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獣人☆異世界地獄



「おうちに、帰りたい。」


 思わず幼児退行したかのように呟いてしまったのには、深い訳がある。

俺がいきなり来させられたこの異世界、獣人だらけなのだ。


 そして、俺は動物が大嫌いだ。


 右を見ても獣人。左を見ても獣人。

別にアレルギー等はないので死ぬことはないけど、正直言って近寄りたくない。

怖いとかでもない。ただ嫌いなのだ。関わらなければならないという事態に陥ると不愉快でしかたないのである。完全にストレスにしかならない。不衛生にも感じる。やむを得ず触らねばならないなら、きちんと手を洗浄・消毒できる場所が近くに無いと困る。


 動物嫌いは、動物好きな人には受けいられ難い。猫やら犬やらがゴキブリと同じようにしか見えないと思って諦めてくれたらいいのだが、動物が大好きな人ほど相互理解しようとする姿勢が無い。

動物嫌いの俺は社会不適合者であるとひたすら罵ってくるのだ。


 そのあたりもまた、俺の動物嫌いに拍車をかける。

別に俺はすべての人間に動物が嫌いになれとは思ってない。ただ、俺には無理。それだけだ。

他の人が、動物がどれだけ好きだろうがどうでもいい。

お前らが好きだからって俺に動物を見せたり触らせようとしたりするなと。それだけなのだ。

なのに動物好きどもが自分勝手な思想を押し付けようとしてくると反吐が出てしまう。



 そんな俺だから、この状況は最悪だった。

獣人界で噂の超絶モテカワ娘が三匹、俺に求婚してきて取り合っているのだ。


 一匹目はネコ型獣人のモモ。


 二匹目はウサギ型獣人のハナ。


 三匹目はキツネ型獣人のリン。


 どれも顔だけ見れば確かに可愛いかもしれない。スタイルもそれぞれ味があっていい。

しかし、耳、尻尾、膝下が獣なのだ。それだけで、外見を説明する気すら失せる。


「ねぇ、タツヤぁー。買い物についてきて?」

「仕事あるから。」


「た、タツヤさんっ! あの、クッキー焼いたんです!」

「いらない。」


「タツ! 泊まりに行ってやるぞ!」

「間に合ってます。」


「くぅぅ、かっこいいよぉ。」

「クールなところがステキですぅ~。」

「焦らしおって! わしはいつでもいいのに……。」



 俺は視線も合さず早歩きしながら全力ぶった切りで断っているのだが、そこがまた奴らには堪らないらしい。

なんだあいつらドMなのかと思ったが、普通の雄は下半身直結厨ばかりなため、モテモテの獣娘どもは、自分の姿を視界にすら入れない俺が珍しいようだ。


 普通の女の子なら、俺も嬉しかったと思う。

俺だって男だ。女の子に興味が無いわけじゃない。

ただの女の子なら、買い物に付いていくのもイヤじゃないし、クッキーも好きだし、お泊りも大歓迎だ。


 ただ、獣人。お前らはダメだ。


 買い物は1メートルぐらい離れてくれてるなら行けるかもしれない。

手をつなごうとされると鳥肌が立つ。触らないで欲しい。

横に立つと体をすり寄せてにおいをつけようとしてこられるのも無理だ。

尻尾で背中をペシペシされた時には死にたいと思った。


 何が混入してるかわからない手作りの食べ物も無理。

動物の毛が混入したメシは、元の世界にいた頃からのトラウマである。

この世界に来てから料理のスキルが上がりっぱなしだ。

外食も無理になったからだ。買った野菜類はものすごく洗うよ?


 お泊りなんて問題外だ。

自分の家に獣人を入れたくないし、獣人の家に行くのもいやだ。

とにかく抜け毛がウザい。衣類用粘着シートが何本あっても足らないこと間違いなしだ。

俺の布団に入られたら、翌日には買い換えなければならないだろう。

ただでさえ触りたくないのに、夜のお相手とかどんな拷問だよ。



 ネコ型獣人のモモ、ウサギ型獣人のハナ、キツネ型獣人のリンは他の獣人の雄どもにものすごくモテているようだ。

イケメン獣人よりどりみどりなんだから、さっさと諦めてほしいものだ。


 先日も、モモが他の雄に告白されている所を目撃した。

モモに高そうなネックレスを渡して、結婚を前提に~ってやつだ。

モモが俺に目撃されてるのに気付いてしまったから、俺はにっこり笑って祝福してやったのだ。


「モモ、良かったね。」


 そしたらなぜか、ほっぺた真っ赤にして目を潤ませて俺に見とれてやがんの。

「クールなタツヤが……笑ったぁ……。」とかボソボソ言ってんの。

俺は別に無表情能面キャラではないはずなんだが。



 ウサギ型獣人のハナも、この間ナンパされてたのを目撃した。

俺はたまたま通りすがっただけなので、スルーして歩いて行こうとしたら、

ハナが「タツヤさんっ!」とか言って呼びつけやがんの。

腹が立ったから、思いっきり不機嫌そうに睨んで、


「なんだ?」


って冷たく言ってやったらさぁ、何故か、ナンパしてた獣人が逃げていった……。

そのあとハナは「タツヤさん、助けてくれてありがとうございますぅ!」とか言って抱きつこうとしてくるから、避けるのが大変だった。

助けてねぇし! 触るな!



