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■『その扉(ドア)の向こう側攻略日記』(byアユム)

※小学生編をまとめた、アユムの日記です。中学生編から入る人たちや、忘れた人たち用です。見なくても本編に影響はないですが、見ていた方がアユムの今の心情がわかりやすいかもしれません。

 前世の私は『前野まえのあゆむ』といういたって普通の高校生の女の子だった。

 兄がやっていた『そのドアの向こう側』というギャルゲーを横から見ていたはずが、気がつけば私自身が主人公の『今野いまのアユム』になっていたのだ。


 このギャルゲーの目的は、高校の三年間で女の子と仲良くなって、恋愛を成就させることだ。

 高校三年生の時に訪れる星降りの夜に『ドア』の前で告白して、女の子からオッケーを貰い、『扉』が開けばクリア。


 きっと『扉』を開くことさえできれば、元の世界に帰れる。

 でも、そこには大きな問題が一つ。

 このゲーム、死にゲーと揶揄されるくらいに、主人公が死にまくるのだ。

 一番の死亡原因は、メインヒロインの桜庭ヒナタに刺されるというもの。


 ヒナタと接触しないように。

 後は、前世で兄が『死神』と呼んでいたヒロインと出会わないように。

 高校生になるまでは、目立たず騒がず生活しよう。

 そして、『そのド』に関する情報を集めて、高校三年になった時には『扉』を開こう。


 そういう考え方で、行動していた私。

 けど気がつけば、すでにヒロインの六人中、四人が登場してしまっている。



 一人目は、桜庭さくらばヒナタ。

 『そのド』のメインヒロインにして、ゲームクリアの最大の障害。

 イメージカラーは桜色。

 ゲーム内では完璧超人な子で、なぜヤンデレと化して主人公を刺すのかが謎。

 だからこそ恐ろしい。


 初めに私が出会ったヒロインで、高校生の時に学園に転校してくることになっている。

 けど原作ゲームと誤差が生じてきているのか、偶然であったヒナタはオタクな子になっていた。

 『日世渡ひわたり』という前世の兄と同じハンドルネームを使い、しかも髪飾りで性格が変わる様子。

 私の従兄妹であるシズルちゃんと同じ美空坂女学院に在籍してるみたいだ。

 

 もしかして私と同じように、兄もこの世界に転生して、ヒナタになったんじゃないか。

 そう考えたんだけど、私の顔は前世と変わらないので、兄なら最初出会った時に私と気づくはず。

 色々と謎の多い子だ。



 二人目は、黄戸きど理留りる

 イメージカラーは黄色。

 お嬢様キャラで、ドリルのような髪型。


 ゲーム内では、主人公を庶民と見下していて、常にとりまきを引き連れている鼻持ちならない印象の子。

 だけど、実際に仲良くなってみるとそうでもなかった。


 お菓子が好きで、どこか抜けていて、からかいがいがある。

 気が緩むといつも変な歌を歌っている。

 努力家で、人の期待に答えようとするところがある、私の女友達だ。


 本来は高校生の時に出会うのだけど、私が星鳴ほしなり学園に初等部から入ってきてしまったので、二年生の時からの知り合いだったりする。

 

