表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葛の葉奇譚  作者: 椿
第14章:宵闇の蟲
115/127

3

 「ほ・・・本当に大丈夫か、土御門君?」

 「心配要りません。僕達で必ず犯人を見つけましょう、片瀬さん。」

 不安気にまじまじと僕を見つめ問い掛ける片瀬さんに、僕は力強く答えた。犯人の手掛かりを探す為、僕と太陰は片瀬さんと共に彼の知り合いの鑑識の和泉さんに会う事になった。鑑識さんにお願いして御遺体を見せて貰うのだ。但し、片瀬さんの部下の刑事として。僕は眼鏡を掛け黒地に薄っすらと白のストライプの入ったスーツを身に纏い新米刑事に成り済ました。太陰も黒色のパンツスーツを着て、若い女性刑事の振りをしている。

 「お待ちしていました、片瀬さん。・・・ってあれ?其方の方々は?」

 片瀬さんの後ろに居る僕達を見て、和泉さんが不思議そうに首を傾げる。

 「新任刑事の土御門と太陰だ。俺の下で一緒に捜査して貰ってる。」

 片瀬さんがぎこちない笑顔で僕達を紹介すると、和泉さんは「和泉です。宜しくお願いします。」と手を差し出してくれた。お互いに挨拶を交わした後、和泉さんは御遺体を保管してある場所まで案内してくれた。

 「此方が昨日発見された御遺体です。」

 和泉さんが被せられていた白い布を捲ると、其処には体中が壊疽して黒ずんだ女性の遺体が静かに横たわっていた。

 「既に御存知だと思いますが、遺体は血を抜かれ体内に毒を注入されています。体の壊疽はその毒が原因だと思われます。毒については今成分を調べている所です。」

 一連の被害者達の鑑識記録を手渡しながら、和泉さんが遺体の状況について軽く説明をしてくれた。僕は渡された鑑識記録にサッと目を通してみた。どの遺体も、皆この女性と同じ様に肌が黒く変色している。太陰は遺体の前に立つと、その壊疽した箇所に軽くそっと触れた。

 「・・・やっぱり、思った通りだ。これは恙虫の毒だよ。」

 「恙虫?それは・・・一体どんなものだ?」

 太陰が静かに述べた言葉に、片瀬さんが首を傾げ問い掛ける。

 「恙虫は、夜な夜な現れて人の生き血を吸う妖だよ。恙虫に襲われた人は血を吸い尽くされて死ぬか、その毒によって発熱や頭痛、体の壊疽に苦しんで死ぬ事になる。」

 太陰が語る恙虫の話に、僕と片瀬さんは真剣な面持ちで頷き、その後ろで和泉さんは「へ!?妖!?」と困惑の表情を浮かべている。

 「無差別に襲っている様には見えないよね。・・・きっと、恙虫達を操って襲わせている黒幕が居る筈だ。」

 被害者の交友関係や置かれていた状況、それに犯行現場等を調べていけば、その黒幕に近付けるかもしれない。

 「!?太陰、この手を見てみて!!」

 僕は遺体の手を太陰が見やすい様に少し持ち上げる。その手の平には薄っすらと黒い紋様が刻まれていた。

 「この印・・・どうやら恙虫はこの印に導かれて被害者を襲った様だね。」

 矢張り、被害者が襲われたのは偶然ではなく、誰かの意図によって仕掛けられたものの様だ。この印や、印を付けた方法を突き止めるのが犯人を捕まえる近道かもしれない。

 「・・・片瀬さん、今回の新人さん達は少し変わった方々の様ですね。」

 遺体の前で聞き慣れない言葉を話す僕達に戸惑いながら、和泉さんが片瀬さんにこそっと耳打ちする。片瀬さんは「ま・・・まぁな・・・。」と目を少し逸らしながら小さく呟いた。

 「つ・・・土御門、太陰!そろそろ出ようか。現場を調べに行っている横井達も、何か手掛かりを見つけているかもしれんし。」

 片瀬さんは「助かったよ和泉。有難うな!」と一言述べると誤魔化す様に急いで僕達の方へ駆け寄り出口の方へぐいぐいっと押していく。「有難う御座いました。」と振り返りつつ声を掛けると、和泉さんは不思議そうな表情をしつつも「いえいえ。捜査、頑張って下さい。」と優しい言葉を返してくれた。僕達はぺこりと感謝の意を込め会釈をすると、犯行現場を調べに行った“彼等”と一度連絡を取る為部屋を後にしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