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【31】ギャルゲーの主人公である私が、ギャルゲーをプレイしてみました

 最近の私は、元の世界に帰るための努力を怠っていた。

 ヒロインの一人である紅緒べにお先輩が学園に来たことにも気づけなかった。

 そこで反省した私は、初心に帰ることにした。


「マシロは、紅緒先輩と親戚なの?」

「・・・・・・もしかして、紅緒に会ったのか」

 久々にマシロの隠れ部屋を訪れた私は、夏の合宿で紅緒先輩と出会ったことや、留花奈るかなの罠にはめられて迷子になったことをマシロに話した。


「それで紅緒先輩が学園長の養子って聞いたんだ。紅緒先輩の方が年下だけど、学園長の孫であるマシロにとっては叔母さんだよね。先輩ってどんな人なの?」

 新ヒロインの紅緒先輩について、情報を集めようと思ったのだけど、マシロはあからさまに嫌そうな顔になる。


「どんな人って、見たままの奴だ。それよりもぼくのことを紅緒に言ってないだろうな」

「言ってないよ。怪我したときに手当てしてもらっただけ」

「いいか、ぼくのことはあいつの前で一切口にするな。この隠し部屋のこともだ」

「別にいいけど、どうして?」

「・・・・・・こっちにも色々事情があるんだ」


 マシロの口調には、話を打ち切るような響きがあった。

 二人には単に親戚という以外にも、何か関係があるのかもしれない。

 詮索してほしくなさそうだったので、私はこの話を諦めることにした。


「話は変わるんですけど、マシロ先輩。ボクやってみたいゲームがあるんです」

「何だ突然猫なで声で。まぁいい、何をやってみたいんだ。結構色々揃ってるぞ」

 趣味であるゲームのこととなると、マシロは輝きだす。


「ボク、ギャルゲーがやってみたいんだ」

 格闘ゲームか、シューティングかとわくわくした様子で尋ねるマシロに、私はそう告げた。



 この世界『そのドアの向こう側』はそもそもギャルゲーだ。

 なら、ギャルゲーを知ることで、何かわかることがあるんじゃないか。

 本日ここに来た目的は、紅緒先輩のことよりも、こっちの方がメインだった。


「なんでギャルゲーなんだ。子供にはまだ早い」

 まるで男女交際を許さない父親のように、マシロはきっぱりと言い切る。


 この部屋においてあるゲームやマンガは、過激な描写のあるものや、萌え系とかちょいエロのものは置いていない。

 なんだかんだでマシロは、私の目に触れてはいけないものは他の場所に隠しているのだ。


 以前過激な展開が人気のマンガを見つけて読もうとしたら、これは駄目だと取り上げられてしまった。

 夜更かしもお泊りもオッケーなくせに、妙なところでマシロはきっちりとしている。


「どうしてもやりたいんだよ。お願い、マシロ!」

 私の家にゲーム機はないし、ギャルゲーを買うのは敷居が高い。

 マシロくらいしか頼れる相手はいなかった。


「そもそも、なんでギャルゲーなんかやりたいんだ」

「それは・・・・・・」

 本当の理由を言ったところで信じては貰えないだろう。

 何かいい理由はないだろうか。

 マシロが納得して、ギャルゲーをやらせてくれるような正当な理由。


「女の子とのコミュニケーションを学びたいんだ」

「はぁ?」

 マシロは何を言い出すんだこいつという顔をしていた。

 私も同じ事を自分に対して思っていた。


 前世で、ギャルゲーを始めたきっかけを兄に聞いた時の言葉を参考にしてみたのだが、やっぱり駄目だよね。

 しかし、口にしてしまった以上、押し切ることにする。


「ボク女の子とどう接していいかわからなくて。それで、そのヒントがこのギャルゲーに詰まってるんだってある人から教えてもらったんだ。だから、お願いだよマシロ先輩」

 キラキラとした目でマシロを見つめる。


「ぼくとしては、そんなゲームの中で女の扱い方が学べるとは思えないが・・・・・・そんなに女に苦労しているのか?」

「してる」

 自分でも驚くほどの速さで、即答していた。

 今年の夏は特に。この世界にきて女の子に振り回されっぱなしだ。


「あぁもしかして、あの留花奈とかいうやつか」