 三年生の時には、先生に嫌がらせを受けて、それに一緒に立ち向かったりもした。

 結局は理留りるの妹の瑠花奈るかなが解決してしまったんだけどね。

 五年生になってクラスは離れちゃったけど、一緒にまわった修学旅行はとても楽しかった。



 三人目は、黄戸きど留花奈るかな

 イメージカラーは黄緑。

 理留の妹で、ツインテールのシスコン。

 私のゲーム内での記憶はなし。

 ゲーム内で理留は見たことがあるから、側にいる留花奈を見ていないとは思えない。

 理留のドリルインパクトで、霞んでしまったんだなきっと。


 理留のことが大好きで、仲のいい私が気に食わない様子。

 私以外には社交的で、普段は猫を被っている。

 まぁわがままなのは変わらないんだけど、それが許されるというか、不思議とみんなに嫌われないカリスマ性みたいなのがある。 


 五年生になってから同じクラスになって、嫌がらせを散々受けたけれど、夏の合宿以来少し大人しくなり、クラス委員の仕事も一応やってくれるようになった。

 口が悪いし、態度もでかいのは相変わらずなんだけど。

 六年生になってからは、顔を会わせれば喧嘩ばかりしていたのに、何故か周りには仲がいいと思われていたなぁ。



 四人目は、星野ほしの紅緒べにお

 イメージカラーは赤。

 ゲーム内での情報は一切なし。

 多分兄が言ってた『百合』キャラで間違いはないと思う。

 少年のような顔立ちをしているので、兄が言っていた『男の娘』キャラも、紅緒先輩の事を言っている可能性がある。


 紅緒先輩は私よりも一つ年上で、六年生の時に星鳴ほしなり学園にやってきた。

 それまでは美空坂みそらざか女学院にいたらしい。

 学園長の養女で、『そのド』のキーである『扉』と因縁がある様子。

 ちなみに、学園に住んでいるマシロとは親戚で、理留や留花奈とも知り合い。私の従兄妹であるシズルちゃんとも面識があるようだ。



 今登場してるヒロインはこんな感じ。

 後の二人はまだ出会ってないけど、一人は判明している。


 前世での私の親友・乃絵のえによく似ている、相馬そうま紫苑しおん

 イメージカラーは紫。

 ゲーム内では、ツンデレで根暗なキャラクター。

 見た目クールで毒舌だけど、言って後でこっそり落ち込むようなギャップのある子。



 そしてヒロインの最後の一人。

 兄が言ってたキャラの特徴で、まだ誰にも当てはまってないのは『妹』と『死神』の二つだ。


 『妹』と言って思い出すのは、私の従兄妹のシズルちゃん。

 一つ年下なんだけど幼く見える女の子で、出会った時から私のことを慕ってくれている。

 純粋で可愛い、小動物系の女の子。


 このゲームのヒロインたちには名前に色が入っていて、髪もその色という共通点がある。

 ちなみに、私にしかこの特殊な髪色は見えてないらしい。

 他の人には、ヒロインたちの髪色も日本人として一般的な黒や茶色に見えているようだ。


 シズルちゃんの場合、私と同じ青色の髪。

 けど、名前に色が入っているという方の条件を、シズルちゃんは満たしていないので、『そのド』のヒロインじゃないのかも。


 未だに最後のヒロインはわからない。

 私に『義妹』ができるか、それともただ単に『妹』っぽい子が出てくるのか。



 

 そして、兄がヒロインに付けていた通称で気になるのは『死神』なんだけど。

 これは、まだ出てきてない『妹』の事を指しているのかな。

 それとも、もう出てきているヒロインの中にいるんだろうか。


 ヒナタには別に『ピンクの悪魔』とか『メインヒロイン(笑)』いう通り名があったりするので、『死神』ではないと思う。


 付き合いが長くなってきた理留は違うと思う。

 留花奈も違う気がする。

 紫苑はそんな子じゃない。


 怪しいのは紅緒先輩と、まだ見ぬ『妹』ヒロインという事になるんだけど。

 うーん。どうなんだろ。



 そういえば、『妹』ではないけど、マシロも名前にシロって単語が入ってるんだよね。

 髪も白いし、そういう意味では『そのド』のヒロインの条件を満たしている。


 マシロは学園のお化けである『ウサギ』の正体で、学園長の孫。

 高校生の男の子で、学園に引きこもって授業に出ない変わり者。


 まぁ、男って時点でヒロインではないと思うんだけど。

 兄が言ってた『男の娘』が男の子っぽい女の子って意味じゃなく、そのまま男の子って意味なら、マシロも十分ありえる。


 いや、やっぱり無理がありすぎるか。

 ギャルゲーでヒロインが男なんて、おかしいし。

 実は女の子でしたーなんてオチもないくらい、体しっかりみちゃったからね。


 それにマシロは私が高校生になったら、もう成人してるんだよね。

 『そのド』のヒロインは全員学園の生徒なので、マシロは違うと思う。


 ただ、マシロはヒロインじゃなくても、このゲームの重要人物なんだろうなと私は思っている。


 理由は、学園の隠し部屋に住んでいて、白い髪と赤い目は私以外の人にも見えているから。

 それに、マシロは唯一私が女だってことを見抜いた。


 私の体は、実は前世と同じ女のまま。

 マシロ曰く、私には『周りに男と認識させる力』が働いているらしい。

 そのため、周りの人は誰も私が男だと信じて疑っていない。


 マシロには人に暗示をかける能力があって、そのせいなのか、この力が効かなかったみたいだ。

 ただ、その不思議な力がなくてもわたしは男っぽいらしく、マシロが気づいたのは割と最近なんだけど。

 

 マシロ自身はどんな人かというと、見た目は中性的で王子様っぽいのに、中身が前世の兄に少し似てる。

 主に引きこもりってとこと、オタクってところが。

 ゲームの趣味も同じだし、一緒にいると素でいられるから楽だ。


 そうそう、マシロだけには私の前世の事を話したんだよね。

 信じてはくれたみたいだけど、聞かなかったことにするって言われてしまった。

 私の話を聞いたら「味方ではいられなくなる」って言ってたけど、あれはどういう意味だったんだろう。



 あと、ヒロインではないんだけど、幼馴染で主人公のサポートキャラにあたる宗介についても書いておこうかな。


 宗介と主人公は、親同士が友人の幼馴染。

 宗介を庇って、7歳の時に主人公は事故に会った。

 ちなみに私はその事故の後、この世界で目が覚め、ヒナタに出会うまで記憶喪失としてこの世界で過ごしていた。


 宗介は兄によると、どのルートでも主人公を殺しにくる、メインヒロインヒナタへの唯一の対抗手段のようだ。

 ヒナタが主人公を殺しにきたとしても、宗介と仲がよければ回避できる可能性が高いらしい。

 

