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妹の私がギャルゲーの主人公(男)になりました  作者: 空乃智春
宗介ルート:真相編(ここからR15&残酷ありです)
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【57】さよなら

 留花奈るかなが亡くなり、理留りるが放心しているのを横で見る。

 雨がしとしとと降る中、留花奈の葬儀は行なわれた。

 

「理留」

 人形のような動作で、喪服の理留がこちらを見る。

「アユ……ム。留花奈が亡くなったなんて……嘘、ですわよね」

 震える声。嘘だと言ってほしいと、願うように口にする。

 ただ黙って頭を撫でれば。

 理留はずっと泣き続けていた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 それからしばらく、理留は塞ぎこんでいた。

 心配で理留の元に通う。

 ……元を辿れば私のせいだということはわかっている。けれど、そのままになんてしておけなかった。


 休日の朝、目を覚ませば横に宗介はいない。

 そう言えば昨日から仁科の親戚のところへ行ってるんだっけと思い出す。

 今日も理留のところへ行こうかな。

 そんな事を考えていたら、電話がかかってきた。


 珍しく紫苑しおんからだ。

 大学を卒業して後、紫苑は医者になっていた。

 紫苑は忙しそうであまり会ってなかった。


仁科にしなはいるか?』

 挨拶もそこそこに、紫苑はそんなことを尋ねてくる。

「宗介ならいないよ? 昨日から親戚の家に泊まってる」

『……そうか』

 紫苑の声は険しい。

 宗介と仲がいいわけでもないのに、久々の電話でどうしてそれを聞いてくるかが気になった。


「宗介に何か用事?」

『用事というわけでない。ただ、確認したい事があっただけだ』

「代わりに聞いておこうか?」

『……いや、いい。きっと私の勘違いだ』

 紫苑は歯切れが悪かった。

 わざわざ電話してきたのはそのためだったはずなのに、邪魔をしたなとそのまま電話を切ろうとする。


「いいから言ってよ。ボクからちゃんと伝えておく」

『女になってかなり経つのに、相変わらず自分のことをボクと言うんだな』

「なんか癖になっちゃって。それで、宗介がどうかしたの?」

 問いただせば、かなりの間があった。


『おそらくは私が疲れていて見た夢で、しかもあまりいい夢じゃない。夢の話を他人にきかせるのはどうかと思う』

「夢の内容を、宗介に確認しようとしてたってこと?」

 あまり紫苑らしくないなと思いながら尋ねる。


『さっき……仁科に殺されかける夢を見た』

 困惑した様子で紫苑が呟いた言葉に、どくりと心臓が嫌な音を立てた。


『あまりにその夢が生々しくて、確認して安心したかっただけなんだ。少し話せただけで、ほっとした。そんなことあるはずがないのにな』

 やっぱりあれは夢だ。

 そう紫苑は自分に納得させるように呟く。


「ねぇ、その時のこと……詳しく教えてよ」

 尋ねれば、紫苑は少し渋った。

 殺される夢を見て不安になって、確認するために電話したというこの行動が、自分でもらしくないと思っているようだった。

 けれど頼み込めば、詳しい夢の内容を教えてくれる。


 今日紫苑は久々に休みだった。

 休みの日は図書館に行くことが決まりごとのようになっていた紫苑は、借りていた本を返却しようと朝早く出かけた。

 近道の小さな公園を抜けようとしたところで、宗介に声をかけられたのだという。


 久々なんだし、お喋りでもしようと言われた。

 正直紫苑は宗介が苦手だった。

 けれど、アユムのことで相談があるんだと言われれば、ついていかないわけにはいかなかった。

 まだ開いている店も少なくて、人気のない図書館の裏で缶コーヒーを飲みながら話をすることにした。


「もうどうしたらいいかわからないんだ。覚悟の上だったはずなのに、アユムが苦しそうな顔をして笑うたび、こんなはずじゃなかったって思う。でも止められないんだ。止めたらアユムの悲しみも、俺のやってきたことも全部無意味になる」

