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葛の葉奇譚  作者: 椿
第15章:福を呼ぶ少女
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2

 「あっ、トカゲ見つけたっ!!」

 「本当、ハクッ!?何処何処?」

 裏山の木の下を小さなトカゲがちょろちょろと這うのを見つけ大きな声を出すと、動物好きな楓が嬉しそうな表情と声で駆け寄って来た。家鳴も楽しそうにぴぃぴぃと鳴いてトカゲを追い駆けるが、ひょいひょいと華麗に躱されてしまう。その様子を見ながら、おいらや楓は顔を見合わせくすっと笑う。木の枝で地面に絵を描いていた一つ目小僧と唐傘小僧も、笑い合う2人を見てぱたぱたと駆け寄って来た。

 夕方の裏山。おいらは一つ目小僧や唐傘小僧、そして学校から帰って来た楓と合流していつもの様に一緒に遊んでいた。

 「あっ。家鳴達、山の奥の方へ行っちゃう。」

 トカゲを追い駆け山をどんどん登って行く家鳴達。そんな彼等の後を追おうと急いで走り出したおいら達だったが―


 ざぁぁぁ・・・


 突然大粒の雨がおいら達に降りかかる。

 「うわぁっ!?雨降りだしちゃった!?」

 「!?あそこ、建物が少し見える。雨宿りが出来るかもしれないよ。」

 一つ目小僧が指差す先、少し離れた所に木々の隙間からちらりと建物らしき物が見えた。

 「よし。あそこで雨が止むまで休ませてもらおう!!」

 おいら達は建物が見える方へと走って行った。山を駆け上がった先にあったのは、神社らしき建物だった。ずっと手入れをされていなかったのだろうか、蜘蛛の巣張り放題であちこち傷んで壊れているぼろぼろの状態だ。おいら達は取り敢えず神社の中に入り、濡れた服や体を拭き始める。

 「集まった時は晴れてたのに・・・。」

 「まさか雨が降り始めるなんてな。しかも結構土砂降りだし。」

 「暫く止みそうもないね。」

 「此処で雨が弱まるのを待ってようよ。」

 ざぁざぁと降る雨が大地を濡らしていくのを眺めながら、4人で話し合っていると―


 パタパタパタパタッ


 自分達しか居ないと思っていた神社の廊下を軽やかに駆ける足音が、おいら達の耳に届いたのである。

 「だっ・・・誰か居るのか?」

 足音の聞こえた方へ向かって恐る恐る問い掛ける楓。耳を澄まし返事を待つおいら達を揶揄う様に、くすくすくす・・・と女の子の笑い声が神社内に響き渡る。4人が困惑の表情で辺りをきょろきょろ見廻していると、今度はガタガタッと神社が小さく揺れたのである。

 う~ん・・・幻術か何かで気配を隠してるのかな?上手く匂いが分からないな。近くに居る気もするんだけど・・・。

 おいらはくんくんと鼻を動かして全神経を鼻に集中し匂いを探る。すると背後の方からほんの微かな妖の匂いを嗅ぎ取り、おいらはバッと振り返った。その視線の先では、頭にリボンを付け花柄の着物を着た女の子が楽しそうな笑みを浮かべ廊下の陰から此方の様子を窺っていた。

 「見つけたっ!!きっとあの子の仕業だっ!!」

 おいらが女の子をビシッと指差し大きな声で叫ぶと、女の子はにこっと明るい笑顔を見せた後くるっと踵を返し走り出した。

 「待てっ!!」

 おいら達は急いで女の子を追い駆けるが、中々捕まえられない。おいらや家鳴達が飛び掛かろうとしても、ひょいひょいっと躱されてしまう。そんなおいら達をちらちらと見ては、女の子はくすくすと楽しげに笑い逃げて行く。

