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妹の私がギャルゲーの主人公(男)になりました  作者: 空乃智春
宗介ルート:真相編(ここからR15&残酷ありです)
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【48】理留の告白

「しかし、今野が女になってたなんてな。驚いた」

「やっぱり?」

「まぁでも、何も変わらないな。別に男だろうが女だろうが、今野は今野だし」

 吉岡くんがなんてことのないように、さらりとそんな事を言う。

 それよりもと他の世間話へと移っていく会話が、吉岡くんにとってこの事が大したことじゃないという事を示してるみたいだった。


 変わらない態度が嬉しい。

 吉岡くんとはこの学園にやってきてから、ずっと同じクラスだった。

 細かいことは気にしない吉岡くんのこの性格が、とてもありがたかった。


 男のアユムから女になって、周りの目が気になっていたけれど。

 こうやってあっさり受け入れられるなら、最初から隠す必要もなかったのかもしれないと思えてくる。


 留花奈るかなに私の正体がばれて後。

 私が実は『今野アユム』であり、男から女になって帰ってきたんだという噂はさらに広まった。

 留花奈が何かとちょっかい出してきて、私をアユムの従兄妹だと思いこんでいる理留りるも仲良くしましょうとやってくるのだ。

 それでいて私の側には、宗介もマシロもいるのだから、ばれるのも確かに時間の問題だったんだろう。


 星鳴学園にある大学部は大きいけれど、学部ごとに棟が分かれていて。

 私が在籍してる教育学部には、元々星鳴学園に通っていた生徒が多いらしい。

 後でマシロからそう聞かされた。つまりはいつかばれるだろうなと、宗介もマシロも思っていたのだ。


 ……まぁ、私もいつまでも隠しとおせるって本気で思っていたわけじゃないけれど。

 ただ決心が着かなかっただけだ。

 しかし、もう事情が筒抜けになった今、隠す気もなかった。


「そういえばさ、黄戸さんはまだ今野が女になったこと知らないんだって?」

「うん、そうなんだよ。仲良かったから言わなくちゃと思ってるんだけどね……」

 吉岡くんが話題を振ってきて、私は溜息を吐いた。


 高等部卒業と同時に、海外の大学に行った紅緒べにおですらすでにこの情報は知っていた。

 私が女になったという噂を聞いて、元の世界の幼馴染・乃絵のえちゃんに似ている紫苑も会いにきてくれて、事情は説明した。


 仲がよい人たちの中で話してないのは、理留だけだ。

 この姿になって顔を合わせた日に、アユムの従兄妹だと誤魔化したのだけれど、未だにそれを理留は信じきっていた。


 物凄くフレンドリーに接してくれて、先輩だからと色々世話を焼いてくれる。

 何度も本当の事を言おうと思ったのだけれど、留花奈から理留だけには本当の事を言うなと止められていた。

 理留はあぁ見えて繊細だから、シスコンの留花奈は姉がショックを受けないか心配なんだろう。


 仲がいいからこそ隠しておきたいと思っていた私だけれど、理留だけに言ってないこの状況になると考え方が変わってきていた。

 あんなに仲がよかったのに、理留だけに打ち明けてないってことが心苦しい。

 騙している、という感覚が強かった。


 女の子のあゆに接するとき、理留は必ずアユムが今どうしているかを聞いてくる。

 元気みたいだよと答えると、ほっとした顔をする。

 私が病気になって療養するとなった時も、黄戸家のお医者さんを手配してでも治してあげると言ってくれた。

 理留は家の力を使うのが嫌いだ。

 でも、それを曲げてでも私のために何かしようとしてくれていた。


 この街を去って後も、こまめにメールや手紙をくれて。

 帰ってくるのを待ってますとか、寂しいとかいう言葉に、そういう事を言ってくれる理留が大好きだなと思った。


 本当は体はなんともない。

 騙してるのが心苦しいと思っていたはずなのに。

 自分が恥ずかしいからと言って――私は、また理留を騙している。


 理留が勝手に気付いてくれないかな、なんて期待もしていたけれど。

 留花奈による操作で、暗黙の了解として理留にその噂が届かないようになっているようだった。

 それに加えて理留自身、私がアユムでないと言ったことを信じ込んでいて。

 噂を聞いても「実はそうじゃないんですよ」と周りに否定してくれるくらいだ。

 本当に理留は純粋すぎる。

 

「……やっぱり、このままじゃよくないよね。よし決めた! 今日こそ、理留にカミングアウトする!」

 カフェテリアの机を叩いてそう宣言すれば、頑張れと吉岡くんは軽い感じで応援してくれた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 


