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妹の私がギャルゲーの主人公(男)になりました  作者: 空乃智春
宗介ルート:真相編(ここからR15&残酷ありです)
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【61】思い出す記憶と

 学園に入学して、前回と同じように理留りる留花奈るかなと出会った。

 できるだけ前と同じような態度で二人には接して、放課後になると図書館へと向かう。

 

 兄が言っていたマシロというキャラクターは隠しキャラ。

 ゲーム内では二周目以降に攻略可能。

 仲よくなるイベントは、ゲーム内のコマンドでインターネットを開き、ゲームの掲示板を何度も見ること発生するらしい。


 まだギャルゲーの開始日までかなりの年月があるので、その掲示板にマシロがいるかどうかはわからない。

 それでも何もしないよりはましだと、生徒ならだれでも自由に使えるパソコンで、兄が言っていたゲーム関係の掲示板を開けようとしたのだけれど。

 ……制限がかかっているようで、うまく開けない。

 初等部の生徒が勝手に変なサイトを開けないよう、学園側がロックをかけているようだ。


「……アユム、パソコン使えるんだね」

「えっ……まぁね?」

 横で感心したような声を出した宗介に、ちょっぴりドキッとする。


 そういえば……今の私は七歳なんだった。

 そのあたり、気をつけなきゃいけないなぁと今更思う。

 不審がるというより、宗介はすごいなぁと尊敬した顔をしているから、まぁ大丈夫だろう。


「ねぇ、宗介。この学園に白い髪で紅い目をした女の子っている?」

「……もしかして、アユムどこかでウサギを見たの?」

 尋ねれば宗介がそんなことを口にする。


 『ウサギ』というその単語が頭にひっかかった。

 どこかで聞いたことがあったような気がする。


「ウサギって何? 動物のこと?」

 そうじゃないとはなんとなくわかっていたけれど、とぼけた調子で尋ねれば、宗介はこの学園に伝わる怪談を教えてくれた。

 白い髪に紅い瞳の少女ではなく、少年のお話。


 学園にある『扉』の向こうからやってきた『ウサギ』は、『ツキ』が扉を閉ざしたせいで戻れなくなってしまい、こちらの世界をずっと彷徨っている。

 『ウサギ』は寂しがりやで、今でも夕暮れ時になると扉のあるこの学園を徘徊しているらしい。

 気に入られると扉の向こうへ連れていかれて、二度と帰れなくなってしまう。


 その話を聞き終えてから、前にも一度聞いたことがあるなと思い出した。

 兄がくれたノートにも『ウサギ』という単語が書いてあったような気がするし、前回の初等部四年の時に吉岡くんが話してくれた話と全く同じだ。


 確かあれは、初等部の四年生の一学期が終わる日。

 吉岡くんから怪談を聞いて後、水着を更衣室に置いてきてしまったことに気が付いた私は、夕方の学園に取りに行った。

 更衣室のドアが開かなくなって、それで……。


 あれ、おかしいな。

 その後がうまく思い出せない。

 インパクトの強いできごとだったはずなのに、どうして忘れてしまってるのか。


「どうかしたの、アユム?」

 黙り込んでしまった私に、宗介が声をかけてくる。

 なんでもないよと私は答えた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 一旦宗介と家に帰ってから、夕方。

 私はまた一人で学園を訪れていた。

 どうにも思い出せない記憶が頭にひっかかって、気になってしかたなかった。

 

 更衣室に行けば、何か思い出せるんじゃないか。

 そんなことを思ったのだ。

 けど、そもそもまだ春なのでプールの更衣室には鍵がかかっていた。

 

 やっぱりそう上手くはいかないかと思いながら、なんとなく校内をぶらついて。

 気づいたら、学園の一階にある階段下の用具室前に来ていた。

 その前に立ち止まって、どうしてここに来たんだろと自分で不思議に思う。

 まるでいつもしていることのように、自然と足が動いていた。


「帰ろ……」

 そう口にしたとき、その用具室の扉が開いた。

 そこから出てきたのは白い髪に紅い瞳をした、高校生くらいの少年。


 彼と目があった。

 宝石のような、綺麗な紅の瞳。

 それを見た瞬間――頭の中にめまぐるしく情報が流れていく。

 まるで無理やりせき止められていた水が流れ出すように、私は目の前の少年のことを――マシロのことを思い出した。


「マシ……ロ?」

 自分が信じられなかった。

 あんなに友達だったのに、マシロのことをこの瞬間まで全く忘れていた。


「あぁ、見られてしまったか……面倒だな」

 私を見て、マシロはやれやれと溜息をつく。

 まるで私を知らないかのような態度だ。

 それも当たり前だと気づけないほどに、私は動揺していた。


『今見たことは、すべて忘れるんだ。いいな?』

 マシロの声が頭に響く。

 紅い瞳が私を覗きこんでくる。

 暗示をかけようとしてるんだとわかったけれど、それは今の私には効かなかった。

 ぐっとマシロの腕を掴む。


「お、おい……」

 目の前のマシロは、困惑した声を出した。

 でもそんなことは私にとって、どうでもよかった。


 全部――思い出した。

 宗介との結婚式の日、私はマシロに暗示をかけられた。

 

