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葛の葉奇譚  作者: 椿
第12章:震う大地
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3

 晴支達が天逆毎と対面する少し前。貴人と太陰は大鯰が封印されている京都の山に訪れていた。私は封印場所である草叢の真ん中まで進むと、そっとその場に屈み地面に片手を付いた。そして両目を閉じてこの大地に刻まれている封印へと意識を集中させる。

 「ふむ・・・。まだ封印は正常に機能しているみたいだな。」

 ゆっくりと目を開き小さく一言呟くと、私は静かに立ち上がった。

 「でも・・・いつ天逆毎が仕掛けてくるか分からない。気を引き締めないとねぇ。」

 横に立つ太陰が深刻な面持ちで語り掛けてくる。

 「そうだな。何としても、この封印を護り抜かねばならんな。」

 あの天逆毎の強大な力に我々が何処まで対抗できるかふあんはあるが・・・それでもやるしかない。

 2人の間に重くピリピリとした空気が流れる。これからどう動くべきか考え込んでいると―

 「おや、貴人さん。太陰さん。京都にいらしていたんですね。」

 背後から突然声が掛かる。振り返ると、其処には爽やかな微笑みを浮かべた孝行君が立っていた。彼の傍には忠親君や源家の姉弟、それに道華さんの姿もあった。

 「あぁ。君達も大鯰の封印について調べに来たのか?」

 私が問い掛けると、孝行君は楽しそうにくすっと小さく笑った。

 「御二人の気配を感じて気になったものですから・・・。様子を見に来たんですよ。」

 そう答えを返す孝行君の目は鋭く、キラリと光っている。

 ・・・流石賀茂家の次期当主といった所か。妖や同業者の動きを掴むのがとても早いな。

 「・・・また何か厄介事を持ち込んで来たんじゃないだろうな。」

 じとりと此方を睨め付けながら、剣治君がぽつりと呟く。

 「おやおや。相変わらず私達への接し方が手厳しいねぇ、剣治君は。」

 苦笑する太陰に、剣治君はふんっとそっぽを向く。剣治君が私達に刺々しいオーラを放っていると、隣に居た紗矢さんが彼の頭を軽くトンとチョップした。

 ・・・厄介事か。確かに、この国の存亡が掛かっている今の状況は相当面倒な問題だな。

 私は困った様に少し眉尻を下げ笑うと、孝行君達の方を真っ直ぐ見据え口を開いた。

 「実は、此処の大鯰の封印が天逆毎に狙われているという情報を掴んでな。近いうち、此処が襲撃されるかもしれない。奴等を迎え撃つのに出来れば君達の力を・・・」

 私が彼等に助力を請おうと語り掛けていたその時、直ぐ傍に突如陣が出現した。その陣の中から私達の憎き仇敵天逆毎が軽やかに飛び出して来た。彼女の両手には深手を負った晴支と酒呑童子がしっかりと捕まっている。

 「晴支っ!?酒呑童子っ!?」

 「浄き光よ、闇を滅し給え。急急如律令!!」

 私の破魔の光による波動と孝行君の破魔の術が同時に天逆毎に襲い掛かる。しかし私達が繰り出した攻撃は、彼女が纏う覇気によって打ち消されてしまった。

 「うっ・・・このっ!?」

 晴支の青い焔を纏った鉤爪と酒呑童子の刀が天逆毎に向かって振るわれる。しかし二つの刃が彼女に届く直前、捕まれた腕から2人の体に天逆毎の強烈な威力の覇気が放たれた。

 「ぁあ゛あ゛っ・・・!?」

 「う゛っ・・・ぐぅ・・・!?」

 激痛に顔を歪ませる2人。天逆毎は倒れる2人の腕を鋭い爪で軽く切り裂いた。そしてその血を地面にぽたぽたぁっと垂らしたのだった。

 「二つの血を持って、大地の呪縛より解き放たん。」

 天逆毎が呪文を唱えた直後、足下に光る巨大な陣が出現し、ぐらぐらぁっと大地が震動を始める。

 「なっ・・・地面から感じる妖気が・・・凄い勢いで強くなっていくぞ!?」

 激しく揺れる大地を見下ろしながら叫ぶ忠親君の声が響き渡る。地面から溢れ出る強い妖気とプレッシャーに、一同の緊張が一気に高まる。空を隠す様に、大鯰が大地の中から勢い良く飛び出しその姿を現す。