 女姿のあゆ専用の携帯を使って、理留と待ち合わせる。

 今日の理留は午前中で講義が終わりだ。

 毎週この曜日になると、私は理留と一緒に昼食を外に食べに行く事が多かった。


 待ち合わせた場所に行けば、理留がすでに待っている。

 校舎の入り口に立ってる理留は、私を見つけるとドリルを揺らしてやってきた。


「今日はどこに連れて行ってくれますの?」

 大企業のお嬢様でいずれ黄戸家を背負う理留には、昔から行動に制限があった。

 けれど大学生になって許可された行動範囲はぐっと広がって。

 護衛は二人付くけれど、それでも以前よりかなり自由に出歩けるようになっていた。


 ――帰ってきたら、庶民のお店を色々案内してくださいね。

 手紙のやりとりで理留とはそんなことを約束していて。

 本当はアユムが約束したことを、私はあゆの姿で果たそうとしていた。

 

『理留さんを色んなところに連れてってあげて欲しいって、アユムから頼まれたの』

 そう言って初めて理留を歩の姿でバーガーショップに誘ったとき。

 喜んでくれるかと思った理留は、少し悲しげな顔をしていて。

 本当はアユムと一緒に行きたかったんだなとわかって、罪悪感が物凄く大きくなったことを覚えている。


「今日は庶民のお店じゃなくて……二人っきりになれる場所に行きたいんだけど、駄目かな?」

 女の歩用に作った高い声じゃなくて、素になったアユムの時の声で真っ直ぐ目を見て口にする。

「えっ、えぇ……いいですけど?」

 真剣な顔で言えば、理留は戸惑ったようだった。


 何だか顔が赤い。

 もしかして体調が悪いのかなと心配になる。

 六月に入ったばかりだというのに、今日は物凄く暑いから熱中症にでもかかったのかもしれない。

 校舎の入り口じゃなくて、もっと涼しいところで待ち合わせをすればよかったと後悔する。


「顔赤いけど、大丈夫?」

「平気ですわ……えっとその、一瞬歩さんがアユムに見えたものですから」

 照れて恥らったような様子で、理留が頬を押さえる。

 その反応はやけに可愛くて、まるで恋する乙女みたいだ。


「あのさ」

「あのですね」

 今のこのタイミングはチャンスかもしれない。

 そう思って口を開けば、言葉が重なった。


「ど、どうぞ歩さんから」

「理留さんからでいいよ」

 互いに譲り合えば、理留がではワタクシからと咳払いをした。


「そ、その、実はなんですけど」

 理留がバツが悪そうにモジモジとしだす。

 体をくねらせて頬を赤くして、言おうかどうか迷ってるみたいだった。


「だ、誰にも言わないと約束してくれます?」

「もちろん」

 理留が秘密を打ち明けようとしてくれるなら、それを漏らしたりなんてしない。

 力強く頷けば、理留は一旦深呼吸した。


「では、耳を少し貸してくださいな……」

 そう言われて、理留に耳を傾ける。

 息がかかってちょっとくすぐったい。


「実は……ワタクシ、あなたの従兄弟のアユムの事が、昔から」

 小さくぼそぼそと理留が呟く。

 熱のこもった、恥じらいを含む声。

 聞き逃さないようにしようと、そちらに集中する。


「――好き、なんです」

 続く理留の言葉に、世界が止まったような気がした。


「……好きって、友達として――だよね?」

「も、もちろん恋愛的な意味で……ですわ。もう、言わせないで下さい!」

 照れを隠すように、ふいっと理留が頬を膨らませる。


「へっ? えぇぇっ!?」

 理留の思いがけない告白に、思わず大きな声が出た。

「声が大きいですわ!」

 慌てふためいて、理留が唇に人差し指を当ててくる。


「えっ、えぇっ? いつから? 何でどうして?」

「こ、こんなところで言えるわけがないでしょう!」

 戸惑う私に、理留がちょっと自棄になったように叫ぶ。


「ですから、あなたがよくアユムに似ているので……ちょっとドキドキしてしまうのですわ。別の人で、しかも女の子だってことはわかってるんですけど」

 耳まで真っ赤にして、理留はそう告白してくる。

 突然の事に頭が着いていけてなかった。


 落ち着け私!

 理留が私を好きだなんて、全く気付かなかった。

 この世界はギャルゲーの世界だけれど、攻略対象に好かれるように動いた覚えは一切ない。

 いつかくる時のために自分磨きはしたし、理留とも仲良くしていたけれど、そんな風に思われていたなんて気付かなかった。


「それで、歩さんが言おうとしてた事は?」

「えっ!? いや、ボクの方は大したことじゃないから!」

 この状態で私がアユムなんて、言えるわけがない。

 ブンブンと首を横に振れば、そうですかと言って理留が私の手を掴んできた。


「とりあえず、ここでは何ですから今日はサロンの方へ行きましょう。エトワール専用のサロンなら……ふたりっきりになれますから」

 緊張気味の顔で手を掴んでくるその仕草が、やけに可愛らしく映る。

 女の子なんだなと、あたりまえのことを思った。


「ご、ごめんなさい。アユムではないとわかってるんですけど。やっぱり触れるとドキドキしてしまいますね!」

 はにかんだ顔で謝りながらも、理留は私の手を引いて歩き出して。

 混乱する頭の中で、これからどうしようとそんなことを思った。



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★大学等部1年夏

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