 性格は世話焼きで、いつだって主人公の味方。

 どのルートでもキャラとの恋愛を後押ししてくれる存在だと、兄は言っていた。

 ただ、私は仲良くなりすぎたのか、宗介はちょっと私に対して過保護な傾向がある。


 宗介の実の母親は宗介を生んで亡くなって、父親も幼い宗介を置いて事故で亡くなった。

 両親を失い、父方の弟夫婦に引き取られた宗介。

 そこで仲のよかった友達が事故に会い(私なんですけどね)、そのトラウマから出会った当初は、自分のせいで周りが不幸になると思い込んでいた。


 大切な人をもう失いたくない。

 その思いからか、宗介は特に私に対して執着してるとこがあって、周りなんてどうでもいいと思ってるところがある。


 それでも自分を育ててくれた山吹やまぶき夫妻には、心を開くようになっていたんだけど、六年生になった冬に、二人は火事で亡くなってしまった。


 そして、宗介は母方に引き取られ、苗字が山吹やまぶきから仁科にしなに変わった。

 同時に、宗介の山吹・・・・・・オレンジ色の髪と目の色も変化した。

 髪は茶色に、目は赤に。


 今まで、こんな変化を私は見たことがなかった。

 これが何を意味するのか、今の私にはよくわからない。


 ただ、ゲームで登場する宗介は、最初から『仁科にしな宗介そうすけ』だったから、これは決められていたことなのかもしれない。

 だからといって、山吹のおじさんたちが死んだ事を納得できるわけではないけど。


 父さんが宗介を押し付けあう親戚たちから、宗介の居場所を勝ち取ってくれたおかげで、宗介は今私の家に住んでいる。

 ゲームでは高校生の時、すでに宗介は主人公の家に居候していたから、これも決められていた流れの可能性が高い。


 

 まぁ、今わかる情報はこのくらいかな。

 なによりも重要なのは、これからの方針なんだけど。


 『扉』の前で、女の子に告白するには、星降祭の主役に選ばれる必要がある。

 星降祭の主役は、エトワールのメンバーから選ばれるらしい。


 エトワールというのは、一芸に優れた人に学園から与えられる特権のようなものだ。

 選ばれる基準は、それは財力だったり家柄だったり、成績や運動能力だったりと様々らしい。


 とりあえずは、このエトワールに入ることを目指すべきなのかな。

 ・・・・・・うん、まぁ本当はもっと根本的に考えるとこがあるんだけどね。


 このギャルゲーをクリアする上での問題は、主人公である『今野アユム』が男で、ヒロインたちが女の子だということ。

 そして、本来の私の性別が女であるということ。


 女の子は嫌いじゃないけど、恋愛対象かといえば違う。

 だから、そこは割り切って、ヒロインを私に惚れせればいい。

 ヒロインが私のことを好いていてくれれば、扉は開くんだろうから、深く考えずにたらしこめばいいのだ。

 今のうちからヒロインを絞って、好感度を上げていけば、『扉』を開けるのは楽になる。


 頭ではわかってるんだけど、どうしても躊躇してしまう。

 マシロと一緒にギャルゲーをしたときには、出来たことなのに。


 例えば一番仲のいい理留をヒロインに選んだとして。

 理留の好感度をひたすらに上げて、今以上に仲良くなって。

 もしも理留が私を恋愛的な意味で好きになってくれたとして、扉を開けた私は元の世界に戻るわけだ。


 その後理留は? どうなるんだろう。

 それは、相手に本気で好きになってもらって、捨てていくようなものだ。

 

 これはギャルゲー。ゲームの中の話だ。

 現実じゃない。だから割り切ってもいいんだ。

 ヒロインの気持ちまで考える必要なんてない。

 そう思うのに、なかなか難しい。


 相手のヒロインを誰にするか。

 いっそのこと、全ての事情を話して、協力を頼んでしまおうか。

 でも、理留も留花奈も、紅緒先輩もそういうのを信じてくれそうなタイプには見えないし。


 それに、もしも扉が開かなくて、この世界に残ることになったら。

 そもそも扉の向こうが元の世界になんて繋がってなかったら。

 ――私はどうするんだろう。


 『今野アユム』は男だけど、私の体は前世と同じ女のままだ。

 そう最初は思ってたんだけど、微妙に違うような気もしてきている。

 今の私の体力は、前世の同じ時期に比べて大分高い。

 まるで男子のそれだ。

 たぶん『そのド』に育成ゲームみたいな側面があったせいだと、予測はできているのだけど。


 高校生になるにしたがって、私の体は『今野アユム』の設定に引っ張られ始めているんじゃないだろうか。

 それは怖い可能性なのだけど、ゼロじゃない。


 『今野アユム』でもある私は、そのうち心まで引きずられて、女の子を愛せるようになったりするのかも知れない。


 全くわからないけど、可能性はゼロじゃない。

 男でも女でもないような、中途半端さはまさに今の私にぴったりだ。


 だめだ。どんどんわけが分からなくなっていく。

 考えるなんてこと、私には向かない。

 できることをするだけだ。

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