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葛の葉奇譚  作者: 椿
第13章:忍び寄る白
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7

 放課後少し薄暗くなった頃―静かな保健室ではかちゃかちゃと薬品や器具を整理する音だけが響く。

 ・・・まさか“あの人”がこんなに早く動くとは思わなかった。私の正体が彼等にばれるんじゃないかって、正直ひやっとしたよ。

 急に呼び出すのは勘弁して欲しいなぁ・・・と心の中でぽつりと呟きながら整理をしていると、ガララッと扉がゆっくり開いた。

 「浮かない顔をされていますが、大丈夫ですか八束先生?」

 扉の方へ目を向けると、来訪者は柔らかな笑みを浮かべ室内に入って来た。

 「大丈夫だよ、智嶋君。それより・・・どうしたんだい?怪我でもしたのかな?」

 僕が問い掛けると、智嶋君は「いいえ。」と小さく首を振った。

 「八束先生にお聞きしたい事があって来ました。」

 私は作業の手を止め、彼の方へゆっくりと振り向いた。

 「私に聞きたい事?一体何かな?」

 私が不思議そうに首を傾げると、彼は私の目の前にすっと近寄って来た。そして一言、静かに問い掛けた。

 「先程の闘い・・・わざと手加減したのは何故ですか、“八岐大蛇”さん?」

 「疑うなんて酷いなぁ。仕事中に突然呼び出されて、驚きながらも精一杯彼等を追い詰めたんだよ、“白澤”さん。」

 全てを見透かす様に真っ直ぐ見据え語り掛ける智嶋君の問い掛けに対し、私は少し困った様に眉尻を下げながら見つめ返し答えた。

 「貴方が本気で闘えば、隠神刑部が来るよりも早くあの2人を始末出来た筈です。」

 「違いますか?」と彼は囁く様に問い掛ける。

 「さぁ、それはどうだろう。あの2人は、かなり手強いから。」

 嘘は吐いていない。実際、彼等は逆境で実力以上の力を発揮出来る胆力を持っている。あれよりもっと追い詰められていたとしても、しぶとく喰らい付いて逆転の一手を仕掛けようとした筈だ。

 「・・・そういう事にしておきますよ。」

 暫しの沈黙の後、智嶋君は笑みを浮かべ扉の方へと向かった。そして扉の前まで来た所で止まり、此方に振り返った。

 「ですが・・・大蛇さん。」

 彼の表情は笑みを浮かべたままだが、その瞳は冷たく鋭く私を捉えていた。

 「もし天逆毎様の邪魔をしたり、裏切る様な事があったなら・・・死よりも残酷な罰を以て償って貰いますよ。」

 「・・・肝に銘じておくよ。」

 より一層の冷酷さを含めながら語られた言葉に、私は肩を竦めながら答えた。

 「それでは・・・失礼しました。」

 最後ににこりと微笑みながら、彼は保健室から去って行った。

 死よりも残酷な罰・・・か。何だか不信感を抱かれてしまったみたいだ。

 さて、どうしたものか・・・と思わず溜め息を吐いてしまう。別に天逆毎様に逆らうつもりは無い。彼女には弱っていた私を救って貰った恩があり、その恩には報いねばならないと考えている。しかし・・・この学校で養護教諭として過ごす中で、生徒達や同僚の教師達に多少なりとも親しみを感じており、彼等と接する事に楽しみを感じているのも事実である。それに土御門君が天逆毎様に何処まで喰らい付いていけるか、興味もある。矛盾する感情が私の中で渦巻き、ジレンマに陥っていく。そんな私の苦悩は、深い沈黙の中に呑み込まれていくのだった。

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