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【65】誤解をよぶ誤解

 ここまで順調に進んできて、あとは攻略対象を絞って恋愛するだけのはずだったのに。

 高等部に入ってから少ししか経ってないのにも関わらず、やっかいごとが目白押しだった。


 ヒナタの誤解の件だけでも頭が痛いというのに。

 ここにきて、宗介とマシロが鉢合わせ、何やらよくない雰囲気だ。

 はぁと大きく溜息をつく。

 頭が痛い。どうしてこんなことになってしまっているのか。


「今野、そんなに先生の授業はつまらないか?」

「えっ?」

 授業中ということをすっかり忘れて、つい物思いにふけっていたら、先生がこちらを見つめていた。

「先生の代わりに教科書を読んでくれるよな」

「はい……」


 立ち上がったのはいいものの、全く聞いてなかったからどこから読めばいいかわからない。

 困っていたら、横からすっと開かれた教科書が手渡された。

「ここからだよ」

「……ありがとう」

 助けてくれたのは隣の席のヒナタだった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「さっきは助かった。ありがとね」

「ううんいいの。考え事をしていたみたいだけど……もしかしてマシロさんとのお付き合いで、悩んでいたりするの?」

 授業が終わって教科書を返せば、小声でヒナタが尋ねてくる。

「いや別にマシロと付き合っているわけじゃないんだ」

「大丈夫ですよ。あの時の事は誰にも言いませんから。確かに驚きましたけど、そういう事を言いふらしたりはしません」

 胸に手を当てて、誠実な雰囲気を纏いながらヒナタが誓う。


「だからそれは誤解なんだって」

「わかりました。アレは忘れておきますね」

 聖女のような微笑み。こちらを気遣っているようで、ずれている。

 うん、その顔はわかってないな。

 ヒナタは若干人の話を聞かない子のようだ。


「確かにボクはあの場所でマシロを押し倒して、服を脱がせていたように見えたかもしれないけど、違うんだ。別にいやらしいことをする事が目的じゃなくて……」

 ヒナタにどうにかわかって欲しくて説明を試みる。

 しかし、途中で言葉に詰まった。


 嫌らしいことが目的じゃなく。

 学園内の人気がない場所で、女の子を押し倒して無理やり服を脱がせる状況。

 それってどんな状況だよ。

 自分でつっ込みたくなった。


「久々だったし、ここで再会できるなんて思ってなくてさ。だから、つい興奮しちゃって、マシロの性別を確認しようとしただけなんだ」

「性別の確認って」

 しかたなく、ギリギリなラインで説明すれば、何故かヒナタはかぁっと顔を紅くした。


 あれ……ちょっと待って。

 今の言葉違う意味にとられちゃってないか。

 自分でも思い返せば、違う意味でもギリギリだった。


「違うんだよ! 性別の確認っていうのは、そういう意味じゃなくて!」

「あ……わ、わかってますから。比喩的な表現ですよね!」

 焦る私の顔を、ヒナタは見ようともせずに、受け取った教科書を鞄にしまう。

 先ほどの英語の授業の後、担任でもある先生がホームルームまでついでに済ませてしまったので後は帰るだけだ。


「そ、それではお先に失礼しますね!」

 動揺を隠し切れない様子のヒナタの目には、少し涙のようなものがあった。純粋な子なんだろうか。待ってと言う間もなく、私の手をすり抜けて教室を後にしてしまう。

 ヒナタを急いで追おうとして、背筋にぞくりとしたものを感じた。

 振り返れば、机三つ分くらいの距離に宗介がいて。


「アユム、今日は久しぶりに一緒に帰ろう?」

 にっこりと口元は笑みを作りながら、全く笑ってない目で話しかけてくる。

 いつからそこにいたのか。

 きっと、今日のマシロとの事を聞きただすため、私を捕まえようとスタンバイしていたんだろう。


 途中から取り乱しすぎて小声を忘れていた気がするのだけれど、どこから聞いてたのかな。もしかして最初から?

 何にせよこれはマズイ状況だ。


 私の席は、苗字の関係で一番前の廊下側。

 つまりはドアが近く、宗介との距離はまだある。

「ごめん、先帰るね!」

 鞄の中身なんて気にせずに、全速力でその場を後にした。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「そろそろ家に帰ったらどうだ」

「今日は帰りたくない……」

 私が逃げ込んだ先は、マシロの学園内にあるマシロの隠れ家だった。

 家に帰れば宗介が待っている。

 そう考えると、帰るに帰れなかった。


「泊めるのはいいが、連絡は入れとけよ」

「そしたら絶対どこ泊まってるか聞かれるじゃん。マシロの所って答えたら余計に後が怖いし、他の所って嘘ついても後が怖い」

「何も言わずに泊めたら、あいつずっと探すぞ。その日のうちに捜索願い出されるかもな」

 マシロの言葉に愚痴をこぼせば、ゲームをしながら淡々とそんな事を言われた。

 もう私も高校生なんだし、一日無断外泊したくらいでそれはない。

 そう言い返せないあたりが宗介だった。


「マシロのせいでもあるのに冷たくない?」

「そもそも、ぼくをここから連れ出したのはアユムだろう。ここまで物事をややこしくするなんて、アユムには天性の才能があるな」

 後半は少し感心した風に、マシロは呟く。

「それ褒めてるの? 貶してるの?」

 もういっそ泣いてしまいたかった。

 そんなやり取りをしながら過ごして後、やっぱり気の乗らないまま、帰り路に着く。



 マシロとは何でもないんだって、ちゃんと説明しなきゃ。

 そうは思うのだけど、あの冷気にさらされるのかと思うと気が重い。

 というか、なんで私がマシロとの事で宗介に怒られなきゃならないんだ。


 そこまで考えて、ふと思う。

 大体、怒られる理由なんてないんじゃないのかと。

「俺はいつまでもアユムの側にいられるわけじゃないから。例え恋愛感情がなくたって、一緒にいて幸せになれる人をアユムに見つけてほしいんだ」

 そう言っていたのは宗介だ。

 ならその相手がマシロだろうと、別に問題はないはずだ。


 むしろ、マシロなら都合がいいような気がする。

 マシロは見た目は女で、本当の性別は男なのだ。

 見た目は男で、本当の性別が女な私とは、とても相性がいいんじゃないだろうか。

 正反対なら性別の事で悩む必要はないし、戸籍がどうなっているのかは知らないけれど、学園に入学できるくらいだ。

 その辺りのことはどうにでもなるだろう。

 

 突き放しておきながら、私の付き合いに口を出すのはおかしい。

 その事に思い当たったら、だんだんとむかむかしてきた。

 よし、宗介にがつんと言ってやろう。

 そう決めて、私は家の扉を開けた。

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「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」
ショタコン末期悪役令嬢に転生して苦労する話。
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