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【86】神様とおみくじと

 三日目は京都で、神社や寺を回った。

 吉岡くんは宗介にかなり怒られていたけど、あまり懲りてない様子だった。

 でも私が気分を悪くしたんじゃないかと心配はしてくれてたみたいで、ごめんなと言って老舗で抹茶パフェを奢ってくれた。


 寺の中で自由時間が与えられて、マシロと一緒にお賽銭を入れてお願い事をする。

 ――どうか無事に高校三年間が終わりまで過ごせますように。

 そんな事を願った。


 ちゃんと元の世界に帰れますようにと願えなかったのは、揺れてる証拠だと自分でも思ったけれど。

 本当は、マシロとずっと一緒にいたい。

 けど、ここはギャルゲーの世界で。

 本来、私がいるべき場所じゃない。

 それに、元の世界にはお父さんもお母さんも友達だっていた。


「マシロは何を願ったの?」

 暗い気持ちを振り払うように尋ねる。

「何も願ってなんかいない。ただ手を合わせるふりをしただけだ。神のやつに願うことなんてないからな」

「マシロって神様とか信じない人だったんだ?」

 ドライな言いように、少し驚く。


「いやいるのは知ってる。ただ、ぼくはあいつに願いを委ねたりしない。願いは自分で叶えるものだからな。ただこれ以上アユムの運命をややこしくするなとは言っておいた」

「何それ。まぁでもありがと」

 叱ってやったみたいな口調のマシロがおかしくて、笑いながら礼を言う。


 おみくじを引こうといえば、マシロが何か面白い事を思いついたかのように笑って、紙が入った箱に手をつっこんだ。

「アユム、凄いものをみせてやろうか」

 そう言って、マシロは五枚おみくじを引くと私に手渡した。


「おみくじってそんなに引くものじゃないと思うけど」

「まぁ開けてみろ。全部凶だから」

 凶なんて本来、滅多にでるものじゃない。

 まぁそうは言っても私自身、初等部の五年の時に二回、それと実は去年も凶を引いていた。

 けれど五枚全てが凶である確率なんて、奇跡に等しいと思う。

 さすがにそれはないと思いながら開ければ、マシロの言った通り全部凶だった。


「何これ」

「たぶん今のアユムが引いても凶だと思うぞ」

 楽しそうにマシロは言う。

 引いてみれば、マシロのいうとおり凶だった。


「なんすか、マシロちゃんもアユムも凶だったっすか」

 背後から声が聞こえてふりむけば、いつの間にかクロエが立っていた。

 ひらひらとこちらに向けるおみくじは、三枚とも凶と書かれていた。

「何回引いても昔っから凶しか引かないんすよね」

「奇遇だな。ぼくもだ」

 珍しくマシロがクロエの言葉に同意する。


 妙な共通点がある二人だ。

 慣れっこらしく、凶で動じたりしてなかった。

 こっちは、かなり気分が落ち込んでいるというのに。


「アユムもおみくじ引いたんだ?」

 声がしてそちらを向くと、テンションの低い宗介がいた。

 クロエと一緒に行動していたんだろう。

「うん。凶だったんだ……宗介はおみくじ何だった?」

「俺も同じ」

 どよんとした口調で尋ねたら、宗介も暗いトーンで返してくる。

 私も宗介も以前に凶のおみくじを引いたときに、散々な目にあったのでついこんな反応になってしまうのだ。


「四人とも凶なんて、凄いっすね! そうとう神様に嫌われてるみたいっす」

 クロエだけが楽しそうに、ツボに入ったのか腹を抱えて笑っていた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●


 四日目は朝から空港へ移動して帰るだけだった。

 直前にお土産を買う時間があって、理留りるは例のごとくご当地の駄菓子を買いあさっていた。

 私もいくつかおいしそうなのをチョイスして、色々あった修学旅行は無事に終わった。


 修学旅行が終わったと思えば、次は学園祭が待っていて。

 実は去年もこのイベントがあったのだけれど、星鳴学園の学園祭はわりと本格的だ。十一月に開催なのに、二ヶ月前から企画を始める。

 ちなみに、去年私のクラスは、バザーを開いていた。

 家でいらなくなったものを持ち寄るだけなのだけれど、高級腕時計とか金色の茶碗とかあって、バザーっていうより骨董市に近い雰囲気があった。

 さすがお金持ちが多い学園だけある。


 手を抜いた出し物の代わりに、いろんなところを見てまわったのだけれど、なかなか面白かった。

 衣装や飾りつけも本格的なら、屋台に出されている食べ物も本格派だ。

 企業の人なんかもきていて、学生のうちにどれだけの企画力があるかを見せる場でもあるのだとクラスメイトの誰かから教えてもらった。


 今年の出し物は執事&メイド喫茶。

 熱血でイベントごと大好きな子が今年のクラスにはいて、一番人気のあったクラスに送られる賞をとるつもりでいるみたいだった。


 皆の中心となってやる気に満ち溢れている当間くんとは、中等部二年の時に同じクラスだったこともあって仲がいい。

 吉岡くんとも仲良しなため、高等部の二年になってからは私と宗介吉岡くんのメンバーに、当間くんも加えて一緒にいることが多かった。

 そのため、気づいたら流れで実行委員のような立ち位置になっていて。

 指揮は当間くん、細かい采配は宗介、私と吉岡くんはその手伝いみたいな役割分担ができていた。


「メニューは時間がかからずすぐに出せて、ストックできるスコーンあたりがいいと思う。そえるジャムを変えるだけでバリエーションも出るし、常温で置けるからね。部活や習い事が忙しい子たちには、衣装作りを先に割り振っておいたよ。それと、生地とデザインの候補を見繕ってきたから選んでほしい」

「さすが仁科にしな将来オレの部下になれよ。オレが稼がせてやる」

 てきぱきとした宗介の様子に、当間くんは感心した様子だ。

 大企業の息子である当間くんは、エネルギッシュで野心があるタイプの子で宗介がかなり気に入っているようだった。


 実際宗介は凄いと思う。

 当間くんと皆の意見を聞きながら、予算の中でできることとできないことを考えて、絶対必要なことは通しながら、無駄な部分をそぎ落として余裕を作っていく。

 私はと言えば、吉岡くんと一緒に家庭科室を押さえたり、材料の手配をしたりする作業に追われていた。



 ちなみに文化祭当日の役割分担で、私は調理担当を希望したのだけれど、執事担当だった。

「アユムは執事だ。それ以外オレが認めない。集客ができる奴を裏に回す馬鹿がどこにいる」

 きっぱりとそう当間くんに宣言されたのだ。


「このクラス男子には女子人気の高い仁科とアユムのツートップに加え、紅緒もいる。女子には男子人気ナンバーワンの桜庭ヒナタがいるし、他の子もわりとレベルが高い。これで負けるなんてありえないだろ」

 くくっと当間くんは人の悪い笑みを浮かべる。


「オプションサービスをつけるのもありだな」

 こういうイベント事になると当間くんは人が変わる。

 ブツブツ呟くその横顔は物凄く楽しそうなのだけれど、何かたくらんでいるようにも見えて、ちょっと不安だった。

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「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」
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