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葛の葉奇譚  作者: 椿
第13章:忍び寄る白
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2

 「失礼しまーすっ!八束先生、遊びに来たぜっ!!」

 中庭や食堂、図書室・・・と校内を廻っていた僕達が次にやって来たのは、明るい白色が映える保健室だった。

 「おや、いらっしゃい。進藤君達の後ろに居るのは・・・転入生の智嶋君だね。」

 にこっと穏やかな笑みを浮かべ「養護教諭の八束錦です。宜しくね。」と片手を差し出す八束先生。弥白も「宜しくお願いします、八束先生。」と差し出された手を握り笑顔で答える。保健室のベッドや椅子に座り各々寛いでいたその時、壮吾がふと窓の方へと視線を移す。

 「朝からカンカン音がしてるなって思ってたけど・・・旧校舎の方で工事してたんだな。」

 壮吾の言葉に僕達も窓から外を覗くと、旧校舎の周りを工事用の足場がぐるりと囲んでいるのが見えた。

 「あぁ、今日から旧校舎の取り壊しが始まるって言ってたよ。最近は奇怪な現象や事故も起きていないから、工事に踏み切ったんだって。」

 「奇怪な現象?」

 弥白が不思議そうに首を傾げていると、オカルト好きの仁が目を輝かせながら弥白の方にずいっと近付く。

 「うちの学校の旧校舎、色々な怪談話があるんだよ。誰も居ない廊下から足音が聞こえるとか、家庭科室の道具が飛んで来るとか。あと、旧校舎を歩いていたら何かに足を引っかけられてこかされたっていうのもあったな。」

 興奮気味にずいっと寄って行きながら熱弁する仁の怪談話に、弥白も「へぇ!それは興味深いですね!!」と食い気味に反応する。

 「旧校舎かぁ。前に家庭科室で包丁が飛んで来た時は吃驚したな。ね、土御門くん、赤星君。」

 ふふっと笑いながら語り掛ける八束先生の言葉に、僕と壮吾は「そっ・・・そうですね。」とぎこちない笑みを浮かべ答える。“包丁”という物騒な単語が出て来た事に、神崎さん達は「えっ!?」と驚愕の表情を見せる。仁は「それって、まさかポルターガイスト!?」と嬉しそうに問い掛ける。

 「いや、強風の所為で飛ばされたみたい。でも、私も最初ポルターガイストかもって思っちゃったよ。」

 「絶対ポルターガイストですって!!俺も体験してみたいなぁっ!!」

 「物が飛んで来るなんて、実際に起こるんですね。」

 八束先生の説明を受け、仁や弥白はポルターガイスト説で盛り上がり始める。そんな彼等の様子に、僕と壮吾はどう話し掛けたら良いか分からず唯静かに見守るのだった。


 「そろそろ次の場所の案内に行くか?」

 暫く皆でわいわいお喋りを楽しんだ後、直人の言葉に僕達は腰を上げた。八束先生に挨拶をして保健室を後にした僕達は、廊下を真っ直ぐ歩き出す。次に案内したのは美術室。絵具等の画材の香りが開けた瞬間ふわっと香る。

 「此処が美術室。まぁ、選択科目で美術を取ってないと余り入る機会は無いかな。」

 中に入ると、部屋の奥に制作中の絵が何枚か置かれていた。恐らく美術部の生徒の作品だろう。

 「?これ、何でしょうか。」

 弥白は床に落ちた紙を拾い上げ、隣に居た僕に見せてくれた。文字が書かれた呪符の様だった。感覚を呪符の方に研ぎ澄ませてみるが、特に怪しい術や妖気の気配は感じられない。

 「ねぇ、この紙・・・僕が預かっても良いかな?」

 「えぇ、構いませんよ。どうぞ。」

 呪符がどうしても気になってお願いした僕に、弥白はにっこりと微笑んで快く渡してくれた。

 「晴支!弥白!早く来ないと置いてくぞ~。」

 最後まで残っていた僕達2人に、仁の明るく元気な声が掛かる。「今行きます!」と返事をし急いで歩き出す弥白に続こうと呪符をポケットの中にしまいかけたその時―

 「!?」

 突如呪符に強い妖気が籠る。そして呪符に書かれていた文字が浮かび上がり、呪符を持つ僕の腕の中にその文字達が瞬く間に入り込んだのだった。

 ・・・敵の妖の術!?近くに潜んでいるのか!?

