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【36】ついにバレました

 誘拐事件の後、理留りるには留花奈るかなの気まぐれで、つれまわされていたのだと説明した。

「まったく留花奈は悪戯っ子なんですから」

 そう言って怒りながらも、理留はあっさり納得してくれた。


 しかし、それで一件落着とはいかなかった。

 家の車と私が消え、しかもどちらとも連絡がつかない。

 パニックを起こした理留が、宗介に電話をしていたのだ。


 同じ理由を宗介に説明したのだけど。

「それで、なんで妹の方の黄戸さんはアユムを連れまわしたのかな? 二人は仲が悪かったよね」

 理留とちがって悪戯っ子だなぁと済ましてくれるわけもなかった。


 しかも留花奈の奴、「理留に内緒にするなら」という条件であっさりと宗介に話してしまった。

 最近宗介はただでさえデリケート。

 こんなトラブルに巻き込まれたことを話せば、全く関係なくても自分のせいだと気に病んで、ますます距離を置かれてしまうかもしれない。

 だから、口止めはしてあったのに、留花奈の口は軽かった。

 裏切り者と呟いたら、しかたないでしょ圧力が半端なかったのよと若干涙目で逆ギレされた。


 けれど、誘拐事件の事を話したのは、意外な方向に働いた。

 離れていたのに、私が不幸な目にあったことで、宗介は離れるより今までどおり側にいたほうがいいと考え直したようだった。


 さらに嬉しいことに、誘拐事件以来私の身に降りかかる不幸はピタリと止んだ。 

 秋ということもあって空気が乾燥しているのか、近所でやたらと家事が多いなぁという事以外、トラブルというトラブルもない。


 どうして異常なまでに不幸な目にあってたのか。

 宗介が見たという謎の人物に、謎の視線。


 突き詰めた方がいいのかもしれないけれど、突き詰める方法も思いつかない。

 一年分の不幸を使い切ったと考えて、今はこの平穏に浸ることにした。



 そういうわけで今、私はマシロの隠れ家でゴロゴロしています。

 この世界で、私が一番力を抜けるのはこの場所だと思う。

 家だって居心地はいいのだけど、あそこはやっぱり『今野いまのアユム』としての私の居場所だ。

 それに対して、ここは前世の私だった『前野まえのあゆむ』にとって、落ち着く場所とでも言えばいいのかな。

 自然体でいられるというか、肩の力を抜くことができる。


「やっぱり、お守りって効くのかな」

 読書の秋ということもあって、私はマンガを読んでいた。

 読んでいるのは主に、心霊モノとか、呪いとか祟りを跳ね返すような話だ。


「さぁ、どうだろうな。けど、持っていることで、心の支えくらいにはなるんじゃないか? 今年の夏には、首にいっぱいにんにくと十字架をぶら下げている奴がいたぞ。ボクは吸血鬼じゃないから効かないけど」

 学園のお化けであるマシロが、ゲームをする手を休めて答えてくれる。


 去年は初等部を徘徊はいかいするのを控えていたマシロだったけれど、紅緒先輩が中等部へ行ってからは、その反動もあってよく外に出ていた。


「なんだアユムそんな本を読んで。今更ぼくを退治しようとかそういう話なのか? それは薄情だと思うぞ」

「違うよ。この前まで不運続きだったから、お守りとかあるといいなって思っただけ。そういえばマシロはいつもブレスレットつけてるよね、それお守りか何か?」

 白に近い透明なんだけど、光の加減で虹色に見える綺麗な玉をつかったブレスレット。


 マシロはいつも生地はいいけど、シンプルなシャツとズボンで過ごしている。

 あまり格好にこだわるタイプには見えないのに、お洒落なアクセサリーをつけているのが前から気になっていた。


「これはお守りじゃない。ぼくの手作りだしな」

「マシロの?」

「こう見えてぼくは手先が器用だからな。前にコスプレした時の服なんかもぼくの手作りなんだぞ。その中でも小物を作るのは得意だから、なんなら作ってやろうか。お化け手作りのブレスレットなんて、効果がありそうだろ?」