「うんまぁね。夏の合宿で一応和解はしたんだけど、もっと仲良くできる方法はないかなって」

 留花奈には悪いが、利用させて貰おうと決める。

 本当のことも交えて、マシロに再度お願いしてみた。


「わかった。でもぼくはギャルゲーを持っていないんだ」

「そっか・・・・・・」

 兄と違って、そもそもマシロの趣味は私と近く、萌えよりも燃えだ。

 そもそも持ってないんじゃないかなとは思っていたのだ。


 しかし、頼みの綱のマシロが無理だとなると、どうしたものか。

「そう落ち込むな。前に会った緋世渡ひわたりはギャルゲーが好きだからな。貸してもらえないか聞いてやる」

 考え込んでいると、しかたないというようにマシロがそう申し出てくれた。

緋世渡ひわたりさんって、ギャルゲーやるんだ?」

「あぁ。好きみたいだぞ。女にしては珍しい趣味だよな」


 緋世渡ひわたりさん。

 この前あった、マシロのネット友達で、その正体はなんとこのギャルゲーのメインヒロイン桜庭ヒナタだった。

 どのルートでも主人公を殺しにくるという、とんでもヒロインだ。

 彼女に殺されるのを回避するために、彼女からギャルゲーを借りる。

 なんだか間違っている気がしたが、この際気にしない事にした。


 幸いヒナタは心よくギャルゲーを貸してくれたので、早速プレイしてみる事にする。

 ヒナタが貸してくれたのは、私が指定した学園物で、初心者でもやりやすい王道のモノとのことだった。

 その中から、なんとなく一つを選ぶ。

 パッケージではカラフルな髪色の女の子がこちらに向かって微笑んでいた。


 このゲームは選択肢を選んで、女の子の好感度を上げていくタイプみたいだ。

 しかし、兄がやっているのは見ていても、自分でプレイしたことはないので少しドキドキする。

 名前を決めて、ゲームをスタートさせた。


 順調に進めていくと、クラスメイトのみちるちゃんと一緒に帰るイベントが発生した。

 よしと思っていたら、他のキャラが割り込んできて、誰と帰るかという選択肢が表示される。


『私はいいから、美紀ちゃんと一緒に帰ってあげて』

 みちるちゃんはそう言ったけれど、最初に誘ってきたのはみちるちゃんだ。

 かといって、折角誘ってくれた美紀ちゃんを一人で帰すのも気が引ける。


「3の三人で一緒に帰るだね。そうしたら皆喧嘩せずにすむし」

 なら選ぶ選択肢は一つ。

 どっちもいい子だし、三人で帰れば、二人の時よりも楽しいはずだ。

 そう思ったのに、みちるちゃんは泣いてどこかに行ってしまうし、美紀ちゃんにはビンタをされてしまった。


「なんで? わけがわからないよ」

「二人とも、自分を選んで欲しかったんだろ」

 全員の意見がうまく取り入れられていると思ったのに、マシロは呆れ顔だった。

 

 そんな風にして進んでいったら、誰ともくっつかずに終わった。

「なんで? 好感度は高かったはずなのに!」

「このゲーム、性格が出るな。アユムは誰にでもいい顔をしすぎだ。結局選べるのは一人だけなんだから、攻略する相手を最初から決めておいた方がいい」

 マシロの意見は的確だった。


「選べるのは一人だけ・・・・・・か」

 なんだろう。

 マシロはゲームのことを言っているのに、今の自分のことを言われた気がした。

 誰かを選んで。相手を恋に落として。

 そうしなければ、元の世界に帰れないのに私はそれを迷っている。

 

 所詮はゲームの中の話。

 色んなことを割り切って、恋愛をすればいい。

 ギャルゲーについて勉強なんてしなくても、それをしてしまえば解決なのだ。


「それでどうする。誰を選ぶんだ」

 そろそろ、覚悟を決める時期にきてるのかも。

 そんなことを考えていたら、マシロが説明書に載っているキャラを私に見せてきた。

 とりあえず、一番主人公に優しい幼馴染の女の子を選んで攻略することにした。


「・・・・・・まさか、ぐすっ。ロボットだったなんて」

「意外だったな。最初から主人公に優しかったのも、プログラムされていたからだなんて。しかし、最初は確かにそうだったかもしれないが、最後はそれだけじゃなかったと思う。主人公とのふれあいで、彼女は人間になれんだ」

