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妹の私がギャルゲーの主人公(男)になりました  作者: 空乃智春
宗介ルート:真相編(ここからR15&残酷ありです)
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【67】神様とのゲーム

「おはよう、アユム。緊張してる?」

「……まぁね」

 高等部の制服に身を包んだ朝。

 迎えにきてくれた宗介に苦笑いしながら、靴を履いて玄関を出る。


 とうとう今日、神様が学園に入学してくる。

 それがどんな人物なのかはわからない。

 けれどきっと、一目で引き付けられるような魅力を持った人物のはずだ。


「大丈夫かな……」

「俺は心配してないよ。アユムは俺が嫉妬しちゃうくらいには、人気者だから」

 不安に襲われる私に、さらりと宗介はそんなことを言う。


「嫉妬って……宗介、人気者になりたかったの?」

「そっちじゃないよ。アユムがみんなに好かれてるから、面白くないって言いたかっただけ」

 わかってないよねアユムはと、宗介は溜息を吐く。

 相変わらず独占欲が強くて、それを嬉しいと思ってしまう自分がいる。


「アユム……何にやにやしてるの」

「なんでもない!」

 そんな会話をしながら、学園の門をくぐった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「新入生代表挨拶、神城かみしろサマト」

「はい」

 入学式が始まり、呼ばれて一人の生徒が立ち上がる。

 神々しいとも言える金の髪に、真っ赤な瞳の男子。

 ふざけた名前だけれど、その容姿は優れているとしか言いようがない。

 ――圧倒的な存在感。

 彼はそこにいるだけで、多くの人の注意を引き付けていた。


 たぶんあれが、神様だ。

 間違いないとそんなことを思う。

 彼は全教科満点で入学し、入学早々優れた生徒しかなれないエトワールになったのだと司会の教師が口にする。

 

 彼が話し出すと、ざわついていたのが嘘のように静まる。

 艶のあるしっとりとした声は耳障りがよく、みんながみんな、彼の話に夢中になっていた。

 挨拶をし終わって、大きな拍手に包まれながら彼が壇上を降りる。


 ふいに彼と目があった。

 余裕のある顔で、ふっと鼻で笑われる。

 喧嘩を売られたような気がした。


 こいつは手ごわいかもしれない。

 そんなことを思ったのは……最初のこのときだけだった。


 神城サマト……たぶん神様だろうと思われるこの人物は。

 相当に、残念な奴だったのだ。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「神城サマトだ。気軽に神様と呼ぶがいい」

 入学式の後の、それぞれのクラスでの自己紹介。

 のちに語り継がれることになる、神城サマトの第一声がそれだった。


 神様って呼び方、全然気軽じゃないと思うんだけど……うけを狙っているんだろうか?

 なかなか高度な技術を使ってくる。

 そんな手を使ってくるとは思わなくて、虚を突かれた。


 ただ、物凄く滑っていて……見てるこっちが不安になってくる。

 入学式での素晴らしい演説を聞いていた生徒たちは、どんな奴なんだろうと彼に注目していた。

 なのにこれだ。どう反応していいかわからないという、気まずい沈黙が教室内には漂っていた。


「ははっ、神城ってお堅いやつかと思ったら面白いんだな」

 優しいクラスのお調子者が笑い、凍った空気を和ませようとする。

 それに追随するように、他の子たちもなんだ冗談だったんだと、和やかな空気が流れ出す。

 よかったどうにかなりそうだ。

 自分のことではないのに、ちょっとほっとしたところで。


「神である我を笑うとは……この無礼者ども!」

 顔を真っ赤にして、神城サマトが怒鳴った。

 どうやら、さっきのセリフは大真面目に言っていたらしい。

 クラスの空気が、さっきよりもなお凍りついた。

 そんなこんなで……一日目にして、神城サマトはクラスから浮くことになった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「……クロエ、マシロ。あれが神様で当たってるんだよね?」

