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【40】女装でデート再びです

「あんたって、普段男って感じしかしないのに、化粧すると化けるわよね……まぁわたしの腕前がいいと言えばそれまでだけど」

 私にウィッグを被せ、できばえに満足した様子で留花奈るかなが言う。

 全身を鏡に映せば、そこにはどう見ても女の子にしか見えない私がいた。


 肩までの茶色の髪のウィッグに、瞳を大きく見せる同色のカラーコンタクト。

 普段『周りに男と認識される力』が呪いのように働いていて、例え裸を見せようと誰も私が本当は女だと気づかない。

 けれど、髪と目を隠せば何故かその力はなくなるらしく。

 以前友人の良太の彼女のフリをして女装した時に、それは立証済みだった。


 鏡で自分の姿を確認するけれど、これは凄い。

 鮮やかな花柄のスカートに、白のブラウス。

 少し元気な感じのする可愛い女の子がそこにいた。


 ちなみにパットとブラを留花奈から貰ったため、女の子らしい丸みも胸にある。

 自前では……ささやかすぎてこの丸みは出せなかった。

 男の格好をするには必要のないものなんだけど、ちょっと悲しい。成長は今からなんだと、心より信じている。

 

 どこからどうみても、男には見えない。

 留花奈はルカとしてモデルをしていて、別人のようなメイクで仕事をしている。

 けど私に施された化粧は、ベースが私だとちゃんとわかるタイプのもので。

 元の世界で女子高生をしていた頃より、可愛く見えた。


「見せ付ける相手が学園の子だって聞いたから、アユムの顔は生かしたまま化粧してやったわ! あんたの彼女がアユム似なのを見て、あぁそういうことかって勝手に身を引いてくれるわよ!」

 完成した私を、留花奈が宗介に見せ付けてニヤニヤと笑う。

 別人メイクを施さなかったのは、ちょっとした意趣返しのつもりのようだ。


「……アユム、凄く可愛い」

「あ、ありがとう宗介」

 蕩けるようなまなざしで私を見て、宗介が褒めてくる。

 あまりにも甘い顔で言うものだから、戸惑ってつい礼を言って後で、男としてありがとうは間違ってたんじゃないかとはっとする。


「ねぇ、仁科にしな。あんた……わたしの話聞いてた? 喜ばせるためにやったわけじゃないんだけど」

「うん、聞いてる。本当留花奈ちゃんは凄いね。アユムがこんなに可愛い。化粧しなくても可愛いけど、女の子の姿をすると尚更だ」

 思った反応と違うと、戸惑う留花奈に目もくれず。

 宗介はうっとりと私を見つめてくる。


「連れてきた彼女が男のアユムと同じ顔だったら、相手あんたがアユムの事が好きなんだなって思うわよ? わかってる?」

 なんでわたしが自分で自分の嫌がらせを説明しないといけないのか。

 そんな顔で、留花奈がそう口にする。


「そうだね。事実だからいいんじゃないかな。どうでもいい女の子たちより、アユムの方が大好きだし、可愛いと思うから」

 さらりと口にする宗介は、留花奈に対して私が好きだということを隠すつもりもないらしい。

 人前でなんてことをと思いながらも、そうやって言ってくれるのが嬉しくて、何も言えずに赤くなる。


「仁科って本当にアユムが大好きね。手に負えないわ」

 留花奈が残念なものを見るような目を宗介に向ける。

 そのまま私に視線をスライドさせた。


「あんたも何で仁科の言葉で照れてるの? このままだとこいつのせいで一生彼女できないわよ?」

「いや、まぁそれはそうなんだけど」

 指摘されてうろたえれば、留花奈は盛大に溜息を吐いた。


「あんたも結局、コレが好きなのよね……男同士でいちゃついて、本当勝手にやってればいいと思うわ」

 留花奈はそう言って、付き合ってられないと盛大な溜息を吐いた。



●●●●●●●●●●●


「ねぇ宗介。なんで留花奈に頼んで私を女装させたりしたの?」

「女の子のアユムとデートしたかったから、頼んだんだよ。前に良太くんのために女装してたけど、そうじゃなくて俺のために女の子の格好をしてほしかったんだ」

 尋ねれば宗介がそんな事を言う。

 相変わらず私を見つめる瞳は嬉しそうで、こっちが照れてしまう。


「まぁ、留花奈ちゃんに話した事情のほうも本当にあるんだけどね。一人しつこい子がいて、恋人がいるって言えば連れてこいって言われちゃって。アユムを紹介して諦めてもらおうと思うんだ」

