イケメン大好き小池さん
「最近ねぇ、すっごいイケメン見つけたの! もう理想そのもの!」
私の友達の小池さんは、イケメンが好きなんだそうだ。
もんのすっっごい面食いで、顔が全てなんだって。
小池さんが自分でそう言ってた。
芸能人で言うとどんな人?って聞いてみたけど、最近のテレビタレントには真のイケメンがいないんだそうだ。
イケメンタレントとか言われてる男なんか、大したこと無いんだって。
小池さんのあまりの理想の高さに、私は「ヘエー、ソウナンダー (棒読み)」としか言えなかった。
そんな、ただしイケメンに限った小池さんが、理想の男を見つけたという。
それは気になるじゃないですか。
私も、イケメンが嫌いなわけじゃない。拝んでみたい。むしろ拝ませて欲しい。
別にイケメンと付き合いたいとかは思ってないよ。分不相応ですからね。
この私が、イケメンじゃないとイヤ!なんて言ってみたらさ、失笑されて「鏡見て来いよ」って言われちゃうよ。間違いない。
そりゃあ、チャンスがあれば食らいついていきたいですけどね? そんな夢を見るのもおこがましいとわかってます。
でもね、だからこそ、見るだけならいいよねって思うんだよね。
イケメンは虚構の存在。お触り厳禁の閲覧オンリー。それぐらい考えるのくらいは許して欲しい。
小池さんが発見した未知なるイケメンを拝謁させて頂きたい。
「小池さん、そんなすっごいイケメン、私も見てみたいな。」
「うーん、ライバル増やしたくないし。」
「絶対にライバルとかならないから! 好奇心で見たいだけだから!」
「本当にイケメンだから、誰にも見せたくないぐらいなの。」
「遠目からチラッと実在するかの確認をするだけだから! ね?」
小池さん、イケメン見せてくれないの?
こうも焦らされると、本気で見たくてたまらなくなる。
どれだけイケメンなんだろう。
私の頭の中では、二次元的な超イケメンのイメージが色々と浮かんで消えた。
確かに、私まで真のイケメンに惚れちゃったらどうしよう?
とんでもないイケメンなんだから、見ただけで骨抜きになることぐらいあるかもしれない。
でも、小池さんは可愛いから。恋敵に成り得ないし大丈夫。私はすぐ諦めると思う。
諦めと切り替えとポジティブさには自信がある。
「実在するかの確認って……、ウソじゃないからね。」
「うんうん、わかってる! 小池さん嘘ツカナーイ。だから見せて!」
「んー、でもなぁー。」
「そうだ! 付き合い始めたら紹介してよ! それならいいでしょ?」
私にしてはいい提案だと思った。
付き合い始めてたら、別に問題ないよね。小池さん可愛いから、すぐラブラブバカップルになると思うし。
そんな姿を間近で見せられたら、どれだけイケメンビームにやられてても、すぐ思い出に変えられるよきっと。
すさまじいイケメンなんだから、小池さんが並み居るライバルどもを蹴散らして勝利する日を、のんべんだらりと待つしかないよね。
私はイケメン閲覧イベントが無事に発生しますようにと、その日の一番星にお願いした。
星はきらりと輝いた、ような気がした。
一番星にお願いした結果、小池さんからあまりにも早いイケメン陥落の報告があった。
私のおかげなんじゃないだろうか? きっとそうに違いない。
小池さんが可愛いというのも、3割ぐらいはあるだろうけど、あまりにも早い。
まさか次の日に付き合い始めるなんて。
「もう、何してもイケメンなの。かっこいいよー。」
「小池さん、どんどんノロケていいからねぇ。」
「かっこいいのにさあ、甘やかせまくってくれるのー。」
「ほうほう、それはそれは!」
「髪の毛撫でてくれてさぁ、ちょっと目元が赤くなってて、あああ、かっこいいよう」
「なるほどなるほど! 絶対にイケメン見せてね!」