「ぼくは扉の番人だ。宗介をアユムが選んだのも、また選択で。その結末を最後まで見届ける必要がある。その先に何があるのかわかっていても、ぼくには止められないし眺めることしかできない」


 そう、前回のマシロは言った。

 つまりあのときのマシロは、私が宗介を選んだことで――周りの皆が死ぬのがわかっていたんだろう。

 

「頼むアユム。離れるのは辛いが、側にいて見守るのは……もっと辛い。ぼくは関わりすぎた。平気な顔をしてアユムと一緒にはいられない。見ていられないんだ。アユムが思っているより、ぼくは弱いんだよ」

 

 あの言葉の意味が、今ならわかる。

 全部を知りながら私の側に居続けることが、心優しいマシロにはできなかった。

 私から自分自身の記憶を奪い去って。


 マシロはあの後――。

 おそらくは、自ら私の生きる時間を延ばすために、命を絶った。

 私に近しければ近しいほど、次の犠牲者が出るまでの時間は伸びるから。


「マシロの……バカ」

 トン、とその胸を叩く。

 本当にバカなのは私だってことくらいはわかってる。

 これは八つ当たりだ。


 あの時は知らなかったとはいえ、マシロが死ぬ羽目になったのは私の選択のせいだ。

 わかってる。嫌というほど、わかってる。

 でも、自分から死なんて選んでほしくなかった。

 そんなことは望んでなかった。


 責めてくれてよかったのに。

 私が罪悪感も何もかも抱けないよう、マシロは記憶ごと全部持っていってしまった。

 マシロが犠牲になっていたのに、私はそれすら忘れていた。

 そんな自分が許せなかった。


「マシロはボクに甘すぎるよ。優しすぎる。どうして……そうなの」

「な、なんのことだ!? どうして泣く!?」

 嗚咽が口から漏れて、涙が零れる。

 そんな私に、目の前のマシロは酷く動揺していた。

 

 

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「君はこの学園でいずれ行われるゲームの主役で、気づいたら過去に飛ばされていた。それでぼくに会うのは二度目で、嫌な未来を回避するために動いている……そういうことでいいのか?」

「うん……大体、そんな感じかな」

 マシロが入れてくれたココアを飲みながら、頷く。

 どうにか泣き止んで、マシロに伝えられたのはそこだけだった。


「正直、どうして泣かれたのかが気になるんだが……今日はもう遅いからな。また明日にしよう。込み入った話になるんだろう?」

 マシロはあっさりと私の話を受け入れてくれて、そんなことを言う。

 それだけで涙が出そうになれば、マシロが慌てたようにもう泣くなと言ってくる。

 私に泣かれるのが苦手みたいで、そんな顔を見てると余計に泣いてしまった。



 また明日と約束をし、その日は帰って、次の日。

 学園内にある隠し部屋で今までの事情を話せば、マシロは難しい顔になった。


「……正直、信じられないな」

「この世界が繰り返してるなんて、変な話……受け入れられないよね」

「そうじゃない。世界の繰り返しに関しては、ありうる話だ。ただ、ぼくが扉の番人の立場を放棄したということが、信じられないんだ」

 ぼそりとマシロが呟く。

 眉間にしわを寄せて、考え込むような顔をしていた。


「それほど、君を気にいってたってことになるんだろうが……自分がそんなふうになるなんて、聞いてもいまいちピンとこない。別に話を信用してないってわけじゃないから、そこは誤解しないでくれ」

 そう言ってマシロがテレビの電源を付ける。

 接続したままになっているゲーム機に、私が持ってきた黒いメモリーカードを差し込んだ。


 映し出された画面に、メモリーカードの中のデータが映し出される。

 千近くあるセーブデータは、全部『その扉の向こう側』のゲームデータ。

 そのデータの一つ一つに、プレイヤー名と主人公名、それとキャラクターのデフォルメされた画像がついている。


「見ろ。最新のデータだけ、主人公名もプレイヤー名もアユムになってる。その一つ前は、プレイヤー名が渡とアユムの二人になってるな」

 このメモリーカードを持っていて、記憶を次に持ち越した者が基本的にはプレイヤー名に書かれているんだろうと、マシロは口にした。


「渡は君の兄なんだよな? これを見ると彼は、千回近くこの世界を繰り返していたということになる」

 やっぱりゲーム好きのマシロでも、そう思うらしい。


「……一番目のデータに載っているキャラは、おそらくぼくだ。ただ、双子のように同じ顔がもう一つあることからすると、一方はツキの可能性がある」

「ツキって、この世界の創造主の?」

「あぁそうだ。ツキはぼくの本体で、見た目は同じだ」

 さらりとマシロは答えた。


「……ぼくの感情は、ツキに影響する。ぼくが君を好きになれば、ツキも君を好きになる可能性が高い。最初のデータでは、君はぼくと扉の向こうへ行ったんだろう。それでいてツキも……君に恋をしたと考えていい」