 だから少し面倒だと思うけど、付き合ってほしいと宗介がお願いしてくる。


「お喋りで負けず嫌いで、自分に自信がある子だから、多分俺がホモだから振られたんだって言い出すだろうね。彼女がアユム似なこともすぐに広がると思う」

「宗介、それでいいの?」

 不安になって尋ねれば、宗介は頷く。


「そのためにアユムを連れていくつもりでいるんだ。そうすればこれから、煩わしい告白もないと思うし。ただアユムも俺の巻き添えで変態扱いされちゃうかもだけど……駄目かな?」

「ボクは全然構わないけど、宗介が嫌な思いをするのは嫌だ」


 体も心も女だけど、周りは私を男としか思っていない。戸籍だって男だ。

 私がそういう目で見られるのはいい。

 でも、宗介にだけは嫌な思いをしてほしくなかった。

 宗介の服を握れば、嬉しそうに頭を撫でられる。


「俺がしたいからするんだよ。アユムを彼女にして、堂々……と言っていいかはわからないけど、時々でいいから恋人として歩きたいんだ」

「ボク達の仲が疑われて、ばれたらどうするの?」

「アユムが女装している間は、クロエがアユムの身代わりをすることになってる。アリバイがあれば、問題はないでしょ?」

 すでに話はついているんだと、宗介は請け負う。

 本日の『アユム』は、朝から吉岡くんと一緒にバスケをしていることになっているよと悪戯っぽく教えてくれた。

 根回しもばっちりという事らしい。


 それでも宗介が、男である私をそういう意味で好きなんじゃないかという噂は免れないと思うのだけれど。

 ソレを指摘すれば、何が問題あるのという顔をされた。

 宗介にとってそこは大した事じゃないようだ。


「アユムがいれば俺はそれでいいよ。周りの目なんてどうでもいい。でもアユムが気にするから――人前では色々我慢してるんだ」

 留花奈が帰ってしまった家は、私と宗介だけだ。

 啄ばむように宗介が私にキスをしてくる。

 その瞳は、熱っぽくて欲のようなものが見えた。


 キスを一通り楽しんでから、宗介が今日のスケジュールを教えてくれる。

 十時に女の子と待ち合わせ。

 その子を振って後デートをして、明日から旅行に行くということだった。


「ちょっと待って。旅行ってどういうこと?」

「明日から一週間、俺とアユムは旅行に行くんだよ。支度は全部整えておいたから」

 そんなの聞いてないと言えば、サプライズのプレゼントだよと宗介は笑う。


「あぁそれと、今から旅行が終わるまでアユムを女の子として――恋人として扱うね。だから、そのつもりでいて?」

 耳元で宗介が低く囁き、頬にキスをしてその顔が離れて行く。

 私を見つめる宗介の顔は、男の人の顔をしていて。

 その表情に、心臓がばくばくと音を立てる。

 

「えっ、あの……? 宗介?」

「そんな戸惑った顔されると、今から悪い事をするみたいな気分になるよ。間違ってないような気もするけど……覚悟はしてて?」

 微笑んだ宗介は、とても色っぽくて。

 

 そ、それってつまり――そういうことですか?

