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【4】学園生活で攻略キャラに出会ってしまいました

 春になって、私は小学校の二年生になった。

 こっちの世界では、まだ学校行ったことないんだけどね。

 夏休みの後半に事故にあって、秋に目覚めて。冬に退院して。キリがいいからってことで、春から学校に通うことになったんだけど。


 はっきりいって、うまくやっていけるか不安だ。

 一学期しかいなかったクラスメイトの事を、みんな覚えてるんだろうか。いや私の方は覚えてないっていうか、知らないんだけどね。

 大人にたいして子供っぽく振舞うのはできる。でも子供って妙に聡いところあるからなぁ。こいつ変だなって見抜かれたりしないかな。


 そんな風に心配していたら、宗介から提案があった。

「俺と同じ学校に通えばいいんだよ。一緒だったら、平気でしょ? 先生には事情話して、クラスも同じにしてもらえばいい」

 心細かった私は、宗介のその提案に乗ることにした。

 宗介の通っている星鳴学園は、私の両親が高校生の時に通っていた学園でもあるらしく、二人はそれに賛成してくれた。

 そもそも両親はアユムを星鳴学園に通わせたかったらしい。けど、アユムの頭はあまりよくなくて泣く泣く諦めたのだとか。


 しかし今の私の学力は高く、両親もそれを知っている。勉強に遅れないようと病院で渡されたドリルをたやすく解いてみせたら、二人とも驚いていた。

 たしかに編入試験では、小学生にこんな問題出すのかよと思ったけれど、前世で高校生だった私には余裕だった。



 編入試験も見事合格して、私は今日から星鳴ほしなり学園の二年生だ。

 チェック柄の半ズボンに、ワイシャツ。胸にはボタンでつけるタイプの大きめのネクタイ。鏡に映る私は、少しやんちゃそうにみえた。

 それにしてもアユムの服って半ズボン多いんだよね。この丈のものって前の世界では体育ズボンくらいしかもってなかったよ。

 しみじみとしていると、部屋のドアがノックされた。

「準備できた?」

 ドアを開けるとそこには宗介がいた。同じ格好なのに、宗介は上品で礼儀正しそうに見えるから不思議だ。

 

 宗介につれられて学園へと向かう。

 試験と面接で来た事があるから、三度目だ。

 星鳴学園ってでかいんだよね。私が知っている公立の小学校とは外見からして違っていた。

 コンクリートで出来た無機質な建物じゃなくて、校舎自体が一つの作品ですっていう感じの建築物。西洋の屋敷みたいな感じ。校舎に辿りつくまでの道も、花が咲き誇り高級ホテルの庭園のよう。

 

 あまり考えずに入学しちゃったけど、場違いなんじゃないか私。

 きっと入学金も高いよね。前世よりも今の両親の方が経済的に余裕はありそうではあるんだけど、大丈夫か心配になる。


 そんなことを色々考えているうちに、職員室に着いてしまった。

「じゃあ、俺先に教室で待ってるから、後でね」

 宗介と分かれる。心細いなぁと思いながら、職員室で待っていると先生がやってきて、教室へと向かうことになった。

 緊張しながら自己紹介したんだけど、同じクラスに知り合いがいるというだけでだいぶ心強かった。

 皆の偏見をなくすために、記憶喪失とか事故のことはふせて、親の都合で転校ってことにした。

 クラスメイトもいい子ばかりで、すぐに馴染めそうだと安心する。前世の小学校でいたような悪ガキタイプもいないみたいだった。皆どこか品がよくて、お行儀もいい。

 これならすぐに馴染めそうだと思ったのは、短い間だった。

 礼儀作法にマナー、語学の時間。

 給食にはフランス料理。ナイフとフォークを使ってお行儀よく皆食べていく。そんなの使い慣れてない私は、当然混乱。宗介がやりかたを教えてくれなかったら、最終的に投げ出すところだった。


 放課後は、宗介が初等部の校舎内を案内してくれた。

 学園には幼等部から大学部まであり、それぞれ校舎が違うらしい。全部の教室にクーラーは完備、パソコンは一人一台。図書館だけでなくテニスコートや、ちょっとした会話に使えるサロンが各校舎にあるらしい。