 けれど五百回目で、データにのっている白髪に赤目の女の子キャラが、二人から一人に減っていた。

 そこをマシロは指さす。


「五百回目に何かあったと見ていいと思う。アイコンに映るぼくが二人から一人に減っている。その前にはヒナタ……君の兄のアイコンが多く、この後からはほとんどない」

 それは私も思っていた。

 四百回目から五百回目にかけて、ヒナタのアイコンが多い。

 それはつまり、兄が私に積極的に関わってきたということだ。おそらくはこの世界から抜け出すために、私に働きかけたんだろう。


 けれど五百回目にある、白髪に紅い瞳のキャラが映ったアイコン以降、ヒナタは百回に一度、思い出したかのようにしか出てこなかった。

 それは、諦めを差しているように思えた。

 

「この五百回目のアイコンに映る白髪に紅い目の少女は、たぶんぼくではなくツキじゃないかと思う」

「どうしてそう思うの?」

「世界がまだ回っているからだ」

 よくわからない答えを返されて、思わず首を傾げた。


「ツキはもともと、この世界の行く末を決めようとこんなゲームを始めたんだ。自分の世界に価値があるかどうか、君の判断を見て考えようと思った」

 ここまではわかるかと、マシロが尋ねてきたので頷く。


「一番目の君はぼくを選んだ。それはツキにとって、自分自身を選んでくれたのと変わらないんだ。たぶん、ツキは嬉しかった。だからきっと、君が死んでしまってあと……世界を繰り返したんじゃないかと思う」

 推測にすぎないけどなと、マシロは口にする。


「人間はいつか死ぬ。それを延ばすことも可能だけれど……ツキはそれをしないだろう。力を与えすぎると、それは人間じゃなくて自分と近い者になってしまうからな。それだと意味がないんだ。自分に選ばれても、それは今までと変わらない茶番の延長でしかない」

 マシロは自分がツキの一部だと言った。

 だから、少しツキの気持ちがわかるんだろう。

 どこか苦しそうな顔をしていた。


「きっとツキはもう一度、君に自分を選んでほしかった。だから……世界を繰り返した。けどツキが望むようにはならなかったんだろうな。二回目のデータでは別の人物を選んでいるようだし」

 二番目のデータで、私は理留を選んでいた。

 マシロは冷静に分析を続ける。

 

「けどまぁ、それはそれでツキは喜んだと思う。今まですべてのできごとは、創造主であるツキの思い通りになってきたからな。自分の力でどうにもならない出来事を、おそらくツキは楽しんでいた」

 そう言って、マシロはテレビの画面を指でなぞる。

 その指先が、五百回目のデータのところで止まった。


「そこまではまぁ、よかった。でも、問題はこの五百回目だ。ここのアイコンは白髪に紅い目の少女が一人。つまり、ぼくかツキかどちらかだけを君は選んだということになる」

 この後は、二人で映っているアイコンはないことを確認しながら、マシロは呟く。

 

「これがぼくだとするならば、それはつまりツキがアユムに飽きたということになる。けれど、それだとまだ世界が繰り返していることに説明がつかない。世界を繰り返す力を持っているのは、ツキだけだ」

「じゃあ、このアイコンはツキ本人ってこと?」

 その可能性は高いなと、物凄く渋い顔でマシロは口にした。


「だが、そうなると……普段高見の見物をしているあいつが、この世界に降りてきて、本格的にアユムの運命にかかわったことになる。つまりは本気で君が好きになったということだ」

「それは、何かマズイの?」

「今まではありえなかったことだ。それが何を引き起こしたのかは、ぼくにはよくわからない」

 深刻そうな声に思わず尋ねれば、マシロは首を横に振った。


「それで前回の記憶を持つ君は、これからどうするつもりでいるんだ」

「ぼくは宗介を助けたいんだ。宗介に待つ死の運命を回避して、この世界で穏やかに一緒に暮らしたい。誰も死ぬことなく」

 自分のストレートな願いを伝える。

 マシロはなるほどなと言いながら、深いため息を吐いた。


「そいつは本来、死んでるはずの人間だ」

 淡々とマシロは告げる。

 ただ真実を告げるような口調の中には、私に対する配慮なんてものはない。

 私はマシロをよく知っていても、このマシロにとって、私は出会ったばかりの人間だから当然だ。

 あたりまえなのだけれど……容赦のない言葉が胸に痛い。


「それでも、嫌なんだ」

「運命を歪めれば、その歪みはどこかへ行く。この世界の創造主でもない限り、全部を全部すくい取るなんてこと、できるわけがないだろう」

 話にならないというように、マシロは口にする。


「ぼくは扉の番人だ。君の行く末を見守る。あがくのも、諦めるのも君の自由だ」

 突き放すような言葉。

 マシロは私のことをアユムではなく、君と呼ぶ。

 その間には……大きな距離があるのを感じて、悲しくなった。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★アユム 2週目 7歳


●マシロと出会う

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