 「むぅ~・・・。こうなったら、あの必殺技を使うしかないな!!いくぞ、家鳴!!」

 「ぴぃっ!!」

 おいらは家鳴を1匹手の中に抱えると、腕を大きく振りかぶった。

 「いけっ、家鳴ミサイルッ!!」

 おいらは女の子に向けて家鳴を力一杯投げた。家鳴は凄まじいスピードで女の子の方へ一直線に飛んで行き、女の子の頭の上にぴたっとしがみ付いた。

 「わぁっ!?」

 突然家鳴に頭の上に飛び付かれた事に驚いて、女の子は立ち止まりふらふらとよろめいてしまう。あたふたする女の子の方へ、更に家鳴が数匹飛び掛かる。家鳴達に体中を這いまわられ、女の子はくすぐったそうにきゃっきゃっと笑う。身動きがとれなくなった彼女に、おいらもバッと飛び付いて捕まえる。

 「捕まっちゃった!」

 女の子は家鳴達をぎゅっと抱きしめながら、ゆっくりと立ち上がった。

 「私は座敷童子の志乃。貴方達は?」

 小さく首を傾げ問い掛ける志乃に、おいら達は1人ずつ名を名乗った。

 「おいら達は雨宿りする為に此処に来たんだけど・・・志乃も同じか?」

 おいらの質問に、志乃は「ううん。」と言ってふるふると首を横に振る。

 「私、此処に住んでるの。」

 社の一室に皆で円を描くように座ると、志乃は今までどう暮らしてきたのかを語ってくれた。

志乃は古い屋敷や廃墟等を幾つも転々と移動しながら生きてきたらしい。しかし家主の堕落や没落、都市開発による建物の取り壊し等々・・・様々な要因により今まで新しい住処を見つけては退去してを繰り返し、その果てに辿り着いたのがこの神社だという事だ。彼女はこの神社で1人ぼっちで暮らしてきたらしい。極稀に神社に迷い込んで来る来訪者達に一緒に遊ぼうと悪戯を仕掛けるが、その度に驚かれ悲鳴を上げられ逃げられているそうだ。

 「まぁ・・・急に悪戯されたら、吃驚はするよな。」

 眉尻を下げ苦笑しながら楓がぽつりと一言述べる。そんな彼の言葉に、志乃は「でも唯話しかけるのはつまんない。悪戯して良いリアクションしてもらえたらすっごく楽しいよ!」と元気良く答える。

 「それすっごい分かる!!おいらも六合に悪戯して面白いリアクションしてもらえた時、めっちゃテンション上がるぞ!!」

 おいらが楽しそうに同意すると、志乃は嬉しそうにパァッと明るい笑顔を見せる。2人は意気投合し、キャッキャッと悪戯談義に花を咲かせ始めたのだった。



 「あ!いつの間にか、雨止んだね。」

 ふっと語られた唐傘小僧の言葉に、おいらも視線を外の方へ向けてみる。随分と話し込んでしまったらしい。激しく降っていた雨はもうすっかり上がっていて、外は少し薄暗くなっていた。

 「もう直ぐ日が暮れちゃう。おいらそろそろ店に戻って手伝わないと。」

 「俺ももう家に帰らなくちゃ・・・。」

 楽しい時間というのは、あっと言う間に過ぎてしまう。まだまだ話したい事ややりたい遊びは沢山あるのに、時の流れがそれを許そうとしない。

 「・・・もう、帰っちゃうの?」

 大きな瞳を微かに潤ませながら、志乃が問い掛ける。彼女は少し顔を俯かせると、おいらの服の袖をきゅっとつまんだ。

 「明日も・・・会いに来てくれる?」

 志乃は視線を落としたまま、小さな声でぽつりと問い掛けた。

 「勿論!明日も一緒に、一杯遊ぼうなっ!!」

 おいらがニカッと笑って答えると、志乃も嬉しそうに笑顔を見せる。そして「じゃあ、約束ね!」と右手の小指を出してきた。おいらはこくりと頷くと自分の小指を志乃の小指に絡ませ指切りをした。

 「じゃあまた明日な、志乃!!」

 おいらは元気良く片手をぶんぶんと振ると、楓達と共に裏山を下りて行った。さよならを言うおいら達に、志乃も「また明日。」と答え手を振り返してくれた。おいら達の姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれた志乃の瞳が寂しそうだった事に、帰るべき場所へ急いで向かうおいら達は全く気付いていなかったのだった。



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