 至れりつくせりというやつだ。


 宗介に案内されながら廊下を歩いていると、向こう側から女子の集団が歩いてきた。

 真ん中にいる二人を囲うように、ぞろぞろと取り巻きたちがついてくる。まるで廊下を我が物だといわんばかりだ。

 同じ年くらいの子たちなのに、上級生が道を譲る。

 小さいのに女王様のような風格がある二人組みは、たぶん双子なんだろう。全く同じ顔をしていた。

 一人はツインテール。もう一人は髪型が独特で、なんというか頭の両サイドにクロワッサンをつけてる感じだった。


 前世ではマンガの中でしか見たことがない髪型だ。

 しかし、その髪型が妙に気にかかった。

 ばねのように揺れる髪から目が放せない。

 この髪型をどこかで見たことがある。何か思い出せそうなのに、でてこなくて歯がゆい。

 宗介が怪訝そうな顔をしたけれど、それどころじゃなかった。

 クロワッサンも間違いじゃないけど、別の言い方があった気がする。縦ロール、チョココロネ。うーんなんか違う。


「そうだ、ドリルだ!」

 思い出してすっきりする。

 前を歩いてくる双子のうち、黄色の髪の方。

 彼女は『そのド』のヒロインの一人で、通称ドリルだ。

 見た目どおりのお嬢様キャラで、いつも取り巻きをつれている。学園に入学してきた主人公を庶民扱いするキャラだった。

 なんでここにいるんだろう。

 幼い頃に出会ったヒナタとは違い、ドリルは高校生になって初めて出会うキャラのはずだ。


「ちょっとアユム、まずいよ!」

 宗介の声で、考え事から現実に引き戻される。

 ツカツカと凄いスピードで、ドリルがこっちにむかってきていた。

 まずい。どうやら心の声が漏れて、ドリルっていうのが彼女の耳に届いてしまったらしい。

「今あなた、何と言いまして?」

 扇子をパンパンと手に打ち付けて、ドリルはあきらかに怒っていた。

 事と次第によっては、扇子で頬を叩いてやると言わんばかりだ。


「すいません、教室に算数ドリル忘れちゃったのを今思い出したみたいで」

 にこやかに宗介が間に入り、フォローを入れる。とっさの言い訳にしてはかなりの出来だった。

山吹やまぶきくんの知り合いですの? 見たことがない顔ですけれど」

「俺の親友なんです」

 宗介が友達じゃなくて親友と紹介してくれたことに、ちょっと照れてしまう。ほんわかした気持ちになっていると、ドリルが私のアゴを扇で下から持ち上げた。

「こんな山猿みたいな子が、山吹くんの親友? 見るからに庶民じゃありませんの」

 なんて失礼な奴なんだろう。頭突きでもかましてやろうかと思ったら、宗介に腕をつかまれた。

 駄目だよというように目で制される。

 宗介に行動を先読みされていたようだった。


 一応今の私は男なんだし、いくら頭にきたからって、女の子に頭突きは駄目だよね。止められて少し冷静になる。

「そうそう、うっかりしてた。早くドリルとりに行こうぜ」

「誰がドリルですか!」

 人が大人になって、宗介の調子に合わせ立ち去ろうとしたのに、ドリルがまた蒸し返してきた。

 ざっとドリル達がつれていた取り巻きに進路を妨害される。

 今のは確実にドリルに対して言ってないんだけど。過剰反応すぎる。言われるの嫌なら、その髪型をやめたらいいと思う。

 普通に考えたらパーマ当ててるし、校則違反じゃないんだろうか。

 そもそもこの世界、髪色もカラフルなんだよな。それはいいのかな。


「そこの庶民、名前は何といいますの?」

「人に名前を聞くときはまずは自分からだよ。その態度は、人にモノを聞く態度じゃない」

 思考が流れて、割とどうでもいいことを考えていると、ドリルが偉そうに尋ねてきた。カチンときて言い返す。

「態度をあなたに言われたくありませんわ。明らかにワタクシを見て、ど、ドリルと言ったくせに!」

 自分でドリルと口にするのも嫌だというような様子で、ドリルはこっちを睨んだが、迫力は全くなかった。

 本気で怒っているというより、拗ねているかのようだ。本人もこの髪型がドリルっぽい自覚があるんじゃないだろうか。


「そうよ。姉様に謝りなさい」

留花奈るかな!」

 ツインテールを手で払って、すっとドリルと同じ顔をした女の子が進み出る。

 ドリルが味方を得たような顔になった。

「姉様はドリルと言われるのが一番嫌なのよ。黄戸きど理留りるっていう名前だけでもドリルっぽいのに、母様の趣味でドリルな髪型にされちゃったんだから。嫌だって言えないチキンでドリルな姉様の身にもなってみなさい!」

