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【44】壁ドンされました

 家に帰って私は閉じこもった。

 なんでこんなに私は動揺してるんだろう。


 ただ、宗介が女の子と笑って食事していただけなのに。

 そうだそれだけのこと。

 なのに、なんでこんなに心臓が痛いのかな。


 わけがわからない。

 幼馴染に対する、子供っぽい独占欲ってやつなんだろうか。

 しばらく布団の上でゴロゴロしながら考えてみたけれど、答えはでなかった。



「あーもう! こんな風に悩むのは柄じゃない!」

 直接宗介に聞いてしまおう。

 あの子とどんな関係なのかって。

 何で気になるのかもよくわかんないけど、そうすればきっとすっきりするはず。

 ちょうど家のドアが開く音がしたので、玄関へと私は走った。


「宗介、おかえり!」

「ただいまアユム。お出迎えなんてどうしたの?」

 勢いよく出迎えたら、宗介は戸惑ったように目をぱちくりとさせた。


「たまにはいいかなって思って。今日はどこへ行ってきたの?」

「今日はバスケの練習試合の日だったんだ。負けちゃったけどね」

 靴を脱ぐ宗介から、着替えの入ったバッグを受け取る。

 

「それにしては帰りが遅かったね」

「そう? 皆と喋りすぎたかな。アユムは何してたの?」

 遠まわしに尋ねてみたけれど、さらりとかわされ、逆に聞かれる。


「えっ、あぁ今日は前の学校の良太と一緒に遊んだんだ」

「前に言ってたちょっとガキ大将っぽい子だね。また二人で仲良くゲーセンにでも行ったの?」

 すっと宗介の目が細まる。

 その言葉には、私だけがわかるくらいの微かな不機嫌さが滲んでいた。


 宗介は良太やマシロと遊びにいくと言うと、大体こんな感じになる。

 きっと、遊ぶ相手が宗介の知らない人だからなんだろう。

「・・・・・・美空坂みそらざかショッピングモールまで行ってきた」

 ちょっと迷ってからそう答える。

 宗介の反応を見ようとしたけれど、特に動揺は見られなかった。


「へぇ、何か買い物でもしに行ったの?」

「いやそれが、なぜかナンパすることになって」

「ナンパ? ナンパってあのナンパ?」

 宗介が困惑したような顔つきになった。

 そりゃそうだ。

 私だってこの人生でナンパをすることになるとは思ってもいなかったし。


「それがさ、高校生のお姉さんをナンパしようってことになって」

「ナンパって、アユムは恋人が欲しかったの?」

 苦労話をちょっと聞いてもらおうかなと思ったら、話を遮った宗介の声が冷たすぎて戸惑う。


「えっ? いやそうじゃなくて。年上の女の人なら誰でもいいからってりょ」

 良太がと言おうとしたら、宗介の顔が間近に近づいていた。

「そ、宗介?」

 後ずさっていくと、壁まで追い詰められる。

 宗介の顔は無表情だったけれど、放たれる空気が怒っていた。


「へぇ、アユムってやっぱり年上好みなんだ。年上なら、男だろうと、女だろうと誰でもいいんだね」

 ドンと私の顔の横の壁に、宗介が手をつく。

 なんでそんな話になるんだといいたかったけれど、その迫力に飲まれて私は何も言えなかった。


「アユムがマシロ先輩によく会いにいくのも、年上が好きだから? いつも楽しそうに遊びにいくよね。しかもお泊りまでして、眠そうな顔で帰ってくるし。寝不足になるまで、二人でどんな遊びをしてるの?」

「・・・・・・なんでそこでマシロの話が出てくるの」

 含みのある言い方に、私は宗介を睨みつけた。


 寝不足なのは徹夜でゲームをしてるからだ。

 そんな事をしてるとバレたら、宗介に止められそうだと思って、言ってはいないけれど。

 こんな風な言われ方をする筋合いはないはずだ。


「そのブレスレット、この前から付けてるけどマシロ先輩とお揃いだよね。最近のアユム、それを見て溜息ばかりついてるし。マシロ先輩のことばかり考えてるんでしょ?」

 痛いほどに、宗介に左の手首を掴まれる。

 そこにはマシロから貰ったブレスレットがあった。

 一度会っただけのマシロのブレスレットを、宗介はしっかり記憶していたらしい。


 確かにブレスレットを見ては、いなくなってしまったマシロの事を思い出していたけれど。

 宗介の言い方には、何か棘がある気がした。


「・・・・・・宗介、中学になってから変だよ。昔と変わった」

「変? 俺は何も変わってないよ」

 私の言葉に、宗介はわからないというように首を傾げる。

 いつもの宗介と変わらない動作に見えるけど、違う。


 その瞳には攻撃的な熱が宿っていて、私を絡めとろうとしてるみたいだ。

 強い視線に目を逸らしたいと思うのに、それもできない。

 知らない宗介がそこにいるみたいだった。


「ボクの事避けたかと思えば、色々注意してくるし。だいたい、ナンパだって良太がやりたいっていうからぼくは着いていっただけだ。それになんだよ誰でもいいって。そんな風に宗介からは見えてたの?」