友達のノロケ話を聞くのは大変な苦行だった。相槌がワンパターンになりがちになってしまうため、適当な言葉を捻り出すのが大変なのだ。でも、小池さんの幸せオーラを感じると、私も嬉しくなっちゃう。
小池さんのノロケによると、イケメンのほうも小池さんが気になってたんだって。
さすが小池さん。可愛いだけあるね。
小池さんはサラサラふわふわした茶色い髪の毛で、目が大きくて、マツゲも長くて、小っちゃくて、細くて、抱きしめたら壊れちゃいそうな、いかにも男受けしそうな可愛い子なんだ。
私も男だったら、小池さんを監禁して陵辱してヤリてぇって思っちゃいそうだもん。
やっぱ顔だよね、世の中は顔。第一印象は顔なんだよね。
顔が良くないと、他にどこが良くても視界に入れてもらえないからね。
私は日陰で生きていくんだろうなあ。小池さんが羨ましい。
好まれる顔にも地域差や流行があるから、どこかの国で何十年か後なら、 私の顔の時代 も来るかもしれない。
その頃には 私の時代』は終わってるんだろうけど。
まあ、それはともかく。
小池さんがとっても幸せそうなので、私は小池さんとイケメンが末永く続いてくれるといいなって思った。
小池さんはイケメンと週末にデートするそうなので、私は偶然を装って通りがかり、挨拶して、さりげなくイケメン彼氏を紹介してもらうという事にした。
イケメン彼氏を見て、「あれー、彼氏いるんだ!」って驚いて、「かっこいい彼氏だね!」と言って去る。
そんな小芝居が必要なのかどうかわからないけど、一緒に出掛けるわけにもいかないし、私のために呼び出すというのも迷惑すぎる。
紹介し合う必要もない。あくまで偶然の通りすがりでいいんだ。
だって、知的好奇心を満足させたいだけなんだもん!
ああ、週末が待ち遠しい。
週末までは果てしなく長く感じた。
とくに授業中が長い。一時限が終わるのに、どれだけかかってんのって感じで。
まだ終わらないのかーって時計を見ても、五分ずつしか進んでいかない。
時間の進むのが遅すぎる!
楽しみすぎて夜に寝られないから、つい授業中に寝そうになったよ!
そんな日々もなんとか過ぎて、楽しみにしてた週末が訪れた。
小池さんたちは、郊外型巨大ショッピングモールで映画見てクレープ食べるんだって。
うん、ベタだね! ベタなデートだね!
私はハリキッてショッピングモールに行って、ゼブラマキアート一つでカフェに三時間ほど居座って時間を潰した。
行き交う人々を観察する。なかなかイケメンが多い。
ただのイケメンじゃなくて、雰囲気イケメンが多い。みんなオシャレだね。
本当のイケメンの人がいると、通りすがりの人が振り返って見てたりする。
うんうん、眼福だよねー。
おや、あのイケメンの人はショップの店員さんか。
エプロンの上に服を着ちゃって、正面から見るとスカート履いてるようにみえる。
イケメンなだけに、目を疑ってジロジロ見てしまうよ。
ちょっと変だけど、イケメンだから許されるのか。
小池さんイチオシのイケメンを見る前にと、一般イケメンを眺めて心構えをする。
多少のイケメンならクールに対応して小芝居も打てそうな気がしてきた。
さあ、いつでも来い。
時刻を確認すると、映画が終わる時間のようだ。
私はゆっくりとフードコートへ向かった。
かなりゆっくり向かったはずなのに、あっという間に着いてしまった。
楽しみすぎて、どうしても気が逸ってしまうみたい。仕方ないので戻って、一往復した。
無駄にうろうろして戻ってくると、小池さんが歩いてくるのが見えた。
そしてその隣にはイケメン彼氏が……?!
サラサラふわふわの少しクセのある髪の毛、白い肌、細い目、低い鼻、のっぺりした顔。
思わず二度見してしまうほどのブサイクです。本当にありがとうございました。
っつーかキモい。キモいよ!
小池さんの好きな 真のイケメン彼氏 は、ただのキモメンだった。
いったいどうなってるの? 小池さんB専なの?
