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妹の私がギャルゲーの主人公(男)になりました  作者: 空乃智春
宗介ルート:真相編(ここからR15&残酷ありです)
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【47】トイレに連れ込まれました

 最悪の事態だ。

 目の前の留花奈は面白いものを見つけたという、生き生きとした顔をしている。

 獲物を手の内に捕えて、いたぶろうという様子がありありと見えた。


「……誰かと勘違いしてると思います」

「してないわよ。教育学部の理数科学科専攻の今野いまのあゆちゃんでしょ?」

 作った女っぽい声で言えば、留花奈はにこにことそんな事を言う。

 確かにそれは今の私のことだった。


 どうにか留花奈から逃れなければ……!

 この場から脱出したいけれど、狭いトイレの個室のドアは留花奈の向こう側。

 星鳴学園は金持ち学校のため、個室にもそれなりの空間はあるけれど、所詮はトイレ。しかも離れようにもこの空間では、ほぼ密着状態だ。

 加えて留花奈は、私の顔を覗き込もうとするものだから、手で必死にその体を押し返している状況だった。


「ひゃっ!」

 ふいに、するっと足をなで上げられて声が出る。

「ねぇアユちゃん、アユちゃんはどうしてスカートで、女の子の格好してるのかしら」

 くすくすと笑いながら、留花奈がスカートの中に手を入れてくる。

 その声は艶っぽく、ドSの風格がたっぷりだった。


「女の子だからに決まってるじゃないですか! ちょっとやめてください! 人を呼びますよ!」

「そんなことしたら、即座に泣いてあんたがわたしを襲ったことにするから大丈夫よ? 皆どっちのいう事を信じるかしらね」

 さらっと脅しをかけてくる留花奈は、相変わらず悪魔だ。

 学園において権力を持っていて、外面のいい留花奈がそんなことをすれば、皆きっとそっちの味方をするに違いなかった。


「大丈夫よ。ちょっと股間に下がってないか確認するだけだから」

「ちょ!? この変態! 変質者!」

 スカートに侵入してこようと、手に留花奈が力を入れてくる。


「どっちが変態かしら? ちゃーんと女の子なら、確かめても平気でしょ? 何でこんな格好して別人のふりしてるかは知らないけど、単純な姉様は騙せてもわたしは騙されないわよ?」

「何のことだかわからないって言ってますよね!? 初対面の女の子のスカートに手を入れるなんて、このド変態!」

 絶対絶命のピンチだ。

 相手が嫌がると燃えるタイプなのか、留花奈は楽しそうだ。

 遠慮なく変態、変態と罵る。


「えっ」

 ふいにスカートから手が外され、隙ありとばかりに、胸をわしづかみにされた。

 パットがずれてブラウスの隙間から、ぽろりと下に落ちる。


「あらら、やっぱり偽胸じゃないの」

 クスクスと留花奈が笑う。

 鬼の首をとったかのような反応だった。


「こんな平べったい胸で、女ですなんて言い張るつもり?」

 スカスカになった私のブラを押しながら、留花奈が勝ち誇った顔をする。


 ……私の体は男じゃなくてちゃんと女だ。

 別にこのパットは女装とかそんなんじゃなくて、ちょっと胸に質量が足りなかったから、足していただけである。


 体が男だから胸ないわけじゃない。

 これが元々の胸の大きさだ。

 なのに、留花奈はこれが女装している証拠だといわんばかりだった。


 湧き上がってくるのは、何と表現したらいいかわからない虚しさ。

 ぷちっと頭の中で、何かが切れる音がした。


「アユムがいなくなって、変わりに瓜二つのあんたが現れて。しかも仁科があの態度。それでアユムじゃありません、女の子のあゆですなんて通用すると……きゃ!?」

 思いっきり留花奈の胸を下から持ち上げてやる。

 私と同じように、ぽろりとパットが零れ落ちた。

 トトン、と音をたててそれが床に転がる。


「こんな平べったい胸で、女ですなんて言い張るつもり?」

 全く同じ台詞を返して、留花奈のブラをつついてやる。

 押せばへこむ留花奈の胸のサイズは、私以上に盛られていた。

 留花奈の顔がぽかんとして、それから赤くなって。

 髪が逆立つんじゃないかと思うほどの般若の形相で、つかみかかってきた。

 