 ちょっと前には、キツネ型獣人のリンが獣人の雄を足蹴にしていた。

その獣人の雄があまりに嬉しそうにしていてマジでドン引きだった。


「おお、タツではないか!」


 その状態でリンは俺に声をかけてくる。

知り合いに思われたくなかったが、あまりの光景に一言もの申してやろうと思ってしまった。


「お前……変態だな。」


 そしたらリンは何故か尻尾を左右に小刻みに振りながら、顔をニヤけさせて、耳まで赤くしながらこう言ったのだ。


「タツ、もっと罵って欲しいのじゃあー。」


 俺が全速力でその場から逃げたのは、当たり前だよな?

なんだか異世界に来てから俺の中の常識とか良心が少しずつ磨り減ってる気がする。



 そして、その辺の雄どもの羨望の的の獣娘たちをすげなく降っている俺。

妬み嫉みで喧嘩も売られまくりである。

受け入れても妬むだろうに、俺にどうしろって言うんだ。


「おいタツヤあ! 今日こそぶっ殺してやる!」


 毎日のことだが、今日もまた俺は喧嘩を売られている。今回はトラ型獣人の雄だ。

正直言って無視して通り過ぎたいのだが、動物どもは視線を合さないと勝った気分になるらしく余計に厄介な事になるため、思いっきり睨みつけ返す。


 虎男が大振りで殴りかかってくるのを、体をひねって避ける。

そのまま連打してくるが、俺は虎男を睨みつけたまま避け続ける。

蹴りを入れてくるのを後ろに飛んで避ける。


 虎男が疲弊するまで続く簡単な作業である。

俺はけっしてやり返さない。そして、けっしてやられない。

何故かというと、もちろん触りたくないからである。


 触りたくないという一心で、俺は対動物に限って無意識に避け続ける事ができるのである。

いきなり抱きつこうとして来るネコ型獣人のモモさえ、後ろからそっと来ても完璧に避けることができる。

この技術がなければ、俺の胃には巨大な穴が開いていただろう。

いやそれ以前に獣男に殴り殺されてたかもな。ハハ。


「タツヤ様、ステキ……!!」

「踊ってるみたい。やり返さないであげてるなんて紳士だわ。」

「あのカッコイイ人、タツヤさまって言うの?」


 なんだかいつの間にか周囲にいるギャラリーから怖気のするようなセリフが聞こえた。

さらにファンが増えるとキツい。こういう事になるから、ところ構わず喧嘩を売ってこないで欲しい。

ボコボコにされた所をみんなに見せつけたいのかもしれないけど、逆効果だから。


「馬鹿野郎! ちゃんと当てろ!」

「モヤシのウラナリビョウタンなんかやっつけちまえ!」

「真面目に決闘しないなんて、なんて嫌味なやつだ!」


 うわあ、俺の敵がさらに増えた。

これ決闘だったの? ただの暴行殺人未遂事件じゃね? ぶっ殺すしか言われてないけど。


「あんたたち何よ! タツヤ様がカッコイイからって悪口言わないでよね!」

「なんだと!」

「見苦しいわね! 男らしくない!」

「お前ら、あいつのどこがいいんだよォ!」

「どこもかしこも、あんたたちよりずっと素敵よ!」


 ギャラリー同士でも喧嘩が始まってしまった。

これはまずい。ただでさえ平穏でない俺の暮らしが、町を巻き込んだ戦争状態にまで発展してしまう。


「みんなやめてくれ。俺がここを出ていくから。」


 相変わらず虎男の拳を避けながらそう言うと、ギャラリーの獣娘たちからものすごい悲鳴が上がった。

虎男も他のギャラリーの獣男たちも思わず耳を塞いだぐらいである。


「うそおおおおおおおおおおおおお!!」

「いやあああああああああああああああ!」

「タツヤさま行かないでええええ!」

「タツヤ様が出ていくなら、アタシもついて行く!」

「ずるい! わたしもついて行くんだから!」


 獣男たちが涙目である。俺も泣きたい。



 まあ、喧嘩売ってくるとか、嫉妬で嫌味を言ってくるぐらい、まだいいのだ。

俺のファンクラブとかもちょっと恥ずかしいが、まあ実害はないから耐えられる。

それより、獣娘とくっつけようとしてくるお節介な奴らが居るのがウザい。


 老若男女はあまり関係なく、ネコ型獣人のモモ、ウサギ型獣人のハナ、キツネ型獣人のリンのいずれかと、俺の両方を好ましく思っているらしい連中が毎日説得しようとしてくるのだ。


「モモちゃんの何が不満なの?」

「タツヤなら、ハナちゃんを譲ってもいいと思ってるんだ……。」

「リンたん一回でいいから食っちゃえって! メスにあそこまで言わせるなんて男がすたるぞ!」


 お断りします。おことわりします。おーこーとーわーりーしーまーすー!