 わけがわからなくて、悲しくて。

 それに知らない宗介が怖かった。


 気がつけば声が震えていて、私は泣いていた。

 それを見て、宗介ははっとした顔になり、私から離れる。


「ごめんアユム、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、俺は・・・・・・」

 今度は宗介の方が泣きそうな顔をしていた。

 切ないとも思えるような目で、私のことを見つめてくる。

 その手がこちらにむかって伸ばされて、私はびくっと体をすくめた。


 宗介はたぶん、私の頬の涙を拭おうとしたんだろう。

 私の反応に傷ついたような顔をして、手を力なく下ろした。


「私は誰だっていいわけじゃないよ。付き合うなら、好きな人がいい」

「うん、そうだよね」

 宗介は私の言葉に相槌を打つ。

 ぎゅっと自分の手を握り締めて、まるで何かを決断するように私の目を真っ直ぐ見つめてきた。


「変なこと言ってゴメン。アユムが言うとおり、俺ちょっと変だった。だから泣かないで。それで・・・・・・アユムにもしも好きな人が出来たら、言ってよ。全力で力になるから!」

 宗介は、明るく私にそう言った。

 そこにいるのは、もういつもの宗介だった。


「あとアユムのこと、避けて悪かったと思ってる。アユムにばかり頼りっぱなしじゃいけないって思って、適切な距離がわからなくなってたんだ」

 そう言って、宗介は肩をすくめる。

 冗談めかした態度。

 さっきまでのあれが、まるで嘘だったかのようだった。


「もうアユムを避けないし、普通に接するように努力するよ。ただ加減がわからないから、構いすぎちゃう時もあるかも。それでもアユムが嫌じゃなかったら、仲直りしよう?」

 許しを請うように、それでいておどけた調子で、宗介が私を見つめてきた。


「当たり前だろ。避けられるくらいなら、べったりされてる方がいい! それに今更すぎるよ!」

 優しい声。いつもの宗介。

「うん、今更だよね」

 仲直りできると思ったら嬉しくて、力強く肯定すると、宗介が笑った。


「あのさ、アユム」

 ふいに真剣な声色で、宗介が私の名前を呼ぶ。


「なに宗介」

「さっきの話なんだけど。アユムに好きな人が出来たら、一番に俺に教えるって約束してほしいんだ。例えそれが誰でも・・・・・・俺はアユムを応援するから」

 宗介の声には、押し殺したような響きがあって。

 何でそんな事をいうんだろうって思ってしまう。


 宗介は私が誰かと遊ぶことに口を出したりはしないけれど、嫌だなとは思っていたはずだ。

 どうして心変わりしたんだろう。

 もしかして、宗介がサポートキャラであることと何か関係があるんだろうか。

 そんな事を考えていたら、玄関のチャイムが鳴った。


「お客さんかな?」

 めったに誰かが訪ねてくることはないので、宗介と二人して顔を見合わせる。

 ドアを開けると、そこにはクロエが立っていた。


「ちーっす、宗介。着いてきちゃったっす!」

 なんでここにと私がいう前に、クロエは私の後ろから来た宗介に対して、手を上げて声をかけた。

「なんでここに来たんだ」

 苛立ち隠すことなく、宗介がそう言い放つ。

 宗介はクロエと知り合いらしい。

 こんな風に宗介が、人に対して負の感情を出すのは珍しかった。


「いやー喫茶店にいる時に、アユムが一人で走っていくのが見えたんすよ。何かあったのかなって気になって。べにに連絡先聞くのも面倒だったし、家にいるかなと思って、宗介のあと着けてきちゃったっス!」

 宗介の質問に対して軽い調子で答えながら、クロエが私を見た。


「・・・・・・あの喫茶店に、クロエさんもいたんですか?」

「いたっすよ。宗介の前に座ってたじゃないすか。目が合ったのに、覚えてないっすか?」

 薄情だなぁというようにクロエが言う。

 クロエとは昼ご飯の後に別れて、それっきりのはずだった。

 それに、喫茶店で宗介の前に座っていたのは女の子だ。


「宗介の前には、女の子が座ってたと思うんですけど」

「あぁ、あれは」

「クロエの妹だよ」

 私の疑問に対して、答えようとしたクロエの言葉に被せるように、宗介がそう言った。


「アユム、どうしてクロエを知ってるの」

「偶然、友達の友達だったんすよ。午前中はアユムたちに頼まれて、ナンパの方法を伝授してたっす」

 不機嫌な顔をして尋ねる宗介に対し、クロエが私の代わりに答えた。

 にひひと独特な笑い方をするクロエは、まるで宗介をからかって楽しんでるかのようだ。


「全てお前が元凶か、クロエ」

「やだなぁ宗介。友達からアユムたちにナンパの手ほどきするよう頼まれたから、手伝っただけっすよ?」

 怒っている宗介は口調が荒い。

 そんな宗介を相手に、クロエは楽しそうだ。

 私なら身を縮こませてしまうところなのに、肝が据わっていると関心してしまう。


「宗介は、クロエさんとはどんな関係なの?」

「クロエは・・・・・・仁科の家の子供なんだ」

 ちらりとクロエに目をやってから、嫌そうに宗介はそう言った。

 つまりクロエは、宗介の母方の親戚で、宗介の戸籍上の兄妹ということになる。


「そうなんすよ。驚いたっすか?」

「はい、とても」

 尋ねられて答えたら、返事に満足したようにクロエは笑った。


 クロエが私と以前に会ったというのは、きっと山吹やまぶきのおじさんたちの葬式の席での事だったんだろう。

 私の事を知っていたのも、宗介から聞いていたと思えば納得できた。


「アユムのことずっと前から気になってたんすよね。宗介からどんな子か聞いて、興味沸いてたし。宗介にとって家族なら、ぼくにとっても家族みたいなものっすから、気軽にクロ兄って呼んでいいっすよ!」