 「日本を・・・此の国の民達を、救って見せよ。」

 挑発的な一言を残し、天逆毎は私達を嘲笑いながら姿を消した。

 「あの大鯰を倒すのは・・・少ししんどそうだね。」

 「・・・でも、やるしかない。」

 孝行君と晴支は大鯰に攻撃を仕掛けようと構える。そして破魔の術と青い焔の爆撃を大鯰に御見舞いしようとしていると―

 「待てっ!!」

 酒呑童子の静止の声が響き、彼等はその言葉にぴたりと動きを止める。

 「奴はこの日本の土地と同化しており始末する事が出来んのだ。奴が死ねば、大地が崩れ此の国が沈んでしまう。其れ故以前も晴明と共に奴を生かした儘封印したのだ。」

 生かした儘封印・・・厳しいけど、皆で力を合わせれば何とかなるか。

 「分かりました。一斉攻撃で弱らせてから、封印しましょう。」

 晴支の言葉に一同が頷き、揺れ続ける大地の上で各々攻撃態勢を整える。3、2、1とカウントをとり一斉に攻撃を仕掛けようとしたその時だった。

 「せぇ~いぃ~しっ!!」

 上空から無邪気な声が降り掛かった。晴支が声の方に顔を上げようとしたその瞬間、黒い瘴気の刃の雨が彼目掛けて襲い掛かって来た。

 「この前の続きをしよう。遊ぼう、晴支!!」

 何とか防御の術で瘴気の刃を防いだ晴支に、牛鬼は瘴気を纏った重い蹴りを振り下ろす。しかし牛鬼の瘴気の蹴り技が晴支に届く直前に、呪詛の込められた水の刃が彼に突き刺さる。

 「ぐぁっ!?・・・ちぃっ。邪魔するなよ、腹黒眼鏡ぇ!!」

 傷口を押さえ孝行君をぎろりと睨み付ける牛鬼。そんな彼に対し、孝行君はにっこりと爽やかな笑みを浮かべる。

 「あはは。“腹黒眼鏡”って、酷いなぁ牛鬼。・・・って、おっと。」

 飄々と笑い牛鬼に追い討ちを掛けようとする孝行君に大鯰の尻尾が振り下ろされる。孝行君は飛び退いてそれを躱すと同時に土の針を突き立てようとしたが、大きく暴れる大鯰の尻尾に砕かれてしまう。

 「先に大鯰をどうにかしないと・・・。」

 「ははっ。そうはいかないよ。」

 晴支が大鯰に向けて破魔の術を発動しようと構えていると、牛鬼が瘴気の刃で彼に斬り掛かろうとしてきた。しかし瘴気の刃は破魔の光によって消されてしまう。

 「お前の相手は私だ。」

 私は牛鬼の傍まで素早く接近すると、破魔の光を纏った拳で力一杯殴った。牛鬼は両腕でガードしたが、威力を殺し切れず後ろに吹っ飛んでしまう。

 「痛ってぇなぁ・・・。斬り刻むぞ、貴人。」

 「やれるものならやってみろ。」

 怒りの形相でゆらりと立ち上がる牛鬼へ私はもう一発破魔の光による攻撃を仕掛けるが、牛鬼の瘴気の波動と激しくぶつかり合い相殺されてしまう。そして、牛鬼が私から距離を取り身構えていると、その背後から巨大な陣が現れ、その中から大勢の妖達がぞろぞろと出現して来た。

 「大鯰だけでも大変なのに敵の妖達まで・・・面倒ですわね。」

 道華さんは両手に扇を構え、敵の妖達をキッと鋭く見据える。敵の妖達は慎重に私達の様子を窺っている。

 「晴支と酒呑童子さんは俺がサポートするので大鯰の封印を、他の皆は妖退治を担当・・・っていうのでどうだろう?」

 孝行君の提案に、一同は了承し頷く。私達が攻撃を仕掛けようと構え動き出すと同時に、敵の妖達も私達の方へ走り始める。牛鬼の瘴気がドォンッと大きな音を立てて爆発する。それに続く様に、私達葛の葉庵や陰陽師の連合チームと敵の妖達が日本の存亡を賭け衝突を始めたのだった。



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