そりゃ、そんだけキモいブサメンだったら、可愛い小池さんが釣り糸垂らせば入れ食いしちゃうよ。
むしろ断ったら拷問して八つ裂きの刑ですよ。
喜んで尻尾振って腹を見せて転がる以外の選択肢は与えられないと思う。
「あ、あああー、小池さんッ。」
「やだ、偶然だね!」
「こ、小池さんって、かかか彼氏イルンダー。」
平静でいようと思ったのに、動揺しすぎてどもるし、声は裏返るし、棒読みになってしまった。
焦りがさらに焦りを呼び、私の頭のなかは真っ白だった。
どっからどう見ても挙動不審だと思う。
「うん、最近付き合い始めたんだ♪」
「どーも、はじめましてー。学校の友達の子?」
「そそそ、ソウデス。」
イケメンな彼氏だね♪と言い捨てて逃げなきゃ。
なのに、体も口もうまく動かなくて、壊れたロボットみたいになってしまう。
キモいブサメンに話しかけられたせいか、手が震えてる。
バレたらヤバいから、震えを止めたいのに止まらない。
呼吸が浅くなり、背中から変な汗も出てきた。目の前がぐらぐら揺れる。
「なんか顔色が悪いよ、大丈夫? お水持ってきてあげるね。」
小池さんが行ってしまった。
そして私はキモいブサメンと二人、残されてしまった。
小池さん、私を置いて行かないで。行くならキモいブサメン彼氏も連れていって。
「座りなよ、辛そうだし。」
「いいいイエ、大丈夫デス。」
座ったら逃げられなくなるではないか。
私の足が動くなら、すぐに逃げ出したいのに! なんで動かないんだろう?
膝下がガクガクして、力が入らない。
「いいから座って。倒れたら大変だし。」
「え、う……わ!」
私は肩を抑えられて無理やり座らされてしまった。
おいコラ触るな、穢れるだろうが。
すごい鳥肌が立ってるのがわかる。優しさに嫌悪感を感じるなんて、とんでもないキモさだ。
助けを求めて小池さんを目で探すと、小池さんは紙コップを持ってウォーターサーバーに並んでいた。
小さくて可愛い。私のためにしてくれているんだと思うと嬉しいよね。
「小池ちゃん、可愛いよね。」
「は、ハイ、カワイイデス。」
「それに、いい子だよねー。」
「と、トッテモイイコデス。」
「……あんな可愛くていい子が、なんで俺なんかと付き合ってるんだろ?」
「え?」
私は驚いてキモいブサメンを見ると、キモいブサメンがすっげー真剣な顔をしていた。
その顔がまたキモいのなんのって。やめろ死ねる。
うっぜきめぇ視界に入るんじゃねぇよ、と思わず舌打ちしそうになった。
「……小池ちゃん、罰ゲームとか賭けとかで俺と付き合ってるのかな?」
なんと、このキモブサ男は、小池さんを疑っているのだ。
あり得ない。お前に比べたら小池さんは天使だよ。女神だよ。おまえ不敬罪で地獄行きだよマジで。
小池さんはただ好みが人と思いっきり違ってるだけで、あと顔しか見てないだけで。
こんな、根暗でキモいブサメンが、……好きなだけの、可愛くて、本当にいい子なんだ。
「小池さんはそんな子じゃないよ!」
「……だよな。」
「小池さんがさ、い、い、……すっごく好みのタイプだって、言ってたよ。」
私には言えなかった。
イケメンって言ってたなんて言えなかった。
こいつがイケメンとかそんな心に一欠片も無い言葉、喉から搾り出そうと思っても出てこなかった。
ごめん小池さん。私は大根役者だよ。自分がこんなにも嘘がつけないなんて思わなかったよ。
「そう、なんだ。」
嬉しそうに微笑むキモいブサメン。小池さん早く帰ってきて。
キモいブサメンの微笑みとか別の意味で破壊力抜群すぎる。
ライフがゼロどころかゲージごとぶっ壊れて画面が砂嵐になって雑音とともに「ユルサナイ……」って怨声が聞こえるレベルだよ。
「小池ちゃんと付き合ってるなんて、なんかふわふわした夢みたいでさ。」
「……はあ。」
浮かれてるのか。ウカレポンチか。
まあでも、逆の立場だったらと考えればわからんでもない。
たとえ、超イケメンが私のことを好きって言ってきたとしても、さっぱり現実味がないと思う。
実際、ありえない話だよ。仮定でもありえないって思うもん。
「好きって言われても俺こんなだし、自信なくてさ。ごめん、キモいよね。」
うんキモい。タヒね。
じゃなかった。落ち着け私。びーくーる。冷静になれ。
小池さんが好きになるだけあって、悪いやつでは無いんだよね。
視界に入らなければ許せる。消滅してくれないかな?
