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【7】田舎で過ごす夏休み

 夏休み。私は宗介と一緒に、田舎のおばあちゃんの家に来ていた。

 私の両親は共働きで、あまり私に構うことができないからと、夏休み期間中のほとんどはここで過ごすという話になっていた。

 特にアユムが寝たきりになっている時、休暇を全部使ってしまったからか、両親は忙しいようだ。

 本来親を寂しがるような歳でもないし、こういう田舎に憧れていた私は二つ返事でオッケーした。むしろ両親の方が寂しそうだったくらいだ。


「よし、今日はセミを取りに行こう!」

 暑い中、私は元気一杯だった。

 セミを取りにいくことに何の意味があるのか、それは私にもわからない。

 けど、こうテンションが上がっていた。

 前世では田舎のおばあちゃんなんて存在しなかった。おばあちゃんはいたけど、いかにも田舎って感じじゃなかったんだよね。

 こんな夏休み、なかなかないしエンジョイできるうちにしておかなきゃ、損というものだ。高校生だった私にはよくわかる。


 しかし、セミを捕まえて喜んでいたのも、最初の三十分くらいだった。暑いし、だんだんなんでこんな思いをしてセミ取ってるんだろうと、自分がわからなくなってきた。

 無駄な作業だなと思っちゃう時点で、私はそこそこ大人なんだよね。

 そこを楽しいと遊べるのが、子供の凄いところで、子供らしさなんだと思う。


 やっぱり私は、セミ取りよりも、駄菓子を買いあさっているほうが楽しいな。

 そんなわけで、私はもうすっかり常連になっている駄菓子屋さんにきていた。

 アイスに、○まい棒、チ○ルチョコ。

 このチープな味が昔から好きなんだよね。

 遊んで後に食べる駄菓子は、また格別だ。


「今日はこのあとどうしようか?」

「んー、なんか雨降ってきそうだし、帰って宿題終わらせちゃおうかな」

 宗介に尋ねられて、私は答える。前世の小学生時代だったら、絶対に出てこなかった台詞だ。

 昔より勉強が楽しい。サクサクとけるし、できる子になった気分が楽しめるっていうか。

 そうそう、星鳴ほしなり学園には小学生の頃から学期の終わりにテストがある。しかも順位が三十番まで張り出されるのだ。

 一学期末のテストで、私はなんと一位だった。

 まぁそこは高校生の知識持ってるんだから、当然といったらそうかもだけど。


 まぁ内心でいうと、こんな順位前世で取った事なかったし、嬉しいの一言に尽きるんだけどね!

