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葛の葉奇譚  作者: 椿
第15章:福を呼ぶ少女
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5

 翌日、おいらは家鳴達を連れて沢山のお菓子を持って楓達との待ち合わせ場所である公園へと向かった。公園に入る手前で丁度楓達が走って来るのが目に入ったので、おいら達は彼等と合流し志乃の待つ裏山の神社へと歩き出した。

 「ハク。随分大きな荷物だな。」

 おいらの抱えている大きな鞄に視線を向けながら、楓が小さく首を傾げ問い掛ける。

 「へへっ!!皆で食べようと思って、お菓子一杯持って来たんだっ!!」

 鞄を少しだけ開けて中のお菓子をちらっと見せると、楓達は嬉しそうに目を輝かせた。

 「志乃も喜んでくれると良いな。」

 「うんっ!」

 ポンッとおいらの肩を叩き二ッと笑みを見せる楓。おいらも同じ様に二ッと笑い大きく頷く。そしておいらは「さっ、早く行くぞっ!!」と急かす様に片手を振りながら勢い良く走り出した。

 「おーいっ!!志乃、遊びに来たぞっ!!」

 神社に辿り着くや否や大きな声で呼び掛けたが、全く反応は無く神社はしぃんと静まり返っていた。

 「志乃、居ないの?」

 もう一度呼び掛けてみるが、やはり静かなままで返事は帰ってこない。

 「出かけてるのかな?僕達、ちょっと神社の中見て来るよ。」

 一つ目小僧はそう言うと、唐傘小僧を連れてタタッと神社の中へと入って行った。

 「俺達は庭や神社の周りを捜してみよう。」

 楓の言葉にこくりと頷き、おいらは楓や家鳴達と一緒に周囲を歩き始めた。

 ...これだけ皆で呼び続けて全く返事が無いのは変だ。何か嫌な予感がする。

 胸騒ぎを感じ急ぎ足で進みながら辺りを見廻していると、視界の端にある物が目に入りおいらはフッと足を止めた。おいらはそれが落ちている所まで急いで走り寄った。

 「これ...志乃のリボンだっ!!」

 「...やっぱり、何かあったんだ。」

 深刻な面持ちでリボンを見つめる2人の間に緊張が疾る。このリボンが、事態の深刻さを物語っている気がして、おいらの不安が一気に跳ね上がっていく。

 「志乃ちゃん、中には居ないよ!!」

 「そっちはどうだった?」

 中の様子を見に行っていた一つ目小僧達が此方の方に走って来ながら問い掛ける。おいらと楓が小さく首を横に振ると、2人の表情は一層不安気になった。

 「一体...何処に行っちゃったんだろう、志乃ちゃん。」

 唐傘小僧が心配そうにぽつりと呟く。4人の間にピリピリとした緊張が疾る。

 「...この時間なら、丁度晴支達が学校帰りで近くを歩いている筈。楓、晴支達を呼んで来てくれ!家鳴も何人か付いて行ってやって!!」

 「分かった!」

 「ピィ!」

 おいらの言葉に楓は力強く頷くと、家鳴を数匹連れ街の方へ向かって走って行った。

 よし。あとは志乃の居場所だけど...

 おいらは深く息を吸い込みながらクンクンと匂いを嗅ぎ始める。

 「ハク、何やってるの?」

 唐傘小僧と一つ目小僧がおいらを後ろから覗き込み、不思議そうに問い掛ける。

 「匂いを辿って、志乃を捜し出す!!」

 匂いを辿りながら、おいらは少しずつ裏山の奥の方へと進んで行く。此処には志乃だけじゃなく鬼の匂いも残っている。もしかしたら、志乃はこの鬼達に連れて行かれたのかもしれない。

 「ピィ。ハク、大体の方角が分かるなら、家鳴達先に調べてみるよ!」

 家鳴達の言葉にこくりと頷き匂いの続いている方角を指差すと、家鳴達は一度大きくピィーッと鳴き走り出した。一匹、また一匹と家鳴はどんどん増えていき大勢の家鳴達が調査へと向かって行った。

 「おいら達も行こう!」

 嗅覚に全神経を集中させ、おいらはずんずんと先に進んで行く。その後を追うように一つ目小僧と唐傘小僧も付いて来る。

 待ってろ、志乃!必ず見つけ出してやるからな!!