 決定!と言って笑いながら、クロエは私に抱きついてくる。

 それを宗介がすかさず引き剥がした。


「そういうわけのわからないことを言い出しそうだから、会わせたくなかったんだ。ほら、さっさと帰れ」

 宗介は乱暴とも言える動作で、クロエを外へ追いやろうとする。

 こんなに誰かに対して容赦ない宗介を、私は初めて見た。


「アユムの兄妹は自分だけってことっすか。心の狭い男は嫌われちゃうっすよ?」

「変なこと言うな。いいからさっさと帰れっ」

「宗介にそんな権利ないっすよ。まぁ今日は帰るっすけど。またねアユム!」

 クロエを無理やり外に追い出し、バタンとドアを閉じて、宗介が一息つく。

 とても疲れた様子だった。



「今日クロエに会ってたの?」

「・・・・・・うん。色々話すことがあってさ。前々から何度か会ってたんだけど、ちょっと言い出し辛かったんだ」

 尋ねると、あっさり宗介は認めた。


 戸籍上の家だ。色々話し合うこともあるんだろう

 つまり、喫茶店で一緒にいたのはクロエと宗介の妹であって、彼女じゃない。

 そう確信した瞬間、ふっと肩の力が抜けた。

 なんだ、つまりは私の勘違いだったんだ。

 そのことに思いのほか、安心してる自分がいた。


「別に隠す必要なかったのに。言ってくれればボクも挨拶したよ?」

「それだよ。俺はクロエとアユムを会わせたくなかったんだ」

 額に手を当てて、深く宗介は溜息をついた。


「クロエはアユムのことが気に入ってるんだ。色々話した俺も悪いけど、何かやらかすんじゃないかって気が気じゃない。まぁそれは置いておくとして、今日はなんでクロエとナンパなんてことになったの?」

 宗介に尋ねられて、私は今日の出来事を全部話した。

 話を聞き終わった宗介は、ありえないと額を押さえた。

 

「アユムにナンパのやり方を教えるなんて。何を考えてるんだあいつ。とにかく、クロエには関わらないで。絶対面倒くさいことになるから」

「宗介ってクロエさんには珍しく遠慮がないよね。仁科の家の人とも、仲良くしてるんだ」

「別に仲良くなんてないよ。遠慮なんて無駄だって学んだだけ。大人しくしてたら付け上がるんだあいつ」

 フォローした私に、うんざりだと言うように宗介は口にする。


「でもさ、喫茶店で妹さんと話をしてる時楽しそうだったよね。宗介笑ってた」

 ちょっと意地悪な気持ちが出てきて、ついそんな事をいうと、宗介が目を見開いた。


「見てたの?」

「うん、偶然だけど」

 私が頷くと、宗介はバツの悪そうな顔になる。


「あーそれ、宗介がアユムのこと話してる時だと思うっす。宗介って、アユムのこと話す時だけ、すっごく優しい顔になるっすから」

 沈黙の中、がちゃっとドアが開いて再登場したクロエが、私の疑問に答えてくれた。


「なんで帰ってないんだ、クロエ」

「だってぼくが来るまで、二人とも修羅場っぽかったじゃないすか。続きが見られるかなって思って」

 怒りを抑えるように呟いた宗介に、クロエが悪びれもせずに答えた。


「・・・・・・見てたのか」

「鍵開いてたんで入ったら、夢中でこっちに気づいてないみたいだったんで、邪魔するのも悪いかなって。まぁ用件もあったから、途中で邪魔させてもらったっすけど」

 宗介の声が低い。

 クロエはにやにやしていた。


「いやー青春っすね! 友情っていいなと思ったっす」

 明らかに茶化すようにクロエはそんな事を言う。

「・・・・・・クロエは本当に性格悪いな」

「宗介ほどじゃないっすよ♪」

 殺気ともいえる敵意を宗介はむき出しにしてるのに、クロエの対応はおちょくるようだ。

 完全にこの状況を楽しんでいる。


「しかし、宗介がそこまで執着してると、ぼくまでアユムのことが気になってきちゃうっすね。何度見ても、どこにでもいそうな普通の子にしか見えないっすけど」

「うるさい、さっさと帰れ」

 私に視線を向けたクロエを、宗介が外まで無理やり押し出した。

 そして、今度は間違いなくドアに鍵をかけた。


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「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」
ショタコン末期悪役令嬢に転生して苦労する話。
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