 両親も喜んでくれて、お小遣いをたくさんくれたし、勉強をヤル気になるというものだ。

 ちなみに二位はドリル、四位は宗介。五位はドリルの妹だった。黄戸きど姉妹もだけど、宗介も結構頭がいいらしい。

 一年生の時は、ずっとドリルが一位だったみたいで、張り出された順位表をみて、ドリルの取り巻きや妹たちが騒いでいた。

 私がズルしたんじゃないかなんて、疑ってるみたいで因縁をつけられたんだけど、宗介が庇ってくれた。

「アユムはズルなんかしません」

 きっぱりと言ってくれて嬉しかったのと同時に、ちょっと後ろ暗かったな。前世の知識があるわけだから、ある意味ズルだし。

 黄戸姉妹とあまり関わらないようにしようと思ってたのに、ますます目を付けられた感じで、夏休み明けが怖くもある。


 そんな事を考えながら、さくさく宿題を終わらせていく。

 もうすでに残っているのは夏休みの工作くらいのものだ。

 ちなみに日記もすでに書き込んである。ぶっちゃけこうしたいなっていう予定表に近かったけど、ちゃんと実行すれば問題ないはずだ。

 後は実行してその日付を書き入れるだけ。こうしておけば、嫌でも実行しなくちゃいけないような気になるから、夏休みを有意義に過ごせるという私のアイディアだ。

 宗介は呆れ顔だったけど、その実行に力を貸してくれると言ってくれた。


 次の日は川に遊びに行き、その次の日は山にカブトムシを捕りに行った。

 シズルちゃんが来た日は、バーベキューをして花火をした。

 縁側でスイカを食べて種を飛ばして遊んだり、地元の子供たちと仲良くなって、神社の境内で鬼ごっこしたりもした。

 夏休みの工作は、色々悩んで流しそうめんの装置にした。半分以上やりたかっただけで、しかも父さんが作ってくれたんだけどね。


 楽しい夏休みだったんだけど、唯一苦手な時間がお風呂。

 おじいちゃんと宗介と三人で一緒に入るんだよね、コレ。

 子供をまとめてお風呂に入れるのが、おじいちゃんの仕事みたいになっていた。

 体はできるだけ隠すようにしたけど、それでもなんで女だってことに皆気づかないんだろうか。

 この年だから男女で入っても、まだ無理はないからいいんだけどさ。恥ずかしがるのも変に思われるし、どうしたらいいんだろう。


 まぁそうこうして、かなり充実した夏休みを過ごしていたら、あっという間に最後のイベント、夏祭りの日が来た。


「よく似合ってるわ」

 おばあちゃんが着せてくれたのは、甚平じんべい。宗助と色違いで、なかなかに風情がある。

 本当は夏祭りに可愛い浴衣を着たかったんだけど、それをやると女装(?)になってしまうので諦めた。

 まぁ浴衣って歩き辛いし、甚平くらいがいいのかもなんて、開きなおる。


 お祭りは神社で行われていて、ソースのよい香りがあちこちからした。なかなかに人も多い。

「宗介、りんごあめがあるよ! 食べてみたくない?」

「わかったから、アユム落ち着いて」

 今にも駆け出しそうになっていると、宗介になだめられた。

「本当に仲がいいなぁ二人とも」

 ははっと保護者としてついてきた父さんが笑う。この夏休み中、父さんと母さん二人が同時に尋ねてきてくれたのは、今日だけだった。

「宗介くんがアユムのお兄ちゃんみたいね」 

 実際には私の方が精神年齢的に年上なはずなのに、そんなことを母さんに言われてちょっと複雑な気分になる。


「ねぇ、父さん。宗介といろいろみて回ってきていい?」

「んーまぁ何度かきてるし、宗介くんがしっかりしてるから大丈夫か。六時には社の前にくるんだぞ」

 一際目立つその建物を指差して、父さんが言う。

 お許しを貰って、宗介と顔を見合わせて笑った。

「二人とも迷子になるんじゃないぞー」

 父さんの声を背に、私達は駆け出した。


「色んな屋台があって、面白いね! 次は何食べようか?」

「さっきから食べ物ばかりだよね、アユム」

 宗介に突っ込まれる。お好み焼きや、焼きそばなど、そういう食べ物は家で出てこない。母さんの料理は美味しいんだけど、これはまた違った美味しさがあるのだ。

 前世でもこういうジャンクフード的なものが、私は結構好きだった。


「じゃあ宗介は何かやりたいのとかあるの?」

「んー特にないかな。アユムが好きなのでいいよ」

「たまにはやりたいものとかいいなよ。子供が遠慮するもんじゃねぇぜ?」

