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「ぶぇっくしょおい!!」
大きなくしゃみの音が響き渡る廃工場。俺達東チームは今まさに亡者達と一戦交えよう、というところである。
「大丈夫かい、玄武?」
「ああ、平気平気。心配してくれてありがとうな、太裳。」
心配して声をかけてくれた太裳に向かってひらひらと手を振りながら笑顔で答える。なんでいきなりくしゃみなんて出ちまったんだろう?誰かが俺の事噂してるのかねぇ?
「どうする?とりあえず彼らがどう動くか様子を見る?」
亡者達に注意を向けたまま冷静に対処しようと試みる太裳。そんな彼の考えとは裏腹に騰蛇は1人勢い良く飛び出してしまう。
「面倒くせぇ!様子見なんて悠長な事言ってねぇで一気に片付けちまえば良いじゃねーか!!」
亡者達に向かって単身で突っ込み焔を纏った拳を振るう騰蛇。彼の焔の拳は爆撃となり亡者達を一気に吹き飛ばしていく。
「あぁ・・・ったく、あの単細胞!なんであんな喧嘩早いんだ、あいつは!!」
太裳はもどかしそうに後頭部をガシガシと掻いた後、ダンッと一度片足で地面を力強く踏みしめる。すると地面が変形して無数の槍となり、亡者達の体を貫いていく。
「おーおー、皆気合入ってるじゃねーか。」
俺は2人の戦う様子を眺めながら亡者達の攻撃をいなし、躱していく。
「おぉらぁーっ!!」
とてつもない火力で次々と亡者達を倒していく騰蛇。彼が焔をぶつける度に、亡者達はその衝撃であらゆる方向に弾き飛ばされていく。
太裳も自身が持つ大地を操る力を駆使して亡者達を撃退していく。地面を盛り上げて盾を作り出し亡者達の攻撃を防いだり、大きな柱や槍等を形成して亡者達の動きを封じたりしている。
「よぉし。おじさんも負けてられねぇな。」
顎を触りにたりと笑いながら一言呟くと、俺は水の刃を具現化させた。その刃は廃工場全体を素早く駆け抜け、亡者達の殆どを一瞬で切り裂いてしまった。
「おいっ!いきなり危ねーじゃねーか、おっさん!!」
「俺たちまで殺す気かい、玄武!?」
騰蛇と太裳が水の刃を躱しながらこちらに振り向き、同時に大声を上げて抗議してくる。今にもぶん殴ってきそうな勢いだ。とりあえず、きちんと謝っておくか。
「いやぁ、すまんすまん。ちょいと頑張り過ぎちまったかな?ハハハ!!」
「ハハハ、じゃねーよ!?」
へらへら笑いながら謝る俺に対し、騰蛇は自分の中の苛立ちをぶつける様に吼えてくる。
「勘弁してくれよ、まったく・・・。」
そんな2人を飽きれた様子で眺める太裳。彼は2人のやりとりを苦笑しながら静観していたが、突然何かに気付き焦りの表情を見せ叫ぶ。
「玄武!」
太裳が俺の方へと一歩踏み出そうとしたその時・・・
「ぐああ!?」
背後から俺を襲おうとした亡者を水の刃が袈裟斬りにしてしまう。
「突然背後から襲ってくるとは、随分物騒じゃねぇか。」
後ろを振り返り、静かに笑いながら語りかける。不意打ちを狙うならちゃんと気配を消しとかないとねぇ。殺気丸出しの状態じゃあ、誰だって気付いちまうよ。
「無事か、玄武!?」
騰蛇と太裳が慌てて駆け寄ってくる。
「あぁ、なんともないよ。でも本当、死角からの不意打ちとか・・・まいっちまうよなぁ。」
いつものマイペースを崩さず、緩く笑いながら話しかける俺を見て、2人は少し呆れた様な、ほっとした様な表情を見せる。
「亡者達は捕まえたけど・・・どうしようか・・・。」
廃工場内で倒れている沢山の亡者達を見つめて、太裳が困った様子で問いかける。
「とりあえず、連れて帰るしかないかねぇ。」
「・・・。」
どうやって運ぼうか・・・と悩みながら沈黙する一同。太裳も、騰蛇も、少し面倒くさそうな顔をしている。
「でもこいつら・・・かなり気味悪かったよな…。何かに取り憑かれたみてぇに、ひたすら俺達に襲い掛かってきて・・・。」
先程の亡者達の様子を思い出し、眉を顰める騰蛇。彼に同意する様に太裳が頷く。この亡者達の変貌は、やっぱり例の少年の仕業なのだろうか。
「実験、ねぇ・・・。」
こんな騒ぎを起こして一体何をやらかそうというのか・・・。俺達がこうやって出張ってくるのも、“実験”の内容に入っているのかねぇ・・・。誰かの手の上で踊らされている様な・・・そんな不快感や苛立ちを払う様に、1つため息を零す。