 無言でコーヒーを飲み終わったあたりで、宗介がそう呟いた。


 何のことだか、紫苑にはさっぱりわからなかった。

 ゆっくりと宗介が目の前に立ち、その手にはナイフの形状をした何かが握られていた。

 真っ黒な刃をしていたから玩具かと一瞬思ったけれど、その尖り具合はナイフそのものの輝きを放っていて。


「ごめんね」

 宗介はそのまま、紫苑の胸を突き刺したらしい。


『まぁでも、私は死んでなかったんだ。痛くもなかった』

 電話口で紫苑がそんなことを言う。

 刺して後の宗介は動揺した様子だったらしい。

 そのままそこから立ち去ってしまったのだという。


『朝からこんな夢を見るなんて疲れている。けど、飲み終わったコーヒーの缶がそこに二つあったんだ……だから戸惑った』

 でもきっと夢だ。

 宗介が自分を刺す理由もないしと、紫苑は口にする。

 紫苑の中ではそういうことで決着がついたらしい。


 黒い……ナイフ。

 まさか、と思った。

 以前クロエが見せてくれた、死神の鎌。

 それはそういう形状をしてなかっただろうか。


 ――相手の心臓を刺せば痛みもなく、心臓発作で死に至る。それで次に殺す人をアユムが決めていいっすよ? 長生きして欲しい人のために、別の人を殺せばその分次までの時間がのびるっす。


 以前クロエが私に言った言葉が、頭の中に過ぎった。

 嫌な予感がした。血が引いていく。


 今まで亡くなった全員が、心臓発作。

 黒いナイフで紫苑を刺そうとした宗介。

 留花奈が言っていた、全ての死に宗介が関わっているという言葉。

 

 宗介は特異点。

 だから、周りでは不審な死が起こる。

 そう思っていたけれど……もしそれが、宗介自身の手で引き起こされたものだとしたら?


 何のために、なんて理由はすぐに思い浮かんだ。

 長生きして欲しい人のために、別の人を殺せばその分次までの時間が延びる。

 そうクロエは言っていたじゃないか。


 高等部卒業までは、私には特殊な力があって死ぬことはなかった。

 でも今は普通の人間にすぎない。


 宗介に一番近いのは私だ。

 どうして自分の死を私は今までカウントに入れてなかったんだろう。


 私が死なないように、死なないために。

 宗介はすすんで、誰かを……。


 そこから先は考えたくなかった。

 すぐに家を飛び出す。

 紫苑が殺せなかったとなると、次に宗介が向かうのは。

 ――理留のところに違いなかった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 電話をかければ、理留は今日買い物に出ているとのことだった。

 もうすぐ家に着くところだという。


 もしかしたら、屋敷で宗介が待ち伏せしているかもしれない。

 そう思ったから、その出かけ先で合流した。


「美味しいケーキを買ったんですのよ! アユムも一緒に食べましょう?」

 理留はまだちょっと空元気だ。

 周りが気遣うし、子供がいるから気丈に振舞っているんだろう。

 その姿が少し痛々しく見えた。


 黄戸家の車に乗って屋敷に行けば、理留の元に来客があるとのことだった。

 サロンに案内してあるとのことだったので行けば、その客は予想通り宗介で。

 その予感が外れればよかったと心から思った。


「あら仁科くん、珍しいですわね」

「うん、ちょっと近くまでよったから」

 そうですの、なんて理留は言ってるけどそんなわけはない。

 黄戸家の屋敷は広く、ご近所さんまでどれだけの距離があると思っているのか。

 宗介は私と目を合わせずに、微笑みを浮かべているだけだった。


 理留の家でお昼をご馳走になり、ケーキを食べて。

 それから宗介と一緒に屋敷を立ち去る。

 

「ケーキ美味しかったね」

 宗介が話しかけてくる。


「ねえ、宗介」

「……何?」

 言わなきゃ、確かめなきゃ。

 そう思うのに。


「ううん、やっぱりなんでもない」

 聞くのが怖い。

 結局……私は、宗介に何も聞けなかった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 夜、妙に目が覚めていた。