おいら達は志乃を助ける為裏山の更に奥の方へと入って行った。



 「ん゛~っ!!」

 手足を縛られ口を布で塞がれた状態で担がれている志乃は、必死に抵抗しようと体を力一杯くねらせじたばた暴れる。鬼の頭領はそんな彼女をギロッと睨み、チッと苛立たし気に舌打ちする。

 「うるせぇな...。少し黙らせとけ!!」

 ボスの怒鳴る様な声で放たれた命令に、志乃を担いでる鬼がビクッと震え「はいっ。」と少し裏返った声で返事をする。そしてその鬼が志乃を大人しくさせる為拳を上げたその時ー


 「どりゃあああっ!!」


 焔を纏った子狐少年が背後から彼に勢い良く突進してきたのである。いきなり体当たりされた衝撃で鬼はバランスを崩し、志乃はポーンッと放り投げられてしまう。おいらは志乃を受け止めようと駆け寄り構えるが、衝撃に耐えきれず志乃の下敷きになる形で一緒に地面に倒れてしまう。

 「大丈夫か、志乃?」

 口の布や手足の縄を解きながら声を掛けると、志乃は小さな声で「うん。」と呟きながら涙で潤んだ目で答える。家鳴達や一つ目小僧、唐傘小僧も志乃の元へと駆け寄って来て「無事で良かった。」と安堵の表情を見せた。

 「ふざけた真似しやがって。お前等、此奴等を片付けろ!!」

 憤怒の形相の鬼のボスの言葉を合図に、鬼達がおいら達に向かって襲い掛かって来る。おいらは分身の術で自分を沢山増やすと、狐火を投げ付けたり鋭い爪や牙で攻撃したりして鬼達を迎え撃つ。家鳴も鬼の体をちょろちょろ這い回ったり噛みついたりして鬼に小さなダメージを蓄積させていっている。志乃を取り返そうとする鬼達には、一つ目小僧と唐傘小僧が志乃を庇う様に立ちはだかり、石を投げつけたり太い木の棒を振り回して応戦している。

 「情けねぇなぁ。こんな餓鬼供さえ排除出来ねぇのかよ。」

 ふぅと深く息を吐き出しゆらりと此方に歩いて来る鬼の頭領。彼は大矛を構えると、ブゥンと凄まじい速度で振り、その斬撃でおいらを分身諸供容赦無く斬り裂いた。

 「がはぁっ!?」

 おいらの体から紅い血が弾け出す。激痛が全身を襲い涙が出そうになるのをおいらは何とか堪えたが、作り出した分身が全て消滅してしまった。苦悶の表情を浮かべるおいらに、鬼のボスは更に強烈な蹴りを一撃喰らわせる。その凄まじい威力に、おいらの体は後方に吹っ飛ばされてしまう。

 「座敷童子の餓鬼連れてさっさと行くぞ。」

 ズカズカと志乃達の方へ近付いて行く鬼のボス。おいらはボスの動きを止めようと、肩に飛び付いて思い切りガブッと噛み付いてやった。

 「志乃に近付くなっ!!」

 ボスの体にしがみ付き、おいらは突き立てる牙にぐぐっと力を込める。

 「ちっ、放しやがれこの糞餓鬼!?」

 ボスはおいらを振り払おうと乱暴にブンブンと体を振る。おいらも負けじとへばりつき噛み続ける。しつこく噛み付くおいらの頭を、ボスの拳が強く打つ。

 絶対・・・放すもんかっ!!