 同じクラスになった二人に尋ねれば、気持ちはわかるというように頷いた。

 どうやらあれが神様で間違いないらしい。


「もっとこう、完璧超人みたいなのを想像してたんだけど」

「一応、成績はオール満点で入学、運動神経は抜群みたいっすよ?」

 私の言葉にクロエが答える。


「いやでもあの性格は……。神様って凄く人望ありそうな、聖人っぽいいイメージが……」

「力の差は多少あるが、対として作られた死神のクロエがこんなありさまだ。それを考えれば、あの性格も納得だとぼくは思うけどな」

 もやもやしていたら、マシロがそんなことを言う。


「なるほど、それもそうだね。物凄く納得した」

「なんでそこで納得するっすか! さりげにおれのことバカにしてるっすよね!」

 クロエがツッコミを入れてきたけど、クロエの性格に難ありなのは皆が認めるところだった。


 現在は昼休み。

 吉岡くんはパンを買いに行ってしまったので、クロエやマシロと一緒に先にお昼を食べていた。

 ちなみに宗介と兄は隣のクラスだ。


 神様の方を見れば、ぽつんとひとりでお昼を食べている。

 それが気になって、しかたなかった。


「ボク、あっちで食べてくる!」

「ちょっとアユム!」

 宗介の静止を振り切って、神様に近づく。


「一緒にお昼食べていいかな」

「いいだろう、許す」

 横から声をかければ、尊大な調子でそう言って、神様がこちらを見た。

 声をかけたのが私だと知ると、露骨に眉をひそめる。


「……なんだ、敵情視察か」

「いや視察も何も、同じ教室にいるんだから」

 わざわざ覗きに行かなくても、この距離なら丸見えだ。

 近くの机から椅子を引いてきて、神様の前に座る。


「はじめましてだよね。ボクは」

「自己紹介されずとも知っている。私は神なのだ。知らぬことなどない」

 ツンと跳ね除けられる。


 なんというか……自分で神っていうと、残念な子みたいだな。

 見た目は格好いいし、本当に神様なんだけど……この言動は相当痛い子に見えるというか。


「誰が痛い子だ。神に向かって不敬な……!」

「あっそうか、心が読めるんだっけ。そういえばツキから説明を受けた気がする」

「それくらい当然だろう。我を誰だと思っている。神だぞ?」

 ふんとバカにしたように、神様が鼻をならす。

 口癖は「神だぞ」だと思ってよさそうだ。


「ボクとの対決の内容は……わかってるんだよね」

「あぁ、もちろんだ。三年後の冬行われる、星降祭の劇で主役を演じたものが勝利。我が勝てば、お前と宗介に宿る力ごとその命をもらう。裏切りものの天使と、クロエやマシロの命もな」

 不敵に笑う神様は、神様というより悪党っぽい。

 自分の勝利は確定しているというような、尊大すぎる態度だった。


「劇の主役を決めるのは、人気投票なんだけど……それは?」

「知っている。なんだお前は。この我がお前なんかに人気で負けると思ってるのか。我はこの世界の神だぞ?」

 ちゃんとわかっているのに何故聞くんだと、神様が眉をひそめる。

 聞きたくなって当然だと思うんだけど。

 だって一日目にして人気うんぬんっていうか、クラスで孤立しちゃってるし。


「孤立? 何をいう。高貴な存在である我に、みな遠慮しているだけだ」

 私の心の声を勝手に聞いて、何を言ってるんだと言う顔を神様がする。

 この顔は本気でそう思っちゃってる感じだ。


「おれとマシロも一緒に食べていいっすか? いいっすよね!」

 私と神様の会話を見守っていたクロエとマシロが、机をくっつけ参加してきた。

 神様は敵側だからと言って拒む気はないらしく、好きにしろと口にする。

 余裕のある態度と言ってよかった。


 この状態から人の心を引き付ける、とっておきの作戦でもあるんだろうか。

 そんなことを考えながら神様を観察する。

 暗示の能力は、クロエやマシロも含め、学園の関係者には使用禁止というルールになっている。

 それでいてこの世界はまだ神様の世界ではなく、ツキの力が残る世界だから何をしなくても神様が愛されるということはない。


 けど神様には心を読む能力と、変身能力が備わっている。

 他にも魔法のような力があるとツキは言っていた。

 その力を使って、人の心を掴んでいくつもりなのかもしれないと、クロエやマシロと会話をしている神様を眺める。


「サマーはどんな作戦で行くつもりっすか?」

「おいふざけるなクロエ。我はそんな名ではない」

「いやだって、神様とか呼べるわけないっしょ。何の冗談かと思ったっすよ!」

 勝手に神様にあだ名を付けたクロエが、けらけらと笑う。

 神様よりはサマーの方がまだましだと私も思った。


「作戦なんてものはない。完璧なものに人はあこがれる。人の道しるべたる我に、惹かれないものなどいるわけがないだろう」

 自分は完璧な存在だと、神様……もといサマーは言いきった。

 いやまぁ、神様だからその発言も許されるのかもしれないけれど、今のサマーは高校生の男子の姿をしているわけで。

 こういうの中二病っていうんだっけかと、そんなことを思う。


「うわっ……今まで会ったことなかったっすけど、サマーってかなり残念な奴だったっすね!」

「残念なのはお前のほうだろう、死神。仮にも我と並んでいたくせに、なんだその軽薄な見た目と言動は。シャツは白か黒と決まっているし、ピアスやじゃらついたアクセサリーももちろん校則違反だ」

 素直すぎるクロエの言葉に、まるで風紀委員みたいなことをサマーは言いだす。


 この学園、不良と呼べる生徒がほぼいないため、割と校則が緩い。

 服装や髪形の規定はあるのものの、そこまで奇抜でなく常識の範囲内なら教師も黙認状態だ。

 というか、理留りるのドリルヘアーがオッケーな時点で、この学園の風紀の緩さはわかるようなものなんだけれど。

 結構神様は頭が固いのかもしれないなと思っていたら、神様がふいに私に目を向けた。


「我がこの学園に来たからには、正しい方向へお前たちも導いてやる。我は慈悲深い神だからな。我にゲームをしかけたこと……たっぷり後悔させてやる」

 それは神様からの宣戦布告だった。

 力強い言葉に、射抜くような瞳。

 私に負けることなんて万が一にもありえないと言いたげだ。


 どこからやってくるのかわからないその自信の根拠が見えない。

 得体が知れないから不気味だった。

 でも、今のところ負ける気がしない。

 気持ちの意味でも、それ以外のところでも。


 だから、望むところだよと不敵に笑って言ってやった。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★アユム 2週目 中等部1年→高等部1年 春


●神様登場

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