「ははっ、なんだよその口調。大体、アユムも子供でしょ」

 屋台のおじさんを真似てみたのだけど、思いのほかうけたようだった。


「あのくじ引きとかどうよ。景品とか豪華だよ!」

「ああいうのって、当たらないようにできてるからいいよ。それに欲しいものも特にないし」

 宗介は無欲すぎる子だった。しかも、かなり現実的だ。

 当たる確率の低い抽選のチケットのために、アニメのDVDをいい歳して大人買いする人もいるというのに。

 まぁ前世の私の兄なんですけど。

 思い出して、ふいに恋しくなった。

「アユム?」

「いいから、何かないの? やりたいこととか、欲しいものとか」

 急に黙り込んだ私を、不思議そうに宗介が見ていた。

 いけないと意識を戻して半ば強制的に尋ねると、じゃあアレと言って宗介が指さしたのは射的だった。

「わかった。どれが欲しいの?」

「……あの文具セットかな」

「えっ? アレが欲しいの?」

 そこにはデフォルメされたクマのキャラの、文具セットがあった。可愛らしくて女の子が好むようなデザインだ。

 そんなものを宗介が欲しがるなんて意外だった。

「わかった。まかせといて」

 景品がなんだろうと構わない。宗介が欲しいというなら、何だってとってみせようと私は腕まくりをしておっちゃんにお金を払った。


「はい、これ」

「ありがとう。それにしても、アユム上手だね!」

「まぁね」

 見事景品をゲットした私は、得意げにふふんと鼻をならした。

「こういう射的とか、クレーンゲームとか結構昔からやってたからね。兄さんがヘタクソすぎて見てられなくて、代わりにやってるうちに上手くなったんだ」

 兄は欲しいものにお金を惜しまないところがある。クレーンゲームなどで欲しい景品があると、取れるまでやってしまう。

 しかし下手なので、お金を搾取されるだけで終わってしまうことも多かった。


「お兄さんって誰?」

 宗介に言われてはっとなる。アユムは一人っ子だった。

「い、従兄弟だよ! 母方の!」

 今野の父方の親戚は、この田舎にいるうちに宗介もほとんど会ってしまっていたし、嘘だとばれる可能性が高い。とっさに私は誤魔化した。

「誰か覚えてる人がいるの?」

 宗介の言葉に、しまったと思う。

 そもそもアユムは記憶喪失だった。思い出すような昔すらない。

 だらだらと汗が流れてくる。

「あー! あっちに幽霊屋敷があるみたい。行こう!」

「ちょ、ちょっとアユム!」

 無理やり話をぶったぎり、私は幽霊屋敷へと走った。



 幽霊屋敷は大人気のようで、順番待ちの列が出来ていた。

「宗介はお化け怖くないの?」

「幽霊なんていないよ」

 ばっさりと宗介は切り捨てる。かなりクールな態度だった。

 強がりというようにも見えなくて、淡々としてる。

 私が小学生の頃って、幽霊とかお化けって妙に怖かったんだけどな。

 トイレの花子さんの話聞いた後、しばらくトイレに行けなかったしね。

 いつも落ち着いてる宗介が、子供らしく驚いたりするところをちょっと期待していたんだけど。


「なんでそういいきれるの? いるかもしれないじゃない」

「だって、いるなら俺の所に会いにきてくれるはずだから」

 つい煽るような口調になった私に、宗介は変わらない調子で答えた。

 それが本当の両親のことを指してるのだと、すぐにわかった。

 私ははっとして息を飲む。


 宗介の本当のお母さんは、宗介を生んで産後の日立ちが悪くて亡くなった。

 お父さんは宗介が幼稚園の時に、事故で亡くなっていて。今の宗介の両親である山吹夫妻は、宗介の父方の兄夫妻なのだ。

「ごめん……」

「なんで謝るの? 俺、幽霊がいないって言っただけだよ?」

 宗介が不思議そうな顔をする。


 そこには両親会えない悲しさや寂しさはなかった。

 幽霊になって会いに来てほしいと思ったときは、もうずっと前の事なんだろう。すでに宗介の中で決着のついた話のようだった。

 会いたいと思ってもしかたない。

 確かに、そうかもしれない。でも、心に触れられないように仮面をつけて、宗介が大事な部分を隠してしまっているような、そんな気がして。


 私はそんな達観したような、全部を諦めたような顔を宗介にしてほしくなくて、心がもやもやとした。

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