 あまりにウザいし、俺の話なんか聞きそうにないから無視してるんだが、何も言わないのは言わないので色々と妄想されてしまうらしい。


「モモちゃんが可愛すぎて照れちゃうんだね。」

「くっ、僕に気を使わないでくれ……。ハナちゃんが幸せならいいんだよ……。」

「真面目で堅物だな、そういうの、嫌いじゃないぜ!」


 なんでそうなる。


「俺はそんなんじゃない。」と言ってみても、


「謙遜してるー!」

「わかってるって!」


 みたいな事を言われて、考えを変えやしない。

わかってねぇよ!


 こいつらは自分が好きなものは全員が好きに違いないと信じているマジキチどもだ。

他人の気持ちや嗜好なんか考えたこともないんだろう。

俺はこういう奴らが大嫌いだ。

悪気はないんだろう。良い事をしてるつもりなんだろう。でも、俺には悪意を感じる。


こないだの奴らは本当にひどかった。

ネコ型獣人のモモを応援してるヤツらがヒソヒソと喋っているのを聞いてしまったのだ。


「もうさ、トキソプラズマに感染させてメロメロにしてやろうよ!」

「だよねだよね、ちょっと性格変わっちゃうかもだけどー。」

「なんか焦れったいもんね!」


 トキソプラズマとは、原虫感染症の一つである。いわゆる寄生虫である。

鼻の粘膜などに寄生されると、軽い風邪のような症状が出るという。

もし脳に寄生されてしまったら、性格が歪み反社会的になり、統合失調症や双極性障害にかかりやすくなる。

そして、トキソプラズマの終宿主であるネコ科の動物が好きになってしまうのだ。


 奴らは俺がトキソプラズマに感染したら、クールでワイルドなのに嫉妬深くてモモのことを溺愛するような男になるとでも思っているのだろう。


 誰がなるかぁ!!


 俺はそれから、他人がくれたものは水すら飲まないようにしている。



 飲食物を渡そうとしてくる獣人が、すべて俺を毒殺するつもりなのではないかと疑い、このまま嫌悪対象だらけの異世界で孤独に生きるよりは、トキソプラズマにでも寄生されて頭がおかしくなって、異常な猫好きになったほうがいいのかもしれないと思ってしまう時もあった。


 俺はただの人間だ。しかもどちらかというと、不器用な方の人間だ。

そんな血迷ったことを考えるなんて、毎日起こるトラブルとストレスにかなりやられていたんだと思う。


 そんな俺に、救いとなりそうな獣人を発見した。

トリ娘のサクラさんと、ヤモリ娘のリリーちゃんである。


 トリ娘のサクラさんは、頭の部分は人間なのだ。

翼ついてて、鳥足だけど。毛が抜けまくらないところが好ましいと思う。

顔の造形は平凡だが、上半身だけ見ると天使っぽい。


 ヤモリ娘のリリーちゃんは、頬と額と手足に鱗が見える。

全身はちょっとわからないが、あれは皮膚病、あれは皮膚病、と自分に言い聞かせればイケそうな気がする。

愛嬌のある顔立ちなのだが、この世界では非モテ顔にカテゴライズされるらしい。


 今のところ、まだ遠目に眺めるだけにしている。俺には敵が多すぎるのだ。

この世界ではあまり可愛くないほうらしいトリ娘のサクラさんや、ヤモリ娘のリリーちゃんが好きって言ったら、俺のファンクラブから嫌がらせを受けること間違いなしだ。

俺にやたら執着しているモモ、ハナ、リンも、あんな娘に負けられないと今以上に面倒くさいことになるだろう。

そして町のオスどもは、美人だけじゃなく手当たり次第メスに手を付けやがってとか言って喧嘩売ってくるわけだ。


 ちくしょう、この町のやつらぜんぶ敵だ。


 あー、病んでるなー俺。

思ったよりずっと弱ってるじゃん。卵産んじゃう娘とか選んでどうする気だよ。

半分ヒトだからなんとかなるのか?

生き物全般無理だったのに、鳥とか爬虫類ならイケるかも……とか思うのって、血迷ってるよなぁ。


 だから、俺が幼児のように呟いても、弱ってるから仕方ないのだ。


「おうちに、帰りたい……。」






~糸冬~


ハーレムなのにぼっち

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