いやいや、こいつが消えたら小池さんが悲しむよ。なんてとんでもない事を考えるんだ私は。
「こ、小池さんには、す、好かれてる、よ? ちょっとは、自信持っても、いいんじゃ、ないかなー。」
「……ありがと。」
はぁー、すっごい微妙な気持ち。
おどおどビクビクしやがって!うぜぇ!と思う気持ちと、調子に乗ったキモメンは爆発すべきって気持ちで混ぜこぜになってる。
リア充爆発しろとは思わない私だけど、調子に乗っちゃってるウザいキモメンは爆発四散すべきだと思ってる。わりと本気で。
だから、小池さんの彼氏として自信を持って堂々としてもらいたいけど、キモいブサメンには調子に乗ってほしくない。微妙すぎる。
うん、悪いやつじゃないんだけどね。
純粋そうっていうか、DT臭いっていうか、人相が変わるまで顔をぶん殴って海に沈めたいというか。
ブスは三日で見慣れるというけど、こいつも三日ぐらいしたら見慣れるんだろうか。
いやいや、三日もキモいブサメンを見るなんてどんな罰ゲームだよ。二度と見たくねえよ。
「おまたせ、お水だよー。」
ひゃっほい! 我らが天使、小池さんが戻ってきた!
笑顔が眩しい。キラキラしてる。その力でキモいブサメンが浄化されたらいいのに。
「ありがと、デートの邪魔してごめんね。」
私は受け取ったお水を一気に飲み干して、むせた。
げほげほと咳込み、涙目になりながらも、もう大丈夫、大丈夫だからと言って急いで逃げた。
最低最悪な一日だった。記憶を無くしてしまいたい。
今からウオツカ飲んでもダメですよねー。
つらい。
ああ、道を歩いているとたまに見かける、もんのすごいブサイクに可愛い彼女がいるのって、こういう事だったんだね。
なんであんな醜男に、こんな可愛い子が! 恥ずかしい弱みでも握られてるの? と、殺意を覚えたりしてたけど、たまたま特殊な好みの美人と出会えたラッキーな人なんだね。
蓼食う虫も好きずきと言うけど、そうやって遺伝子のバランスを取って世界は成り立っているんだ。
逆はまったく見かけないけどね!
イケメンが超ブサイクな彼女を連れてたら驚くよ。
どうしたの? 脳に蛆が湧いたの? って心配になるもん。
はぁ。
相手はともかく、小池さんのデートの邪魔しちゃって申し訳なかったなー。
もう二度と、二度とイケメンが見たいなんて言わない。
軽くトラウマになったよ。好奇心は身を滅ぼすね。
月曜日。
小池さんに挨拶したけど、少し膨れてる。可愛いけど、怒ってるみたい。
「小池さん、ごめんね。せっかくのデートの邪魔になっちゃって。なんか急に体調が悪くなって。許して!」
「……うん。」
手を合わせて頭を下げて謝罪する私に、小池さんはまだムスっとしてる。
反省と後悔でいっぱいだよ、私は。
本当に悪いと思ってます!
せっかくの初デートだったんだもんね。
そんな時に乱入して、雰囲気ぶち壊しちゃって、本当に悪いことをしたなあ。
どうしたら詫びれるかな。
「私のせいで何かあったの? 本当にごめんね!」
「……彼氏がね、」
「うん?」
「『小池ちゃんの友達、いい子だね』って。……『また今度、三人で遊びたい』って。」
……はい?
「ごめん。八つ当たりってわかってるんだけど……あんなにイケメンだし、わたしなんかじゃダメなのかなって。」
あいつ殺したい、じゃなくて、拗ねてる小池さん可愛い! じゃなくて。
なに、なんなの? 嫉妬されてるの? 小池さんに? 私が??
意味がわかんない!
「うへええええええええええ?!」
もう、ツッコミどころがありすぎて何から言えばいいのかわかんないよ……。
とりあえず、小池さんを不安にさせてるあのゴミクズ野郎、爆ぜて蒸発してチリ一つ残さず消えればいいのに。
~糸冬~