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葛の葉奇譚  作者: 椿
第14章:宵闇の蟲
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6

 都内の高層マンションの1室 ― この部屋の住人の男が印を付けられているという情報を得た太陰と横井刑事は、恙虫を迎え討つべくやって来た。チャイムを鳴らすと、若い女性が出て来た。

 「警察の者です。安住掛さんと話がしたいのですが・・・。」

 横井刑事が女性に警察手帳を見せながら話をすると、女性は戸惑いながらも「どうぞ・・・。」と中に通してくれた。

 「警察?俺に一体何の用?あんた等の世話になる様な事した覚え無いけどぉ?」

 ソファに踏ん反り返りながら、安住は訝しむ様に眉を顰める。その口調に彼の軽薄さが滲み出ている。

 「あんたの命が狙われてるって情報が入ってねぇ。それで警告に来たって訳さ。虫に血を吸い尽くされて殺されるのが嫌なら、部屋で大人しくしとくんだねぇ。」

 私の警告に対し、安住はにやにや笑いながら「へぇ。」と一言呟く。真面目に聞いておらず、事の重大さを分かっていない様だ。

 「俺の命が危ないって言うなら、お姉さんが俺の傍に一晩一緒に居て護ってくれよ。市民を護るのが警察の仕事だろ?」

 私の肩に手を置き、じとりと見つめてくる安住。彼の手が私に触れた瞬間、背中にゾワゾワッと寒気が奔った。苛立ちが込み上げて来て片方の眉がぴくっと吊り上がる。無遠慮に触れてくる手を凍らせてやりたい気持ちで一杯になったが、既の所で思い止まった。

 「ちょっと!掛から離れなさいよ!!」

 彼の恋人と思しき女性が私をキッと睨み間に入って安住から引き剥がす。勝手に近寄られただけなのに、責められても困るよ・・・と思わず眉間に皺を寄せ苛立ちを込め溜め息を吐く。

 ・・・はぁ。さっさと終わらせて帰りたい。こんなくだらない男とは一刻も早くさよならしたいよ。

 やる気が出ず苛立ちを抑えている私が安住達から少し距離を取ったその時 ―

 恙虫が部屋の四方八方からカサカサと侵入して来た。

 「うっ・・・うわぁぁぁっ!?」

 安住は虫の大群に悲鳴を上げると部屋の真ん中のテーブルに向かって走る。

 「ちょっ・・・掛っ、待って!!」

 女が安住を追って一緒に逃げようと手を伸ばす。女はその時部屋にあった鞄に躓き転んでしまう。

 「掛っ、置いて行かないでっ!!」

 女は咄嗟に安住の服を掴み彼を引き留める。

 「チィッ、離せ馬鹿っ!!」

 一緒に転んだ安住は彼女をキッと睨み足で蹴り飛ばすと、再び立ち上がり走り出す。蹴られた勢いで床に尻餅をついた女に恙虫の大群が一直線に向かって行く。恙虫達があと少しで女の許に辿り着こうとした時だった。


 パキィィンッ


 部屋中が一気に凍り付き、大量の恙虫は氷の中に閉じ込められてしまう。私が片手を前に翳し拳をぎゅっと強く握ると、恙虫を包んだ氷はパリンッと砕け散りキラキラと光を反射させる。

 「たっ、助かった!!あんた・・・また変な虫が来るかもしんねぇから、俺の事護ってくれよ!!」

 情けない声を出しながら、安住はパタパタと私の方へ駆け寄って来る。私はそんな彼をギロリと鬼の形相で睨み付けた。

 「女の子を見捨てて、その上蹴り飛ばすなんて・・・あんた最っ低だねぇ。本当・・・見てて虫唾が走るんだよっ、この下衆がっ!!」

 私は拳を大きく振りかぶり、安住の顔面を思い切り殴った。顔面を殴られた安住は勢い良く後方に吹っ飛び、白目を剥いて鼻血を出しながら気絶してしまったのだった。

 「はぁっ、すっきりした!もうさっきからこの男にイラついて仕方なかったんだよ。」

 フンッと息を吐きながら満足そうな表情で腕を組む私。そんな私をまじまじと見つめながら、横井刑事は口元を引き攣らせ「太陰さん、怖ぇ・・・。」と一言小さく呟く。「何か言ったかい?」と私が笑顔で問い掛けると、彼は「いっ、いや何でもないですっ!!」と顔と両手をブンブン振りながら答えた。安住の手の印が消えたのを確認した私は、強烈なパンチに倒れた安住と呆然とその場に座り込む女を残し、横井刑事と共にマンションから出て行ったのだった。



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