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葛の葉奇譚  作者: 椿
第2章:火車と夜汰の災難
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3

 僕達は4つの捜索班と店待機班の5つの班に分かれて動くことにした。僕・壮吾・火車・夜汰が北方面、白虎・青龍・朱雀が南方面、玄武・騰蛇・太裳が東方面、勾陳・天空・六合が西方面をそれぞれ捜索、亡者達を調べている貴人・太陰と神崎さん・天后・ハクが店に残ることになった。


 そして現在、僕達北チームはとある大きな公園に来ている。

 「式神たちによると、この公園に亡者達が隠れているみたい。」

 目を閉じ、方々に散った紙人形の式神達と感覚を共有させる。

 「公園の奥の方・・・大きな迷路の辺りに・・・亡者達が居る。」

 「迷路の方・・・ってことはあっちですね!よっしゃ!!」

 入口近くの電灯の天辺から飛び降りズダンッと着地すると、夜汰は猛スピードで一気に公園の奥へと駆け抜けていってしまった。

 「あの馬鹿・・・1人で先走るなっつの!」

 「俺達も行こうぜ。」

 「うん。」

 夜汰の後を追いかけようと僕達も走り出す。噴水や池の横を通り過ぎ、ブランコや滑り台等の遊具がある広場を通り抜け、さらに奥へと進んで行くと、目的地の迷路へと辿り着く。

 「おっしゃ~!着い・・・」

 「“おっしゃ~!”じゃねぇ、この阿呆!!勝手な行動すんな!!」

 両手を広げて勢い良くゴールした夜汰の背中に火車が容赦なく飛び蹴りを食らわせる。

 「晴支、この中に亡者達が居るんだな?」

 「うん。この迷路の中から、確かに気配がする。多くの亡者達が隠れてる。」

 一同が迷路をじぃっと見つめる。一瞬の静寂が辺りを包む。


 挿絵(By みてみん)


 「中に入ろう。・・・皆、準備は良い?」

 「もちろん。」

 「俺達も大丈夫だ。」

 4人は迷路の中へと歩き出す。木製の壁で造られた道をゆっくりと進んでいく。壁は変色や傷みが激しく、それがこの迷路の年紀の長さを感じさせる。少し薄暗い迷路の中を歩きながら、僕は亡者達の気配を見失わないよう全神経を研ぎ澄ませる。

 「あ~・・・あのさ・・・何か聞きたいことがあるなら答えるぜ?」

 「!?あっ、すまんっ!」

 僕達のことをじ~っと見つめていた火車だったが、壮吾に話しかけられて我に返る。

 「いや~・・・普段地獄の仲間や亡者達の相手ばかりしてるから、あんた達みたいな生きてる人間と話をしたり、一緒に行動したりするのが珍しくて・・・ついな・・・。」

 少し気恥ずかしかったのか、火車はポリポリと頬を描きながら視線を逸らす。

 「確かに。現世の人間と冥府の妖が関わり合うことって、ほとんど無いもんね。」

 記録や言い伝えなどで聞いたことはよくあるけれど、実際に冥府と関わりの深い存在と相対するのは、僕も今回が初めてだ。現世と冥府はお互い必要以上に干渉しない様に動いている為、異なる世界の住人同士関わり合うことがあまり無いのだ。

 「今回は仕事があるから無理かもしれないけど、また休みの日にでも遊びにおいでよ。行きたい所があるなら案内するし、うちのお菓子もたくさん用意しておくから。」

 「本当!?やった!さっき色んなお菓子貰ったけど皆すっごく美味しかったからまた食いたい!!あと、遊園地とか行ってみたい!!」

 「お前はしゃぎすぎ。」

 「良いじゃないですか。それに兄貴だって本当はすごく嬉しいくせに~。もっと素直に喜べば良いのに~。」

 「まぁ、現世をゆっくり回る機会なんてなかなか無いし・・・晴支の申し出は嬉しいけどな。」

 うりうりと突いてくる夜汰の額にデコピンを食らわせながら「現世観光かぁ~。」と楽しそうに呟く火車。そんな2人のじゃれ合いを眺めながら歩いていたその時、僕は前方からゆっくりと近付いてくる気配に気付き、ふと足を止めた。

 「どうした?」

 「前方・・・誰か近付いてくる。たぶん・・・居なくなった亡者の1人だと思う。」

 「本当ですか!?」

 人差し指を口許に当て音を立てない様指示を出す。前方の分かれ道から気配の主が現れるのを全員がぐっと息を呑んで待つ。静かに待ち構える僕達の前に、1人の男性の霊が姿を現す。

 「あいつ!居なくなった亡者の1人だ!!」

 僕達に気付いた亡者が、その場から去ろうと方向転換を試みる。

 「“縛”」

 僕が印を結び唱えると、亡者の足下から光の鎖が現れ亡者を縛り上げる。亡者は鎖を千切ろうと力を込めるが、びくともしない。

 「放してくれ!地獄行きは嫌だ!!」

 必死に抵抗する亡者。恐怖や焦りで錯乱状態になった亡者は大声を上げてもがく。

 「お前なぁ・・・。抵抗したって罪が重くなるだけだぞ?大人しくついて来る方がお前の為なんだ。」

 取り乱す亡者を宥めようと火車が近付いた、その瞬間―

 「!?う・・・うう゛・・・ああ゛あ゛・・・!」

 苦悶の表情を見せ呻き声を上げる亡者。その体から黒い霧が溢れ出す。事態を把握出来ずに立ち尽くす僕達を嘲笑うかの様に黒い霧は亡者を飲み込んでいく。すると、彼の体は黒く染まり、鋭い牙、長い鉤爪の異形の姿へと変貌した。


 挿絵(By みてみん)


 「見たことない呪術だ・・・。それも、かなり複雑な術式がかけられている。」

 「これが、例の“呪術の実験”って奴か?」

 「他の亡者達は無事だと良いが・・・。」

 そんな火車の願いは、押し寄せてくる無数の気配によって打ち消されてしまう。先程の亡者の変貌を合図とする様に、いきなり亡者達が動き出したのである。

 「全方位から・・・大勢の亡者達の気配が猛スピードでこっちに向かって来てる。皆、気をつけて。」

 僕の言葉に、全員の緊張が一気に高まる。身構える僕達の周りに、同じ様に変化した亡者達が次々と現れる。僕達を取り囲んだ亡者達は、まるで何かに取り憑かれた様な虚ろな目でこちらを見つめ、そして僕達に向かって一斉に襲い掛かって来た。


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