 寝付けないけれど、隣に宗介がいるから寝たふりをしていた。

 日付はもう変わっているだろうなと時計を見なくてもわかる。


 ゆっくりと宗介が隣で起き上がる気配がした。

 枕元でごそごそとしている。

 何をしているのかと気になりながらも、動けずにいた。

 宗介の方に背中を向けた状態で薄っすら目を開けば、暗い室内にぼんやりとした灯り。


 どうやらスマホか何かを操作しているみたいだ。

 マナーモードの振動音。誰かとメールか何かで連絡を取り合っているんだろう。

 相手は……もしかして、クロエなんだろうか。

 衣擦れの音がして後、宗介が部屋を出て行く。

 玄関の鍵が閉まる音がして後、私も身を起こした。


 宗介が向かう先が、理留のところでなければそれでいい。

 最低限のものだけを持って、すぐに部屋を出た。

 アパートの下へ行けば、宗介のバイクがない。

 タクシーを呼んで理留の家へと急いで飛ばしてもらった。


 理留へと電話をかけようと、折りたたみ式の携帯電話を開く。

 電源を落としたつもりはなかったのに、画面は真っ暗だった。

 立ち上げれば、理留からの着信履歴がずらりと並ぶ。

 お願い、出てと願いながら電話をかけた。


『アユム!? 無事ですのっ!?』

「理留!」

 よかった理留は元気そうだ。

 何故か切羽詰まった声だったけれど、よかったと胸を撫で下ろす。


「無事ってどういうこと? 理留は今、どこにいるの?」

『それはこっちの台詞ですわ! 仁科くんからアユムが帰ってきていないと聞いて、ずっと探していたんですのよ!』

 問いかければ、どこにいるんですのと問い詰められる。


「理留の家に向かってるところだよ! 理留はいったいどこにいるの!」

『ワタクシは、星鳴公園にいますわ。今から仁科くんと合流しようとしていたところで』

「そこを今すぐ離れて! 絶対宗介と二人っきりにならないで!」

『アユム? 一体どうしましたの?』

 叫べばわけがわからないというように、理留が混乱した声を出す。


 タクシーの運転手に星鳴公園へと向かうよう指示する。

 屋敷の方へ向かわせていたから、少し遠回りをしてしまっていた。

 急げ、急げと気持ちが急く。


『とにかくアユムは無事なんですね?』

「うん、当たり前だよ!」

 焦る気持ちの中、理留に答える。


 先ほどまで私と一緒にいたのに、宗介は理留に嘘をついた。

 私の携帯電話の電源まで落として。

 疑いたくはないけれど、明らかにクロだ。


 どうにか公園にたどり着いて、噴水前にいるという理留の元まで走る。

 辿りつけば理留はそこにいた。

 お付である黒服の人たちも一緒だ。


「アユムこれはいったいどういうことなんですの?」

 戸惑っている理留を抱きしめる。

 ちゃんと理留がそこに生きてると思えば、今にも泣いてしまいそうだった。


「アユム!? とにかく一旦屋敷に行きましょう! 落ち着いて!」

 力いっぱい抱きしめれば、理留がトントンと私の背を叩いてくる。


「うん、屋敷の方が……安全かも。泊まってもいいかな」

 今日は理留を一人にしておきたくない。

 そう思って尋ねれば、いいですわよと理留は言ってくれた。

 車が止めてあるという場所へ歩いて行こうとすれば、前方から宗介が現れる。


「ああ……アユムきちゃったんだね」

 静かな公園内に、宗介の声が響く。

 月明かりの中、宗介がどこか悲しげにも見える笑みを浮かべて立っていた。


「……宗介」

 理留を庇うように抱きしめれば、困ったように宗介は眉をハの字にする。


「クロエ」

 宗介が呼べば、その背後からクロエが現れる。全然目に入っていなかった。

 クロエの赤い瞳が輝きを増し、理留と周りに立っていた黒服の人たちが倒れる。

 おそらくは暗示か何かを使って、意識を奪ったんだろう。


「クロエ……アユムの意識は奪ってくれないのかな?」

「もう潮時っすよ。わかってるっしょ、宗介」

 責めるような声を出して振り返る宗介に、飄々(ひょうひょう)とクロエは答えた。

 私は意識のなくなった理留をそっと地面に横たえ、宗介から隠すようにして立ちはだかった。


「ねぇアユム、そこをどいて?」

 優しく、宗介が言う。


 足が震えた。

 認めたくはなかった。

