るものなのだろうか?夢の中で会う晴明を、頭の中に思い浮かべてみる。

 「!?やばっ。そろそろ戻らないと!“早く片付けて報告に来い”って酒呑童子様に言われてたっス!!」

 時計を見た茨木童子達は急いで帰り支度を始める。

 「今回の事件絡みでまた協力をお願いするかもしれないから・・・その時は宜しくっス!」

 3人を見送りに庭に出ると、茨木童子が親指をグッと立て、語りかけて来た。

 「うん、任せて。」

 僕も同じように親指を立てて答える。

 「世話になった。色々有難うな!」

 「こちらこそ。亡者達を無事捕獲出来て、良かった。」

 僕と火車は互いに笑い合い、握手した。

 「有難う!あっ、約束忘れないで下さいね!」

 「うん。お菓子沢山用意して待ってるよ。」

 “お菓子”という単語に反応し、「やった!!」とガッツポーズをする夜汰。

 「約束!?お菓子!?一体なんの話っスか?俺も混ぜて欲しいっス!!」

 茨木童子は火車と夜汰に飛び掛かろうとするが、3人と亡者達を乗せた車が動き出してしまう。そして、3人はワイワイ騒ぎながら冥府へと帰って行った。

 「賑やかで楽しい人達だったね。」

 3人が去った庭を見つめながら、僕はポツリと呟いた。

 「そうですね。」

 僕の言葉に、六合が苦笑しながら答える。

 今日、夢の中で晴明に会ったら、亡者捜索の一件のこと、仲良くなった3人の冥府の妖のことを話してみよう。どんな反応をしてくれるかな・・・。晴明が茨木童子に協力したっていう事件についても聞いてみたい。

 「晴支、そろそろ中に入りましょう。」

 「うん、分かった。」

 今日の騒動や晴明のことを考えちょっぴりワクワクした気持ちを抱えながら、僕は皆と一緒に店の中へと戻って行った。


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