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太陽の光が眩い雲1つない晴天。その青空の中を焔に包まれた車が駆け抜けていく。
「火車の兄貴~、亡者達だいぶ集まりましたね。」
「そうだな。今日のところはそろそろ引き上げるか。」
火車が車をポンと1回叩くと、車体が下へと傾き、そのまま地獄に向かって下り始める。生前悪行を働いた亡者達を捕獲し、地獄へと連れていく・・・それが火車とその部下である猫又の夜汰の役目である。
「あ、あそこにお菓子屋さんがある。兄貴~、俺甘いもの食いたい。ちょっと寄りたい。」
「阿呆か!今仕事中だろ。寄り道なんて許さねぇ。お前の要求は却下だ、却下!!」
「え~。」
どうしても甘いものが欲しいと強くねだる夜汰の眼差しを一刀両断する様に火車は鋭く睨み付ける。
俺は早く仕事を終わらせて寝たい・・・。
気怠げに頬杖をつきながら車を操る火車と隣で外を眺める夜汰。
「こんにちは~。」
突然かけられた声に驚き振り返ってみると、そこには小柄な黒髪の少年が立っていた。
「誰だお前。俺たちに何か用か?」
背後に立たれたのに俺も夜汰も全く気付かなかった・・・。相当な手練れだ。それにこいつ・・・かなりやべぇ!
火車達の警戒が最高レベルまで引き上がる。そんな彼らに対し、少年はクスクス笑いながら愉し気に答える。
「そう怖い顔しないでよ。俺はただ車の中の亡者さん達に実験に協力してもらいたいだけだよ。」
「実験?」
「そう。ある呪術の実験の被験体になって欲しいんだぁ。良いかなぁ?」
笑みを絶やさぬまま、何かを探る様な上目遣いで語り掛ける少年。少年の纏う冷たい、突き刺す様な威圧感に気圧されそうになる・・・。
「断る・・・って言ったら?」
「駄目なの?残念だなぁ。俺としては平和的に進めたかったけどなぁ~。」
少年はわざとらしく両手を広げて残念そうな表情を見せる。のらりくらりとしていて今一つつかめない・・・そんな得体の知れない不気味さが、この少年にはある。
「悪いな。・・・つーわけで帰ってくれ!」
火車は己の拳に焔を纏わせると、その拳を少年に向けて振り下ろす。その焔の拳を、少年は避けずに片腕で受け止める。
「・・・仕方ない。じゃあ力尽でやらせてもらうよ。」
少年の強烈な蹴りが火車の腹部に直撃する。
「がはっ!?」
「兄貴!このやろぉ!!」
火車を助けようと夜汰が少年に攻撃するが、軽々と躱されてしまう。
「あんた達が悪いんだよ?大人しく言うこと聞いてくれないからさぁ。」
そう言うと、少年は2人に向けて瘴気を込めた爆撃を放つ。ドォンッという大きな音と共に2人は車の外へと放り出され落ちていく。火車の操りが解けた車はグラリと揺れ急降下するが、少年は気にすることなく扉を蹴破る。その中には亡者達が沢山閉じ込められており、突然現れた彼を一斉に見つめる。
「おお~、沢山居る居る!あ、どうも。いきなりだけど、ちょっと協力してもらうね。ちなみに、あんた達に拒否権無いから。」
少年は訝しむ亡者達に向かって赤い珠を放り投げる。するとその珠は亡者達の頭上で紅く輝き、黒い霧で彼らを覆ってしまう。
「よし。俺の役目はここまでかなぁ~。じゃあ、バイバ~イ。」
霧の中の亡者達に向かって手を振った後、少年は空に向かって身を投げると、そのまま姿を消してしまった。