 クリアして後は謎の感動があった。

 私だけでなく、マシロも少し涙声だ。


「よし次は委員長だ!」

「あぁ、どこまでも付き合おう。なんだかぼくも面白くなってきたしな」

 そうしてマシロとギャルゲーをプレイしていく。

 毎日のように隠し部屋に通い、時には泊まって徹夜をした。

 すっかり私達はギャルゲーにはまっていた。


 妹が魔法使いだったり、先生が謎の組織の研究員だったり。

 クラスメイトが宇宙人で、後輩が前世の恋人だったりとなかなか多種多様だった。


 『死神』や『ヤンデレ』で驚いていた自分は、なんと小さいことか。

 ヒロインが人間ですらない可能性も、ギャルゲーにはザラにあるのだ。


「おそるべしギャルゲー・・・・・・!」

「あぁ予想外の展開が多すぎるな。現代の学園もののはずなのに、不思議な出来事が当たり前のように存在している」

 一作品やり終えた後は、なんだか達成感みたいなものがあった。



「よし、次はツン★キス★ラバーズってやつをやってみよう」

 続いて選んだのは、茶髪の女の子が一人で立ってるパッケージのもの。

 絵柄も一般向けっぽく、きゅるきゅるしていない。

 こっちのゲームはステータスをあげて、女の子の好感度を上げていくタイプのようで、攻略キャラの好みに合わせて自分を作り上げていく必要がある。

 RPGとかでは平均的にステータスを割り振るタイプの私は、それに気づかずにあっさりと振られてしまった。


 いくらデートを重ねて仲がよくても、自分の好みじゃないから友達止まりってことか。

 こういうところは妙に現実的だ。


 そういえば、こういうステータス画面、前世の『そのド』でもあったなぁ。

 女子の枠を飛び越えて、鍛えれば鍛えた分だけ上がる私の運動能力は、このステータスというやつに依存しているのかもしれない。

 

 このギャルゲーは、スポーツ好きなヒロインが相手なら運動のステータスを上げて、頭がいい男性が好みのヒロインなら勉強を頑張ればいいようだ。


 『そのド』も同じようにすれば、ヒロインを攻略できるのだろうか。

 あれ、でも待てよ。

 兄はどのルートでも、運動のコマンドしかしてなかったような。

 他のステータスは上げないのかって聞いたら、一つだけ磨いていればそれでいいって言ってた気がする。


 確か、高いパラメーターが一つあれば、何かにスカウトされるとかなんとか。

 その何かは生徒会的なもので、それにスカウトされてしまえば、劇に出れる条件を一つクリアしたようなものだと言っていた気がする。


 つまり、『そのド』においてステータスはヒロインよりも、扉を開くための劇に関わる要素と見ていい。


 高いパラメーターっていうのは、才能みたいなものだよね。

 才能があるとスカウトされる・・・・・・思い当たるのは、理留や留花奈が所属してる、エトワールってやつじゃないだろうか。

 

 まさかここで扉に関する、重要な情報を思い出すなんて。

 これだけでもギャルゲーをやったかいがあるというモノだ。


 ちなみにこのギャルゲー『ツン★キス★ラバーズ』の内容はというと、タイトル通りツンツンした女の子と、色んなシチュエーションでキスする話だった。


 この主人公は呪われてでもいるのか、何もないところでこけて、よく女の子のスカートの中に顔面ダイブする。

 あと階段から落ちて、女の子の唇を奪ったり。

 運動能力はかなり高くしていたのに、恐ろしいドジっ子ぷりだった。

 なのに、女の子たちもツンと怒るだけで済ませて、しかもその後主人公を好きになっていくのだから凄い。

 ハプニングも恋のきっかけにすぎないということだろうか。


 とりあえず、このギャルゲーの主人公じゃなくてよかった。

 セクハラで訴えられてもおかしくない。


 あとキスシーンやパンチラシーンの度にマシロが画面の前にしゃしゃりでてきて、全く集中できなかった。

 こういうのはまだ早いというマシロは、どこかおかんっぽい。

 内容よりも、キスばっかりしてたなこいつらという印象しか残らなかったので、途中でやめて最後の一本にいくことにする。


 最後の一本はノリのいい、ギャルゲーだった。

 ギャグテイストで、ヒロインの食事で食中毒になったり、選択肢を間違えると主人公がさっくりと爆発に巻き込まれて死んだりする。

 面白かったんだけど、心から楽しめなかったのは、私が同じギャルゲーの主人公になってるからなんだろう。

 そんな笑いのついでみたいに死んじゃうのは、絶対に嫌だ。


 あと、選択肢によってはうっかり死にかけて妖怪と融合したり、地底の国につれていかれたりするのに、それでもヒロインへの愛を貫く主人公は懐が大きすぎる。

 ヒロインの正体が何であっても、自分がどんなことになっても、志を貫ける奴が主人公なんだということなんだろうか。


「どうだ、ギャルゲーをやって何か掴めたか?」

 全てのギャルゲーを終えてマシロが尋ねてくる。


「うん。とりあえず、全部のゲームでツインテールキャラはツンデレだったから、留花奈もそうなのかもしれないって事がわかったよ。デレが全くないけど。あと、ヤンデレや死神くらいどうってことないなって思えた。もっと凄いものがギャルゲーにはゴロゴロしてるよ」

「そうか。よくわからないが、それならよかった」


「本当に。ボク、今野アユムでよかったよ」

「そこまでか!? 大げさな奴だな」

 当初の目的とは少しずれているけれど心からそう思う。

 そんな私に、事情を知らないマシロは少し引き気味だった。


 ちなみに、二学期の登校日。


「理留はその髪が実は土を掘るドリルで地底人だったとか、留花奈は実は宇宙人でその二本の髪は触覚とか、そんな設定はないよね」

 校門で偶然出会った理留と留花奈に確認をしたら、思いっきり変な人を見るような顔をされた。


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