「あんたね……いい度胸じゃないの! ひんむいて、恥ずかしい格好にしてあげる!」

「やれるものならやってみたら!?」

 よく考えれば見られたとしても、私はちゃんと女の体だ。

 ちょっと自棄になって、むしろこっちが留花奈をひんむいてやると思った。


「ひんむいてくれるんじゃなかったの? 留花奈の方がはしたない格好だけど?」

「っ……! あんたねぇ!」

 威勢のよかった留花奈だけれど、私の運動能力にはかなわない。

 すでに留花奈の服ははだけ、スカートもずり落ちていた。


 夢中になって掴み合いをしてたら、ふいに留花奈の背後にあったドアが開く。

「きゃっ!」

「わわっ!」

 留花奈を押し倒すような形で、トイレの床に倒れこむ。

 咄嗟に留花奈の頭に手を回した。


「いたたた……留花奈大丈夫?」

 何が起こったんだと、留花奈の上で体を起こす。

 目に映ったのはパンプス。

 それを辿るように見上げれば、困惑顔の宗介とマシロが立っていた。

 その後ろにも何人かの生徒たちがいる。


「……一体何をやってたんだ」

 マシロが眉間にシワを寄せてそんなことを言ってくる。

 私に対する目が、心なしかちょっぴり冷たい。

 私のお尻の下には、乱れた服で上半身の下着をさらしている留花奈。

 スカートも半ばずり落ちていて、さっきまで暴れてたせいで息が荒く、頬は上気していた。

 対する私も衣服こそ乱れてはいるものの、留花奈ほどじゃない。


「えっ、いやこれは……!?」

「はぁ……とりあえず、ぼくは人払いをする」

 マシロが宗介に後は任せたといって、野次馬たちに暗示をつかってトイレから押し出す。

 トイレで騒いでいたことを不審に思って、皆集まってきたらしい。


「……ちょっと重いんだけど」

「あっ、ごめん!」

 ずっと留花奈に馬乗りになっていたことを思い出して退けば、留花奈が起き上がった。

 真っ赤な顔で留花奈が衣服を正す。


「それでこれはどういう状況なのかな。留花奈ちゃん、説明してくれる?」

 すでに混乱状態から回復したらしい宗介が尋ねてくる。

 わたしを留花奈から引き離すように背後に庇って、留花奈に対して戦闘用の笑顔を向けた。

 その声には棘があって、この状況でも留花奈が悪いと一方的に決め付けているみたいだった。


「説明も何も見た通りよ? アユムに襲われてたの。助けてくれてありがとう」

 ポンポンと埃を払いながら留花奈が立ち上がり、宗介に含みのあるお礼を言う。


「この子はアユムじゃなくて、アユムの従兄妹のあゆだし、襲ってたのは留花奈ちゃんのほうでしょ? そんな趣味があるなんて思わなかったけど、俺の彼女に手を出さないでくれる?」

