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「じゃあ、また明日な、志乃!!」
片手を大きく振り弾ける様な笑顔でそう語り掛けてくれたハクの姿が、一晩過ぎた今でも脳裏に強く焼き付いて離れない。
お喋りであんなに盛り上がったのは初めて。思い出したら、また凄くドキドキしてきた。
トクトクと速く脈打つ胸にそっと手を当てる。ハクとの楽しかったお喋りを思い出すと、何故だかにまにまと頬が緩んでしまう。
ハク達が来るの楽しみだな。そうだ!神社の裏に無花果が沢山実ってるから、皆で食べる用に一杯採っておこう!!
ハク・・・喜んでくれると良いな。
私は勢い良く裏庭に出ると、美味しそうに実った無花果を籠の中へと入れていった。そして籠一杯に入った無花果を持って神社の中へ戻ろうとしたその時―
「!?」
突如邪悪な気配が多数此方の方へ迫って来るのを感知し、私は一度その場でピタッと立ち止まる。
・・・妖の気配が近付いてる。取り敢えず神社の中に戻って様子を見てみた方が良いかも。
サッと神社の中へと入り妖術で気配を消す。その直ぐ後に、ドカドカと荒っぽい足音が多数聞こえてきた。
「本当に此処で間違いねぇんだろうな?」
「はい。座敷童子の住処はこのぼろ神社で間違いねぇぜ、頭領!!」
神社の敷地内に入って来たのは、いかにも怖そうな鬼の集団だった。ズカズカと入って来る鬼達に気付かれないように、私はそっとその場を離れていった。
この場に居たら直ぐに捕まっちゃう。早く此処から逃げないと・・・。
神社を出て山を降りようと動き出した私だったが、神社内やその周りは既に沢山の鬼達に囲まれており、バレずに逃げ出すのはかなり難しそうだ。音を殺し辺りに注意しながら神社の廊下を歩いて行く。感覚を研ぎ澄まし、鬼の気配を感知しながら進んで行く。
よし。このまま山を降りよう...。
庭に出て其処から山を降りて逃げようとしたその時ー
頭領と呼ばれていた鬼の男が、持っていた大矛を地面に強く突き立てた。すると地面が大きく揺れ、私の体を強烈な威力の覇気が襲い掛かってきた。
「あぅっ!?」
体中に激しい痛みが疾りその場に蹲ってしまう。早く逃げる為に体に力を込めようとしたが、上手く力が入らず立ち上がる事が出来ない。
「見ぃつけた。」
鬼の男はにぃ、と笑みを浮かべ苦しむ私に手を伸ばす。その手は私の髪を乱暴にぐっと掴み強く引っ張った。抗おうと藻掻いた拍子に、髪飾りのリボンが解けてハラリと落ちた。
「はっ...放してっ!!」
鬼の男から逃れようと神通力を力一杯込めて放つが、男は平気な顔で私を持ち上げた。そして彼は私の腹部を勢い良く一発殴ったのである。
「かはっ!?」
凄まじい衝撃と痛みが腹部に襲い掛かり、口から空気が吐き出される。凄まじい一撃にくらくらと目眩を感じた私は、反抗する間も無く意識の暗闇へと堕ちて行ったのだった。