「・・・・・・留花奈!」

 むしろフォローしてる側の留花奈って子の方が、ドリルドリル連呼していた。

 しかしそれに気づいてないのか、ドリルの方は感動したような顔をしている。


 姉の方は黄戸きど理留りるという名前らしい。

 黄色のドリルでキドリル。なるほど覚えやすい。たぶん心の中ではこれからもドリルって呼ぶだろうけど。

 対して、ツインテールの方は黄戸きど留花奈るかな。姉よりも髪が緑がかっていて、お洒落さんなのか制服にほんのり改造が施されいる。爪もつやつやしてるし。

 留花奈は、ザ・お嬢様って感じの姉に対して、今時の子といった感じだった。

 全然記憶にないんだけど、この子も攻略対象なんだろうか。髪の色が特別な気がするし。


「黙ってないで、謝りなさいよ」

 留花奈の言葉に、後ろの取り巻きたちが賛同して、そうよ謝りなさいと口々に言ってくる。

 確かに本人が気にしてることを言ったのは私が悪かった。

 けど、全く悪気はなかったのだ。なのに、こうやって責め立てられると謝りたくなくなってしまう。

 というか、意地でも謝りたくなくなってきた。


「確かにボクは、ドリルって言った。でも、馬鹿にはしてない。こんなにドリルが似合う子に出会って、驚いただけだ。似合ってるし可愛いだろ。それともあんたたちは、この子の髪が変だって言いたいの?」

「別にわたしたち、そんなつもりじゃ・・・・・・」

 少し怒った調子で、取り巻きたちを睨みつける。彼女達がひるんだことで、話のすり替えが上手くいったと、内心よしと思う。

「そういうことだから、ボクは謝らない」

 堂々と宣言して、視線を取り巻きたちからドリルへと移す。

「か、かか可愛い?」

 そんな事言われたことがなかったというように、ポツリとドリルはうろたえていた。


「そうだよ。あんた以上に、その髪型が似合う人間をボクは見たことが無い。いかにもお嬢様って感じでとてもいいと思う」

 これは心からの意見だった。

 最初にゲームの中でキャラを見たときにも思ったのだ。なんてドリルが似合う子なんだろうと。

 高飛車でお嬢様。それでいてその言葉遣い。これでオーホッホとか高笑いしてくれればさらに完璧だ。イメージと見た目がとてもしっくりとくる。


「あなた、姉様に生意気な口きいて、どうなるかわかってるの? 姉様が許さないって言ってるんだから、素直に謝ればいいのよ。ねぇ、姉様!」

 留花奈が話を振ったけれど、ドリルは答えなかった。

 返事がないのを不思議に思った留花奈が、ドリルの顔を見て信じられないものを見たというように固まる。

「えっと、姉様? どうしたの? 顔が物凄く赤いんだけど」

「な、なんでもないわ」

 ドリルは顔を真っ赤にして、おどおどしていた。


 あれ、何この反応。

 もしかして、照れている?


「ワタクシは、黄戸理留。二年一組ですわ。あなたお名前は?」

「へっ?」

 いきなり尋ねられて、間抜けな返事をしてしまう。

「名前。ワタクシは名乗りましたわよ」

「今野アユム。今日から二年二組に転入してきたんだ」

「ふーん外部からの転入生でしたの。どうりで見ない顔だと思いましたわ」

 そこまできいて、つかつかとドリルは去っていく。


「この学園にきたばかりだったということで、今回は許して差し上げます。では失礼しますわ」

「えっ、姉様? 待ってってば!」

 去っていく姉と、アユムの方を混乱したように見ていた留花奈が、慌ててドリルを追って走っていく。取り巻きたちも後へ続くように去っていく。


 この数分で、どっと疲れた気がした。

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