 二人はにこやかに微笑みながら牽制しあっていた。

 一見和やかに見えるけれど、背後では龍と虎が戦いを繰り広げているかのような雰囲気だ。


「彼女ねぇ? というか、これアユムよね。なんで女装してんの?」

「女装って何の事? 彼女はアユムにそっくりだけど、アユムの従兄妹で別人だよ」

「そんな嘘通用すると思ってんの? こいつさっき名乗ってないのにわたしの事留花奈って呼び捨てにしたわよ?」

 宗介に留花奈が詰め寄る。

 私を指差す留花奈は、完全に私がアユムだと確信しているようだった。


「大体、仁科がそんな風に庇うのはアユム以外にいないでしょ」

「言ったよね、この子は俺の恋人だって。恋人なら庇って当然だと思うけど」

 宗介は留花奈に見せ付けるかのように私を抱きしめて、頭のてっぺんにキスを落としてくる。


「ふーん仁科は、じゃあアユムの事はどうでもよくなったんだ? アユムが病気で一人苦しんでいても、仁科は見捨てるんだ?」

「俺がアユムをどうでもいいと思うことなんて、ありえない」

 留花奈の問いに、宗介がむっとした様子で間髪入れずに答える。


「そう、ありえない。つまり、あんたが病気のアユムを放って、ここにいるのはおかしい。つまりそこにいる歩って子がアユム。動かぬ証拠でしょ!」

 びしっと指を突きつけて、留花奈がそんなことを言う。

 どんな論理だと思ったけれど、留花奈はやたらと自信満々だった。


「……確かに誤魔化すのは無理みたいだね。なにも反論できない」

 完璧すぎる理由だと言うように、落胆を帯びた声色で宗介が呟く。

「えぇっ!? そこで認めちゃうの!?」

 幼馴染をつきあわせ、一年も療養先に連れて行く方が変な話なのだ。

 私につきあわせて宗介をこれ以上休学させるわけにはいかなかったとか、まともな理由は簡単に思いつく。

 思わず突っ込んで宗介を見れば、唇を噛んで悔しそうな顔をしていた。


「ふふっ、ようやく認めたようね! あー気分がいいわ!」

「くっ……」

 留花奈が高らかに勝ち誇る。

 まるで初めての敗北を留花奈にしてしまったような、そんな顔を宗介はしていたけれど。

 宗介と留花奈のやりとりに……何だか残念なものを感じてしまった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 


「へぇ、つまりアユムが実は女だったと」

「そういうことなんだ」

 場所を移して、人のいない教室で留花奈に事情を宗介が説明する。


「そんなあんたに都合よすぎること、信じると思ってんの? アユムに女装させて人前でいちゃいちゃできるようにしようって考えたんでしょ。この変態」

「そんな事考え付く留花奈ちゃんの方が変態だと、俺は思うけどね。そんなこと考え付きもしなかったよ。本当妄想が豊かだよね」

 相変わらず留花奈と宗介は、笑顔で毒づきあう。

 ……穏便に話し合いはできないんだろうか。


「今のアユムはちゃんと女の体に近づいたから、大学に戻ってきたんだ。男だったのに女になったってばれるのが恥ずかしかったから、名前まで変えたんだよ」

「そんなの無意味でしょ。アユムと顔も同じなのに。ただでさえ目立つのに、仁科が側にいたらばれるに決まってるじゃない」

「まぁね」

 宗介ときたら、あっさりと留花奈に同意する。


「ちょっと宗介。少しは否定してよ! 絶対大丈夫だって言ってくれただろ!」

「正直、無理があるなって思ってたんだ。アユムは隠したいみたいだったけど、俺が側にいてもいなくても、ばれるのは時間の問題だったと思うよ」

 ムキになる私に、そんな事を宗介は言う。


「言っとくけど、あんたの噂かなり広がってるわよ。あの今野アユムが女として大学に入学してきたって、高等部にまで伝わってたわ。これだから目立つ自覚のないやつは」

「そこは留花奈ちゃんに同意だね」

 珍しく宗介と留花奈が意気投合する。

 

「もういっそ隠さないほうがいいんじゃないかな。アユムだって、今までの友達に正体隠すのは辛いでしょ?」

「いやでも、昔の友達の前に女になっちゃいました……なんて宗介言える? 恥ずかしいし、接し方変えられるのも嫌なんだよ」

 何度かしたやり取りだったけれど、そこだけはどうしても踏ん切りがつかなかった。


「俺だったら何のためらいもなく言えるよ。アユムが男のままだったらっていうのが前提だけど」

「なんでそこでボクが出てくるの」

 宗介はさらりとそんな事を言って、テーブルの上にあった私の手に指を絡ませてきた。


「そしたら……堂々とアユムの奥さんにしてもらえるし。別に誰にどう思われようと、アユムの側にいられるならそれでいい」

 キラキラと眩い爽やかフェイスで、宗介がそんなことを言ってくる。

 まじりっけない純粋さを含んだ言葉は、迷いがなかった。


「アユムが女になって幸せそうね、仁科?」

「うん、幸せだよ。これで堂々と俺のものだって言えるから」

 嫌味混じりの留花奈の言葉も、宗介には全く答えないようで。

 はにかむような、蕩けるような笑みを浮かべて私を見てくる。


「……あんたもうちょっと倫理感とかないわけ? アユムは元男なのよ? って、あんたに聞くのが間違いよね」

 砂糖吐きそうと呟きながら、留花奈が宗介に呆れた視線を向けていた。



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★大学等部1年春

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