 マシロの意外な特技に驚きながらも、作ってもらう約束を取り付ける。

 できあがりが楽しみだ。


「あっ、でもマシロはもうすぐ高等部卒業だよね。受験勉強しなくていいの? うちの大学部も、一応試験あったと思うんだけど」

 ブレスレットを作っている暇があるんだろうか。

 いや、そもそもゲームしている暇もあるのか。


 この星鳴ほしなり学園は初等部から中等部、中等部から高等部までは試験無しで上がれる。

 高等部から大学部だけは、試験があった。ただし、外部からの生徒よりもかなり優しく、考慮された試験だ。

 十二月に試験があり、この時期はみんな必死になっているはずなのに、私はマシロが勉強している姿を今まで一度も見たことがなかった。


「ぼくは大学部には進まないぞ」

「えっ? そうなの!?」

 あたりまえのように、マシロは大学部へ進むものだと思っていたので驚く。

「ずっと言おうと思っていたんだけどな。卒業したらぼくは海外留学しようと思っている。行き先はまだ決めてないけどな」

 冗談だと言ってほしかったけれど、マシロの顔は真剣だった。


「ひきこもりのマシロが? そんなの、できるの?」

「ずっとここにいたからこそ、そろそろ潮時だと思ったんだ。心配しなくても隠し通路や部屋は、引き続き使っていいぞ」

 マシロが卒業してしまうまで、あと半年もない。

 変わらずここで会えると思っていただけに、ショックだった。


「ううん、いいよ。マシロがいなかったらたぶんこないと思うし」

 この部屋には楽しいものがいっぱいある。

 けど、マシロがいなかったら、楽しいものも寂しさを余計に際出させるスパイスのようなものでしかない。


「寂しいと思ってくれるんだな」

 人が落ち込んでいるのに、ちょっとマシロは嬉しそうだ。

「あたりまえでしょ」

 何か軽口を叩こうと思ったのに、出てこなかった。

 思っていた以上に私はダメージを受けていたらしい。


「まぁでも、やっぱり隠し通路の鍵は持っておけ。今はまだいいかもしれないが、成長してもっと女っぽくなった時に、色々と入用になるはずだ。まぁ強力な力が働いているようだから、気づかれることはないだろうけどな」

 ぽんぽんと私の頭をマシロが撫でた。

 一瞬フリーズする。


「・・・・・・マシロ、今私のこと女って言った? 気づいてたの?」

「まぁ途中からな」

 驚く私に、マシロはそう告げた。


「一体いつから?」

「アユムを部屋に泊めた日から違和感はあったんだが、気づいたのは付き合いが長くなってからだ」

「どうして? 両親でさえわからなかったのに」

 私のことを女と見抜いたのは、マシロが初めてだった。


「周りに自分を男と見せる力がアユムには働いてるみたいだが、似たような力を持つぼくには効かなかったみたいだ」

 マシロには、人に暗示をかける不思議な力がある。

 でも、なぜか私には効かない。

 それと同じように、私が男に見える力もマシロには効かないようだった。


「でもそれなら最初から気づいてもよかったんじゃないの?」

「まぁ・・・・・・それはそうなんだが」

 マシロの歯切れが悪い。

 つまり、その不思議な力がなくても私は一見男の子に見える。

 そういう事なんだろう。


「しかたないだろう。RPGゲームが好きで、大雑把で。妙に根性が座っているかと思えば、女の子と仲良くなるためにギャルゲーがやりたいなんて言ってくる奴を女だと気づく方が難しい」

 開き直ったようにマシロが口にする。


「いつ気づいたの?」

「夏休みにギャルゲーをするためにぼくの部屋に泊まっただろう。ぼくのベッドで腹どころか胸まで出して寝ていたからな。服を直そうとしたら、胸が物凄く微かに触ってようやく分かる程度、膨らんでいたからな。確かめたらアレもなかったし」

 つい最近じゃないか。

 恥ずかしすぎるバレ方に、穴があったら入りたかった。


「前々から言おうと思っていたが、アユムは寝相が悪すぎる。ちゃんとシャツはズボンの中に入れて寝ないと、風邪を引くぞ。あと仮にも男の部屋で、警戒心がなさすぎなのは駄目だ。ぼくだから許されるようなものの」

 マシロのオカンみたいな説教が始まる。


 いや今怒りたいのは私なんだけど。

 人の体を触った上、アレを見たってことは勝手に人のズボンを下げたということで・・・・・・マシロはなかなかに失礼な事を言ってくれている。


「寝てる間に人の体を触るなんて、マシロの変態」

「ぼくはロリコンでもショタコンでもないからな。見た目でわかり辛いから触るしかなかったんだ。そういうことは、もう少し女の子らしくなってから言ってくれ」

 あまりにも平然と言われてしまうと、これ以上ムキになるのが馬鹿らしくなってきた。


「それで、なんでそんな力がお前に働いているんだ。お前を男に見せているその力は、普通のものじゃないぞ」

「そう言われても、よくわからないんだよ。七歳の時に事故に会って、記憶喪失になって、気づいたらこうなってた」

 難しい顔をして、マシロは黙り込んでしまった。 


 マシロに本当のことを話してみようか。

 私は悩んだ。

 不思議な力とかそういうことにマシロは詳しいようだし、この世界がギャルゲーで、私が別の世界からきたという突拍子のない話でも、信じてくれるかもしれない。


「あのさ、マシロ」

「なんだ」

 私はマシロに事情を説明した。

 ギャルゲーをしている兄の側でゴロゴロしていたら、この世界にいたこと。

 前世は『前野歩』という女の子だったこと。


 この世界はギャルゲーの中で、主人公になってしまった私は、高校生になると攻略対象の桜庭ヒナタに殺されてしまう可能性がいるのだと。

 マシロは馬鹿にすることなく、私の話を最後まで聞いてくれた。


「なるほどな、そういうことか」

「マシロ、信じてくれるの?」

「あぁ。むしろ今の説明で全て納得がいった。けど、聞かなかったことにする」

「どうして?」

 私が訪ねると、マシロは苦い顔になった。


「・・・・・・聞いてしまったら、この瞬間からぼくはアユムの味方でいられなくなる」

 それはどういう意味なのかと問いただしたかったけれど、マシロはそれ以上教えてくれそうになかった。


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