 警戒を強め周囲に神経を研ぎ澄ませていた僕だったが―

 「う゛っ!?」

 眩い程の光が僕を包み、ドクンッドクンッという激しい動悸が僕を襲う。苦しみの余り僕は胸をぐっと掴んだ。倒れない様にぐっと踏ん張り苦しみに耐えていると、僕の目線が徐々に下がっていき地面が近付いて来た。床に手を付き地面に座り込んだ所でやっと動悸が治まった。

 「今のは一体・・・」

 呼吸を整え立ち上がろうとした時、服が体に絡まり上手く立ち上がれずよろめいてしまう。

 何故こんなに制服がだぼっとしているんだろう?それに、目線が妙に低い・・・。

 嫌な胸騒ぎがしてぶかぶかの制服や体を触って調べる僕。その視界の端に小さな手が映った。

 この小さな手が・・・僕の手?

 僕はもぞもぞと美術室の中を移動し、棚の中にあった鏡を手に取った。其処に映し出されていたのは―

 大き過ぎる服に包まれ困惑の表情をしている小学生くらいの小さな少年の姿だった。

 「なっ!?体が・・・縮んでる!?子供の姿になってる・・・。」

 こんな姿では校内を歩いて敵の妖について調べる訳にもいかない。それに・・・この術の影響なのか、霊力や妖力を封じられていて上手く使えない。どうしたものか・・・と考えていると、美術室の扉がガララッと開いた。

 「!?晴支っ、何だよその恰好!?何があったんだ?」

 「大丈夫ですか、土御門君っ!?」

 中々来ない僕を心配してやって来た壮吾と神崎さんは、僕の変わり果てた姿に驚愕の表情を浮かべ駆け寄って来た。

 「美術室に落ちていた呪符が発動してその呪いを受けてしまった様なんだ。その所為で力も上手く使えない。」

 僕の説明に、壮吾は深刻な面持ちで「やっぱり・・・天逆毎の一味の仕業かな・・・。」と呟く。

 「恐らく・・・そうだと思う。発動の直前まで怪しい気配も、兆しも感じられなかった。かなりの手練れだと思う。取り敢えず、信楽先生に妖が入り込んでいる事を伝えないと・・・。」

 ひょこひょこと美術室の中をぎこちなく歩く僕を、壮吾と神崎さんが心配そうに支える。

 「神崎さん、信楽先生を呼んで来て貰えるか?俺はこの部屋を少し調べてみる。」

 「分かりました!」

 壮吾の声かけに頷くと、神崎さんは急いで扉の方へと駆けて行く。神崎さんが扉を開けると、丁度目の前に仁達が立っていた。僕は彼等に今の姿を見られない様急いで机の陰に隠れた。

 「3人が中々来ないから、少し心配で見に来たんだよ。・・・って、あれ?晴支は居ないのか?何処に行ったんだ?」

 不思議そうにきょろきょろしながら仁が一歩中に入る。仁の後ろから直人と弥白も部屋の中を覗き込んでいる。

 「あっ、えっと・・・つっ・・・土御門君は・・・」

 「せっ、晴支は信楽先生に急に用事を頼まれたらしくてそっちに行っちゃったよ。俺達もちょっと忘れ物があるから、先に3人で校内を廻ってて貰って良いか?」

 ぎこちない引き攣り笑いを見せながら語る壮吾と神崎さんを不思議そうに首を傾げ見つめる3人。一瞬何とも言えない気まずい沈黙が流れる。

 「・・・そっか。分かった。先に校内廻ってるから、後から追いかけて来いよな!」

 頭に?を浮かべつつもにっこり笑って先に校内案内へと戻って行った仁達。そんな3人を見送り去って行ったのを確認しながら、僕達はふぅ~っと安堵の溜め息を吐く。

 「では、私は信楽先生を呼んで来ますね。」

 神崎さんはフンッと力強くそう語ると、勢い良く美術室を出て行った。

 「俺達も部屋の中を調べてみようぜ。何か手掛かりが残ってるかもしれねぇし。」 

 壮吾の言葉に、僕はこくりと頷き立ち上がる。そんな僕の頭を、壮吾がわしゃわしゃと撫でる。

 「俺が絶対に晴支を元に戻してやるからな。任せとけ!!」

 にっこり笑う壮吾に、僕は「うん。頼りにしてるよ、壮吾。」と静かに微笑み返しながら答えた。そして僕達は呪術や敵の妖の謎について調べる為、動き始めたのだった。



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