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黒い穴に呑み込まれた僕と壮吾が放り出されたのは何も無い白い霧の空間の空中だった。僕達はくるんと体勢を整え着地すると、辺りを注意深く見渡してみる。
「・・・信楽先生達と分断されちまったな。」
「うん。向こうは先生に任せて大丈夫だと思うけど・・・敵の作り出したこの空間の中じゃ何が起こるか分からない。心配だし・・・急いで合流しないと。」
僕達は短刀と天月をそれぞれ構え注意深く進んで行く。視界を遮る霧の中を一歩一歩踏み締める毎にピリピリと緊張感が増していく。
「!?壮吾・・・」
「あぁ。分かってる・・・。」
霧に紛れながら、僕達の周りを禍禍しい妖気が取り囲む。武器を握る手にぐっと力が籠る。
「グワァウッ!!」
僕達目掛けて一つ目の悪鬼達が風を斬り一斉に飛び掛かって来る。僕は短刀をブゥンッと一振りし、前方にやって来た悪鬼の上半身を勢い良く斬り裂いた。僕は刃を逆手に持ち直すとくるんと素早く体を一回転させる。僕を取り囲む様に襲って来た悪鬼達は僕の斬撃を受け血飛沫を上げながら倒れていった。だが幾ら切り裂いても、次から次へと悪鬼達がうじゃうじゃ現れ切りが無い。
「晴支、しゃがめっ!!」
壮吾の力強い声が空間の中で響き渡る。僕がサッと頭を屈めると、天月の白い斬撃が僕の周りの悪鬼達を一気に退治したのだった。
「晴支、無理するな!俺から離れるなよ。」
天月を振るい悪鬼達を薙ぎ払いながら僕の許に駆け寄る壮吾。悪鬼達を祓いながら僕が壮吾と共に一歩足を踏み出したその時―
「!?」
突如進行方向に陣が現れ大きく爆発する。強烈な爆風に吹き飛ばされる僕を壮吾が抱え込んで庇う。僕を抱えたまま地面をころころっと転がった壮吾にふよふよと漂う沢山の瘴気の玉が襲い掛かる。
「ぐっ・・・」
「壮吾っ!?」
僕を護る様に抱え込んで動いた壮吾は、避け切れずに瘴気の玉を腕や足に掠めてしまう。瘴気の玉が当たった箇所が忽ち酷く炎症し、その激しい痛みに壮吾は苦悶の表情を浮かべる。
「こんにゃろうっ!!」
更に襲い掛かって来る瘴気の玉目掛けて力一杯天月を振るった。天月の白い斬撃は前方へと放たれ、瘴気の玉を消滅させていったのだが―
仕掛けられていた術が突然発動し、陣と斬撃が衝突してしまう。そして斬撃は陣に弾かれる様に方向を変え、僕達の方へと向かって来た。白い斬撃を避けた僕と壮吾を、今度は植物の蔓が絡め捕り追い詰める。植物は縛り上げた僕達の体から生命力をみるみる吸い取っていく。力が抜け弱っていく自分の体を奮い立たせ僕達は蔓を斬り裂き束縛から逃れる。先へ進もうと足を踏み出す僕達を、様々な術が阻もうとする。
・・・兎に角前に進まないと!今の僕の状態じゃ戦力として弱すぎる。呪いさえ解ければ・・・強力な妖と出くわしても闘り合える。2人との合流を目指しながら、一刻も早く呪符と脱出用の陣を見つけないと・・・。
焦る気持ちが僕達を先へ先へと駆り立て、踏み出す足に力を込める。
「!?壮吾っ、あそこ!!」
僕が指差した先5m程の場所に、光り輝く陣の姿があった。加速し陣の場所へと急ぐ僕達だったが―
「うおぉっ!?」
突如地面がボコッと盛り上がり2人は体勢を崩してしまう。足下に視線を向けると、鋼の様に硬い外骨格がうねうねと長く波打つ様に出現した。
「おいおい・・・嘘だろ?」
目の前に現れた巨大な大百足を見つめ口許を引き攣らせながら、壮吾が小さく呟く。
「はぁぁっ!!」
僕は短刀を振り被り大百足の体に力強く突き立てようと試みる。しかし刃は硬い外骨格にぶつかるとガキィィンッという鈍く重い音と共に弾き返されてしまう。
「おぉりゃあっ!!」
壮吾も天月を振るい幾つも斬撃を繰り出すが、大百足の体には中々傷をつけられない。大百足はその長く硬い体をブンッと大きく振り僕達を容赦無く弾き飛ばす。激しい衝撃が僕達の体を突き抜け、そして僕達の体ごと勢い良く後方へと引っ張って行く。
「かはぁっ!?」
地面に強く叩き付けられ激痛が僕を襲う。大百足の更なる攻撃を短刀で受け止め何とか往なしながら、僕は体勢を整える。
「畜生!!あんなカタにょろ野郎・・・俺がぶった斬ってやる!!」
ギュッと強く柄を握り締め、壮吾が天月を構える。ふぅ・・・と小さく息を吐き、天月の中に宿る天龍の力を極限まで引き出す。
「はぁあああっ!!!」
天月に収束した強大な力を、壮吾は大百足目掛けて勢い良く放った。放たれた斬撃は巨大な龍の形を成し、その大きな口と鋭い牙で大百足に思い切り噛み付いた。壮吾の放った凄まじい威力の斬撃に、大百足の外骨格はバキバキィッと破壊された。そして大百足は白く輝く龍に呑み込まれ退治されたのだった。
「やっ・・・やったぜ!!これで陣の所へ行けるぞ!!」
「うん、急ごう!!」
地雷術式等を躱しながら前へ進み、僕達は脱出用の陣の所へと辿り着いた。
「良し・・・いくよ!せーのっ!!」
陣の前に屈み武器を構えた僕達は、合図に合わせ同時に刃を突き立てる。損傷した陣は効力を失い消滅した。
「まず1つ壊せた・・・。急いで残りの陣や呪符を見つけよう。」
僕の言葉に壮吾が力強くこくりと頷く。僕達は白く霞がかった空間の中を更に駆け抜けて行くのだった。