 力を込めたおいらの両手を焔が覆い、ボスの体に火傷を負わせる。苦痛に顔を歪ませながら、ボスはもう一度おいら目掛けて拳を振るおうとする。その拳がおいらに届こうという正にその瞬間-

 青い焔と白い斬撃が鬼のボスに襲い掛かったのである。


 「ハク、大丈夫?」

 「よく頑張ったな。」

 

 気が付くとおいらは晴支に抱えられ、鬼のボスから助けられていた。優しく微笑み語り掛けてくれる晴支と壮吾に、おいらは「おぅ!!」と力強く答え、ニカッと笑い返した。それを見た2人は、安堵の表情を浮かべおいらを庇う様に前に立った。

 「何だ、お前等。この餓鬼共の仲間か?」

 ギロリと威圧を込めて睨み付ける鬼のボス。そんな彼に臆する事無く、力強い鋭い眼差しを鬼達へ向ける晴支と壮吾。2人は右手の鉤爪と妖刀にそれぞれ青い焔と天龍の妖力を纏わせ構える。

 「邪魔するならてめぇらから始末してやる。」

 鬼のボスも矛の切っ先を2人に向け、己の妖力を込める。一瞬の沈黙の後、3人は同時に動き出す。鬼のボスは先ず晴支の方へ迫り斬撃を喰らわせようと矛を振る。しかし彼の斬撃が届くよりも速く晴支の焔の鉤爪がボスの体を斬り裂いた。矛を構え直そうとする鬼のボスに更に追い打ちを掛ける様に、壮吾の天月が鬼のボスへ容赦無く振るわれた。

 「ボスッ!?てめぇら、よくもっ!!」

 部下の鬼達が怒りの形相で2人の方へ迫って行く。すると晴支はスッと片手を構え、己の内に破魔の力を集中させた。

 「浄き光よ、闇を滅し給え。急急如律令!!」

 敵の鬼達の足元に一斉に陣が現れ、破魔の光が包み込む。破魔の光は鬼達を浄化し、1人残らず祓ってしまったのだった。

 「ハク!!」

戻って来ていた楓や志乃達が心配そうな表情を浮かべおいらの方へ急いで駆け寄って来る。おいらが笑って拳を突き出すと、楓もニコッと笑い拳を優しくコツンと合わせてくれた。楓達と笑い合っていると、突然志乃がおいらにガバッと抱き付いた。

 「ハク・・・御免ね。私の所為で怪我させちゃって・・・。」

俯いて涙を流しながら震える声で呟く志乃。彼女は何も悪くないのに、何度も「御免ね。」と繰り返した。

 「悪いのはあの鬼達なんだから、志乃が謝る事はないぞ!大きな怪我が無くて本当に良かった!!」

 抱き締め返して力強くそう答えると、志乃は遠慮がちに微笑みながら「有難う。」と答えた。

 「ハク、僕達が来るまでよく皆を護り抜いたね。頑張ったね。」

 志乃と抱き合い話していると、晴支が傍に来ておいらを褒めてくれた。優しく撫でてくれる晴支の手がとても心地良くておいらは目を細め尻尾をふりふり振った。

 「お前、中々根性あるじゃねぇか。見直したぜ、ハク!!」

 ポンと肩を叩き、壮吾も明るい声でおいらを褒めてくれた。2人に褒められたのが嬉しくて、おいらは元気良くフリフリする尻尾を更に力一杯ブンブン振った。

 「ハク達の手当てを早くしないといけないし、皆で葛の葉庵に戻ろうか。」

 「美味しいお菓子を一杯御馳走してやるよ。」

 晴支と壮吾の言葉に、おいら達はパァッと顔を輝かせ元気良くこくりと頷いた。そして怪我を負ったおいらは晴支の背中に負ぶわれ、皆と一緒に山を下りて行った。晴支の背中はとても温かくて、心の奥底までポカポカになっていくのを感じた。その温もりが嬉しくて、おいらはそっと晴支の背中に顔を埋めたのだった。



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