 さすがの私でもそこに含まれるものに気づく。


「こ、心の準備が」

「もう十分すぎるほど、時間はあげたよ。キスは結構なれてくれたみたいだけど、一緒にいすぎるからか――アユムは俺を男だと意識してないところがあるよね」

 もう待てないよというように、宗介が私の顎を掴んで少し上向かせる。

 落ちてくる口付けは、戯れに触れるようなやつじゃなくて深い。

 普段は我慢してるんだというような、激しい口付けにクラクラとした。


「俺もね、ちゃんと男なんだよ? こういうこともそれ以上も、したいと思ってる」

「っ!」

 直接的な宗介に、思わず言葉を失って顔を赤くすれば。

 満足そうに宗介は笑った。



●●●●●●●●●●●


「宗介、見事に振られたね」

「うん。きっとこれでもう言い寄られることもないね」

 宗介に告白してきていたのは、同級生の女の子で。

 顔は可愛いけれど、性格きつそうだよなと男子の間では評価されている子だった。


 どう見たって私そっくりじゃないと、こっちを指を指して彼女は震えて。

 男である『今野アユム』なんかに女である自分が負けたのかと、かなりプライドを傷つけてしまったようだった。


仁科にしなくんは本当はあなたじゃなくて、あなたにそっくりな男の子が好きなの! ホモなのよ!」

 八つ当たり気味に彼女にそんな事を言われたりもしたけれど。


「それは逆だよ。俺はあゆが好きなんだ。今までずっとこういう風に会えなかったから、そっくりなアユムについ構っちゃってたんだ」

 女装した私の名前を呼んで、宗介がうっとりと頬を撫でてきて。

 キスまでして見せたものだから、相手の女の子は怒って平手打ちまでしてきた。

 それはそれは、見事な音がした。


 結構口汚くののしられていたから、夏休み明けが怖いなとも思う。

 でもまぁ、宗介はすっきりした顔をしていたから、それでいいことにした。


 堂々と手を繋いで街を歩く。

 クレープを食べさせあって、カップル用のハートのストローで一緒にジュースを飲むことを強要された。


 以前、良太の偽の彼女を演じて、カップルっぽいことをしたのだけれど。

 その時どんな事をしたのか私が話した内容を、宗介はばっちり記憶していたようだった。


「そ、宗介。これ恥ずかしい……」

「どうして? 食べ物の交換なら、普段もやってるよ」

 そういいながら、クレープを差し出してくる宗介の顔だって少し赤い。

 確かに二つの味で悩んだときはよく交換して食べていた。

 何のためらいも今までなかったのに、宗介が齧った部分をついじっと見てしまう。


「ほらアユム。こっちだって恥ずかしいんだから」

 ならやめればいいのに、宗介がクレープを差し出してくる。

 私が食べるまでこれが続きそうな気がしたので、髪を少し耳にかけて、宗介の手からクレープを食べた。


「宗介って、こういうの憧れてたりしたの?」

「ううん、全く。恥ずかしいしね」

 尋ねれば宗介が即答する。

 本当はやりたくなかったんだという口調だった。


「じゃあ何で」

「アユムが他の男としたのに、彼氏である俺がしてないのは嫌だったから」

 きっぱりと告げる宗介は、少し拗ねた顔をしている。

 まるで浮気を責めているかのような響きがあった。


「もしかして、あの時からずっと根に持ってたの?」

 驚いた顔をした私から、宗介は目を逸らす。

「……嫉妬深くて、呆れたよね」

 わかってたんだけど、どうしても我慢できなかったんだと宗介は零す。

 こんな自分が嫌だというような顔をしていた。


「宗介って結構、束縛するタイプだよね」

 言えば、それは自覚あるのか宗介がうっと息を飲む。

「ごめん、よくないってわかってるんだけど」

 シュンとした様子で宗介はうなだれて、その表情が陰る。

 私に嫌われてしまったかなと少し怯えているようにも見えた。


 全く宗介ときたら、今更だ。

 束縛も嫉妬も。

 想われてるなってわかるから、私が喜ぶだけなのに。

 私の機嫌を伺うような宗介も可愛いから、言ってはあげないけど。

 

「別に怒ってないよ。ほら、ドリンクも飲もう? カップル飲みするんでしょ?」

 笑ってドリンクを勧めれば。

 恥ずかしそうに頷いて、宗介がストローに口をつける。


 普段ならきっと私が誘っても、こんなことはしてくれない。

 なのに、良太への対抗心からそれをする宗介を見て。

 そういうところが可愛くて好きだな、と思った。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★高等部3年夏


●原作ギャルゲーとの違い

1)特になし。


●ルートA(マシロ編)との違い(92話相当)

1)夏休みに宗介と女装でデートしている。

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