 けど……間違えようがない。

 宗介の手には、黒いナイフが握られていたから。


「宗介が……みんなを、殺したの」

「そうだよ」

 問いかけに宗介は頷く。


「どうしてこんなこと……」

「ごめんね。どうしても、アユムと一緒に生きたかったんだ」

 私の中で答えは出ていた。

 でも、責めずにはいられなかった。

 口から出た非難するような言葉を受け止めて、ただ宗介は私を見ていた。

 まるでこんな日が来る事を、ずっと前から覚悟していたかのようだった。


「高等部を卒業して、アユムは特別じゃなくなった。俺の力に巻き込まれて一番最初に死ぬのは、何もしなければアユムだったんだ。でもそれじゃ俺は生きている意味がない」


 ――だから、皆には犠牲になってもらうことにしたんだ。

 そう宗介は口にして、黒いナイフをクロエに返した。

 それから私に近づく。

 金縛りにあったように、動けなかった。


 優しい宗介が、そんなことできるわけがないと思い込みたかった。

 悲しげな顔をしている宗介は、私の知る宗介に見えるのに……どこか別の人のようで。

 怖い、と思ってしまった。


 頬に触れてくる手に、びくりと体を引きつらせれば。

 苦しそうに宗介が顔を歪める。


「全部は俺のわがままなんだ。だからアユムが傷つかないで。全部俺が悪い」

 ゆっくりと宗介が抱きしめてきた。

 こんなに近くにいるのに、宗介が遠い。

 

 私のために、宗介は人を殺してしまった。

 その事実が重く心にのしかかる。

 全ては私の選択が原因で。

 なのに、宗介はそれを責めようとはしない。


「好きになって、ごめん」

 耳元で響いた声は、泣いているように聞こえた。

 頬に添えられた手が震えていると気付いたときには、宗介の唇が軽くふれて離れて行くところだった。


 それから、一歩二歩と私から遠ざかる。

 取り出した新しいナイフは、ヒナタが持っていたものとよく似ている。

 それを宗介は逆手に持って。


「さよなら、アユム」

 手を伸ばす私の前で、それを自らの心臓に迷いなく突き刺した。

 


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「っ! 宗介っ!」

 叫んで飛び起きる。

 目の前に飛び込んできたのは、白い部屋。

 心臓がバクバクとなって、血が逆流しているみたいだった。


 今のは何。

 夢――だった?

 そう思いたいけれど、それにしてはリアルだった。

 

「宗介!」

 すぐに宗介を探さなきゃ。

 そう思って、異変に気付く。

 視線があまりにも低い。

 それに声が声が高くて、私の声ではないような。


「アユムっ!」

 いきなり誰かに抱きつかれた。

 嗅いだことのある落ち着く香りとぬくもり。柔らかな体。

 まさか、そんなはずはと思う。


「母さん……?」

「そうよ! よかった、アユムっ……!」

 呼べば嬉しそうに私を抱きしめてくるのは、二十代にしか見えない母親。


 母さんは死んだはずだ。

 いやその前に、私縮んでる?

 ふいに手を見れば小さい。

 まるで七歳だったころとそう変わらない。


 それでいて、自分が手に何かを握り締めていたことに気付く。

 ゆっくりとその手を開けば。

 そこには見覚えのあるゲームのメモリーカードがあった。


 事故に遭った私は、ずっと眠り続けていたらしい。

 同じように若い父さんが現れて、私を抱きしめる。

 まさかと思って背中を確認すれば、痛々しい大きな傷跡。

 鏡を見れば幼い自分の姿がそこにあった。


 ――私、七歳に戻ってる!?

 もう、全くわけがわからなかった。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★社会人7年目(30歳)秋 →7歳


●宗介退場

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「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」
ショタコン末期悪役令嬢に転生して苦労する話。
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